メキシコ跡地防衛戦 前編⑤ 制圧戦艦攻略戦 Ⅱ
─── PM12:29 ───
─── 制圧戦艦上空 ───
─── 次弾砲撃まで、残り23分 ───
「和人、先客がいるぞ!」
「そうらしいな」
ガルダに乗り、弾幕を掻い潜りながら接近していくと、俺と同じことを考えていた守護者たちが数名、飛行系の魔物に乗りながら、敵の弾幕を撹乱していた。
(テイマーか)
テイマー。本来は敵であるはずの魔物に対して、一定の条件を満たすことで、自身の仲間に加えることが出来るBランク相当のクラスだ。
「ありゃあ、鮫島さんじゃないか? 倉瀬」
「そうだな。和人、1番目立つグリフォンに乗ってる人の所に行け。日本で数少ない1等星だ」
「分かった!」
「お前たちは弾幕を引きつけるだけでいい。無理に突っ込む必要はないからな」
──グガァアアア
──クケェエエエ
「いい子だ。よし行け!」
式神たちに指示を送り、別れる。
そして俺たちはそのまま、敵の攻撃を引きつけている守護者の元へと合流する。
「なんだ、ありゃ? 魔物か? テイマーが使役してる魔物にしちゃ、数が多すぎるな」
「鮫島さん!」
「ん? 倉瀬と比嘉じゃねぇか。どうやってここに……、そうか、お前が噂の式神使いか! つーことは、アレはお前の式神たちで合ってるか?」
「そうです」
「それは助かる! 弾幕が酷くて中々接近できないでいたからな。おっと、鮫島1等星だ。見ての通り、テイマーだ」
「神薙10等星。式神使いです。それで、状況は?」
「俺以外にあと3人テイマーが飛んでるが、弾幕が酷い。多少こっちに気を引きつけるので精一杯だ!」
戦艦からの弾幕を避けながら、鮫島さんから状況を聞く。やはりと言うべきか、中々近づけないでいたようだ。
「いい案があれば聞く」
「式神たちで撹乱しながらギリギリまで接近。それから高火力スキルで砲台を潰す。そのために、攻撃だけに専念出来る倉瀬たちを連れて来ました」
「お前は?」
「式神は俺から少し離れた所からでも召喚できます。だからバリアの内側に召喚して、砲台を叩く。バリアと言っても、そこまで分厚くないはず」
「よし、採用! 煙幕で向こうの奴らに合図する。一旦全員で集まってから始めるぞ!」
すぐさま鮫島さんは、魔法で周囲に煙幕を張る。
1等星ともなれば、即断即決に迷いがないな。
それから俺たちは他の守護者たちと合流し、さっきの作戦を伝える。
「本当にできるんですか?」
「出来なきゃ俺らが負ける。違うか? 飛べない俺たちが、絶対に風穴を空けてやる」
「違いないわ。正直、この子の火力じゃ、どうしようもなかったから、とても助かる」
「鮫島、お前も神薙と一緒に砲台をやれ」
「いいのか、ジョン?」
「俺よりお前の方が適任。砲撃まで15分しかないんだ。さっさとやって、後ろの奴らが気持ちよく魔法を撃てるようにするぞ」
作戦を決め、バッと、一斉に動き出す。
「この弾幕やべぇな。命がいくらあっても足りないぞ、倉瀬」
「そうだな、比嘉。和人、俺たちに遠慮するな。全速力で突っ込め!」
「俺らの命、預けるからな」
「分かってる! ガルダ、頼むぞ!」
──ケェェェン!!
