悪意との激突③ 天上の執行人 VS 不適合者 Ⅱ
「はぁぁぁあああ!!」
"ぬぅあああ!!"
互いの武器の切っ先がぶつかり合う。葉隠たちが一方的にやられていた以上、ステータス差は、最低でも俺の3倍以上はあるはずだ。
(重い……)
さっきもそうだったが、こいつの一撃を完全に防ぎきるのは不可能だ。
称号によるダメージ補正、魔力操作で身体能力と武器を強化。さらにピンポイントで鎌の切先へと刃を当てる。
最後に力の方向を上手く逸らし続けることで、ようやく僅かばかりの拮抗が出来ているにすぎない。
言ってしまえば、俺の全部を使っている。
"またしても、我の一撃を!"
"……ぬぅ!?"
ギリギリとせめぎ合っている最中、横からキリカが風刃を執行人へと放つ。
キンキンキンキンと、甲高い音と共に、風刃が弾かれていく。ずいぶんと分厚い鎧のようだ。
けどその一瞬の隙をつき、鎌の切っ先をいなす。そしてそのまま、刃を翻し、その鎧に向けて斬り上げる。
(浅いけど、傷は出来てるな)
これで俺の攻撃も弾かれるのなら考えものだったが、攻撃が通るなら問題ない。
"汝、何故バフが適用されている"
「ん?」
こちらから攻めようとしたタイミングで、俺を指差しながら、執行人は告げる。
"汝の身体と武器に纏わせているのは、魔力だ"
"そして、その魔力で強化している"
"であれば、バフと認識されるはず"
"なのに何故、無効化されていない"
(あぁ。そういえば、そんな制約があったな)
「スキル効果がバフ判定じゃないってだけだろ」
"あり得ぬ! そのようなことなど!!"
パッと、執行人の姿が俺の目の前から消える。
でもさっきので逆上しているのか、動きが単調だ。
視えてるぞ。
「危ない!!」
葉隠の声が聞こえるが、すぐさま後ろを振り向き、さっきと同じ要領で、その攻撃を防ぐ。
"これすらも、凌ぐだと!?"
(魔力感知。結構使えるな)
相手の魔力の流れが視えるらしく、ほぼ必須のスキルだと先生から教わっていたので習得してみたが、なるほどこれは便利だ。
発動中は定期的に魔力を消費しないといけないが、通常の視覚情報の他に、相手の魔力が光の線となって視える。そこにはスキルや魔法発動の予兆も含まれていた。
結果、瞬間移動の如く素早く移動しようとも、その軌跡がしっかりと視えていた。であれば、後は反応さえ間に合えば、攻撃を防ぐことは可能だ。
(動揺してるな。攻めるなら今か)
「俺ばっかり見てて、本当に良いのか?」
"何!?"
再度コノエたちの攻撃が鎌へと当たる。そのまま鎌をいなし、キリカと共に、右足の膝裏へ攻撃を仕掛ける。
"ちょこざいな"
フワッと、奴の周囲から魔力の線が現れる。
危険と判断し、即座に後退。それを見たチュンが目の前に障壁を多重展開する。同時に、ブワッと物凄い閃風が発生、障壁をみるみる切り刻んでいく。
障壁自体は瞬く間に破壊されていくが、絶えずチュンが障壁を展開し続けたことで、ギリギリ俺の所まで閃風が届くことはなかった。
(キリカの超上位互換って感じだな)
"死ね!"
続けざま、俺の目の前に一瞬で現れた執行人が、頭上目がけて、鎌を振り下ろす。
──ガルル!
その攻撃に反応していたレンゲが、俺の腕を咥えてブンッと放り投げることで、その攻撃を回避する。
「押し潰せ、万象!!」
空中でそう唱えれば、執行人の頭上へとズドンッと、象型の式神『万象』が襲いかかる。
"ぐぬぅぅ"
"この程度の重さで!"
「まだだ! 襲いかかれ、ヤカデ!!」
着地しながら別の式神を呼び出す。そして俺の足元から、巨大なムカデの大群が現れる。
軍隊型の式神『ヤカデ』。こいつを作るのに、20体分の契約が必要となったのだから、最初は驚いたものだ。ちなみに当然だが、ステータスにも20体分反映されている。
そしてこいつらの能力は単純明快。魔力操作による体当たりだ!
ドドドドッと、絶え間なくヤカデの軍隊が執行人へ目がけて体当たりをする。
"ぐふぅっ"
「万象、体重倍化!!」
──パオオォン!
"ぐおおおお!!"
ズシンッと、万象の体重が倍増する。万象は質量兵器。この部屋だと満足行く重力加速は望めないが、ただ体重を倍増させるだけでもそれなりの効果がある。
「たたみかけろ!」
コノエ、フェルン、キリカの3匹が一斉に同じ場所を遠距離で攻撃する。例え一つ一つが小さくとも、数が合わさることで、その攻撃は無視できないものになる。
現に奴の鎧は、ミシミシと悲鳴を上げている。
"調子に……"
「っ! 戻れ!」
"乗るな!!"
