メキシコ跡地防衛戦 前編② 開戦前夜
防衛戦。
レベルを上げて指定された地域で戦う点だけで見れば、ゲームでいうタワーディフェンスに近い。
勝敗に関して、都度詳細は変化するが、大まかなルールはこうなっている。
★勝利条件
・ボスを倒すこと
・時間制限まで、自陣のボスを守ること
・時間制限まで、守護者が一定数未満にならないこと(歴代最長は3日)
★敗北条件
・自陣のボスが倒されること
・守護者の数が6割を切ること
・特殊勝利条件を満たされた時
こちら側のボスの数については、開始と同時に開示されるが、誰がボスとなったかまでは分からない。また開戦後、他の地域にいる守護者たちの参加は認められていない。
故に限られた情報の中から、如何にしてボスが誰なのかを導き出し、守護者の命を散らせないよう立ち回る必要がある。
─── 11月4日:大型ヘリコプター室内 ───
「と言うのが大まかな概要だ。もうじきメキシコ跡地に到着する。到着すれば、改めて説明はあると思う」
「……ボスが誰になるのか分からないって、怖いね」
「あぁ。過去それで、開戦から数分で負けたこともあるらしい。だから今は、最低でも6人一組の小隊が推奨されているようだ」
防衛戦前日のうちにアメリカのテキサス州に到着した俺たちは、そのままメキシコ跡地へと向かっている。
その間に藤宮さんへ、簡単な概要だけ伝えることにした。
「でもまさか、初めての海外がこんな形になるだなんてね」
「そうだな。俺もそう思う。終わったら少しだけ観光でもするか?」
「うん。そうしよっか」
それから少しして、機長からメキシコ跡地領内へと入ったことを告げるアナウンスが流れる。それを聞き、一斉に外の風景を見るのだが、あまりにも想像を絶する世界だった。
他の守護者たちも、言葉を喪っている。
「これは……」
「これが、メキシコ?」
大地がまるで、一度ひっくり返されたのではないのかと、そう思わずにはいられない程に、何もかもが崩れ落ちている。
(50年も経っているのに、草木すら生えていないとは……)
日本も、それなりに酷い状態だが、それでもまだ生命は感じられる。だけど、ここは何も感じない。
まさに終わっている。それしか言えなかった。
そんな光景に呆然としつつ、臨時で作られた守護者協会へと到着した。
***
「和人、咲ちゃん!」
ヘリから降りれば、そろそろ着くと伝えていた倉瀬が俺たちを待っていた。
「倉瀬、わざわざ迎えに来たのか」
「こんにちは、倉瀬さん」
「そりゃな。……道中の光景は見たか?」
「あぁ。ここら辺もそうだけど、かなり酷いな」
「正直、言葉が出ませんでした」
「俺らも、昨日初めて見たからビビったわ。始まりと終わりの地は、他とは別格だな」
「倉瀬さん、他の人たちは?」
「拓真たちは先に食堂へ行って席を取ってる。お前らが来る前に仕入れた情報もあるから、飯を食いながら話すわ」
それを聞き、頷く。1等星で誰が来ているのかなど、知りたいことは山程ある。
それから倉瀬に着いていき、食堂へ入ると、多くの守護者たちが一堂に食事を取っていた。
(ざっと数千人はいるな)
というか、広すぎないか?
