準備期間④ 新しい武器
「ほれ和人、お前の刀を見せてみろ。折角だ、手入れをしてやる」
ここに来て9日目。先生が武器の手入れをしてくれるということなので、その言葉に甘えようと思う。
「お願いします」
「…………ふむ、簡単な手入れはしているようじゃが、ところどころガタが来ておるな。ここに来る前に、硬い敵と戦ったな?」
流石、錬成師なだけある。一目見ただけで、武器の状態を的確に当ててきた。
「氷室さん、そんなことも分かるんですか?」
「嬢ちゃんは錬成師というクラスを知らんのか?」
「授業だと鍛冶職の話はあまり……、すみません」
まぁ、戦闘職でないクラスは元々数が少ない。偏った知識しか得られないのも無理はない。
「最近の学び舎は甘いの。……和人、教えてやれ」
「分かりました。……藤宮さん、鍛冶職と言ってもそれなりに種類があるんだ」
「そうなの?」
「あぁ。1番有名なのは、錬金術師。このクラスは戦闘と鍛冶、その両方に優れてるAランクのクラスだ」
「うん、私もそれくらいなら知ってる」
「そして、刀匠、銃器製作師と言った感じに、各得意分野に分かれた、C〜Bランクの鍛冶職が存在する。ちなみにどれもランクが高いのは、希少性もあるが、武器製作による収入のための箔だな」
「そうだったんだ。……じゃあ錬成師は、何が得意なの?」
「……何もない」
「え?」
「得意な分野は存在しない。そもそも錬成師自体、鍛冶職と呼べるものかすら怪しいんだ。だから他のクラスとは違って、Dランクが割り当てられてる」
「えぇ!?」
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クラス「錬成師」
鉱物の加工、武器の状態などを確認することに長けたクラス
魔物を、その特性に合わせた特殊な鉱物に変化させることが出来、それを武器の素材として活用することも出来るが、クラス単独では武器製作は不可能
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そう、元々錬成師に、武器製作に関するスキルなんて存在しない。
であれば、どうしているかと言えば──
「先生はな、今では廃れてしまった、自前の技術だけで武具を作る。世界でただ一人の、本物の鍛冶職人。……孤高の職人って言えば、分かるか?」
「………………えぇぇぇ!?」
神薙君が言った言葉に、衝撃を受ける。
だってその人が作る武器は、他とは一線を画すほどの性能で、しかもほとんど市場に出回らない。だからほぼ全てにプレミア価格が付いていて、どんなに安くても1000万はくだらないほどの、生きる伝説……。
(そんな人が、神薙君の、知り合い!?)
「まったく、その異名は恥ずかしくてならんよ。ただ求められた性能の武器や防具を作ってやってるだけじゃというのに」
「それが現代においては貴重なんですよ。スキルで工程を省略するよりも、本物の職人が打った武具の方が性能では勝る。魔法の詠唱と同じ原理です」
「────」
開いた口が閉じない。
私、そんな凄い人から武器を作ってもらっているの!?
「あわわわわ」
「どうした、嬢ちゃん」
「だだだだだだって、そんな凄い人とは知らず、私、いつか払うだなんて、言って……」
「がははは! まぁそれが普通の反応じゃな。和人なんか、それを知ったうえで、わしに生きる術を教えてくれと、尋ねてきよったぞ?」
「かかかか、神薙君!?」
強くなるためになんだってするのは知ってるけど、それにしたって限度があると思う。
そもそもFランクの私たちが、そんな凄い人から手ほどきを受けれていたというだけで、奇跡的だと言うのに……。
「はははは、我ながら無茶をしたなって思ってるよ。1回目は門前払い食らって、2回目は金を持ってきたら教えてやるって言われて追い払われて……」
「そしたら3ヶ月後、和人の奴、本気で金を用意してきたんじゃよ。家族の遺産に、政府から出てる補償金。更には非合法のバイトまでしてな」
「んなことまでされたら、もう追い返せんじゃろ。こやつが、如何に本気であるかを知っちまったんだから。……今でこそ、多少丸くなっておるようだが、昔はもっとギラついておったぞ」
言われてみれば昔の神薙君って、少し怖いところがあったかもしれない。優しさといった本質は変わらないけど、自分に関わるなっていう雰囲気を出していた気がする。
「あれは流石に反省してますよ。でも、そのおかげで今日まで生き抜くことが出来ているので、感謝しかありません」
「昔は、ほんと弱っちかったからな。わしでも、デッドダンジョンへ行くことには反対しておるわ」