魔力の高まりを感知したため、万象とヤカデの実体化を解く。そして解いたと同時に、奴の周囲に暴風が吹き荒れる。
"たかだか、レベル28の分際が、我を愚弄するか!"
「知るかよ! つか勝手に、俺の情報を覗くな!!」
(万象、ヤカデの攻撃は十分に効いてる。けど闇雲に戦えば、あの暴風の餌食に……)
視線を藤宮さんたちの方へと向ける。防戦一方となれば、二人を巻き込んでしまう。これ以上、下がることは出来ない。
「コノエ、あの風を焼け」
──キュルゥ!
ボォーッと、コノエの口から勢いよく炎のブレスを吐き、奴が展開した暴風に当たるのだが、燃え広がることなく、かき消されてしまった。
"無駄だ。汝の式神程度では、燃やすことは不可能"
"さぁ、じわじわと汝の手段を潰そう"
冷静になってきたのか、ずいぶんと勝ち誇った気でいるなと思う。とはいえ、奴がこっちの攻撃に慣れてしまえば勝ちの目が消えるのもまた事実。
であれば、俺が取る手段は一つしかない。
「やれるもんなら、やってみな! 万雷!」
パリッと、執行人の頭上から落雷が落ちる。暴風だろうと、雷の前では無力だ。
馬型の式神『万雷』。
能力は今の通り、雷を落とす。
"ぬぅぅ、あり得ぬ"
"何故、汝らの攻撃が我に通るのだ"
(そりゃ、こいつらには俺の称号が適用されているからな)
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称号『ジャイアントキリング』
遥か格上を倒した者だけが得られる名誉
効果:
レベル差が10以上離れている場合、30%の特効を付与
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称号とは本来、守護者を補助するためのシステムだ。
だが、こと式神使いにおいては、その認識が覆る。全ての式神に称号の効果が乗ることで、手数の多さで敵を圧倒する戦い方に、より一層磨きがかかる。
(称号もバフ判定にならない辺り、魔法的な効果に対してだけ適用されてるのか?)
ダンジョンにしても、ペナルティボスにしても、ずいぶんとお粗末だ。
(罪、執行、身に余る力……)
本来ダンジョンはボスを倒したら消えるもの。
それが消えず、ボーナスという甘い蜜で誘ってきたということは、修正パッチのように、急遽実装したと考えるべきだ。
であれば、システム上のバグが残ってるのも頷ける。
「はっ、神気取りが聞いて呆れるな」
"舐めるなぁぁ!!"
奴の身体中から魔力が迸る。
本気になったと考えるべきだ。
(俺の手持ちで、あの暴風に耐えれる式神は限られてくるな。音波なら鎧の上からでも効果はあるか?)
奴を殺すための思考を巡らせる。
敵の攻撃をいなし、初見の攻撃を組み合わせながら、手数で押しつぶす。現状それしか勝ち目はない。
「リリィ、クウ」
──ピィィ
──クルル
「俺の傍から決して離れるな。暴風に巻き込まれる」
"また新たな式神か"
"汝、一体どれほどの……"
「まずはその鎧から剥いでやるよ」
"ぬかせ!"
「行くぞ!」
新たに召喚した二匹のコウモリ型の式神を引き連れ、俺たちは吹き荒れる暴風へと飛び込んだ。
***
(夢を、見ているの?)
あり得ない。不適合者であるはずのあいつが、なんであそこまで戦えるの?
私たちが何も出来なかった敵に対して、どうしてそこまで喰らいつけるの?
暴風が吹き荒れる中、あいつは全身を切り刻まれながらも、肉薄している。
更には時々、キーーーンッと、耳鳴りが聴こえたかと思えば、嫌がっているのか、奴が『ぐぅう』と、うめき声をあげる。
続けざまに、落雷だったり象が降ってきたりと、もう何が起きているのか、よく分からない。
だけど、確かなことがある。
少し、また少しと神薙の手札が減ってきている。
正確には、あの暴風の所為で、有効打になる攻撃が限られている。それで手数が減っていると言うべきだろうか。
(無理だよ、勝てない……)
心が折れ、呆然と見ていることしか出来ないでいると、私の肩に咲ちゃんに治癒を施していた兎が乗り、その小さな前足で、ペチンとビンタをする。
「あんた、私にも戦えって言うの?」
そう尋ねれば、コクリと頷く。
「無理だよ。勝てる訳、ないじゃん」
バズンッと何かがぶつかる音が聞こえた。それは、神薙が召喚した象が、奴の鎌で斬り裂かれた音だった。
(ほら、均衡が崩れた)
一体、また一体と、次々と、神薙の式神たちが消えていく。
「私たち、ここで……」
「ガフッ、ゴフッゴフッ、か、かん、なぎくん」
「咲ちゃん!?」
目の前の光景に絶望していると、意識を取り戻したのか、咲ちゃんの声が聞こえた。
「目、覚ましたの!?」
「は、はがくれ、ちゃん。たたかわ、ないと」
「え?」
目を覚まして早々、正気を疑いたくなるような言葉を言いながら、グググと、咲ちゃんはゆっくり立ち上がる。
「な、何、言ってるの? む、無理に決まって……。それに、咲ちゃんは……」
「それ、でも、だよ。私、たちは、守護者、なんだから」
「…………」
「嬉しかった」
「え?」
「また、咲ちゃんって、言ってくれて。もう、呼んで、くれないと、思ってたから」
「それは……、だって、そうしないと、諦め……」
「うん、諦めない。お姉ちゃんを助ける。葉隠ちゃんを守る。だから、諦めない」
「それと、分かった気がする。神薙君の、言葉の意味」
「え?」
「だから……、お願い、葉隠ちゃん。神薙君を助けよ? もう、誰かが死ぬのは、見たくないから」
おぼつかない足取りの中、咲ちゃんは歩き出す。なんで、なんでそんなに、強いの?
