式神使いという不適合者③ 鎌倉ダンジョン
「…………本当に、許可が下りたな」
──キュルン……
翌日の昼頃。学校をサボり、ここ鎌倉Fランクダンジョン前へとやって来た。
ダメ元で言ってみるもんだなぁと思いつつも、恐らく対応した局員が彼だったから上手くいったんだなと、和人は考える。
なにせ、対応したその局員は、これまで幾度と和人と口論を繰り広げてきた人。恐らく協会に属するもの中で、最も和人のことを鬱陶しい存在として認知していた。
まぁそれで許可を出すのはどうかと思うが、細かいことは気にしないべきだ。
それに──
「にしても、まさかデッドダンジョンだったとは。そりゃ、誰も攻略したがらない訳だ」
『デッドダンジョン』。
ダンジョンを攻略、もしくは入った者が全滅しない限り、出入り不可の特殊ダンジョン。
通常のランクより、1つか2つほど難易度が上がっている割に、得られる経験値はそこまで変わらない。
守護者からは、煙たがれているダンジョンでもある。
だがそれは低ランクに限った話。
高ランクともなれば、貴重なアイテムが道中の魔物からでも手に入るため、むしろ人気だったりする。
ちなみに、なぜ事前に分かっているかというと、入る前にウィンドウで警告文が表示されるからだ。
とても親切設計だ。
「おっとそうだ。競売にかけるの忘れてたな」
スマホを取り出し、守護者競売『メルメル』のアプリを起動。そこで昨日得た魔石を競売へとかける。
ここでは、世界中の守護者たちが、魔石やらアイテムを競売にかけている。
普通に売るよりかは、ほんの少しだけ売値が上がるので、かなり重宝されている。
競売にかけた後、持ってきたバッグの中身を確認する。最終チェックは怠らない。
「ポーションやマジックポーションは手当たり次第にかき集めた。残ってる予備用の刀も2本ある。念の為、1週間分の飯と水も持ってきた。準備万端だ!」
──キュッキュ!!
レベル1の不適合者?それがどうした。
入ったら死ぬ?だからなんだ。
自分の命すら、強くなるための天秤にかけられないというのなら、そいつは守護者に相応しくない。
「行くか」
──キュッ!
どれだけ絶望的だろうとも諦めない。どんな相手だろうと、持てる力の全てを使って生き抜いてやる。
「やってやるさ!」
気合いを入れ、和人たちは死の片道切符である門を潜っていった。
***
「笹倉室長、こちら今年度の守護者に覚醒した者たちをまとめた資料と、現在の門の使用状況をコピーした物になります」
「ありがとう、福山君」
協会の一室、秘書官の福山君から資料を受け取り、パラパラと目を通す。
「…………やはり、守護者の数が減っているな」
「前年比で、4割ほど減っています。日本の人口も7000万を切っていて、どこも出生率が低下してます」
「世界で見ても、アメリカ、ロシア、中国以外はどこも似たような状況が続いています」
「そうか……」
福山秘書官の報告を聞き、笹倉は頭を悩ませる。
終わりの見えない戦いに明け暮れている。
そんなのが50年も続けば、疲弊するのは明白。
いつだってこの世界の住人たちは、僅かな希望を胸に、生き永らえているにすぎない。
重い表情を浮かべていれば、福山秘書官は笹倉に問いかける。
「笹倉室長、いつまでこんなことを続けないといけないのでしょうか」
「分からない。モノリスを通して、天上とコンタクトが取れないかと、今も続けてはいるが、成果はない」
「本当に、彼らは神なんですか? こんな……」
「…………」
『神の遊戯』。
今でもモノリスに刻まれている文字だ。
(それが確かなら、我々は神の玩具ということだ)
さながら、親からテレビゲームを与えられ、のんきにゲームをして楽しんでいる気分だろうか。
ふざけた話だ。
「我々にできるのは、侵略者を食い止め人々を守ること。それと、どうにかして、裂け目と閉じる方法がないかを模索し続けることだけだ」
とはいえこの50年、一向に解決の目処が立ったことはない。学者間でもお手上げ状態らしい。
「それは、そうですが……」
