星の巫女という不適合者③ 池袋ダンジョン
─── 池袋Fランクダンジョン 1層 ───
「はぁぁあああ!」
魔物に向けて刀を振り下ろす。するとザシュッと、深く肉が斬られる音と共に、敵は絶命する。
──キュルゥゥ!
同時にボワッと、コノエが吐いた炎が、後方にいる魔物へと当たり燃え広がる。
──グルルルゥア!
追撃するかのように、新しく契約した犬型の式神『レンゲ』が、その鋭い爪と牙で魔物の肉を抉りトドメを刺す。
チュンとクロウは、少し離れた位置から和人らの様子を伺いつつ、魔物からの攻撃に対して、都度障壁と幻惑をもってして、妨害を挟む。
ここ、池袋Fランクダンジョンは、犬型と蟻型の魔物が多く生息するダンジョンであり、素早い攻撃が売りである。
ちなみに、池袋には他に2つのFランクダンジョンが存在しており、その中でもここは、大型の虫型魔物が出るという理由で、比較的不人気なダンジョンでもあった。
そんなダンジョンを選んだ理由だが、ここは高頻度で、魔物が群れを成して襲ってくる。なので防衛戦における集団戦も考慮し、ここを選ぶことにした。
(残り2体。……試してみるか)
「コノエ、レンゲ、下がれ!」
2匹にそう指示をして、下がらせる。
「ふぅぅう」
スキルポイントで新たに取得した『魔力操作』を使用する。すると、これまで以上に自身に流れる魔力が感じ取れ、スムーズに魔力の移動が行える気がしてきた。
それから自身に流れる魔力をコントロールし、刀へと集約させる。
「ぐるがぁぁあああ!」
自身の危険を感知したのか、2体の犬型魔物『グレイドッグ』が和人目がけて、突進してくる。
「ふっ!!」
落ち着きながら刀を構え、グレイドッグへと走り出す。2体うちの1体が跳び上がり、その鋭利な爪で攻撃しかけるが、身体をくるりと翻しその攻撃を避ける。
そのままガラ空きの胴に向けて刀を振り下ろす。魔力を纏うことで切れ味の増した刀がスッと、グレイドッグを真っ二つに斬り裂いた。
「ぐるがぁぁぁ!」
「遅い!」
怯むことなく、もう1体のグレイドッグが飛びかかって来るが、刀で爪を弾き、そのままさっきと同じ要領で刀を振り下ろす。
「ぐぎゃっ」
ストンと、グレイドッグの首と胴が離れ絶命する。そうして魔物の群れを討伐し終える頃には、大量の魔石だけが洞窟内に散乱していた。
「ふぅぅぅ。魔力操作、思ってた以上に使えるな」
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スキル『魔力操作』
魔力:20 ~ ???
魔力に指向性を持たせ、身体能力や武器の性能を向上させることが出来る
用途に応じて、魔力の消費量が変化する
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使ってみた体感としては、身体能力の向上は2~3割と高め。けど、常に魔力を纏わせる関係なのか、一定時間ごとに魔力を消費していく。
その代わり、武器に纏わせた場合は、時間経過による魔力消費なし。纏わせた魔力の分だけ使えるって感じだった。
(魔力が少ないうちは、武器に使うことを前提。身体能力は一瞬の瞬発力が欲しい時に使うようにするか)
魔力操作は前衛では必須スキル。
なので使い続けて、慣れていかなければならない。
検証しながら魔物を討伐していると、自分が強くなった気になるが、まだまだ入り口に立ったに過ぎない。上の奴らはもっと強い奴らと命がけの戦いをしているのだから。
──キュルル?
──ワフゥ?
「お前らもお疲れ。レンゲ、良い動きだったぞ」
──ワフゥゥゥ♪
──チュンチュン!
──カァァァ!
「あぁ、はいはい。お前らもお疲れ」
どうも、俺の式神たちは感情豊かで自由意志が強いし、強くなるにつれて家族が増えるのも望むところ。でもこの先、更に数が増えていくことを考えると、いつまでも出ずっぱりも考え物だ。
まぁそれはひとまず置いておこう。
「まずは魔石の回収と……、オープン」
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守護者:神薙和人
クラス:式神使い
契約式神:5体
契約可能数:0 → 1体(魔抽:3000/5000)
レベル:5 → 6(EXP:30000/40000)
称号:ジャイアントキリング
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「…………凄まじいな」
ただただ、それしか言えなかった。
グレイドッグの経験値は『300』。そして戦う前の俺のレベルが『5』。
その状態での獲得経験値が『10000』だったことから、20体の群れと戦っていたことになる。
ん?計算が合わない?