外の外観と、中の広さが合っていないぞ。
それに、緊張とは違う、嫌な空気も感じる。
「そうか、和人たちは知らないのか。協会には空間を自由に弄れる奴がいてな。そいつが、拠点内部の構築とかに関わってるんだ」
「そんなクラスが……」
「知りませんでした」
明らかにSランク相当のクラスだ。まだまだ世の中には知らないものがあるんだなと感心していると、俺たちを呼ぶ拓真の声が聞こえてきた。
「よっ、拓真」
「こんにちは、遠見さん。それに皆さんも」
「おう!」
「「「やっほ〜〜」」」
「んじゃ揃ったことだし、飯にするか」
それから拓真たちと同じ席に座りつつ、飯を食べながら、話を聞くことになった。
***
「早速だが、今回こっちに来てる1等星は150人しかいない」
「第1候補なんだろ? 少なすぎないか? 確か全世界でも、1000人はいるよな?」
「それがね。中国とロシアが今回は不参加らしいって話で、昨日から持ちっきりなの」
「え!? 守護者人口で、アメリカの次に多い国々ですよね!?」
「どうも、前回激戦区だった北極防衛戦で、柊と神代1等星が活躍したのを根に持ってるって話だ」
「しかも、今回は1ヶ所しか守る必要がないから拒否したって噂もあるんだぜ? ほんとふざけてる」
「大方、アメリカの戦力を削りたいって思惑があんじゃね? 仲悪いし」
「だから変にピリピリしてるのか?」
「そういうことだ」
昔から国同士、仲は悪かったが、こんなご時世でもまだ気にするのか。
にしても──
「永久と、神代当麻が活躍したから……ね」
(理由はどうあれ、政治的に今回は力を溜め込むことを優先にしたと)
それであわよくば、アメリカの力を少しでも削ぎたいと考えているのか。そんなことを考える暇があるなら、一致団結して守るべきだろうに……。
「和人? お前、柊と知り合いなのか?」
「ん?」
俺が永久と呼んだことで、それに反応した拓真が尋ねる。そういえば、まだ誰にも言ってなかったな。
「知り合いというか、幼馴染なんだよ」
「「へぇ〜〜」」
「え!? 神薙君、そうだったの!?」
「あぁ。まぁ、それはまた今度な。……それで拓真、永久たちはいるのか?」
「いや、こっちにはいない。日本からは松本1等星を筆頭に20人来ている」
松本一等星。確か今年40で、20年も戦い続けてる大ベテランだな。
「他だと、アメリカとイタリアに、韓国。それとフィリピンから1等星が派遣されてるな」
「それで総勢150人か。アメリカも出し渋っているということなのか?」
「笹倉さんが説明してたけど、グリーンランドに来ると予想して、そっちに人員を多くしたらしい」
「なるほど……」
まぁこればっかりは、その国の考えもあるから、一概に批判は出来ないな。参加しないのは論外だが。
「それでも半分くらいは、本国に待機させてるって話だから、今回の防衛戦、かなり政治が絡んでるんだよね〜」
「そもそも律儀に全員派遣してるのは、日本とイタリアくらいなもんだろ」
「質は置いとくにしても、どの国も数が圧倒的に不足しているからな。そろそろ日本も、派遣人数を減らすかもしれないと思ってる」
「「…………」」
日本は守護者輩出国としては世界4位に位置している。
それでもアメリカとロシア、中国は圧倒的で、全体総数の5割はこの3国で占めている。更には10人いる『ゼロ』のうち、7人がいずれかの国出身だ。
つまるところ防衛戦は、個人の戦力も含めて、大部分を3国に依存している状況にある。
「かなりの激闘になりそうだな」
「まったくだ。だが、女神は俺らを見捨ててねぇぜ?」
「? どういうことですか、遠見さん」
「それはな────っ!?」
──この場には、私がいるからですよ
女性の声がした。
そして、さっきまで騒がしかった守護者たちの声が聞こえなくなり、シーンと静寂に包まれる。
なんだと思い、声が聞こえた方向へと顔を向けてみれば、笹倉さんともう一人、美しい美女がこっちに向かって歩いていた。
(あの人は、まさか……)
「ど、何方ですか? 物凄く綺麗……」
「咲ちゃん、知らないのか!? 彼女は……」
倉瀬が説明しようとする前に、笹倉さんたちが先にこっちに到着し、『はじめまして』と、その人は俺たちに挨拶をする。
それにしても、流暢な日本語だ。
「は、はじめまして」
「はじめまして。まさか、貴女は……」
「私のことを知っているようね。そうよ、私の名前はソフィア・ルチェンテ。『ゼロ』の一角に座する者よ」