「今は、英雄たちの頑張りに期待するしかない」
「……そうですね。それにまだ日本には、柊1等星や神代1等星といった次代の英雄たちもいますしね」
「柊永久1等星か……」
僅か10歳で守護者となった、異例の天才。クラス『剣王』という、強力なクラスと共に、多くの戦場で活躍してくれている。
そして神代君も、彼女に負けず劣らずの天才だ。彼の場合、未来が見えているんじゃないかと思うほどに、凄まじい速度でダンジョンを攻略している。
(私にも、戦える力があれば……)
自身の掌を見つめながら笹倉は、17年前、力を持つことが叶わなかった自身を呪う。
もし自分も、守護者としての力に目覚めていれば、数多の英雄たちと共に、人類を守るために戦えただろうにと、そう思わずにはいられない。
そんな虚しさを感じつつも、パラパラと資料を見ていく。そして、Fランクダンジョンの入場許可についてまとめられた資料にさしかかった時、ピタリと手が止まった。
「誰だ」
「はい?」
バンッと、机を叩きながら立ち上がり、思いの丈の感情が口から発せられる。
「一体どこの誰だ! 鎌倉Fランクダンジョンに、不適合者、神薙和人10等星の入場を許可した馬鹿者は!!!」
そこには、5時間ほど前に鎌倉Fランクダンジョン、しかもデッドダンジョンへの入場許可が下りたことを示す内容が書かれていた。
「た、直ちに確認します!」
「確認を取り次第、我々も鎌倉へと向かう! それと、攻略成否を知るために、誰か手の空いてる守護者の手配も」
「は、はい!」
タタタッと、福山秘書官は部屋を出る。
それから笹倉は、顔に手を当てながら、この事実に嘆く。
「馬鹿げている。Fランクの者がダンジョン攻略をしようなどと、自殺志願にも程がある……」
だが既に、彼は門を潜ってしまっていた。
カタカタとパソコンを操作して、彼の守護者カードに付けられているGPSを追跡してみれば、そこで反応が途切れていたからだ。
であれば死亡確認を取る必要があった。
人知れず死ぬなど、それはその者の人生を否定することに繋がると、笹倉は考えていた。
それから笹倉は、ここにいない和人に問いかける。
(なぜ君は、そうまでして戦う……)
本来なら、戦いから目を背けてもおかしくない人間。むしろそれが正常だ。にも関わらず、無謀にも挑戦する意味が分からない。
「いや、違うな」
彼はきっと諦めていないんだ。誰かを守るために戦い続ける守護者でいることを。
だからこそ、リスクを犯してでも……。
スーツを手に取り羽織ってから部屋を出る。
本来であれば、笹倉以外の者に依頼してもよい案件ではあるが、なぜか分からないが自分が行かないといけない気がした。
そして、この選択が笹倉に契機をもたらした。
本来なら決して交わることのなかった二人の道が、交わる瞬間となったのだから。
─── 笹倉が気づく5時間前 ───
─── 鎌倉デッドダンジョン 出入口前 ───
「やって、やる……、って、いった、けど!」
現在和人は、いつ死んでもおかしくない状況に陥っていた。
──ぐぅおおぉおお!!
力任せに振り下ろされる棍棒を間一髪で避けつつ、脇腹、太腿へと刀で斬りつける。
だが傷は浅い。
けどそこに、コノエの炎も合わされば、ただ斬るよりもダメージを与えられてはいた。
それから敵と距離をとり、息を整える。
「はぁ、はぁ、はぁ……、初っ端からオークとか、聞いてないぞ」
──キュルキュキュ
オーク。
体力が低い代わりに、攻撃力が桁外れに高い、Dランクの魔物。攻撃力だけならCランクの上位に位置するといわれている。
「こんな奴が入ってそうそう出くわすとか、理不尽だろ! いや、これがデッドダンジョンの洗礼か」
嘆いても仕方ない。
深く深呼吸し、意識を集中する。
一発でもまともに受ければ、その時点で和人は死ぬ。身体に掠めるだけでも致命傷になりかねない。
(見て、考えて、動く)
和人はこれまでに得た経験を総動員させる。
オークの動きは、守護者訓練用シミュレータで訓練している者たちの映像を何度か見たことがあった。
「コノエ、行くぞ!」
──キュ!
