エピローグ 悪意の遊戯
世界とは、無数に存在する。
銀河系一つとっても、生命が存在する星というのは、数え切れない程に存在する。だが、ここでいう無数の世界とは、一つの宇宙に限った話ではない。
元来宇宙とは、言わばビー玉のようなもの。そして一つあれば二つ、二つあれば三つと、複数存在する。そしてそれは、宇宙も同じなのだ。
パラレルワールド、平行世界、多元宇宙。呼び方は幾つかあれど、結局は同じだ。
であれば地球も、それぞれの宇宙に存在するのは、当然の帰結。
そして、それぞれの宇宙で働く法則には、僅かばかりの誤差がある。だが宇宙規模で考えれば、その誤差こそが、神を神たらしめる要因であった。
─── 多元宇宙観測宮殿 ───
ここは、多種多様な多元宇宙の星々を観測することが出来る唯一にして、我らが聖域。
ここで多くの星々に対して関節的に介入しては、未来の獲物たちが進化していく様を観察していると、カツンカツンと、誰かが歩いてくる。
この軽やかなステップを踏む独特な足音、どうやら数百年ぶりに奴が顔を見せにやってきたようだ。
「やあ、アトム。50年ぶり」
「久しぶりだな、アーク。そうか、50年しか会っていなかったか。てっきり数百年かと思っていた」
数百年ぶりというのは、俺の勘違いだったらしい。
にしても、久しぶりに友の姿を見たが、昔と何一つ変わらない容姿だな。白銀の髪に、透き通るような白い肌。そして17歳という最も若々しいであろう全成の肉体。
まったく、お前が羨ましいよ。
「それで、久しぶりにやって来てどうした。トロンと一緒に、玩具で遊んでいたんじゃないのか?」
「そうだよ。僕たちが作り上げたシステムが、今も様々な平行世界の星々から、命を吸い上げている最中だ。まぁ正確にはエムルが作った、だけどね」
終境戦記機構。我々が開発した、多元宇宙同士を一時的に干渉させ、移動を可能とした絶対機構。
まったく、これを考案したあいつは本当にゲームが好きだと思う。何せ、つまらないという理由だけで、我らだけは移動が出来ないようにし、関節的な干渉のみに留めるようにしたのだから。
だが、そのおかげで我々は生きる意味を見失っていないのだから感謝しかない。
「ふふふ、アレはいくらあっても足りないからな。それで、ここには来た目的はなんなんだ?」
「実はね、生きる楽しみが増えるかもしれないと思って、君にプレゼントを持ってきたんだ」
「プレゼント?」
そう返してみれば、『その前に先ずはコレだね』と言って、魂滅飴を投げ渡す。あぁ、これが欲しかった。
そしてそれをパクりと口に放り込み、一舐めしてみれば──
「おぉぉぉお!」
ザァァッと頭の中に、この飴に濃縮された下等生物たちの一生や、死ぬ瞬間に味わった絶望や後悔といった感情が、濁流のように流れ込んでくる。
素晴らしい!
今回、下等生物たちが味わった死の味は実に美味だ。甘い蜜に誘い込まれ、何も出来ず、むざむざと恐怖の中で首を両断される。
これこそ、至高の娯楽だ。
「お気に召したようで何よりだ」
「あぁ。やはり生物の死というのは実に甘く美味だ。それで、これがその目的か?」
「いやいや、これはちょっとしたプレゼントだよ。僕ばかり堪能するのも申し訳ないからね。たまには出来立てホヤホヤを友人に味あわせたいという、僕の親切心だ」
まったく、であればもっと定期的に顔を見せればいいだろうとさえ思う。
(だが、それなら、一体何の用だ?)
