防衛戦選抜試験④ 特訓の成果 Ⅱ
「おい、マジかよ」
「あの不適合者、第Ⅷ階位を使ったぞ!」
「嘘よね? だって不適合者よ!?」
(上々の反応だな)
見せつけとして、これ以上ないほどの成果だ。
倉瀬たちも、開いた口が塞がらないようだしな。
「度肝を抜かれただろ?」
「第Ⅷ階位もそうだが、その前にやって見せた保留詠唱の方が衝撃的だわ……」
「俺が遠征で参加してた海外チームでも、使える奴は1人もいなかったぞ」
『保留詠唱』。
読んで字のごとく、詠唱中の魔法を中断しても、その続きから詠唱を再開することが出来る、高等テクニック。
後衛魔法職は、これが出来るか出来ないかで、1等星になれるかの運命が決まると言われる程に、重要視されている。
「命懸けの特訓をしたら、出来るようになったんだ」
「お前、何したんだよ……」
「……少し、死の実感を味あわせた、だけだ」
「「…………」」
そんな目で見ないでくれ。
俺だって辛かったんだから……。
***
「神薙君!!」
「おかえり、藤宮さん。見てたよ」
「え、観戦できたの!?」
「あぁ。あそこのスクリーンでな」
「あわわわわ。最初の方とか、色々やらかしてたのが、全部……」
「まだまだ課題アリだな。でも、後半の動きは良かったよ」
「ほんとに!? 良かったぁ〜〜」
──チュチュ〜〜♪
──キュルル〜〜♪
「ふふっ。コノエちゃんも、グレイちゃんもありがとう。……そういえば、あの人大丈夫なのかな?」
「死んでも精神的なダメージしかない。数時間もすれば目を覚ますから心配するな。……それより嬢ちゃん、いい動きだった。いらん心配だったわ」
「っ、ありがとうございます、倉瀬さん」
「初動の油断だけはいただけなかったがな。戦場でもそんなんだと、真っ先に死ぬぞ」
「は、はい……」
「拓真、別に今はいいだろ」
「やれやれ。倉瀬も甘いな。……ところで、光ってるぞ」
「ん? おっと次は俺の番か」
どうやら次は倉瀬の番らしい。俺の足元は光っていないから、遠見さんと同じで、最後の組のようだ。
「お前は俺と同じで最後か。ふっ、楽しみだな」
「まだ当たると、決まってないですが?」
「いいや、絶対に当たるな。俺の勘がそう告げている」
「そうですか」
まぁ、それは俺も同じだ。
確実にこの人と当たるという確信がある。
そんな話をしていると、倉瀬の戦いが始まったらしく、それからは三人で、その戦いの結末を観ることにした。
***
(……遠見拓真。日本の2等星で、最も1等星に近い者)
精神世界へと入った俺は、これから戦う者のことを考える。まだそうと決まってはないが、大体こういう時の勘は当たるものだ。
(今の俺がどこまで通用するのか、楽しみだな)
そして開いた扉の奥へと行く前に、式神が出せるかの確認をする。
すると、ポンッとコノエが現れる。
──キュッキュル〜♪
「精神世界だからどうなるかと思ったけど、問題なさそうだな」
──キュルル〜
「行くか」
──キュル!
コノエを肩に乗せ、奥の扉を潜る。するとやはりと言うべきか、遠見さんの姿があった。
「やっぱり、お前だったな」
「そのようで」
「殺り合う前に2つ聞く。1つ、あの嬢ちゃんとガチで殺りあったらどっちが勝つ?」
「俺」
「2つ、今のレベルは?」
「100だ」
「くくく、2ヶ月も経たずにそこまで上げれるとか、最短記録、楽々と更新してるな。ちなみに俺は167だ。これでも2等星なんだから、先はまだ長い」
「まぁ、チートアイテムがあったからな」
「それ、俺らも使えるのか?」
「無理だ。登録された者しか使えない」
「そりゃ残念」
「ところで」
「ん?」
「3つだぞ?」
「…………ぷっ、あはははは! 言われてみりゃ、その通りだわ」
この人、初めとは印象が結構変わるな。
どうも、こっちが素と見た。
「うしっ、じゃあ……、殺るか」
「っ!?」
突然雰囲気が変わったと思えば、一瞬で俺の間合いまで詰めて来る。そして手持ちの槍で、俺の心臓を突き刺そうと襲いかかってきた。
***
「おいおい。お前、マジで言ってんのか?」
「何がですか?」
「普通ここは、間一髪避けましたが、定番だろ?」
「お生憎と、我が道を行く主義なので」
「なるほど、倉瀬が認めるわけだわ。中々にぶっ飛んでるな!」
ぐぐぐと遠見さんは、脇腹を掠めた槍を引き抜こうとするが、それを俺は右手で掴み、抜かれまいと、必死に抵抗する。
「この力、レベル100のステータスじゃねぇな!」
「そう、です、か!!」
左手に持つ刀を逆手持ちに変えて、遠見さんの急所目がけて突き下ろす。
だけど、すぐさま槍を手放し、俺から距離をとる。
(それは、悪手だぞ)
「ヤカデ、突っ込め!」
俺の足元から20匹のヤカデを召喚し、一斉に遠見さん目がけて突進する。
「それが式神か!」
パンッと、両の手を叩き、地面に手を添える。すると地面が盛り上がり、巨大な壁となる。そこにヤカデの群れの大半がぶつかるが、数匹は巧みに交わし、裏にいるであろう遠見さんへ攻撃する。
(…………右!)
