悪意との激突⑤ 戦いの後の余韻
「よかったぁぁぁ〜〜」
神薙君の勝利宣言を聞き、ヘロヘロと膝が崩れ落ちる。
「おい、大丈夫か?」
「少し、疲れちゃっただけ。……神薙君。助けに来てくれて、本当にありがとう」
「礼ならグレイに言ってくれ」
──チュチュ!
神薙君がグレイちゃんの名前を言うと、ポンッと何処からともなくグレイちゃんが現れた。
「グレイちゃん、ありがとうね」
──チュチュ〜♪
撫でてあげれば、ハムスターみたいに、気持ちよさそうに溶けていく。そして神薙君はとても羨ましそうに眺めていた。
「神薙」
「ん?」
「葉隠ちゃん!」
グレイちゃんを撫でていると、前の方から葉隠ちゃんが歩いてくる。無事で本当に良かった。
「あんた、最後のアレ、何? ただのスキルじゃないわよね?」
「あぁ。『纏』っていう専用スキルだ。俺が契約している式神を一時的に自身に降霊させ、何十倍にも強化した一撃を放つ。式神使いの奥義だ」
「それで、あいつを……」
「『絶焔』。触れた部分の周囲を完全滅却する、終わりの焔だ」
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スキル:「纏」
魔力:1000
式神使い専用スキル
式神の力を憑依させることでステータスを強化
憑依中は、式神に応じた強力な一撃を放つ
制約:一日一度しか使えない
スキルポイントを消費することで、本来の性能を取り戻す(SP:10 / 400)
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これがなければ危なかった。手負いとはいえ、他の手持ちの式神だけで倒しきれていたかは、分からないからな。
「そう。それで、鈴木は生きてるの?」
葉隠がとある壁の方へと顔を向ける。そこには、未だ壁に埋まってる守護者が一人いた。
「辛うじてな。戦闘中に翡翠と同型の式神を向かわせてたから、直に目を覚ますはずだ」
「そ」
それを聞き安心する。常守たちが死に、あいつまで死んでいたら、あいつが所属しているパーティーメンバーに顔向けが出来なかった。
(もう、常守と弥生は、いないのよね……)
二人がいたであろう所を見る。もうそこには、何もない。ダンジョンで死んだ者は灰となる。
そんなの、分かりきってたことなのに……。
「葉隠ちゃん……」
「私が、ここに来ようなんて決めなければ……」
ぷるぷると震えてる葉隠ちゃんの手を優しく握る。確かに二人はもういない。死者のために嘆くことは悪いことじゃない。
だけど、今を生きてる私たちは、前を向かないといけないんだ。
「一緒に、2人の家族に会おう? それで、ごめんなさいって……」
「…………」
「いつまでも、後ろだけは見ていられないから……」
「……うん。そう、だね」
そんな二人のやり取りを見ていると、ブゥンッと、俺たちの前にウィンドウが表示される。
報酬画面かと思えば、そしてそこに書かれていたのは、あまりにもクソったれな内容だった。
"Bランクダンジョンの踏破を確認"
"本ダンジョンはテストプレイのため、経験値及び討伐報酬はありません"
"テストプレイは満足出来ましたか?"
"直に開催される防衛戦のためにも、これからも強くなることを祈ります"
"3分後に、ダンジョンは消滅します"
「なによ、これ……」
そしてこれを読んだ葉隠は、身体を震わせながら、その怒りを顕にする。
「うそ……」
「テストプレイ? …………待ちなさいよ、報酬は、報酬はどこにいったの!? ここに入る前に、提示されてた報酬は!! ねぇ、どこに行ったのよ!!」
「は、葉隠ちゃん。お、落ち着いて……」
「落ち着いていられるかっての!! じゃああいつらは、なんのために死んだって言うの!? ふざけんじゃないわよ!!! 無駄死にも良いところじゃない!! なんで、あいつらが…………」
ペタリと、葉隠はその場に座り込む。
無理もない、こんな現実を叩きつけられでもしたら、誰でもこうなるだろう。
つまり、予め提示していた報酬はダミーであると言っているんだ。しかもテストプレイ? これからもこんな仕様のダンジョンが生まれるかもしれないだと?