アークの言葉を待っていると、『実はさ』と本題を話し始める。
「129400013番目の地球で、とある現象を観測したんだ」
「ふむ。トロンとお前が担当している多元宇宙の一つだったな。あそこから取れる魂滅飴は、貴族間では有名だから覚えているぞ」
「そうだよ。ちなみに、今渡した魂滅飴は、そこの物だ」
「ほぉう? どおりで格別な味だと思ったぞ」
あそこは、50年程前から必死に世界を滅亡させまいと、もがき足掻き続けている。
防衛側の中では、稀有な地球だ。
それ故に、抽出出来る魂のエネルギーも、他の世界よりも格別で美味い。市場で並ぶこともたまにあるようだが、希少価値故、大体は我々のような運営側か、王が嗜むことが多い。
「それで、何を観測したんだ?」
「聞いて驚かないでくれ。巫女が覚醒した」
「…………何?」
それを聞き、目を見開く。
あり得ない。あれにはかなり厳重なプロテクトをかけていたはずだ。
「何かの間違いでは?」
「何度もログを確認したし、そこに配置していた手駒の、断片的な映像も観たから間違いないよ」
「断片的……。壊れていたのか?」
「うん。7割くらいのデータが壊されてた。こんなことが出来るのは、星の子だけだ。とは言っても、まだ全ての封印が解かれたわけじゃない。注意は必要だけどね」
「…………」
まったく、厄介な存在だ。何度否定してやろうとしても、人の意志というのはコバエのようにしつこい。
だが、アークの話はそれだけで終わらなかった。
「そしてもう一つ。正直、こっちの方が厄介だ」
「巫女以上に厄介なことだと?」
「あぁ。どうやら星の守護者も、部分的にだが覚醒しているようなんだ」
「─────」
アークのその言葉を聞き、ブワッと全身から莫大な量の魔力が迸る。そして俺の魔力に耐えきれず、ミシミシと宮殿が悲鳴をあげる。
「あの裏切り者と同じ守護者が、だと!?」
「おいおい、そんなに魔力を出さないでくれ。ここだって、それなりのリソースを割いて作ってるんだから」
「む……、それは、すまない」
怒りをグッと堪え、魔力を落ち着かせる。
「やれやれ、あいつに関係することになると、すぐムキになるんだから」
「俺の前で、奴の話はするな!」
「はいはい」
「…………本当に、覚醒したのか?」
「まず間違いない。巫女とは違う、本来なら解除出来ない筈のプロテクトの1つ目が解放されているのを、トロンと一緒に確認した。それと、向こうの地球における守護者は、式神使いと言うらしい」
「精霊使いとは、違うクラスか……」
(巫女だけでなく、守護者までもが?)
一体、どういう巡り合わせだ? 一つだけでもあり得ないことなのに、この二つが同時期に覚醒するなど、この数千年の間、一度もなかったことだぞ。
「そいつらは潰せるのか?」
「僕らが干渉出来ることには制限があるからね。今はシステムのルールに則る以外の術はない」
「あいつにシステム変更は頼めないのか?」
「もう言った。だけど、『それはそれで面白いから嫌だ』、だって」
「っち、奴のお気楽には困り果てるな」
「同感」
とはいえ、あいつがシステムに変更を加えないと言う以上、我らも手出しは出来ないか……。
少し考える素振りをみせつつ、あることをアークに尋ねた。
「ルール上なら問題ないのか?」
「あぁ。ダンジョンの強化。侵略側の変更くらいなら、どうにかなる。……だけど、下手に手を打って余計な成長だけは避けたいかな」
「現に、巫女が覚醒したのも、終焉イベントのためにトロンが新しく考案したダンジョンが原因だしね」
「……守護者は違うと?」
「そっちはさっぱり。気がついたら覚醒してた。どっかの世界がちょっかいを出した可能性もあるし、何らかの要因が重なったとも考えられる」
まったく、頭が痛くなるな。
「つまり、現状は何もせず、ただ死ぬことを祈れと?」
「そうなるかな。でもいいじゃないか。いい暇つぶしになるし、そいつらが死んだら、最高の味を味わえるかも知れないんだよ?」
「なるほど、それもいいなぁ」
ニチャァと、笑みを浮かべる。
確かに不測の事態が起きたといえばそうだが、まぁそもそも覚醒したところで、我らに刃向かえるだけの力なぞ、得られないだろう。
であれば、のんびり死ぬのを観察するのもありだと思う。
「くっくっく、久方ぶりに生きてると実感した気がするな」
「それは良かった。来た甲斐があったものだ。ところで、何か面白そうな世界は見つかったかな?」
「そうだな……。この世界とかは中々に面白いぞ」
ブゥンッとウィンドウを表示させ、アークへと見せる。
「何々…………、へぇ、平均寿命が25年の世界かぁ。僕たちとは対極に位置する世界だね。下等生物の中ではそこそこの強さ。でもなにより、この悪意に満ちた戦い方は、実に好ましいね」
「だろ? システムの制約ギリギリのところで1度、世界の危機というのを思い知らせているから、そろそろ何処かの世界へ侵略させようと思っている」
「あ、だったらトロンに言って、こいつらを差し向けてみる?」
「いいのか? お前が言ってたように、余計な刺激になるかもしれんぞ?」
「その時はその時ってことで。そんなことより僕は、この短命たちが織りなす、悪意に満ちた死に様を味わってみたいんだよね」
アークはそう言うと、ニタァっと笑みを浮かべる。
「まったく。悪趣味だな」
「アトムだって、好きでしょ?」
「否定はしない」
「……ふ」
「……ふふ」
──ふはははははは!
神殿の中で木霊するは、二人の悪意と言う名の笑い声。
そしてここは、数億、数兆という宇宙の中で唯一、宇宙の滅亡から脱した神の惑星、『地球』である。
第1章:完
本作品を読んでいただきありがとうございます!
本作における敵の登場と共に1章は完結となります
競合が多いジャンルではありますが、どうでしたか?
バトル物を書いたのは今回が初めてで、色々粗が多いと思います
それでも楽しく読んでもらえていると嬉しいです
それではまた!




