星の巫女という不適合者④ 私が戦い続ける理由
─── 5年前 ───
「咲ちゃん。必ず俺が、瞳を助けるよ」
「ぐすっ……、ほんと? 宗太郎さん……」
「あぁ。このまま守護者として前線にいれば、いつか瞳に呪いをかけた侵略者たちに出会えるかもしれない」
病室で、未だ意識の戻らないお姉ちゃんの前で、お姉ちゃんの恋人である、葉隠宗太郎さんが、私にその誓いを立てる。
「それに、防衛戦で特に活躍した奴には、報酬として貴重なアイテムが手に入る。その中には、呪いを解呪出来る物があるかもしれないしな」
「宗太郎さん……、うん、ゔん!」
宗太郎さんに泣きながら抱きつく。私はこの人のことが好き。本当のお兄ちゃんのようで、温かくて、それでいて安心するから。
だけど──
「ダメ! お兄ちゃん、そんなの絶対にダメ!」
「友梨佳、……ごめんな。友梨佳たちのためにも、後方でサポートに徹する約束だったけど、守れそうにない」
「何でよ!? 私には、もうお兄ちゃんしかいないんだよ!? それなのに!」
葉隠ちゃんの両親は私たちと同じく、第ニ次東京防衛戦の影響で亡くなっている。そして、唯一肉親で生き残った兄である宗太郎さんに、強く執着していた。
私が、お姉ちゃんに依存しているように。
「それでもだ。俺は……、瞳をこの手で救いたい。安心しろ。兄ちゃんが強いの、知ってるだろ?」
「でも、でも……」
「葉隠ちゃん……」
キュッとその手を優しく包む。
私と葉隠ちゃんは、お姉ちゃんたちが付き合いだしてから知り合い、そして一番の友達と言えるくらいの関係を築いていた。
だから、そんな彼女の痛みは、痛いほどに分かる。
それでも──
「ごめんね。私も、お姉ちゃんが……」
「分かってるよ、それくらい。でも、嫌なのは、嫌なんだよ。咲ちゃん……」
「うん、ゔん」
「安心しろって! ぜってぇお前らを守り抜いて、生き抜いて、そして友梨佳を助けてみせる! そしたら、友梨佳と一緒に後方に行って結婚して、皆で暮らそう。な?」
そこまでの決意を聞いてしまえば、葉隠ちゃんはもう何も言えない。ただただ頷くことしか出来なかった。
「お兄ちゃん、絶対に生き抜いてね。毎日美味しいご飯作るから!」
「あぁ! 友梨佳の飯が食えないんじゃ、生きた心地がしねぇからな!」
「うん!」
「宗太郎さん。お姉ちゃんを、お願い、します……」
「任せろ!」
当時、守護者として覚醒したばかりの私たちには、戦う術なんて持ち得ていない。そもそも私はFランクのクラス、『星の巫女』でもあったから、余計に戦うことなんて出来っこなかった。
だからこそ、藁にも縋る思いで、宗太郎さんに頼むことしか出来なかった。
それが、過ちだとも知らずに……。
─── 1年半後 ───
「今回の防衛戦。瞳さんに呪いをかけた侵略者だったんだ」
「…………お兄ちゃんは?」
「宗太郎は、その中で瞳に呪いをかけた張本人と出会って戦ったんだ。それで……」
「でも、お姉ちゃんは……。それに、宗太郎さんは?」
「防衛戦自体は、時間経過で辛うじて俺たちが勝利を納めることが出来た。でも宗太郎は、そいつと戦って……」
「だからお兄ちゃんは? お兄ちゃんは何処? 別の病室? なら、早く場所を教えてよ……」
力なくそう尋ねれば、宗太郎さんの仲間である人たちが、ある物を取り出し、葉隠ちゃんに手渡す。
「唯一回収出来た、あいつの形見だ」
手渡されたのは、血塗れのロケットのペンダント。それは、葉隠ちゃんも持ってる物で、中には二人の写真が入っている。二人の大切な宝物。
「うそ……、そう、たろう、さんが……」
「すまない! 本当にすまない!! 俺らが、俺らがもっと強かったら、加勢に行けたのに!!」
「あまりにも敵の猛攻が激しくて、どこも手が足りなかったんだ。そんな中あいつ、1人で立ち向かって、それで、それで……」
「だから、お兄ちゃんは? お兄ちゃんは何処?」
