防衛戦選抜試験⑥ 試験を終えて
もし今回の戦いが、本気で命を取り合う死合であれば、こうはならなかっただろう。
ただ勝ちたいという想いだけでの戦い。その勝敗を分けたのは、奢りでも油断でも実力でもない。
「ごふっ……、くそ、が……、俺の、一瞬の動揺が勝敗を、分けたか」
「ごふっ……、互いに全力だったが、本気じゃなかった。だからこその……、動揺だったな」
「そう、だな……。とりあえず、少し早いが……、2等星昇進、おめ、でと……、さん」
それだけ伝えると、フッと力が抜けたのか、拓真は後ろへ倒れる。
そしてこの場に立っているのは俺一人。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」
「ありがとな、拓真」
***
死んでからどれくらい経ったかは分からないが、ひとまず起き上がれるだけの力が戻ってきた。
「あぁ〜、歳下に負けたの久しぶりだな」
俺は過去に二度、歳下の守護者に負けている。
一人は、圧倒的な力の前にねじ伏せられた。
もう一人は、初見にも関わらず、すべての攻撃を見切られ、なすすべなく殺された。
どいつもこいつも、人を小馬鹿にしてくる奴らだったが、和人は違う。
真正面から全力でぶつかり合った末での敗北だ。これほどまでに満足の行く戦いは初めてだ。
「ま、楽しかったからいいや」
起き上がり、待機所へと向かう。
するとそこには──
「正座なんかして、何してんだ、和人?」
「おっ、起きたか、拓真。1時間で起きてきたのは、新記録だな」
「うっせ。んで、なんだありゃ?」
俺の目の前には、あの嬢ちゃんに怒られている真っ最中なのか、和人が正座している光景が入ってきた。
「まぁ、お前との戦いが、結構ヒヤヒヤものだったからな。それで反省会、してるんだと、思う」
「お、おう……」
見た目の可愛さに反してあの嬢ちゃん、しっかり和人を尻に敷いてるんだな。周りの奴らも、少し引いてるぞ。
「もう、変な無茶はしないでって、言ったよね?」
「確かに言ってたが、別に本当に死ぬわけじゃないんだから……」
「そういうことじゃないよ! 見てて、物凄く怖かったんだよ?」
「ぐっ」
「それに、式神も必要最低限しか使わなかったみたいだし。もっと多く展開してたたみかけてたら、ずっと楽に勝ててたよね?」
(いやあの嬢ちゃん、めっちゃはっきり言うな!?)
つかやっぱり和人の奴、式神をセーブして戦ってたのか! 人のことは言えないが、少し傷つくぞ。
「えと、試験は勝つのが目的じゃないから……」
「言い訳はダメ! ……コノエちゃんも、神薙君に感化されてばっかりはダメだからね?」
──キュルゥ……
「あぁ〜、嬢ちゃん。いや、これは失礼か。藤宮ちゃん、それくらいにしてくれ」
「あ、遠見さん。もう大丈夫なのですか?」
「まぁな。ここで死ぬのには一応慣れてるからな。和人、次があったら、今度は俺が勝たせてもらう」
「いや、次も俺が勝つ」
「もぉう。神薙君、全然反省してないよね?」
助けに入ったつもりだったが、藪蛇を突いたかもしれない。結局和人は20分くらい、藤宮ちゃんの説教を正座しながら聞くことになった。
***
「諸君、選抜試験お疲れ様。今回の参加者たちは皆、前回よりもハイレベルであることを確認させてもらったよ」
「特に、Fランクと呼ばれた者たちの成長には目を見張るものがあった。我々の常識というのが、如何に甘かったかを痛感するほどに」
「さて、試験を終え休みたい気持ちもあるだろうが、我らにはゆっくりするだけの時間はない。先ほど君たちのスマホに、今回の選抜試験の内容を元に決定した、防衛戦への配属先を送ったので見てほしい」
試験開始から4時間後、案内人が言っていた通り、俺たちは夢現の世界から守護者協会へと再転移された。
その間、多くの守護者と交流をしていたが、藤宮さん然り、俺然り、既にFランクだの、不適合者だのでバカにするような人らはいなかった。
誰かに認められるのは、悪くない気持ちだ。
そして、笹倉さんの指示に従い、俺たちの配属先を確認する。
そこに記されていたのは──
「神薙君、何処だった?」
「……メキシコ跡地だ」
すべてが始まった場所。倉瀬から聞いた話では、今回の防衛戦においての第1候補だと言う。
これは期待していると、捉えていいのか?
