防衛戦選抜試験⑤ 特訓の成果 Ⅲ
─── 夢現の世界:待機室 ───
「神薙君、凄い……」
「マジか。拓真と、ここまで……」
嬢ちゃんと二人で拓真と和人の戦闘を観戦しているんだが、解説を途中から放っぽってしまうくらい、目の前の光景に目が離せないでいる。
(片鱗はあった。だが、ここまで出来るのかよ……)
デッドダンジョンをレベル1で攻略した。それがどれほど常軌を逸した偉業であったことか。
だからこそ、俺は期待した。
あいつは近いうちに、俺たちと同じステージにまで到達する。そして限界点を越え、その先にいる本当の怪物たちと同じ領域にまで到達すると。
だがそれは、まだ先のことだと思っていた。今回の防衛戦では、まだ少し足りないと思っていた。だけど、現実は違った。
既にあいつは、嬢ちゃんも含めて、俺たちと同じステージに到達していた。いや、既に俺よりも……。
あいつの覚悟の強さを見誤っていた。
「俺も、まだまだだな」
「え?」
「何が2等星になったら、パーティーリーダーを検討するだ。強くなる貪欲さがまるで足りてない。そんなんじゃ、いつまで経っても追いつけやしねぇ」
「倉瀬、さん?」
「嬢ちゃ……咲ちゃんは、あの2人、どっちが勝つと思う?」
「神薙君です」
迷わず、咲ちゃんはそう言い切る。希望的観測でもなく、その目は絶対に勝つと信じて疑っていない目だ。
「そうか。俺はまだ拓真が勝つと思ってる。あいつは俺と同じで5年間、前線で戦い続けてる。その経験の差で、あいつは勝つ」
「どうでしょう。神薙君は全力で戦ってますけど、まだ本気じゃないので」
「はっ、それは……、拓真も同じだ」
「隠し事が多いですよね」
「そりゃ、敵は別にいるからな」
二人して再度スクリーンに映るその激闘を観る。そろそろあの戦いの決着も近い。
(勝てよ拓真。和人、今のお前をもっと魅せてみろ)
─── 夢現の世界 ───
「「はぁぁあああ!!」」
互いの剣戟が火花を散らす。
拓真が錬成した数々の武器が俺たちを襲うが、そのすべてを俺の式神たちがことごとく破壊し尽くす。
「レンゲ、キリカ、挟むぞ!」
──グルゥ!
──フルルッ!
距離が離れたタイミングで、レンゲたちと共に、拓真へ挟撃する。
だが拓真は、右足でトンッと、軽く地面を踏むと、地面が盛り上がり、大きな柱となって、俺たちの攻撃を回避する。
(合掌の動作をすることで錬成を可能とする思っていたが、アレはブラフだったか)
正確には陰と陽、二つの性質を持つ魔力を重ね合わせることで錬成が発動するらしい。
魔力感知で探ってみれば、既に地面にはさながら地雷原のように、無数の陰と陽、それぞれの魔力マーカーが点在している。
そしてそこに、もう片方の魔力を纏わせた物が接触することで、錬成が発動する。その対象は生物に限らず、物体であればなんでもいいときているんだから、使い勝手のいいスキルだ。
流石、戦闘と鍛冶、その両方をこなせるAランクのクラスだ。
そして、それを悟らせず、巧みに戦いをコントロールする拓真には脱帽しかない。これが、歴戦の守護者か!
「ほんと、どんだけ手数があるんだよ、和人!」
狐、狼、蝙蝠に、鳥。様々な式神が絶えず俺の攻撃を防ぎながら、和人と一緒に殺そうと襲いかかってくる。
錬金術師は相手によって戦法を変えることの出来る手数の多さと、罠や地形を利用した戦いを売りとしている。
ある意味、俺とあいつは似た者同士だ。
(契約している式神の数がステータスに直結する。つまりあいつが契約している数は……)
あいつはステータスが21109と言っていた。中途半端すぎるから、恐らくレベルアップだと、一桁台の上昇しかないんだろう。
それを考慮すれば、契約している式神の数は優に200を超えているはず。
その全てを一斉に使わないのは、一度に出せる数に上限があるのか、それとも魔力の消費が重いのかはまで分からない。
(戦闘用だけでも100はいると思え。あいつは常に、俺が隙を作るのを今か今かと、待ってるはずだ)
それと戦ってみて分かったが、あいつも俺と同じで全力ではあるが、本気じゃない。
「やば、めっちゃ楽しいわ。こんなの初めてだ」
自然とそんな言葉が出る。
こんな感覚初めてだ。守護者は死と隣り合わせ。戦いに意味はない。大切な誰かを、これからの子供たちを守るために、俺たちは戦い続けているのだから。
だからこんな戦い、本来なら意味がない。……だが、それが楽しくてたまらない。
互角の戦いを繰り広げ、今だけは互いに背負うものがない。純粋に勝ちたいという想いだけで突き動かされている。
(仕込みは十分)
再度、和人から距離をとり、パンッと合掌する。それを見た和人は俺の攻撃をいつでも迎撃出来るよう、隙のない構えをとりつつ、式神を展開する。
今度はクラゲの式神を召喚したようだ。
「構うものか!」
手を地面に添えれば、大小様々な固定砲台が創り出される。時間だって無限じゃない。そろそろ制限時間が差し掛かってるはずだ。
こんな戦いを、タイムアップなんていう、つまらない幕引きにするつもりはない。
「最後の攻防と行こうじゃねぇか!」
「……あぁ、終わらせてやる」
「喰らえ!」
激しい砲撃音と共に、勢いよく、砲弾の雨が和人目がけて降り注ぐ。
だが、その全てがあのクラゲによって防がれる。
「なんだありゃ、水の壁か!?」
和人のクラゲが形状を変化させ、ゼリーにも近い水の壁になったかと思えば、それに俺が放った砲弾が全て呑み込まれる。
そしてそのまま和人は俺の方へと、猛スピードで迫りくる。
(ここだ!!)
