準備期間③ 武器製作に向けた素材集め
─── 富士の樹海特殊ダンジョン C層 ───
「万雷、痺れさせろ! クウ、壊音波!」
──ブルルー!
──キィィィィン!
カニ型の魔物に対して、二匹の式神の攻撃が降り注ぐ。アーマードクラブはCランクの魔物で、殻がかなり硬いと聞く。であれば万雷の雷と、クウの音響攻撃はかなり効くはずだ。
現に奴は、その攻撃に怯んでいる。
「藤宮さん、今だ!」
「うん!」
"我、星の巫女が唱える"
"貫くは紫電の槍"
"悪しき者への裁きをここに!"
"サンダー・スピア!!"
「っ!?!?!?」
「そこぉ!!」
藤宮さんが唱えた魔法により、アーマードクラブにかなりのダメージが入り、その硬い殻がボロボロと崩れる。
そしてその隙を逃さず、俺の刀で剥き出しとなった肉に刃を突き刺す。
そうしてようやくアーマードクラブはサァ〜ッと灰になっていく。
「和人、後ろじゃ!!」
「神薙君!」
先生たちの声が聞こえる。視認する時間はない。恐らく既に攻撃モーションに移行しているはずだ。
とはいっても、それは誘い、だけどな。
「っ!?!?!?!?」
突如として地面からいくつものツルが飛び出してくる。そして、そのツルがアーマードクラブを拘束していく。
「先生!」
「やれやれ、老体を酷使するな! 錬成槌!!」
先生の振るうハンマーが拘束した敵へと当たる。そしてみるみるうちに、当たった部分からグニャリと、形状が変化し、最後はよく分からない鉱物と化す。
『錬成槌』。
効果は、呪いや状態異常に近い攻撃スキルで、耐性がなければこの通り。鉱物へと変化してしまう、恐ろしいスキルだ。
「これで、一通りの敵は狩り終えたか?」
「神薙君、お疲れ様」
「あぁ、藤宮さんもお疲れ。いいタイミングだった」
「ほんとに!? 良かったぁ」
「プランも、お疲れ様」
──シャァァア
ガガガと、地面からツルの集合体が出てくる。これは俺の式神で『プラン』と言う。今回は拘束目的で呼び出したが、ツルによる攻防一体を得意としている。
「先生も、お疲れ様です」
「まったく。嬢ちゃんはまだしも、お前のは何度見てもヒヤヒヤするわい」
「そりゃ、先生から見ればそうでしょう」
「うっさい。式神使いはその物量が本質じゃろうて。ならもっとそれを主軸にした戦い方もあるじゃろ」
「それだと、テイマーと変わらないですよ。共に戦う。それが式神使いの本質です」
「まったく……」
そう文句を言いながら、先生はアーマードクラブがいた所へと歩き出し、魔石の他にドロップしたアイテムなどを手にする。
「氷室さん、目標数には到達しましたか?」
「そうじゃな。あともう10体程は必要じゃな」
「そうですか。あともう少しだね、神薙君」
「だな。藤宮さんの新しい武器のためにも、頑張るさ」
そう、今俺たちは、ここ富士の樹海にある特殊なダンジョンで素材集めをしている。
そして、何故こんな流れになったかと言えば、時間は4日程前に遡る。
─── 4日前 ───
「あぁ〜、和人。おめぇ、本当にレベルが上がったっていうのか?」
「そう言ってるでしょ」
「んでもって、お前の女じゃねぇと?」
「っーーーーー!!」
「今はまだ大切な仲間です!」
──キュル……
──チュチュ?
邂逅初っ端から色々間違いだらけだったので、懇切丁寧に、先生にここ最近のことを話すことにした。
よもや、いきなりお前の女か?と言われるだなんて、思いもしなかったぞ。
「ほぉ〜ん。とりあえず嬢ちゃん。変な勘違いしちまって悪いな」
「い、いえ。だ、大丈夫、です。き、気にしてませんので、はい……」
「…………」
顔を真っ赤にしながらそう言っても、説得力の欠片もないだろうにと思う。
若干気まずい空気が流れている中、先生がちょいちょいと呼ぶので、少し離れたところで先生と話す。
「何ですか?」
「おめぇ、マジでその気すらねぇのか?」
「…………」
視線だけを、藤宮さんの方へと向ける。未だ顔を真っ赤にしている彼女を心配してか、コノエたちがペロペロと、顔を舐めている。
その気がないだと?