「…………神薙君。もうこれ以上変な無茶はしないでね? 私の心臓が保たないから」
「流石にもう、そこまで危ないことは……、しない、と、思う」
「駄目! 絶対に約束して」
「……善処します」
「やれやれ……」
私、こんな危なっかしい人とパーティーメンバーだったんだと、今更ながらに実感する。
(まぁでも、神薙君らしいといえば、らしいかも)
むしろ、そういう彼だからこそ──
─── 2日後 ───
「先生、いつもの所でトレーニングしてきます」
翌日のお昼頃、作業場で私の武器を打ってくれている氷室さんに、神薙君はそう伝えて何処かに行こうとする。
「あいよ。じきに嬢ちゃんの武器も完成する。出来たらダンジョンに潜ってみろ。今の主らなら、C層までは問題なかろう」
「ねぇ神薙君。そろそろ私も着いて行っていい?」
ここに来てから時間があれば、神薙君はコノエちゃんたちも置いて何処かに行っては、傷だらけになって帰ってくる。
そしてそれは氷室さんも同じで、ふとした時にいなくなっている。二人して何処かに行ってしまうから、とても気になる。
「う〜ん、先生から武器を受け取ってからな」
「えぇ〜」
「それじゃ、3時間くらいしたら戻るから」
「あっ」
そう言って神薙君は走って何処かに行ってしまった。
「まったく、3時間も嬢ちゃんを置いて留守にするバカがどこにおるか」
「……神薙君、ずっとあんな感じだったんですか?」
カツーン、カツーンと、武器に槌を打ち続ける氷室さんに声をかけてみる。邪魔になると思ったけど、むしろいい感じに集中出来るらしい。
「そうじゃな。あやつは人一倍、天上を憎んでおる。わしよりも、な」
「氷室さん、より?」
「わしのことはええ。それより嬢ちゃん。なんで和人が、天上を憎んでおるか、知っておるか?」
そう尋ねられるので、これまでのことを振り返る。そして中学2年生の時、彼と初めて身の上話をした時のことを思い出す。
「私には、まだお姉ちゃんがいましたけど、神薙君は家族全員、10年前の惨劇で亡くなったと聞いています。それで、いつか自分も強くなって、天上を倒すと……。凄いですよね。不適合者と言われ続け、それでも諦めなかったんだから」
そう答えると、『それもあるが、もっと別の理由がある』と、氷室さんは言う。それが何なのか、とても気になった。
「別の理由、ですか?」
「そうじゃ。それとな、あやつが本当に憎んでおるのはな、自分自身じゃ」
「…………え?」
「細かい話は和人自身に聞くとええ。……あやつはな、無力な自分が許せないんじゃ。家族を守れず、名も知らない守護者に、文字通り命と引き換えに助けられた、その無力さに。そして許せぬのじゃ、そんな理不尽を強いる天上どもが」
(文字通りって……)
「じゃからあやつは人一倍無茶をしよる。これまでは上手くいっとったかもしれんが、これからもそうとは限らん」
「出来れば嬢ちゃんが、和人の背中を支えてやってほしい」
氷室さんの言葉の一つ一つには、神薙君への想いがあった。
「大切にしてくれてるんですね」
「あれでも、わしが見てやった最初で最後の弟子じゃからな。それに、短いながらもいい夢をみさせてくれたわい」
小さく笑みを浮かべながら、その後も氷室さんは槌を打つ。そうして最後に、加工された何らかの宝石を杖の先端の部分に嵌めると、パァッと輝き出す。
「綺麗……」
「ふむ、完成じゃな」
そして私に、『持ってみるんじゃ』と言うので、氷室さんからその杖を受け取る。すると、まるで私を持ち主と認めたかのように、更に杖が光輝き、辺りを照らす。
それはさながら、夜空に輝く星々のように幻想的で、物凄い力を感じた。
「凄い……」
「星月霊杖。Bランク相当の武器で、お主の星の巫女にぴったりの特注品じゃ」
「効果は消費魔力の軽減に、月の光をその宝石に溜め込むことで、魔力回復用の貯蔵庫としてや魔法の威力の底上げなどに使える」
「こんな素晴らしい物を、本当に私が?」
「これ以上の物は、今の嬢ちゃんにはまだ扱えんじゃろうからな。もっとえぇ女になったら、最高の武器を作ってやろう」
少し気恥ずかしいが、そう言われるのは、案外悪くない気分だ。
「ありがとうございます、氷室さん。大切に使わせていただきます」
「そうしてくれ」
──チュチュ〜
──キュルル〜
「ふふっ、そうだね。神薙君に見せてあげないとね」
「和人は、ここからまっすぐ進んだ所におる」
「ありがとうございます!」
「行こっか!」
──キュル!
──チュチュ!
氷室さんにお礼を伝え、作業場を後にする。
武器のこともそうだけど、さっき氷室さんが言っていた、自分を憎んでいるという言葉が気になる。
(もっと知りたい、貴方のことが……)




