防衛戦選抜試験③ 特訓の成果 Ⅰ
「それでは、皆さんを指定の座標へと飛ばします。時間は今から4時間。それを過ぎると自動的にここに戻りますので、アナウンスの指示に従って、試験の進行をお願いいたします」
事務的な説明をすると、案内人はスキルを発動させ、俺たちをこことは別の場所へと飛ばす。
クラス『案内人』。
世界でも6人しか存在しない、貴重な転移系のクラスである。その優位性と貴重性からランクは文句なしのS。
だがその性能とは裏腹に、転移には色々と制約がある。例えば途中から防衛戦の場所へ人を送り込むのは禁止されていたり、一定時間経過すると元の場所に戻される、とかな。
だから希少性の割に少し不遇だったりする。
「っと」
「わわっ」
「大丈夫か、藤宮さん?」
「転移って初めて体験したけど、なんか、不思議な感覚だね。こう、ふわっとする感じ」
その例えはどうかと思うが、俺も同じ感想しか出てこないので、黙っておこう。
それから辺りを見渡すと、大きな施設の中に飛ばされたらしい。ということは、ここが夢現の世界ということか。
それから少ししてから、場内に機械的な男性の声が響く。
"150名の守護者を確認"
"これより試験を開始する"
"足元のパネルが光った者たちから、この先の扉を通り、試験を始めよ"
"それ以外の者は、ここで待機せよ"
そうアナウンスが流れると、一斉に足元が光った者と光らなかった者に分かれる。ざっと見た感じ、1/3くらいが光っているようだ。
その中には藤宮さんも含まれていた。
「あ、私だ……」
「頑張れ」
「うん。じゃあいってくるね、神薙君」
そう言って、藤宮さんは他の守護者と共に扉の奥へと進んでいった。
「最初は嬢ちゃんか。……本当に大丈夫なのか?」
「問題ない」
「そうは言うが、人殺しなんて本来、抵抗あるだろ。特に女の子なら、尚の事……」
「まぁな」
デモンストレーションは済んでる。後は実戦でどこまでいけるか……。
(頑張れよ)
全員が扉を潜り終えてから暫くすると、待機している俺たちの前に複数のスクリーンが現れる。そこには扉の中に入っていった者たちが映し出されていた。
「和人は、ここがどんな施設なのか、知ってるか?」
「概要だけなら」
「なら、軽く教えておくか。ここは夢現の世界。俺たち守護者が、防衛戦に向けて、人殺しが出来るよう配慮された、唯一無二の施設だ」
「世界中にこういった施設が点在してる。んで、あの中に入った奴らはまず、魔力を測定して、システムと繋がるんだ」
「システム?」
「あぁ。対象の魔力と精神を正確に測り、集団催眠をかけるためにな。試験項目は2つと言われてはいるが、実際はそれぞれが連動した1つの試験なんだ」
「なるほど……」
「流暢に話すより、実際に見たほうが早いだろ、倉瀬。ほら、そろそろ始まるぞ」
遠見さんに促されスクリーンの方を見る。
するとそこには、一斉に倒れている守護者たちが映し出されていて、次第にスクリーンに映る風景が変化していく。
「…………これが」
「そうだ。初代『ゼロ』が創り出した奇跡。精神世界を創るスキル、夢現の世界を機械に組み込むことで成り立ったその世界で、1対1の、死ぬことのない殺し合いが行われるんだ」
***
(ここは、一体……)
目の前に広がるのは、光で満たされた何もない空間。
アナウンスに従って、機械に魔力を流し込んだのは覚えているけど、もしかしてここが、氷室さんが言っていた、精神世界なのだろうか。
"これより、試験を開始する"
「試験……」
"試験内容は1対1"
"相手を殺すか、制限時間20分経っても勝敗が決まらなければ、その時点で試験は終了となる"
"殺せなかったとしても恥じる必要はない"
"それは弱さではない"
"君が人であることを、忘れないでほしい"
アナウンスはそれで終わり、目の前に別の空間に繋がっている扉が現れるので、その扉を潜る。
(弱さじゃ、ない……)
そうかも知れない。
それでも、やらなければ、私の大切な人が──
「なぁんだ、俺の相手は女かよ。しかも、不適合者じゃねぇか」
「えと……、よろしくお願い──」
挨拶をしようとした瞬間。私の目の前に、大きな斧を勢いよく振り下ろす、守護者が現れた。
─── 守護者協会:管制室 ───
「選抜中の守護者たちはどうかな?」
「全員の計測が終わったわけではありませんが、現時点で3ヶ月前の防衛戦に参加した者たちは、最低でもレベルが10ほど上昇しております」
「新規の守護者たちも平均レベル80と、高水準となっています」
「そうか。その者たちと、次も生きて会えるといいのだが……。魔力計測の方はどうかな?」
「軒並み、突出した者はおりません」
魔力とは、ステータス以上に重要な要素だ。ある意味、最もその者の実力を測れると言ってもいい。
何せ、多ければ多いだけ、人よりも戦えるのだから。
(彼らはどうだろうかな)
それが少し楽しみでもある。そして突然、ビービーと、警報音が鳴り響く。
「どうした」
「あ、あり得ない! なに、この魔力量は!? 10等星程度が得ていい魔力量じゃない! が、画面に出します!」
そう言って局員は、目の前の大きなスクリーンに、その者を映し出す。
そこには藤宮咲10等星の名前が出ており、その魔力量は──
「これは、凄まじいな」
***
「はぁ、はぁ……、はぁ……」
「っち、一撃で終わらせるつもりだったのに、避けんなよ」
ポタポタと、左肩から血が流れ落ちる。
(物凄く、痛い……)
話で聞いていたとはいえ、現実さながらの痛みを感じる。本当にここは、精神世界なの?