むしろ──
「普通、強くなりたいという理由だけで、彼女をパーティーに誘うと思いますか?」
「おめぇならあり得る。でもそうか。和人、おめぇも1人の男だったわけだな!」
「ちょっ、叩かないで下さい!」
『がはははは』とバシバシと背中を叩くので、物凄く痛い。この人、無駄にレベルが高いんだよな。
「おめぇらの馴れ初めは気になるが、ひとまず茶でも淹れるか。久しぶりに愛弟子が来たわけだしな」
「…………弟子、ね」
そう言われるとむず痒いものだ。特にこの人から言われるとな。
そうして藤宮さんの調子が落ち着くまでの間、三人と式神たちで暫し、お茶を飲むことになった。
***
「さて、嬢ちゃんの調子も戻ったことだし、遅くなったが、先ずは自己紹介から始めるか。……わしの名は氷室源。クラス『錬成師』を持つ、今年で62の、所謂第一世代の守護者じゃ」
「え!? だ、第一世代!?」
「がははは、驚いたか? そうじゃ、今なお現役で生きている第一世代は100もおらんからな。わしはその貴重な1人と言うわけじゃ」
「────」
開いた口が閉じないのか、ギギギと藤宮さんは俺の方を見る。なので軽く説明することにした。
「氷室先生の言ってることは正しいよ。日本では5人しか残っていない第一世代の守護者。その中でも先生は、10年前までは現役で前線にいたくらいだ。レベルは確か……210でしたか?」
「そうじゃな。錬成師は元々戦闘職ではない。だからレベルを上げようにも、やはりきつくての。そこいらで前線から退いて、本格的に武器製作に力を入れるようにしたんじゃ……」
「なるほど……、あ、ごめんなさい! 改めて、藤宮咲と言います。その……、神薙君とは、同じパーティーで……」
「がははは! そう畏まらなくていい。和人の仲間なら、わしにとっても仲間じゃからな!」
笑いながら、そう豪語する先生を見て、心の中でほくそ笑む。
いいぞ、この流れに乗っていければ、思惑通りにことが運べる。そう考え、ここは一気にしかけようと、先生に声をかける。
「なんじゃ?」
「なんじゃ、じゃないですよ。今日俺たちが来たのは、彼女の武器製作をお願いしに来たんですから」
そう言ってみれば、ハッとした表情を浮かべながら、コクリコクリと、藤宮さんが頷く。正直言って可愛い。
「そういえば、そんなことを言うておったの。何が欲しいんじゃ?」
「えと……、杖を作ってほしく……」
「ふむ……」
「出来れば魔力効率の良い物にしてほしい。彼女が扱う専用魔法は、どれも燃費が悪いので」
「星の巫女に、式神使い。よくもまぁFランクと言われた者が、そんな状況になれたもんじゃの。……まぁえぇ、愛弟子の頼みでもあるしな」
「っ、ありがとうございます!」
(っし!!)
心の中でガッツポーズをする。
どうやら今回は──
「で? いくらあるんじゃ?」
「え゛」
「……何の話ですか?」
「しらばっくれるな。おめぇまさか、タダで作らせようって魂胆じゃねぇか?」
「…………」
やはり一筋縄ではいかなかったか。
仕方なく、バッグからギリギリ生活出来る金額以外の全財産、30万を取り出す。
「俺の……、全財産、です」
「ほぉ?」
「え、神薙君!?」
藤宮さんは驚愕の表情を浮かべているが、まぁ無理もない。ここに来る前に、お金は用意しなくていいと伝えているんだからな。
「弟子からせがもうとするの、先生くらいなものですよ」
「どんな時でも、金はいる。そもそも、なんで嬢ちゃんじゃなくて、おめぇなんだ」
「そ、そうだよ、神薙君! なんで……」
「藤宮さんには、入院中のお姉さんがいるだろ? その維持だって、それなりの額が掛かるんだから」
「でも……」
「…………」
──キュルキュルキュ!!
「なんじゃ、大人気ないと言いたいのか」
──キュルキュー!
──チュチュチュチュー!
