防衛戦選抜試験① 遅れて来るのは
─── 守護者協会(関東支部)前 ───
「倉瀬」
「ん? おお、拓真じゃねぇか! 元気にしてたか?」
防衛戦まで残り1週間。全国に点在している協会のうち、三つで行われる次の防衛戦に向けた配置決めを兼ねた選抜試験が今日行われる。
そんな中俺は、ある人物を待っていたのだが、長らく会っていなかった、元パーティーメンバー兼旧友と再会する。
「まぁな。向こうの奴らとのダンジョン攻略は、かなりハードだったよ」
「いきなり海外に遠征すると言い出したときはビビったんだからな。しかも一向に連絡寄越さないわ、前回の防衛戦にも参加しないしで、心配してたんだぞ」
「悪い悪い。Aランクダンジョンに籠ってて、連絡どころじゃなかったんだよ。いやぁ、レベル200超えのボスが出てきた時は、死ぬかと思った」
遠見拓真。クラス『錬金術師』の保持者であり、俺たちのパーティーリーダー。そして2等星の中でも、最も1等星に近いとされる、日本のエースの一人だ。
「ったく。……ここに来たっつうことは、もういいのか?」
「あぁ。この5ヶ月でレベルを27も上げてきたし、新しい武器とかも仕入れてきたからな。この遠見拓真、本日をもってパーティーリーダーとして、原隊復帰する!」
「ようやく俺の肩の荷が下りるのか……」
「つっても、お前も中々にリーダー向きだと思うぜ?」
「今はまだいい。そういうのは、お前と同じ2等星に上がってから考えるわ」
「とは言うが、お前ならすぐだろ!」
「俺よりも先に上がった奴がよく言うぜ」
旧友と雑談を繰り広げていると、不意に『ところで』と、話題を変えてくる。
「お前、なんでここに突っ立ってるんだ? 他の奴らはもう中にいんだろ?」
「ん? まぁな。俺はちょっと、人を待ってる」
「人? もしかして、コレか!? 山口っつう最高の彼女がいながら!!」
「違う! ……2ヶ月前に知り合った駆け出しの守護者だ」
「駆け出しぃ? 年齢は?」
「今年で17」
「ならもう駆け出しじゃねぇだろ。17っつうことは、効率よくレベリング出来てりゃ、60前半くらいか? 学生だし、2ヶ月前でそれなら、流石に間に合わねぇだろ」
拓真がそう言うのも無理はない。だが、俺が待っている奴は──
「そいつと知り合った時の、当時のレベルは、5だ」
「…………はぁ?」
「ま、それが普通の反応だな」
「おいおい、17でレベル5って、どんだけサボってたんだよ!」
「サボってたんじゃない。……不適合者だ」
「はぁぁあ!?」
俺の言葉に拓真は驚愕の声を上げ、『だったら尚のこと、無理じゃねぇか』と、正論を言う。
「倉瀬、お前どうした!? 不適合者が防衛戦に参加出来るわけないだろ! レベルの概念があるっていうことは、式神使いか? つーか、レベルが5になってる時点で奇跡にも等しいだろ」
「そうだな。だけど、あいつは絶対に間に合わせる」
確証があるわけじゃない。だけどあの時、格上の俺に啖呵を切った男が、大ボラ吹きで終わるはずがない。
(頼むから、俺を失望させてくれるなよ?)
「はぁ……、マジで意味が分かんねぇ。それで律儀にここで待ってるってのか?」
「あぁ。何せ、レベル1でFランクのデッドダンジョンを1人で攻略した、大バカ野郎だからな」
「…………マジで言ってるのか?」
「あぁ。この目で笹倉さんと、その場で確認した」
「……レベル1の式神使いが? それでレベルを5まで上げた?」
「そうだ」
「あり得ないだろ」
「だが事実なんだよ」
そう答えれば、拓真は考える素振りを見せる。そして考えがまとまったのか、口を開く。
「それが事実だとして、2ヶ月も経たずにレベルを70以上にするって、本当に信じてるのか?」
「経験値10倍のアイテムがあるから、理論上は間に合うはずだ」
「……聞いたことのないアイテムだな。討伐報酬か?」
「あぁ」
「やっぱり信じられねぇ。そもそもそんなアイテムがあるなら、俺らに渡した方がよっぽど人類のためになるだろ」
その言葉には、流石に笑うしかない。
「拓真。お前のそういう効率重視な考えは嫌いじゃないが、たまには人の意志っつうのも、馬鹿には出来ないぜ?」
「さいですか。まっ、眉唾程度で期待しておくわ」
「そうか。俺ももう少ししたら中に入るわ」
「あいよ〜」
そう言って拓真は協会の中へと入っていく。
(どうした、和人。お前は本当に、大ボラ吹きで終わるつもりか?)