「次はもうちょい早く、動こう、かな!!」
「っ!?」
さっき以上の速度で、私目がけて斧を振り下ろす。
(左!!)
咄嗟に魔力を足に収束し強化することで、それを回避する。
「っち、おらぁぁあ!!」
すかさずその人は、斧を巧みに使い、何度も私の急所目がけて、斧を振り回す。
(どうしよう。速すぎて、避けるので精一杯……)
幸いまだスキルを使ってこない。だから辛うじて避けることは出来ているけど、それも時間の問題だ。
完全に主導権を取られてしまった。
「っち、ちょこまかと! 逃げるしか脳がねぇなら、さっさと死ね!」
キーーンと、魔力が斧の切っ先に集まるのを感じる。マズイ!
「スライド・ストライク!!」
斧を振り回すと、そこから無数の魔力の斬撃が飛んでくる。
こんなのをもらったらひとたまりもない!
「グレイヴ!」
トンッと、杖を地面に突くと、地面から大きな岩の壁が出現する。そして彼の放ったスキルとぶつかり、激しい音を出しながら、みるみる削れていく。
(今のうちに、体勢を……っ!?)
安堵も束の間、土煙が立つと同時に、私の右側から迫りくる彼の姿があった。
「しゃらくせぇ!!」
(魔法の発動と同時に、グレイヴの死角を利用して……!?)
「くっ」
回避が間に合わず、星月霊杖の柄の部分で彼の斧を受け止める。ビリビリと、受け止めた衝撃が手に伝わる。そして、彼が力任せに振り切ったことで、勢いよく弾き飛ばされる。
「がはっ」
「今のでも仕留めきれねぇのかよ。無駄に抵抗しやがって。戦う気がねぇなら、さっさと死んでくれよ」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
(この人……、強い)
ぐぐぐと立ち上がる。そして額から流れる血を拭って杖を構える。でも不幸中の幸いか、彼から距離を取ることが出来た。
(見て、考えて、動く)
こんなところで躓いてなんかいられない。ここから勝つ!
***
(頑張れ、藤宮さん)
初動は彼のペースになったが、距離が離れたことで、少し冷静になれたようだ。
「彼、強いな」
「鉄倉勉。クラス『重戦士』を持つ、4等星だ」
重戦士。斧を使った一撃を得意とするオーソドックスなクラスだな。
「にしても嬢ちゃん。よく初動を避けれたな。新規参加の奴らは、大抵初動のアレで死ぬのが定番なのに」
「藤宮さんには、前衛の戦い方を嫌というほどに味あわせたからな」
半泣き状態の彼女を見た時は、我が事のように辛かったが、それでも心を鬼にして、先生と共にいじめ抜いた。
「序盤こそ一方的だったが、落ち着きを取り戻したのか、上手く攻撃をいなしてるな。前衛顔負けに相手の動きをよく見ている。それに、何か企んでるようだ」
「鉄倉も、前よりいい動きしてんだが、決め手に欠けてるな。和人なら、どう戦う?」
倉瀬からそう問われるので、少し考える。
「あの斧、見た目に反して少し軽めに見える。それと、一撃よりも手数重視って動きだ。だから1番威力が乗りきる前に、魔力操作で強化した刀で弾いて、体勢を崩したところで、かな」
「よく見ているな。彼女もそうだが、本当に不適合者か?」
「不適合者ですよ。…………そろそろ仕掛けるな。きっと、度肝を抜く瞬間が見れますよ」
スクリーンを見てみれば、藤宮さんが何かを始めている。
(見せてやれ、今の実力を)
***
「ふぅぅ……」
このあとの作戦は決めた。
後は動くだけ。
(勝つよ、神薙君)
「なんで俺の攻撃が当たらねぇ!?」
中々攻撃が当たらず、イライラしているようだ。でもごめんなさい。もう貴方の攻撃を受けることはありません。
文字通り血反吐を吐いたあの特訓に比べたら、この程度の攻撃なんて、普通以下だ。
だって──
(貴方よりもっと凄い人たちから、手ほどきを受けているんだから)
─── 20日前 ───
「よいか? 防衛戦で最も恐ろしいのは、人を殺す恐怖だ」
「人を、殺す……」
「そうじゃ。快楽主義じゃない限り、誰だって人殺しなんてしたくない。その踏ん切りがつかないまま防衛戦に参加し、結局殺す恐怖に勝てず死んでいった者を、わしらは多く見てきてきた」
「………………」
氷室さんの言葉一つ一つに重みがあった。
それを聞いて思う。果たして私に、その覚悟は本当にあるのかと。
「じゃが、それは弱さじゃない。当たり前のことなのを忘れるな。それでもわしらが敵を殺すのは、たった1つの事実があるからじゃ」
「事実、ですか?」
「殺さなければ、己が死ぬ。その結果、自分の大切な人が、そやつらに殺される。天上に奪われる」
「っ!?」
そうだ。
私が死んだら、お姉ちゃんは誰が診るの?