(こっちの戦艦とは全然違うな。魔力で動いてるのか)
弾幕を回避しつつ接近。その間に魔力感知で、相手の戦艦を視るのだが、攻撃に使用している弾も動力も、そのすべてが魔力で出来ていた。
そして、その魔力は戦艦の中央部から絶えず供給されている。だとすれば、自ずとそれが何なのかに、察しがつく。
「和人。まさかとは思うが、あれを動かしてる魔力って……」
倉瀬も同じ考えに至ったらしい。本当にどこまでも人を侮辱している。
「だろうな」
「クソったれ。さっさと潰すぞ」
「あぁ。……そろそろバリアの外縁に到着する」
そう伝えれば、比嘉さんは槍に、倉瀬はチャクラムに魔力を込める。
「比嘉! 甲板上にある、見るからに怪しそうな塔を破壊するぞ。バリアの所為で視ずらいが、魔力の流れからして、あれがバリア発生装置のはずだ!」
「あいよ!」
鮫島さんの方に視線を向けてみれば、既に俺の式神たちが作った弾幕が薄い部分から接近に成功していて、グリフォンが生み出した突風がバリアを貫通し、砲台を破壊していた。
1等星の名は伊達じゃないな。
そして、俺たちもバリア外縁への接近に成功する。
「今だ!」
手持ちの式神の中で、近接戦に秀でた式神を一斉にバリアの内側へ展開する。予想通り、そこまでバリアの層は分厚くなかったようだ。
「『牛頭鬼』、『馬頭鬼』、お前らも行け!」
手持ちの中で最も攻撃力と耐久性の高い2体の式神も一緒に召喚する。
そして倉瀬たちも──
「デッドリー・ボルグ!!」
「グランシャリオ!!」
『デッドリー・ボルグ』。
葉隠が使っていた『デッドリー・スピア』の上位スキルで、貫通性がより特化されている。
そして倉瀬は、投擲系の武器を得意とするクラスの中でも、魔力との親和性が高いBランククラス、『魔刃』を持つ。
その中でも『グランシャリオ』は、雷を纏うことで、圧倒的な貫通性と火力を誇ると聞く。
二人の強力なスキルが電磁バリアとぶつかり、一瞬の拮抗を見せるのだが、それでも二人の火力の方が上回り、バリアを貫通する。
そして、狙い通り怪しげな塔へと直撃し、見事破壊することに成功する。
「うっし!」
「倉瀬が言った通り、あれがバリアの発生装置だったみたいだな。ざまぁみろ!」
「比嘉さん。舌、噛みますよ!」
「うぉぉおおお!?」
確かにバリアは消えたようだが、戦艦からの弾幕が更に酷くなってきた。向こうも必死のようだ。
でも、これで──
「和人、残り7分だ!」
「このままどんどん攻める! 少しでも砲台の数を減らすぞ!」
「「あぁ」」
バリアが消えたことで、他のテイマーの人たちも、各々砲台を破壊し始める。俺の式神たちも順調に破壊している。
でも、何かがおかしい。
(なんで、敵が出てこない?)
式神たちに攻め込まれているにも関わらず、一向にそれを撃退しようとする者たちが現れない。
バリアが消えたことで、魔力感知による魔力の痕跡がはっきりと視える。それで魔力がどこに送られているかを確認しようとするが──
「和人、そろそろ刻限だ。砲台もかなり減ってきたし、そろそろ離れないと巻き込まれるぞ」
「っ!? ガルダ、頼む!」
──ケェェェン
他のテイマーたちと共に、戦艦から離れる。そして少ししてから、様々な魔法攻撃が巨大砲身へと直撃した。
─── PM12:47 ───
─── 後衛魔法職集合地点 ───
(神薙君……。お願いだから、死なないでね)
ここから制圧戦艦までの距離は約2kmほど。だというのに、その距離を微塵にも感じさせないほどに、あの戦艦は巨大だった。
「あの不適合者、凄いわね」
アビーさんは少し暗い表情を浮かべながら、神薙君について話す。
「私たちは、手柄欲しさに動いて、勝手に逆上して、自身を見失ってたのに、君たちは冷静だった」
「どんな時でも冷静でいろと、先生に教わったので」
「そう。いい先生ね。……この失態は、アレを壊して清算する!」
「……了解しました。笹倉司令から、詠唱許可が下りた! テイマーたちが作ってくれたチャンスを無駄にしないためにも、一撃で決めるぞ!」
1等星の人がそう告げると、一斉に様々な詠唱を唱え始める。
「アビーさん、やりましょう!」
「えぇ!」
バッと、杖を掲げて詠唱を唱える。
"我、星の巫女が告げる"
"闇夜に迸るは、美しき紫電"
"万物を貫くは、滅びの雷吼"
"我が眼前の敵を滅ぼし、遍く善を救おう"
"滅びの理、今ここに!"
「第Ⅷ階位魔法」
紫滅雷吼炮!!
