式神使いという不適合者② 強くなるための活路
─── 新宿初心者ダンジョン 最下層5階 ───
「はぁぁぁああ!!」
ザシュッと、ゴブリンを刀で縦に斬り裂く。斬られた箇所から血を撒き散らし悲鳴を発するが、すかさず刃を翻し、斜めに斬り上げる。
「げぎゃぁぁああ!」
絶命間近ではあるが油断はしない。一瞬の油断は死に直結するからだ。
サッと後方へと下がり、コノエに炎を出すよう指示をだす。
──キュルゥゥ!
「げげげぎゅぁぁああ」
ボワッとコノエの炎を一身に受けたゴブリンは、悶え苦しみながら完全に絶命する。そしてその死体はサァァッと、灰となって消え去った。
ダンジョンで生物が死ぬと、その死体は灰となって消え去る。だから遺体が帰ってこない守護者はごまんといる。
そんな命がけの戦いに一区切りがつき、和人は息を吐く。
「ふぅ〜〜。これでノルマの100体か」
時間を確認してみれば、ダンジョンに潜ってから既に4時間は経過していた。
称号込みとはいえ、やはり時間がかかる。
──キュッキュル
「あぁ、コノエもお疲れ様」
コノエを労いつつ、ステータスウィンドウを開く。
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守護者:神薙和人
クラス:式神使い
契約式神:1体
契約可能数:0体
レベル:1(レベルアップまで、26000/40000)
称号:ゴブリンスレイヤー
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「残り14000……、このペースで毎日やれば、今月中にはようやくレベルが2に上がるな」
──キュキュ〜!
長かった。
ここまで来るのに2年半を要したので、思わず感傷に浸る。
守護者とは、12歳になった者たちからモノリスが適性を判別し、自動的に力を授けられた者たちだ。
14歳になるまでは基礎的な知識などを叩き込み、それからダンジョンへと入れる。
俺も14になってすぐ初心者ダンジョンへと入ったのだが、恐怖心からゴブリン1体を倒すのに2日も要してしまった。
流石にこれでは早死にすると思い、一旦ダンジョンな行くのを止め、剣術や体捌きといった生き抜く術を、1年かけて恩師から学んでいった。(半分は説得ではあったが)
それからは入退院を繰り返しながら、初心者ダンジョンでゴブリンを狩り続ける日々を送り、1000体倒すまでに更に1年。
称号を得てからは、ある種のゾンビ戦法や、より動きを最適化させたりとで、半年を要した。
そしてついに、4時間で100体という、誰も嬉しくない効率化までたどり着くことが出来た。
「ほんと、称号様々だな」
これがあったからこそ、ここまでの討伐速度を手にすることが出来た。
しかも守護者にしか適用されない称号の効果が、式神にまで適用されるという新しい発見があった。
純粋に火力が2倍になったと考えれば、効率の差がまったく違う。ある意味、称号をもっとも有効活用出来るクラスなのかもしれない。
「強くなるまでの道のりは長いなぁ〜」
『式神使い』。
このクラスの持ち主は、過去に2名存在した。
そして、初めてこのクラスが現れた当時は、理論上どのクラスよりも強くなれるポテンシャルを秘めていることから、かなり騒がれた。
だがそれも、一時の幸福でしかなかった。
『式神使い』、最大の欠点。
レベルアップに必要な経験値が20倍を要するという制約。これがどこまで行っても足を引っ張る。
パワーレベリング及び、寄生行為による経験値獲得は、ダンジョンのシステム上許されていない。
なので適正ダンジョンで戦い続けることを強要されるのだが、パーティーを組めば、経験値は均等割りされるためレベルが上がらない。
そもそも活躍出来るかが怪しい。
残された道であるソロ活動は、自殺行為と言ってもいい。……俺はやっているが。
その結果、『式神使い』はロマンだけある糞クラスという烙印を押されることになった。
「ま、嘆いても仕方ない。俺は俺のやり方で強くなるさ。それよりも……」
ゴブリンがいた所に視線を向ければ、そこには小さな魔石が落ちていた。
『魔石』。
名前の通り、内部に魔力が内包されている。
加工することで武具の作成やアイテム、果ては新エネルギーに活用出来たりと、用途の幅は広い。
そのため、ダンジョンを潜りながら魔石を回収し売却することで、守護者たちは収入を得ている。
そんな魔石を見ながら、今日の相場を確認する。
「えぇ〜と、100体分の極小魔石だから…………、良くて5000円か」
命がけの戦いをして得られるのが、子供の小遣い程度という事実に、思わずため息がでる。
政府からの補償金がまだギリギリ残ってるとはいえ、懐事情はいつも寂しい。
──キュルルルルゥゥゥ……
「帰るか」
コノエがもう限界と言わんばかりに、お腹空いたアピールをするので、誰もいないダンジョンの出口へと戻るために歩き出す。
なにせ、初心者ダンジョンはゴブリンしか出ない。
ゴブリンの経験値は『10』。
全クラス共通で、レベル10になるまでは、レベルアップに必要な経験値が『2000』で固定されている。
更に経験値は、共闘すれば均等割されるシステムとなっている。
なのでさっさとFランクダンジョンに行くほうが、何十倍も効率がいい。にも関わらず、俺がここにいる理由は、許可が下りないからだ。
ダンジョンは死と隣り合わせ。
無闇に高ランクのダンジョンに行って死んでもらっても困るので、レベルや等級に合わせた規制が存在する。
そんな中、俺の前任者がFランクダンジョンへと潜って死んだ。
その結果、まともに戦えないのなら入るなと、例外を除いて締め出された背景がある。
「1年以上ゴブリンと戦ってるんだから、そろそろ許可下りねぇかなぁ……」
出口へと着いた和人は、そんなボヤキを入れながら、ダンジョンを後にする。
***
「きゃっ!」
「おっと……、大丈夫か?」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん!」
「ところどころ、まだ地面が崩れてるんだから、気をつけるんだぞ」
「うん! ママァ〜」
(こんなご時世でも、人は生きてるんだよな……)
6限の授業をサボりダンジョンに潜っていたので、まだ外は明るい。
未だ10年前の傷跡が残る町中を歩いていると、不意にビルに設置されているモニターから、とある声が聞こえてきた。
:それでは、ゲストの柊永久さん。何かコメントをお願いします。
:次の防衛戦が2ヶ月後なので、それまでに出来る限りの準備をして、必ず皆さんを護ります。
:流石、今最も『ゼロ』に近い方ですね。この間の北極防衛戦も、大活躍だったとか。
:あの時は、他の『ゼロ』の皆さんが別の所にいたので、私が何とかしないと!って思ったんです。
:あなた方がいるから、私たちはこうしてまだ生き永らえています。これからも、陰ながら応援させてもらいます。人類の英雄さん。
:ありがとうございます。今日来れなかった神代君と共に、これからも頑張ります!