「え!? こ、この人が!?」
ソフィア・ルチェンテ。頂点に位置する『ゼロ』の中でも、未来を見通す目を持つと噂されている。そして、『ゼロ』での序列は第3位。
「えぇそうよ。可愛いお嬢さん。貴女が星の巫女かしら?」
「は、はい! そ、そうです!」
「ふふっ、そこまで畏まらなくてもいいのに」
「ソフィア、いきなりな難しいでしょう」
「あら、貴方はあまり私に萎縮していなかったと思うのだけど?」
笹倉さんと親しげに話しているところをみるに、面識があるようだ。ということは、あの話も既に……。
「それにしても、とても強い力を持っているわね。それに、とても優しい心を持ってる」
「え? あ、ありがとう、ございます。…………あ、す、すみません! 自己紹介がまだでした! 私、藤宮咲と言います!」
「ふふっ、えぇよろしく。そして、貴方が……」
藤宮さんと軽い挨拶をした後、彼女は俺の方へと顔を向ける。
「はじめまして、ソフィア・ルチェンテさん。神薙和人、式神使いです」
「えぇ、よろしく。でも、ソフィアで良いわよ。フルネームで呼ばれるのは、あまり好きじゃないの。他人みたいじゃない?」
ふんわりと優しい笑みを浮かべる姿を見て、思わずドキッとなる。美人だというのは新聞などを見て知ってはいたが、実際に見ると、それがよく分かる。
「そ、そうですか。では……、そ、ソフィアさんで」
「今はそれで良いわ。からかっていると、そろそろ怒られそうだしね」
ソフィアさんの視線が藤宮さんの方へ向く、俺も視線だけで追ってみれば、藤宮さんは少しムッとしていた。
「ごほんっ。ソフィア、そろそろ用件を。他の守護者たちも萎縮しているので」
「それもそうね。少し、外で話せないかしら?」
「外?」
「えぇ。ここでは話し辛い内容だから」
「……藤宮さんも同席なら、構いませんが」
「それで良いわ。それじゃ、いきましょうか」
「悪い、倉瀬、拓真。少しの間、席を外す」
「お、おう……」
「わ、分かった」
それから俺たちはソフィアさんたちと共に、協会の屋上へと上がる。その間、藤宮さんから感じる覇気が、少し怖かった。
***
「それで、話とは?」
屋上へとやってきた俺たちは、ソフィアさんに尋ねてきた理由を問いかける。
「笹倉さんから聞いたわ。天上を殺したいそうね」
「えぇ、まぁ……」
「皆、その想いは同じ。だけど実際に出来るのかと問われた時、大抵の人は無理と答える。未だ形すら掴めない者を、どう殺せばいいのか、明確なビジョンが視えないからよ」
「それを知った上で貴方は、ううん、あなたたちは、天上を殺すと、そう言い切れる? 不適合者であるあなたたちが」
覚悟の話をしたいのだろうか。この問答は何度もやってきているが、俺たちの答えは変わらない。
「それでも、絶対に殺す」
「はい。誰も悲しまない世界にしたいから」
「ふふっ、良い答えね。先が視えなくても、諦めずもがく。そうすればいつか、天上の喉笛に届くと、私も信じている」
「そのための分岐点が、1年後の厄災に関係していると、私は確信しているわ」
「っ!?」
「厄災って……、確か神薙君が天上から聞いたって」
「以前言った通り、私がソフィアに伝えた。けどその前から彼女は、自身の能力で知っていたようだ」
「『ゼロ』としての能力、ですか」
「そうよ。これまで真っ暗な暗闇しか視えなかったけど、あなたたちの存在を知って、改めて未来を視てみれば、ほんの僅かだけど、希望の未来が視えたわ」
「つまりそれは」
「厄災を切り抜けられる可能性があるということ。だから私は、政府の反対を押し切ってでも、こっちに来たの。あなたたちに会いたくてね」
それには流石に驚きが隠せない。それに、俺のあの時の行動には、ちゃんと意味があったんだと思うと、少し嬉しくもある。
「特に和人君。あなたには期待しているの」
「俺に?」
「私はね、『ゼロ』としての能力や戦闘用とはまた別に、少し先の他人の未来を視ることのできるスキルを所持している。それは、様々な要素を加えることで、より正確に視えるわ」
「その中でも、君は異質。咲ちゃんも含めて少しだけ未来を覗かせてもらったけど、あなたからは未来がまったく視えない」
「!?」
「閉ざされているという意味ではないわ。まるで、本来あるべき道が壊れたから、別の道を新しく創り直してる。そういうイメージね。こんなこと初めてよ」
「未来が?」
一体どういうことだ?