その名を叫び、現れるは雷で出来た巨大な砲身。そこから放たれるは、まさに紫電の砲撃。
それを見た他の守護者たちは一瞬だけ動揺するけど、すぐに立て直し、各々が使える最強の魔法を唱え、一斉に攻撃を行う。
そうして巨大な砲身に魔法がぶつかり、ここからでも聴こえるほどの轟音と共に、砲身を含めた戦艦の1/3を根こそぎ消し去った。
「やった!」
破壊出来たことに、この場の全員が安堵する。
依然として、少し先では前衛の方たちが迫りくる敵と戦っている最中ではあるが、それでもこの気持ちを抑えることは、この場の誰もが出来なかった。
けど、そんな雰囲気をすぐに一変する。
「待て、何かがおかしい。なぜ魔力の収束が、終わらない?」
ここを指揮していた1等星の一人が、そうつぶやく。そして私も、魔力感知で感じ取ってみれば、確かに魔力は依然として戦艦の中央部へと収束されていた。
そして次に聞こえてきたのは、別の人から受け取った予備の無線機からの、神薙君の声だった。
それも──
──戦艦周辺にいる守護者は今すぐ逃げろっ!! 自爆するぞ!!
「っ!?」
それは、これまで以上に緊迫した口調だった。
─── 同刻 ───
─── 制圧戦艦上空 ───
「和人、どうする!?」
「少しでも、辺りにいる守護者を避難させるしかない!」
(あいつら、破壊されることも見込んでやがった!)
上空から魔力感知で視てみれば、人から抽出した魔力が、中央部から少しズレた所にも流れていた。
恐らく、あの戦艦の炉心だと思う。
その魔力の流れ方は、奴らが自爆する瞬間に近いと、倉瀬と比嘉さんが言っていたことから、ほぼ間違いなく、コレは自爆する。
(俺の式神で助けられるのは、150あたりが限界だ)
現在、大至急で俺の式神たちが空と地上から、戦艦の周辺で戦っていた守護者たちを運び出している。
それでも圧倒的に数が足りないし、あの規模じゃ、どこまでが爆破範囲になるのか、見当もつかない。
「ガルダ、後2人くらいは運べるよな」
──ケェェェン!
「鮫島さんたちもいち早く動いてるけど、全員は無理だぞ、和人!」
「そんなの、分かってる! でもっ……」
「神薙。皆、覚悟の上で戦ってるんだ」
「ぐっ……」
比嘉さんたちの言うことは理解している。それでも感情がそれを許さない。
(アレを破壊するには『纏』しかない。だが、完全に無力化できるかが……)
だとしても、1%でも可能性があるのなら……。
「一か八か、俺の『纏』で……」
「アホか! それで破壊出来るなら、拓真たちがもう第Ⅶや第Ⅷ階位の魔法でやってる! それをやらないってことは、完全破壊できる保証がないからだ。お前だって、それは分かってるんだろ」
「神薙、それでお前が死んだら、一体誰が悲しむ?」
「…………」
ギリッと歯ぎしりする。
握ってる拳から血が滲み出る。
分かっているさ。今の俺たちじゃ、救える人には限りがあることくらい。どれだけ強くなろうと、どうしようもできない自分の無力さに腹が立つ。
それに、比嘉さんが言ったように、俺が死んでしまえば、藤宮さんは絶対に泣く。そんな見たくもない光景を想像すると、俺の中にある天秤は、片方へと傾く。
何を優先すべきか、決断する。
「分かってる。今は……助けられる人を助ける」
「悪いな。俺ら以上に悔しいだろうによ」
「いい。…………ガルダ!!」
──ケェェェン!!
上空から一気に降下し、近くで走っている守護者を救助する。
「悪い、助かった!」
「早く掴まれ!」
(猶予は後、どれくらいだ?)
魔力の収束がこれまで以上に高まってる。もう時間が……。
この場の誰しもが死という単語が脳裏をよぎる。
けど──
──よく、頑張りました
「「「…………は?」」」
無線機から、聞き覚えのある女性の声が聞こえてきたかと思えば、いつ爆発してもおかしくなかった戦艦が一瞬のうちに、魔力が収束されていた炉心ごと両断されていた。