「全部が始まったところだね。どうして天上は……」
「考えても仕方ないことさ。まずは侵略者を押し返すところからだ」
「うん」
「君らは1週間後の11月10日。3手に別れ、他の仲間たちと共に世界を守る戦いへと赴く。そして次に再会出来るのは防衛戦が終わった後」
「戦うことが叶わなかったとしても、恥じることはない。今回は自分たちではなかったと言うだけだ」
「だからどうか、戦場に立つ仲間たちの生還と、侵略者たちを押し返し勝利することを、祈ってほしい」
「何度も君たちに、この言葉を送っているが、やはり慣れるものではないな。……最後に言う言葉は1つ。勝ってくれ、人類の希望たちよ!!」
「残り1週間、悔いのない時間を過ごすように!! 解散!!」
その言葉と共に、全員の顔つきが変わる。ここにいる者全員、死ぬつもりはない。だけど、命をかけた戦いである以上、絶対なんてどこにもない。
だからこそ、限られた時間の中で、各々思い残すことがないよう、これからを生きていくんだろう。
そしてぞろぞろと、会場から守護者たちが出ていく。
「藤宮さん、俺たちも帰ろうか」
「うん。約2ヶ月も離れてたから、明日、お姉ちゃんに会ってくるよ。……神薙君は?」
「家族への墓参り。話すことが沢山あるからな」
「……私も、着いていっていい?」
「それは構わないが、どうした?」
「私もお母さんたちに挨拶したいから。それと、パーティーメンバーだから、かな」
「なんだそりゃ。……でも、そういうことなら、俺も藤宮さんのお姉さんと会ってみようかな」
「いいの?」
「あぁ」
明日の予定を軽く話しつつ、二人で会場を後にする。そして外に出たタイミングで、倉瀬たちから声をかけられた。
「和人、お前らは何処だった?」
「俺と藤宮さんはメキシコ跡地だったよ。倉瀬たちは?」
「俺たちも、お前と同じでメキシコ跡地だったよ」
顔を後ろに向けると、三人の守護者が立っていた。この人たちが、他のパーティーメンバーか。
「左から山口浩子。森山純太郎。比嘉尊だ」
「「「よろしく〜」」」
「お前、拓真を殺したんだって!? 不適合者のくせに、すげぇじゃん!」
「っていうか、遠見君殺せるってことは、1等星に近いってことよね。ほんと凄いよ!」
「拓真、また歳下に負けたのかよ。何お前、そういう宿命でも背負ってんのか?」
「うっせ、お前ら!!」
ずいぶんと仲のいいパーティーだ。これだけで、如何に信頼されているのかが分かる。
「神薙和人です」
「藤宮咲です。よろしくお願いします、皆さん」
「和人、それと藤宮ちゃん。分かってるとは思うが、今回のはあくまで予行練習。実際に死ぬ訳じゃないから、多少なりとも抵抗感が和らいでいるだけだ」
「実戦となったら、また違った感覚がある。だから気をつけろ」
「分かってる。ありがとな、拓真」
「ありがとうございます!」
「時に和人たちはこの1週間どうするんだ?」
「ダンジョンに潜るのは一旦止めて、墓参りとか諸々しようかと」
「そうか。んじゃ、次会う時は現地だな。大体の奴らは前日が2日くらい前には集まるから、お前らもそれくらいには来いよな」
「あぁ。またな、倉瀬」
「2人もまたね〜」
「「じゃあな〜」」
別れの挨拶をして、倉瀬たちは帰っていく。なんというか、死ぬかもしれない戦いが控えているのに、自然だ。
それは藤宮さんも感じてたようで、『なんだか、いつもの日常みたいだね』とつぶやいている。
「そうだな。これがあの人たちの日常なんだろ」
「私たちも、そうなるのかな」
「これから幾度と、防衛戦に参加し続けたら、そうなるかもな」
──キュルキ〜
──チュチュ、チュ〜
タイミングを見計らっていたのか、ポンッと、コノエたちが勝手に出てきたと思えば、早速お腹すいたアピールをする。
こいつらもこいつらで、図太い神経をしてる。
「ふふっ、帰る前にご飯にしよっか」
「なら、何処かで食べるか。樹海ダンジョンのおかげで、多少は余裕できたし」
「そうだね。でも、まだまだ油断は出来ないけど」
「ま、それはこれから解決するだろ。高ランクのダンジョンにも潜れるようになれたんだし」
「希望的観測ばっかりだと、すぐに無くなるからね?」
「はいはい」
「もぉう」
コノエたちを肩に乗せ、ひとまずの日常へと戻ることにした。