「永久……」
そこには、この間の北極防衛戦についてのインタビュー映像が流れていた。
画面越しにとはいえ、久しぶりに見た幼馴染。
あれから7年。見ない間にずいぶんと美人になったなと、そんな感想が湧いてくる。
(中身さえまともならなぁ……、猫被ってるのバレバレだぞ)
それと、神代当麻はインタビューには出なかったらしい。
俺たちと同年代でありながら、まるで全部分かっているかのように、次々とソロでダンジョンを攻略し、防衛戦でも活躍しているという、もう一人の天才。
「あいつはあいつで、約束通り、英雄街道を進んでるんだな」
あいつは夢に向けて着実と進んでいる。
……なら、俺は?
俺は、どう強くなれば良いのだろうか。
約束の期限まで、あと1年半しかないというのに。
***
「安全に行くのもいいが、やっぱり何処かでリスクを負わないといけないよな」
家で夕飯を食べ終え、コノエとじゃれ合いながらつぶやく。
(どうにかして、Fランクに挑戦できれば……)
スマホを操作して、日本にあるFランクダンジョンに通じる門の総数を調べる。
(現在の数は1000。そのどれもが攻略禁止マークが付いてるな。ボスを討伐したいっつうのに)
魔石は新エネルギーに転用できる。
それもあってから、低ランクのダンジョンはボス討伐による攻略を禁止している。
「はぁぁ……、こりゃ、まだ未登録の門を探すしがないのか?」
けどそんな偶然、そうそう起こるわけがない。
「あの条件をどうにかしたいっつうのに」
ボヤキを入れながら、和人はウィンドウを開く。
そこには、『式神使い』の説明が記されていた。
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クラス『式神使い』
式神と契約し、共に戦いながら成長する者
契約出来る式神は、レベルを上げるか、特定条件を満たすことで増やせる
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レベルが極端に上げ辛い『式神使い』にとって、式神の数は強くなるための最優先事項。
この特定条件を満たすことで、レベルに関わらず式神の数を増やせるというのだから、どうにかして条件を満たしたい。
が、前任者含め未だにその条件が分からない。
とはいえ、1つだけ考えられる可能性がある。
恐らく前任者も、その考えに至ったからこそ、1人で挑んだのだろう。
(初心者ダンジョンじゃ意味がない。ダンジョン攻略に必要な、ボスがいないからだ)
最も可能性の高い条件。
それはボスの討伐。それもソロで、という無謀極まりない条件ではないかと、和人は踏んでいた。
(どうにかして、ダンジョンへ入るための説得できる手札があれば…………ん?)
門の一覧をスライドしながら眺めていると、とあるFランクダンジョンに目が止まる。
「なんでここだけ、攻略禁止じゃないんだ?」
場所は鎌倉。
行こうと思えば、いつでも行ける距離だ。
スマホを見ながら、なぜ攻略可能なのかについて和人は考察する。
(考えられるのは、ランクに見合わない高レベルの魔物がいる。もしくは、ただの設定ミスか?)
それ以外の理由も頭に浮かべるが、首を振って考えを吹き飛ばす。考えたところで意味はない。
「むしろここは、逆転の発想でいこう」
俺は不適合者。
これまで何度も協会の人と揉め事を起こしてきたこともあって、かなり嫌われている。
そんな奴が、何故か攻略可能なダンジョンに行きたい、なんて言ったらどうなる?
普通なら却下されるところだが、『進んで死んでくれるなら余計な仕事が減る』と、悪魔の囁きから許可してくれるかもしれない。
「コノエはどう思う?」
──キュッ!!
「だよな」
こんな所で足踏みをしている場合じゃない。そもそも、許可が下りるかすら分からないんだ。ダメ元でやる。それくらいの気概で行こう。
「やってみますか!」
早速明日、連絡してみよう。そう方針を決め、この日を終える。
そして、この決断から全てが始まった。
俺の、俺たちの、天上へと反逆する物語が。