(ずいぶんと、舐めたことをしてくれるな)
「藤宮さんは葉隠を頼む。俺はあいつを回収する」
「う、うん」
怒りをグッと堪えながら、フェルンと共に鈴木を回収する。そして次第にダンジョンが光に包まれ、俺たちは外へと帰還していった。
─── 3日後 ───
「神薙」
「ん?」
学校の屋上で、授業をサボっていると、鈴木の声が聞こえてくる。
「もう、大丈夫なのか?」
「あぁ。お前の式神が治癒してくれたおかげと、仲間の回復魔法のおかげでな」
「そうか」
幸いにも鈴木は、後遺症もなく五体満足で帰還することが出来た。
「ありがとな、助けてくれて。レベルが63もあるくせして、何も出来なかった自分が不甲斐ない」
「気にするな。あんな初見殺し、動揺もしてれば普通はそうなる」
「普通……か」
当たり前のことを言ったつもりだったのだが、少し鈴木の表情が暗くなる。
「どうした?」
「いや、少し自信を無くすな、と。……これまで真剣にやってきたつもりだったが、まだまだ足りないようだ。お前みたいに、強くなるための貪欲さが、俺には足りなかったらしい」
「辞めるのか?」
その問いに、鈴木は首を横に振る。
「むしろ、今回のことで頭にキテる。仲間が無駄死にした。それを知らされて心が折れるほど、俺は弱くない。だから俺はもっと強くなる! 前線にだって、いずれは出るつもりだ。守りたい人たちのためにも」
「……そうか」
鈴木の瞳の奥から、燃え盛る炎が宿ってるように視えた。であれば、大丈夫だろう。
「俺より、お前は大丈夫なのか? こってり絞られたんだろ?」
「状況が状況だったし、その後の内容もあって、今回はお咎めなし! 式神たちの傷が癒えたら、またダンジョンに潜るさ」
あの後、笹倉さんに逃げ込む形で、俺たちは守護者協会へと向かった。
ダンジョンボス討伐後に現れた、新規ダンジョンの罠。更には嘘の報酬をチラつかせるクソさなどを説明したことで、今回の無断入場については不問となった。
そしてすぐさま協会から全世界へと、同様の事象が発生しても無闇に挑まないよう、通知されることにもなった。
通称『イリーガルダンジョン』。これ以降、各地に現れることになるそのダンジョンは、後に絶望へと繋がることを、まだ誰も知らない。
(そういえば、アレはどういう意味なんだ?)
──眉唾で信憑性も薄かったのだが、実は今回のダンジョンを予言していた者がいるんだ。
帰り際、笹倉さんがそんなことを言っていた。あのダンジョンを予言? 予言系のクラスなら信憑性があるはずだが、そうでないとしたら、一体誰だ?
「そうか。俺は今日からまたダンジョンに潜る。いつか、今度は一緒に戦おう」
「俺は、不適合者だぞ?」
「そんなの、俺にはもう関係ない。むしろ、いい二つ名だと思うな」
そう言って鈴木は屋上を後にする。
「まっ、響きは良いよな」
***
「「…………」」
その日の放課後。私と葉隠ちゃんは近くのカフェに二人で入っている。
この三日、色々なことがあった。協会の人たちへの事情説明や、神薙君への釈明。常守君と弥生さんのご家族への謝罪など、色々だ。
そして一通りやることが終わったこともあり、こうして二人で話すことになったのだけど、正直、何から話すべきか分からないでいる。
(沢山、話したいことがあるのに……)
悩んでいると、『あのね』と、葉隠ちゃんの方から話し出す。
「ごめん」
「え?」
「咲ちゃんを守護者から遠ざけるたために、ずっと重荷を背負わせ続けた。もう、私の前から大切な人がいなくならないでほしかった」
「葉隠ちゃん……」
そこにいたのは、これまで私に怒りをぶつけていた葉隠ちゃんはいなくて、昔の、仲の良かった頃の葉隠ちゃんがいた。
「ずっと、演技だったの?」
そう尋ねれば、コクリと頷く。そして私に、どうしてそんなことをしていたのかをゆっくりと話し始めた。
***
「じゃあ、本当に、私を守るために……」
「うん。じゃないと、咲ちゃんが死んじゃうと思った。ダンジョンに連れていけば、そのうち恐怖から逃げると思ってた。諦めると思ってた」
「けど、そうはならなかった。それでどんどん……」
知らなかった。葉隠ちゃんがそこまで思い詰めていただなんて……。
(私、嫌われてると思ってた)
私が葉隠ちゃんを想うように、葉隠ちゃんも私のことを想ってくれていたなんて……。
「私たち、ちゃんと話し合えば良かったんだね」
「そうかもね。そうすれば、こんな惨劇起きなかったかもしれない」
「葉隠ちゃんは、これからどうするの?」
後方に行くにしろ、行かないにしろ、新しいパーティーメンバーを見つけないといけない。ソロはとても危険だから。
それに、私たちの学校は後方希望が少ないこともあって、色々苦労するんじゃないかと思ったのだけど、葉隠ちゃんの回答は、全くの別だった。
「もう、後方に行こうとは思わない」
「え!?」