心の中でそうつぶやくが、無情にも選抜が始まる10分前になっても和人が来ることはなかった。そんな和人に失望しながら、俺も協会の中へと入っていった。
***
「笹倉室長、これが今回の選抜に参加する守護者の一覧です」
「ご苦労、福山君。………………今年は日本全国で約9400か。そのうち新規の参加者は300弱……と」
「はい。ベテランを筆頭に、前線へ行ける守護者の人数は、減少していく一方です」
(前回は12000ほどだったか? 防衛戦以外にもダンジョンでの死亡者数も増加傾向であるから、次の防衛戦では一体、どれほど減っているのだろうか……)
守護者はいつだって、逆境に立たされている。ダンジョンでレベルを上げようにも、命の危険は常に付き纏う。
更に防衛戦では、新規参加者のうち、戦場から半分が帰って来れれば御の字。そしてそれは、ベテランの者たちにも言えることだ。
どれほど強くなろうとも、死ぬ時は死ぬ。
「時に、彼らは来ているのか?」
「いえ、未だ神薙10等星及び、藤宮10等星は来ておりません」
「……そうか。来たら必ず中に入れるよう、徹底してほしい」
「それは、構いませんが……」
福山君にそう伝えると、何やら重苦しい表情となる。
「どうしたのかな?」
「本当に、来るのでしょうか」
「と言うと?」
「神薙10等星は、確かに異常な速度でレベルを上げておりました。ですが、僅か2ヶ月以内に70に到達するのは到底……。それに、藤宮10等星についても同様です。レベルが上がらない中、スキルポイントだけで70相当の強さを目指す」
「これまで多くの守護者たちを見てきましたが、短期間でそこまで強くなった者はおりません」
「いくら経験値の補正が入るアイテムがあるからと言って、あの柊永久1等星や、神代当麻1等星でさえ、70になるまでに、1年半はかかっていたのですよ? 正直、間に合うはずが……」
福山君の言いたいことは分かる。
確かに常人であれば、難しいだろう。特殊なアイテムを持っていても、レベルを上げるための経験値は、それでも倍は必要なのだから。
それでも、期待せずにはいられない。
ソフィアがつぶやいた、未来を変えうる存在かもしれない。その彼が、ここに来ることを──
「彼は間に合う。私はそう信じたい」
「どうしてそこまで、彼に期待するんですか?」
「決まっているさ。天上を倒す。その信念は、どの守護者よりも強いと、私は確信している」
***
「おはよう、守護者の諸君。今回もこうして、幾度と世界を守ってきてくれた諸君らに会えて、心嬉しく思う」
「そして、この場に来ることが叶わなかった同胞たちに、哀悼の意を唱える」
「さて、次の防衛戦が1週間後と迫った。場所は、香港・メキシコ跡地・グリーンランド。普段通りであればこの3ヶ所全てが戦場だったところだが、今回はいずれか1つが戦場となる」
「そのための割り振りを、今回も決めたいと思う。……何か質問はあるかな?」
笹倉がそこで一度区切りを入れれば、一人の守護者が手を挙げる。
「何故メキシコ跡地が候補にあるんですか? これまで、敗北した国や地域が選ばれることはなかったはず」
「我々も、モノリスを通して天上にコンタクトを取ろうとしているが、成果はゼロだ。……だが、これまでになかったパターンであるため、侵略者が来る第1候補であるとだけ、言っておこう」
(まぁ、それが妥当か……)
であれば、そこに行けるよう頑張るしかない。心の中でそう決意していると、拓真が話しかけてくる。
「倉瀬、結局その不適合者は来なかったようだな」
「……うるせぇ」
「なんだよ、本気で信じてたのか?」
「悪いかよ」
「夢を視るのもいいが、もう少し現実を見ろ。俺たちは守護者なんだぞ」
「…………」
言われなくても分かってる。
それでも、俺は──
(笹倉さん。あんたはどう思ってる?)
「他に質問したい者はいないかな? ……では、これから──」
──遅れて、すみませんでした!!!
「っ!?」
その声に反応し、勢いよく振り向く。何やら女の声もしたが、そんなのはどうでもいい。
あいつが来た。
それが分かれば十分だ。
(和人!!)
「おい、倉瀬。まさかとは思うが……」
「ふっ、名前は?」
笹倉さんも嬉しいのか、小さく笑みを浮かべながら、そいつに名前を問う。
そして、あいつは自信満々にその言葉を宣言する。
「神薙和人、10等星!」
「藤宮咲。同じく、10等星です」
「「そして──」」
──不適合者、星の巫女です!!
──不適合者、式神使いだ!!