ダッと走り出し、コノエと共にかく乱しながら、斬りつける。幸いなことに、オークはゴブリン系統のようで、通常よりもダメージが入る。
「がぁぁああ!!」
「っ!」
勢いよく振り回す棍棒を命がけで避ける。
ブオンッと風圧だけで吹き飛ばされるのではと思うほどの風圧を、その肌で感じる。
だがオークは追撃を止めず、今度は力の限り、棍棒を振り下ろす。
「がっ!」
棍棒自体は避けることに成功する。
ただし、その後の砕けた地面の破片が腹に直撃し、少し後方へと吹き飛ばされる。
「ごほっごほっ」
口から血が流れる。
幸い破片が身体に刺さることはなかったが、それでもかなり痛いことに変わりはない。
「っ、……コノエ!」
痛みを我慢しながら、コノエに攻撃を指示する。
するとコノエの吐いた炎がオークの顔面へと当たり、一時的ではあるが怯ませることに成功する。
「よくやった!」
体勢を立て直し、懐からポーションを取り出して飲み干す。
「ぐぅ……っ」
『治癒痛』。
ゲームのようにポーションを飲んですぐに回復するなんていう都合のいい話はない。きちんと治癒に応じた痛みがある。
そんな痛みを我慢しながら和人は走り出す。
そのまま棍棒を足場にして跳び上がり、オークの目に向けて、刀を突き刺す。
「ぐがああああ!?」
「しねぇぇぇぇ!!」
必死に抵抗し、暴れ狂う。
和人は意地でも離れまいと、そのままグリグリと突き刺した刀を更に奥へとねじ込みながら、耐えきること1分。
ついに力尽きたのか、オークの膝が折れ、次第に灰へと変わっていった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……、死ぬかと、思った……」
大の字になって、そのまま倒れ込む。まさか初戦からこんなに消耗するとは、思いもしなかった。
──キュゥゥウ
「コノエもお疲れ」
ペロペロと、俺の頬を舐めるコノエを労いつつ、息を整える。そしてステータスを開く。
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守護者:神薙和人
クラス:式神使い
契約式神:1体
契約可能数:0体
レベル:1(レベルアップまで、27000/40000)
称号:ゴブリンスレイヤー
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「オーク一体で、ゴブリン100体分かぁ……」
式神の利点の一つに、経験値が分散しないが挙げられる。故に倒した魔物の経験値は全て総取りだ。
「は、はは、はははは! あんだけやってたのが、バカらしくなるな」
まぁそれも、勝てればの話。
少なくとも完全初見じゃ、まず勝つことは出来なかっただろう。
地道にゴブリンどもと戦って、生き抜く力を付けてきたからこそ、勝てたとも言える。
──ぐぉおおおおおお
そんなダンジョンの奥からは、オークの叫び声らしき声が聞こえる。もしかしたら、仲間がやられて怒ってるのかもしれない。
「つかここ、オークの巣か?」
であれば、これほどおあつらえ向きの状況はないな。俺には特効付与の称号がある。それに、直撃さえしなければ、最悪ダメージ回復によるゾンビ戦法も取れなくはない。
風向きは、こっちにあると思いたい。
「生きて、勝って、強くなるぞ」
──キュゥゥウ!!
「行くか」
休憩も済んだので立ち上がり、コノエと共にダンジョンの奥へと潜っていく。
これから先、より苛烈な戦いになることを予感しながら……。