それに、神薙君だって……。私が死んだら悲しむし、それで神薙君が死ぬことになったら、もっと……。
「肝に命じておけ。殺しを正当化するな。その罪を背負え。自分を守るため、そして誰かを守るために、己の心を血で染めろ」
「自分と誰かを、守るため……」
その言葉を心に刻む。
そしておもむろに、氷室さんと神薙君が、カチャカチャと、腕に金属製のガントレットを付け始めた。
一体何を始めるのかと、不思議に思っていれば、絶望の言葉がやってきた。
「これから、わしと和人が、本気で嬢ちゃんを殺しにかかる」
「…………へ?」
「死に身を沈め、そして自覚しろ。わしらを殺さない限り、己が死ぬと」
「藤宮さん。こればっかりは身をもって体験しないと分からないことだ」
「か……、神薙、君?」
神薙君の瞳からはハイライトが消えていて、私への情が一切感じられなかった。
それが、これから始まる特訓が、如何に熾烈かを物語っていた。
「これに限っては心を鬼にする。同情はしない。俺も通った道だ」
「──────」
そして、地獄とも言える訓練が始まった。
─── 現在 ───
「いきます!」
"我、星の巫女が告げる"
"天を焦がすは、終焉の炎"
「させるかよ!」
私の詠唱を阻止すべく、彼が勢いよく迫りくる。
「エル・アタッチメント!!」
「っ!?」
そのスキル名を唱えると、彼の斧が魔力を纏い、何倍にも肥大化する。にも関わらず、速度は一向に落ちることがなく、そのまま私目がけて斧を振り下ろす。
「ウィンディア!」
魔法名を唱えると、脚に風が纏い、移動速度を上昇させる。それにより、彼の絶命の一撃を回避する。よく見てみれば、床が粉々に砕け散っていた。
「まだだ!」
そのまま彼は、斧を振り回しながら突進する。けど、それだけじゃ私には届かない。
十分に距離を保ちながら、詠唱を再開する。
"地を焼くは、地獄の焔"
"紅蓮を纏うは、猛々しい蛇"
「はぁ!? 保留詠唱だと!?」
"滅びの理を以てして、今ここに──"
「くそが!! スライド・ストライク!!」
肥大化した斧を振り回し、最初に見せた魔力を斬撃が無数に飛び交う。
「ジオ・グレイヴ!」
私もそれに応戦するため、より巨大で強固な岩の壁を生み出す。それによりさっき以上の土煙が立ち、互いに姿を視認出来なくなる。
(ここ!)
でも私には魔力感知がある。神薙君の魔力感知とは違い、私は見えなくても相手の魔力を感じることが出来るため、位置が分かる。
「シャドウハンド!」
「なっ!?」
影の手で相手を捕らえ、残りの詠唱を行う。
"眼前の敵を滅却せし、かの者を現出せよ!"
「第Ⅷ階位魔法──」
紅蓮の大蛇!!
右手を掲げながらその名を唱えれば、私の周囲から溢れ出した膨大な熱量の炎が集束し、一つの大蛇の形を創り出す。
まさに、紅蓮の大蛇に相応しい。
そしてジューッと、その熱に自身の腕が少しずつ焼けていく。まだ完全に御しきれていない証拠でもあった。
「第Ⅷ……、階位、だと……」
「少し熱いと思いますけど、我慢してくださいね」
「すこ、し……」
にっこりと笑みを浮かべながら、私は右手をそっと下ろす。
その動きに連動し、大蛇の口から膨大な熱量の炎を吐きながら、突進する。
「あ、あぁ、あああ。…………ぐぎゃぁぁあああ!?」
彼の断末魔が聞こえる。あまり聞きたくない声だけど、これから先、もっと聞くことになるんだろう。
(それでも、私は戦うよ)
神薙君と一緒に戦い、そして誰かのこれからを守ると、そう志したのだから。
──────────────
守護者:藤宮咲
クラス:星の巫女
レベル:0(心意解放:Lv1)
称号:なし
体力:14000
魔力:100000
筋力:5400
耐久:8900
敏捷:10400
感応:25800
幸運:26000
スキルポイント:0
スキル:
・魔力感知
・自動回復(魔)
魔法:
・第Ⅰ~第Ⅷ階位
・心意の階位