砂煙から何かが飛んでくるので、それを刀で払い落とす。見たところ、ナイフのようだ。
「コノエ、右が──っ!?」
コノエに指示を出す前に、すぐさま刀で左から迫ってきた遠見さんの攻撃を受けきる。今の一瞬で、どうやって左側に。それに、手に持っているのは、手放した槍ではなく長剣になっていた。
「おいおい、この連携を防ぐか」
「それはどうも。コノエ、焼き尽くせ!」
──キュルル!
ブワッと、コノエが吐いた炎が遠見さん目がけて襲いかかるが、軽快なステップでそれを避ける。
だが追撃の手は緩めない。魔力操作で脚を強化し、今度はこっちから遠見さんの懐へと飛び込む。
「っ!?」
「はぁぁぁあ!」
刃を斜めから斬り上げる。けど、ガリガリガリガリと、硬い何かに阻まれているのか、遠見さんの服を斬り裂くことしか出来なかった。
「楔帷子!?」
「ダンジョンで出た、レア装備だよ!」
攻守交代と言わんばかりに、遠見さんが扱う長剣と俺の刀が何度も火花を散らす。
互いに腕や肩、脇腹と言った所に、刃の切っ先が触れ、斬り傷が生まれる。けど、向こうは楔帷子があるおかげで、俺よりも傷の数は少ないときている。
(埒が明かないな)
「翡翠!」
後方に翡翠を召喚し、癒しの鈴にて傷を癒す。
「回復とか、ズルだな!」
「どっちが!」
互いに武器を弾き、距離を取る。
するとさっきと同様、遠見さんは合掌してから地面に手を添えると、そこから鎖刃が何本も作られ、一斉に俺目がけて飛んでくる。
「チュン」
──チュチュン!
すかさずチュンを召喚して、障壁を以てその攻撃を防ぐ。
(さっきの動作。異なる武器を扱う。それに地面を利用して武器を生み出す戦い方……)
考えられるクラスは一つしかない。
「錬金術師か」
「正解!!」
間髪入れず、今度はクロスボウでの攻撃をしかけてくる。勢いよく飛んでくるその矢を無理やり掴み、攻撃を防ぐ。だけど掴んだ部分からキュルキュルと、凄まじい摩擦が発生し、火傷を負ってしまう。
銃に限らず、飛び道具系の武器は、ステータスの他に、自身のレベルに応じて威力が上がる特性がある。レベル差約70は意外とバカに出来ないな。
「普通、避けるだろ!」
「避けるまでもないだけだ。プラン、クウ!」
地面から出てくる無数のツルが遠見さんへと襲いかかる。遠見さんはそれを難なく払い斬るが、少しだけ体勢が崩れたのを見逃さない。
すかさずクウが壊音波を発し、遠見さんへ攻撃をする。
「ぐふぅっ」
「ようやく、ダメージが入ったな」
その隙を逃さず、再度距離を詰め、今度はより強く魔力を刃に纏わせる。
そして勢いよく刀を振り下ろせば、ぶしゅりと、鎖帷子の上から、彼の肉を斬り裂く。
「ぐっ」
「このままたたみ────がはっ」
たたかみかけようとした瞬間、脇腹に鈍い痛みが走る。後ろを見てみれば、バリスタがそこにはあった。
どうやらその巨大な矢が、チュンが咄嗟に張った障壁を貫通し、俺の脇腹を抉ったらしい。
いつの間に錬成したというんだ。
「ふふ、ふふふっ、ははははは! いいな、お前。本当に不適合者かよ。2等星の俺とここまでやりあえるとか、普通じゃねぇぞ」
「よく言う。全然本気じゃないくせに」
「それはお前もだろ? 悠長に敵を観察してると、痛い目にあうぜ?」
「俺の先生から、生き抜くためには、相手をよく見ることと、教えてもらっているので」
「へぇ〜、いい師匠だな。……そうだ、死なない限り負けはない。攻撃を当てるためには、生きてなきゃいけない。何故なら──」
「「死んだらそれで終わりだから」」
互いに悪い笑みを浮かべていると、ブワッと遠見さんの魔力が膨れ上がる。
(様子見は、もう終わりのようだな)
それに呼応して、俺も魔力を膨れ上がらせる。
「最後にもう1つだけ聞く。お前、魔力と最大ステータスはどれくらいだ?」
「聞いてどうする」
「決まってる。ここまで出来るんだ。もうお前を、ただの不適合者とは思わねぇ。対等な存在として見てやる」
「それと、もし俺に勝てたら、防衛戦が終わり次第、2等星になれるよう推薦してやるよ」
「っ!?」
「悪くねぇだろ?」
「そうだな。その提案乗った! でも、なるなら藤宮さんと一緒にだ」
「いいぜ。ほれ、質問に答えな」
「魔力は40000、最大ステータスは21109。言っておくが、全ステータスがだ」
「あははは! マジか、俺の最大ステータスが24000ちょっとだぞ? それが全ステータスに!? すげぇじゃねぇか式神使い! なるほど、これがロマン扱いされてた糞クラス、その本領か」
まぁ笑いたい気持ちはよく分かる。俺だって笑いたいくらいだ。
「言っておくが、まだまだ強くなるからな」
「だろうな。だけど、今日は俺の勝ちで終わらせるさ」
「いいや、俺が殺す」
バチバチと魔力がぶつかり合う。
目の前にいるのは、限界点に最も近い人間。
相手にとって不足なし!
「んじゃ殺るか、和人!」
「あぁ。いくぞ、拓真!」
互いに武器を構え、ダッと走り出す。そして互いの武器をぶつけ合い、第2ラウンドの幕が開けた。