Fランクなのに、不適合者なのに、レベル0なのに、なんで……。
違う。
そんなの分かりきってる。
だって、私たちは守護者。
その使命は──
***
「ゴフッ」
"汝、ようやくその足を止めたな"
"よく、そこまで動けたものだ"
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
万象、万雷がやられ、更には超音波による攻撃を可能とするリリィとクウもやられた。他の式神だって数多くやられた。
(チュンたちの障壁はほぼ無意味。コノエたちの攻撃も、あの暴風の中じゃ、ほとんど有効打にならない)
切り札はもちろんある。だが、それを使うためには、あの暴風と奴の鎧を剥ぐ必要があるのだが、そのための有効打が致命的に足りない。
「はっ、たかがレベル28程度に、いいように翻弄されてる奴がよく言うぜ。お前、レベルによるステータス頼りじゃねぇかよ」
"減らず口を!!"
そう、俺がここまで生きていられる最たる理由はそれだ。こいつ、レベルとステータスはかなり高いくせして、肝心の技術が足りてないと来ている。
(執行人の名が泣くな)
とはいえ、このままジリ貧なのも確かだし、藤宮さんたちも心配だ。
何とか──
"考える暇は与えん"
「ぐっ」
暴風吹き荒れる中、執行人は鎌を振り回す。そのどれもが絶命の一撃。技術度外視の純粋なステータス差による暴力。ただ、それだけのことで、俺は今追い詰められている。
(見て、考えて、動く!)
一瞬の隙間、そこに活路を見いだし駆け出す。
"甘い"
「どっちが! チュン!」
──チュチュン!
ガキンッと、ほんの0.3秒でも、チュンが張った障壁が執行人の攻撃を防ぐ。その瞬間、身体を切り刻まれながも、奴の懐へと侵入することに成功する。
(最大出力!)
鬼神刀に魔力を集中させ、狙うは一点。
これまで幾度となく、同じところに攻撃を当て続けたことで、鎧の傷が深くなっている箇所がある。
その一点に狙いを──
"誠愚か"
"それに気づかぬと思うたか"
魔法の予兆に伴う魔力の線がフワッと視える。
その攻撃は、さっき一度だけ見せた広範囲の魔法攻撃に違いない。
(しくった。このタイミング……、防げない)
極限の中、一縷の望みに賭けたその刹那。それが俺を断罪するための罠だと気づく。
回避不可。
これを喰らえば、死ぬ。
でもそれは、喰らってしまえばの話だ。
──貫け!! デッドリー・スピアぁぁぁ!!
"何!?"
ズドンッ!と奴の後ろから、何かが暴風を貫き、そのまま奴の肩へと直撃した。
『デッドリー・スピア』。
魔力を槍の矛先に収束して放つスキルであり、槍術系統のクラスが使える、第Ⅳ階位に相当するスキル。
つまりは──
(逃すな!!)
スキル攻撃を受けたことで、奴の魔法発動に僅かばかりの遅延が発生した。であればこの好機、絶対に逃す訳にはいかない!
「はぁぁあああ!!」
"!? しまっ"
跳び上がり、斜めから刀を振り上げる。そして寸分違わず、最もダメージが入っている胸元の鎧に、刃を当てる。
するとバキンッと、蓄積ダメージ量が超過したのか、その周辺の鎧が一斉に砕け散る。
すかさず追撃しようとするが、奴が鎌を更に激しく振り回すため、一度奴の射程外へと離れる。そして今の攻撃を行った、葉隠と合流する。
「助かった!」
「うっさい! これで貸し借りなしよ」
「藤宮さんは」
「目が覚めた。それで今は、マジックポーションを飲んで、準備してる」
「準備?」
ここでは全能力向上は使えないはず。なら一体……。
(…………まさか)
「咲ちゃんからの伝言。……『みんなで勝って、生きて帰ろう』、だって」