「お前らも諦めろ。その気持ちだけで十分だ」
──キュルゥゥ
──チュゥ
しょんぼりするコノエたちを宥めていると、『はぁ……』と、先生はため息をつく。
「おめぇは変わらんな。目的のためなら、身を粉にする。自己犠牲もいいが、もうちっと他人に頼ることを覚えろ」
「先生?」
「言うただろ。命も金も、かけるべき時にかけろと」
「だから俺は」
「バカかっ!」
「いつぁっ」
ゴツンと、先生のゲンコツが俺の頭上に降りかかる。久々にもらったが、やはり痛い。
「仲間に相談もなく、独断しとる時点で落第じゃ! 環境がそうさせてるのは理解しとるが、もうちっと大人を、わしを頼れ」
「先生……」
「あの、氷室さん。お金でしたら、後日必ず払いますので、だから、神薙君を……」
「藤宮さん」
「はぁ……、そんなこと言わんでも、金はいらん」
「は?」
「え?」
二人して声を揃えて、驚く。そして先生はため息混じりで言葉を続ける。
「手段は置いといて、愛弟子が頼りに来たんじゃ。その程度のこと、手を貸さんでどうする。そもそもわしが金云々言うとってたのは、和人の無茶を少しでも抑えるためじゃ」
「先生……」
──キュルル……
思えば、確かに先生の言う通り、何でもかんでも自分の力でやろうと考えていた。俺はまだ、誰かを信じることに抵抗があったのだろうか。
「ありがとうございます、先生」
「やれやれ。とはいえ、その分働いてもらうから、そのつもりでいろ」
藤宮さんと顔を見合わせる。
「「はい! よろしくお願いします!」」
「それで、具体的には何を? 昔みたく、家事ですか?」
「それもあるが、お前ら、次の防衛戦に出たいんじゃろ? なら、レベルを上げて強くなる必要がある。違うか?」
「それはそう、ですが……。でも、ここにはダンジョンなんて……」
「知らんのも無理はない。ちと特殊なダンジョンでな。わし個人が管理してるダンジョンがあるんじゃよ」
「え!? 氷室さん、個人が?」
「そうじゃ。そこはな、階層によってダンジョンのランクが変わる特殊ダンジョンでな。無闇に挑戦して、死人を出すわけにもいかんから、わしが管理しておるんじゃ。それに、中々にいい素材も手に入るからの」
そんなダンジョンがあるだなんて、知らなかった。イリーガルダンジョンもそうだったが、天上は俺たちに何をさせたいんだろうか。
ただ防衛戦をやらせたいだけじゃない。そんな気がしてならない。
でも、裏を返せば……。
(先生に同行する形であれば、高ランクのダンジョンに挑める)
「どうじゃ、武器も手に入り、更には強くもなれる。一石二鳥じゃろ」
ニカッと笑う先生を見て、俺たちは小さく微笑む。
「それに、久しぶりに愛弟子の成長を見て、鍛えてやる。昔よりも厳しくするから覚悟するんじゃな。もちろん、嬢ちゃん含めてな」
前線を退いたとはいえ、高レベルの守護者から手ほどきを受けれる。これほどまでに美味しい話も、そうはないだろう。
「「お願いします!!」」
思わぬ形となったが、武器制作の他に、俺たちの防衛戦に向けた特訓が始まることになった。
─── そして現在 ───
「ねぇ、神薙君」
「ん?」
セーフゾーンで休憩を取っていると、藤宮さんが声をかけてくる。なんだろう、少し怒ってる気がする
「あのね、この間のお金の件なんだけど……」
「そ、それが?」
「私に相談なく、ああいうのはもうダメだからね!」
「いやでも、アレは……」
「それでもだよ!」
ぎゅっと柔らかい手で俺の手を包みながら、ジッと俺のことを藤宮さんは見つめる。
「私の為なのは分かるし嬉しかったけど、それでも私たちは同じパーティーメンバーなんだから、ちゃんと相談して。それで、2人で一緒に考えよ?」
「いや、でも……」
「い・い・よ・ね!!」
「…………はい。以後、気をつけます」
「ふふっ、よろしい」
ズイッと、目と鼻の先まで顔を近づけられ、そう言われてしまえば、もう従わざる得なかった。というか、仄かにいい香りが……。
「ごほんっ! あぁ〜、出来ればわしのいない所でしてくれへんか?」
「へ?」
先生の言葉に、藤宮さんは首を傾げるが、次第に自分が今、どういう状態でいるかに気づいたらしく、カァァアッと顔が赤くなってくる。
「あ、あわわわわわ!!」
「ふ、藤宮さん? 大丈夫か?」
「……………くんの、……か」
「?」
「神薙君の、バカぁぁぁ!」
「がはぁっ」
バチンと、盛大にビンタを貰いながら、俺は倒れ込む。
──キュッキュル!?
──チュチュ〜♪
──ブルルル!
──わふぅ!
「あ、ご、ごめんなさい、神薙君! つ、つい」
「初初しいのぉ……」
「わっ、ちょ、お前ら、何勝手に!?」
ポンポンと、俺を心配して勝手に出てきた式神たちに揉みくちゃにされる。
「ふふっ、ほんと、式神の皆から慕われてるね」
そんな光景を見て微笑む藤宮さんを見て、まぁこういうのもいいかと思いつつ、俺たちは今日の訓練を終えることになった。