「あいつらを無駄死にのままにしてやれない。きちんと価値のある死にしてやりたい。……そのためにも、私は前線を目指す」
「────」
その瞳の奥は、怒りや後悔、そして自身への不甲斐なさなどで満たされていた。
「いいの? だって、前線に行ったら……」
「死ぬかもしれないけど、もう決めたの。それに、死ぬつもりはない。だって、お兄ちゃんも探さないといけないんだから」
「葉隠ちゃん」
「だから、これからの私たちは友達であり、そして戦友として、一緒に戦おう」
「っ、うん!」
こんな嬉しいことはない。
仲直り出来ただけでも嬉しいのに、これからは一緒に戦えるんだから。
「じゃあ、神薙君のパーティーに入るの?」
「私は、神薙のパーティーには入らない」
「え!? な、なんで!?」
「あいつは強い。正直、レベルで勝ってる私でも、今のあいつに勝てるかは分からない。だから先ずは、楽していた分、自分を鍛え直す。そのためのパーティーはもう決めてるし、今日からそいつらとダンジョンに潜る」
それを聞いて、少しだけ寂しく感じた。
だって、これまでずっと、一緒のパーティーでいたのだから。
(私たち、離れ離れになるんだね……)
「パーティーが別だからって、何も一生会えないってわけじゃないでしょ。学校でも会えるし、助けが必要だったら、言ってくれれば、駆けつけるから」
「……うん。じゃあこれからは別々のところで頑張ろうね! お姉ちゃんを助けて、宗太郎さんを見つけるためにも」
「うん、今度は2人で」
咲ちゃんと話すことも終えたので立ち上がり、カフェを出る。これからすぐにダンジョンへと潜るからだ。
(本当は、一緒にいたい。だけど……)
きっと、これからもずっと一緒にいたら、多分強くなれない。甘えてしまう。
だからこそ、今は強くなるために貪欲となるべきだ。
「もういいのか?」
「これからダンジョン潜るのに、いつまでも感傷に浸るわけにもいかないでしょ。私が1番、レベルが低いんだから」
「俺のパーティー、バトルジャンキーが多いから、さっさとレベルを上げてくれ。そのために少しの間、低ランクのダンジョンに潜るんだからよ」
「分かってる。鈴木も、強くなるんでしょ?」
「あぁ。もう目の前で何も出来ないなんて、嫌だからな」
「私も。んでもって、絶対に天上をぶっ殺す」
「あぁ!」
***
「これからは別々、かぁ」
少し怖いけど、きっとこれからのためには必要なことなんだと思う。
それに、私だってやらないといけないことがある。むしろ、ようやく私はスタートラインに立てたのだから。
「行こっか、グレイちゃん」
──チュチュ〜
そうしてグレイちゃんをポーチに入れて、私たちもカフェを後にする。実を言うと、私たちもこれからダンジョンに潜るからだ。
─── 吉祥寺Eランクダンジョン前 ───
「来たか」
「お待たせ、神薙君」
「時間通りだな。ちゃんと、話せたか?」
「うん。仲直り出来たよ」
「そうか」
それを聞けて安心する。聞けば、葉隠なりの身を案じた行動だったらしい。不器用にもほどがある。
「さて、改めてこれからの方針を話そうか」
「うん」
「約1ヶ月半後に控えている防衛戦。そしてその1週間前にある、防衛戦の割り振りを決める選抜試験。それまでに俺は、レベルを70以上にする必要がある。そして藤宮さんは──」
「解放された強化ツリーを埋めて、レベル70相当以上の強さになること」
あの後、藤宮さんに星の巫女について聞いたところ、かなりの変化が起きていた。
レベルは依然として上がらないようだが、その代わり、強化ツリーなる専用ウィンドウが現れたとのことだ。
そこには各種ステータスの上昇に、魔法の取得、強化といったものがあるようだ。そして、強化するために必要なスキルポイントの取得方法は一つだけ。
それは──
「パーティーメンバーのレベルアップ時に必要とした経験値。それが最も多い者の1割をスキルポイントとして自動取得……か。これほどまでに、式神使いと相性のいいクラスは存在しないだろうな」
「なんだか、出来すぎた話だよね」
「まったくだ」
つまり、こと効率だけで言えば、俺と組むのが最も効率がいいと来ている。
意味が分からない。
(ここまで来ると、不適合者というだけで、片付けることは出来ないな)
現在確認されているFランクのクラス保持者は、俺たちも含めて4人存在していて、そのどれもが一癖も二癖あるクラスと聞いたことがある。
もしかすると、本当に天上に対するカウンターなのかもしれないな。
「ま、それは追々だな」
「何が、追々なの?」
「いや、なんでもない」
答えはそのうちに分かる。
今は、俺たちに出来るところから始めよう。
「準備はいいか?」
「うん、バッチリ!」
──チュチュ!
──キュルゥ!
「それじゃ、行きますか!」
新しく仲間に加わってくれた藤宮さんと共に、ダンジョンへと入る。
強くなるための、長くも短い1ヶ月半の戦いが始まった。