それも、あの天上が言っていた逸脱者に関係することなのだろうか。
「不適合者だからなのか。それともあなただからなのかは分からない。だけど今回の防衛戦。あなたたちを見極める、いい指標になると思っている」
「えと……、そ、ソフィアさんには、もう結末が分かっているんですか?」
その問いに、ソフィアは首を横に振る。
「残念だけど、それは分からないわ。防衛戦に関係することを未来から得ることは、天上のルールで固く禁じられていて、『ゼロ』でさえ逸脱が出来ない」
「仮に未来が視れたとしても、非戦闘用のスキルは個人限定だから少し扱い辛いし、『ゼロ』に至ったことで発現したスキルも、分岐に関わることしか分からない。だから、そこまで万能とは言えないの」
「な、なるほど……」
未来が視えてしまえば対策も容易となり、ゲームにならない。だからこその措置なのかもしれない。
「そういう訳だから、あなたたちのこれからに期待している。何せ、これまでの停滞に風穴を開ける可能性を秘めているのだから」
そう言ってソフィアさんは、屋上への出入り口へと向かって行く。話すことは終えたようだ。
けどその前に一つ、確認したいことがあった。
「ソフィアさん」
「何かしら?」
「藤宮さんの未来は、どのように視えたのですか?」
「……崩壊から免れた煌めく星の子」
「え?」
「貴女は、死という運命から逸脱した稀有な存在。和人君と同様に、その未来は流動的で、完全には視えない」
「ど、どういう、ことですか? 私が、死ぬ運命って……」
「…………」
それを聞き、一つ心当たりがあるとすれば、葉隠たちと一緒に罠に嵌められた、イリーガルダンジョンだけだ。
葉隠含め、確かに藤宮さんはあのままであれば、死んでいた。であれば、俺が関与したことで、それを免れたということになる。
だが、それがどうして運命から逸脱したことに?
「これは想像だけど、あなたたちは何らかの要因で、あるべき未来が壊された。だから私には正確な未来が視えないんだと思う」
「「…………」」
「だからこそ、期待しているの。それじゃ、お互い生き残ったらまた会いましょう」
今度こそ、ソフィアさんは屋上を後にし、残ったのは俺たちと笹倉さんだけ。
防衛戦が明日控えているというのに、あまりにも気になる情報が多すぎた。
「いやはや、ずいぶんと大きな話だったね」
「はぁ……」
「スケールが大きすぎて、まだ理解が……」
いやほんと、意味深な要素が多すぎて、どこから手をつけるべきなのか分かったもんじゃない。
「それだけ君等が異質と言うことなのだろう。流石、不適合者と呼ばれることはある」
「……それ、侮蔑の意味だったはずなのですがね」
「そうだね。だが、その言葉にこそ、本当の意味があるかもしれない」
まぁ、天上を否定するという意味では、正しいのかもしれないが……。
「時に、神薙10等星。この間の遠見2等星との戦いは見事だったよ」
「ありがとうございます」
「既に遠見2等星からは推薦を受けている。協会としても、そんな人材をいつまでも10等星に置くのも、避けたい。この戦いが終わり、生き残れば、晴れて君たちは2等星に上がれるだろう」
「あわわわ、私たちが2等星……」
「大丈夫だ。俺達ならすぐに1等星になれる」
「あははは、その意気だ! ……明日の防衛戦、必ず勝って生き残ってほしい」
「私も、君たちには期待しているのでね」
そう言って笹倉さんも屋上からいなくなる。
なんか、どっと疲れたな。
「はぁぁぁ、疲れたぁぁ」
「まったくだ。着いて早々話す内容じゃない」
「そうだね」
(未来、逸脱、国同士の関係……)
どうも色々な思惑が、渦巻き始めてる気がする。
「へっくち」
考えごとをしていると、不意に藤宮さんがくしゃみをする。視線だけ向けてみれば、カァァアッと顔が赤くなっているのが見えた。
「11月だもんな」
「うぅ……、恥ずかしい」
「戻るか」
「うん」
俺たちも倉瀬たちと合流するために、屋上を後にする。
「ところで神薙君」
「ん?」
「ソフィアさん、物凄い美人だったね」
「…………ノーコメント」
「鼻の下伸ばしちゃ、ダメだからね?」
「…………」
「ね?」
「……はい」
そして翌日。
俺たちにとって、初めての防衛戦が始まった。