「友梨佳ちゃん、だから、宗太郎は……」
「嘘だよ!! お兄ちゃんが死ぬだなんて、そんなの嘘だよ!! ねぇ、本当は何処かにいるんでしょ!? 大きな怪我をしちゃったとかさ!」
「「…………」」
「嘘って、いって、よ…………」
病室の傷だらけの二人の前で、ペタリと膝が崩れ、座り込む。
二人は涙を流しながら、『本当にすまない』とだけ、つぶやく。
「あの、それで、敵は……」
ポタポタと涙を流しながら、尋ねる。
だって、ここまで、したのなら……。
だけど現実は無情で、二人は首を振る。
「分からない」
「…………え?」
「俺たちが来た頃には、おびただしい量の血の海だけしか残ってなくて、そこにあいつのペンダントだけが落ちていたんだ……」
「ダンジョン以外で死ぬ場合、灰になることは絶対にない。だから、あいつが本当に死んだのかは分からないんだ。だけど……、瞳の呪いが解けてないということは、恐らくそういうことなんだ」
「そんな……」
こんなの、あんまりだよ。
だって、宗太郎さんもお姉ちゃんも……。
こんな結末、誰も望んでいなかったのに……。
***
「葉隠ちゃん……」
それから私たちは病院を後にし、歩き続ける。
「葉隠ちゃん、あのね、私……」
歩きながらあることを葉隠ちゃんに伝える。こんな結末にしてしまった責任を取らないといけない。
「私、守護者を続ける。それでいつか、強くなってみせる」
その言葉にピクリと身体が反応し、こっちに振り向く。
「宗太郎さんがその場にいなかったのなら、もしかしたら侵略者の人たちに連れて行かれたかもしれない。それに、お姉ちゃんの呪いだって、解かないと……」
「………………だから?」
「だから私、強くなってみせる。今はどうすれば強くなれるかは分からないけど、いつか1人前になって、宗太郎さんを見つけて、お姉ちゃんや皆を……」
──はっ! Fランクのクズが、何言ってるの?
「────」
その言葉に思考が停止する。目の前にいる葉隠ちゃんが、まるで別人に思えるくらい、私に向けるその感情は──
「ふざけないでよ! お兄ちゃんが死んだから、今度はあんたが強くなるって!? ずいぶんと舐めたことを言うじゃない!」
「でもそっか。所詮あんたはあの女がいないと生きていけないノロマなグズなんだもんね。使えないと分かれば今度は自分が……、はっ、頭、おかしいんじゃないの?」
「は、葉隠……、ちゃん?」
力なく、首を振る。
違う。
私は、そんなつもりで、言ったわけじゃ……。
「許さない」
「…………え?」
「許さないから。あんたが強くなるなんて許さない。私からお兄ちゃんを奪ったお前が、のうのうと強くなるとか、絶対に認めない!」
ガッと葉隠は、咲の胸ぐらを掴み、怒りに満ちた目で告げる。
「今日から私があんたを使う。お兄ちゃんが果たせなかった後方勤務。それが果たせる日が来るまで、強くなるとか認めないし、邪魔だってしてやる」
「後方……」
「そう」
パッと胸ぐらを掴んでいた手を離せば、ペタリと咲の膝は崩れ、地面に伏す。
「せいぜい役に立つことね。それと、道中死んでも別にいいから。あんたなんて、いてもいなくてもどうでもいいし」
もうそこには、昨日までの、仲の良かった葉隠ちゃんはいなかった。ただただ、私への憎しみだけが渦巻いている。
けど──
(それで、少しでも葉隠ちゃんが……)
私が奪った。
私が宗太郎さんにお願いしてしまった。
その全部を押し付けてしまった。
そんな罪悪感に苛まれ、選んだ答えは一つだった。
歪な笑みを浮かべながら、咲は葉隠にその決意を告げる。
「それで、葉隠ちゃんが死なないなら。……私、やるよ」
「そ。なら、せいぜい私が死なないよう、レベルも上げられない中、頑張ることね」
それだけ言って葉隠ちゃんは歩き出す。
この瞬間、私と葉隠ちゃんの道は別れてしまった。
これが、私の罪であり、今なお戦い続ける理由。
今日まで続く、贖罪の人生である。