和人は、俺が未知の手段で防がれたことで狼狽えたと思ったはずだ。だからこそ、このチャンスは逃さない。
十中八九、和人も魔力感知を取得している。
だからこそ慎重に慎重を重ね、足元から地面を通して、細く伸ばし続けた魔力線。それらを全てのマーカーと接続し、大規模錬成魔法陣を発動する。
「奥の手だ。得と味わいな!!」
カッと、全てのマーカーが光輝き、それを見た和人は驚愕の表情を浮かべながら、その足を完全に止める。
止まったら最後、この魔法は避けられない!
故に、その魔法名を声高らかに唱える。
「第Ⅷ階位魔法──」
終わりの絶氷!!
その魔法を唱えた瞬間、マーカーを起点とした一定範囲すべてが凍結し、和人もそれに巻き込まれる。そして出来上がるは巨大な氷晶。
本来なら自身を起点とした大魔法なのだが、一歩間違えれば自分も巻き添えの危険性がある魔法でもある。
そもそも錬金術師は、ただ物質を武器などに変えて戦うクラスだと、誰しもが錯覚するが、魔法だって見方を変えれば、魔力で出来た物質だ。
そして錬金術師は、本来詠唱を必要とする魔法を、錬成陣を介すことで、詠唱を肩代わりさせることができ、さらには錬成陣から遠隔で魔法を発動させることも可能なクラスでもある。
(全てを凍てつかせる、絶対凍結。これで……)
パキパキと、巨大な氷晶が次第に自壊を始める。終わりの絶氷はただ凍らせる魔法じゃない。凍らせた対象を分子レベルにまで砕く、絶対破壊の魔法だ。
勝ちを確信した瞬間、終わりの絶氷で砕けたと思われた氷晶は、轟雷によって砕け散った。
─── 数時間前 ───
「和人」
「なんですか、先生? もうそろそろいかないと時間が……」
「分かっておる。……だがその前に、お前に渡したい物がある」
「渡したい物?」
「着いてこい」
試験当時、先生がそう言って奥へと向かうので、着いていく。
「これじゃ」
「……これは?」
先生が見せたのは、小さな宝玉を加工したアクセサリーだった。
「お前用に作った物じゃ。魔力の伝導率を高める効果があって、お主の『纏』を、刀にも伝播出来るよう補佐してくれるはずじゃ」
それは助かる。未だ式神の力を、武器に流し込むのに、苦労していたから。
「ありがとうございます、先生」
「よい。今回は嬢ちゃんの武器に、お主らの特訓とで、あまり時間が取れなかった」
「今よりもっと強くなり、わしの武器を扱うのに相応しい男になれば、生涯最高傑作と言えるような武器を打ってやろう」
「必ず。生き抜いて、強くなります」
「頑張れ、和人よ」
「はい!」
***
(先生、ありがとうございます)
咄嗟に全魔力を口周りに集中することで、その部分だけ凍結から防ぐことに成功した。
そして口ずさむは──
纏:万雷────尖爪雷牙!!
式神使いの奥義を発動する。万雷を憑依させ、刀に収束させた莫大な熱量の轟雷とともに、凍てついた氷晶を、内側から一切合切を砕け散らした。
「…………な」
レベルを100まで上げ、そのすべてのスキルポイントを『纏』に注ぎ込んだ結果、使用回数は依然として変わらないが、威力の上昇とステータス強化、さらに効果時間が120秒にまで延長されることになった。
とはいえ、第Ⅷ階位の魔法から脱出するために、『纏』の力を全力で放ったため、120秒を待たずに効果が切れている。
(ここだ!)
拓真も、予想外の事態が起きたことで動揺が隠せないでいる。その隙を突き、一呼吸のうちに拓真との距離を詰める。
「っ!?」
けど動揺は一瞬で、拓真はすぐさま足元から槍を錬成し、俺目がけて突き刺そうと行動する。
(突き貫く!!)
(突き刺す!!)
避けるという選択肢は互いにない。
この一撃ですべてを終わらせるという覚悟の元、互いの獲物が交差し、そのまま互いの身体を貫いた。