それもそのはずだ。これには別の要因が働いているんだからな。
「……このチート装備、マジでヤバいな」
右手の人差し指に身に着けている、とある指輪に視線を落としながらつぶやく。
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装備:『叛逆の指輪』 ランクS
登録者:神薙和人
効果:
取得経験値が10倍となる
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経験値が10倍になるアイテム。
これのおかげで数値上、『300』しかない経験値が『3000』まで膨れ上がった。
更には経験値が分散しない利点があることで、全ての経験値が総取り状態。結果、『60000』もの経験値をこの短時間で得ることに成功した。
(指輪のおかげで、式神使いの制約がほぼ無意味になったのはデカいな。2倍差程度、ソロでなどうとでもなる)
平均的なパーティーは5人構成。
であれば、グレイドッグから得られる経験値は『60』が良い所。
今回戦った数が20体だったから、得られた総経験値は『1200』となる。単純計算で50倍もの差が生まれているんだ。
(天上からのアイテムなのは気に食わないが、今は使えるものは使わせてもらおう)
よもやゲームで言う、チートプレイ染みた状態になると思いもしなかった。
だが、これのおかげで2ヶ月後の防衛戦へ間に合わせる算段が付いたのもまた事実。そのためにも、さっさとレベルを20まで上げてボス討伐が出来るようになるDランクのダンジョンへ行くのが急務だ。
「おいで、リリス」
──クルゥ?
和人は5体目の式神、コウモリ型の『リリス』を召喚する。
付与されている能力はチュンたちと同様、戦闘タイプではない。
「索敵」
──クル!
指示を出せば、バサバサと周囲を飛び回りながら口を開く。
現在リリスは今、広範囲に、和人たちには聞こえない超音波を出している。
リリスの役割は索敵。
超音波によって周囲の情報を取得し、和人に伝える役割を持つ。
なお伝達方法は、簡易的にホバリングによって危険度を示すようにしている。
3回のホバリング:かなり危険
2回のホバリング:普通
1回のホバリング:楽
ひたすらに旋回:危機的な状況が発生している
──クルル!
索敵が終わったのか、リリスは俺の前で2回ホバリングする。
であれば、問題ないだろう。
「サンキュー、リリス。帰ったらドッグフードな」
──クルルゥ!
喜びの旋回をして、リリスはポンッと実体化を解く。リリスはどうも仕事のオンオフが上手いらしい。
──キュルゥ!!
──チュンチュン!!
──ワフッ!!
「はいはい。お前らにも後で食べさせるから。それよりも奥に進もうな。今日中にレベルは10にしたいし」
索敵も終わり休憩も済んだので、攻略を再開すべく、和人たちはダンジョンの奥へと進んでいった。
─── 池袋Fランクダンジョン 3層 ───
(……あそこは、セーフゾーンか?)
それから攻略を進めて3時間ほど経過した辺りで和人は、仄かに光り輝く小さなエリアを見つける。
『セーフゾーン』。
魔物が入ってくることはないしこっちからも攻撃ができない。
ダンジョンで唯一の安全地帯。
中々現れないという話なので、かなり運がいい。
「ちょうどいいや。魔石も良い感じに集まってきてたし、休憩も兼ねて追加契約までいけるか、確認するか」
セーフゾーンの中へ入ると、攻撃不可を知らせるウィンドウが出現する。
そのまま壁際の所で座りつつ、みんなで休憩をはさむ。
「オープン」
ついでに再度ステータス画面を出し、自身のレベルを確認してみれば──
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守護者:神薙和人
クラス:式神使い
契約式神:5体
契約可能数:1 → 4体(魔抽:3000/5000)
レベル:6 → 9(EXP:20000/40000)
称号:ジャイアントキリング
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「…………」
流石にこれは言葉を喪う。
(レベルアップの速度が速すぎて、式神の契約とか追いつかねぇぞ)
元々今日中にレベルを10にする予定ではあったが、これはいくらなんでも早すぎないか?
強くなること自体はいいのだが、あの2年間の苦労とは一体なんだったのかと、少し悲しくなる。
「戻ったら契約を行うとして、まずはこれだな」
バッグから道中で回収した魔石を取り出す。こういうところは不親切だ。割り切ってゲームみたく、アイテム収納の機能とか付ければいいのにとさえ思う。
取り出した魔石を『式神使い』の専用ウィンドウに当てると、スゥゥゥと吸い込まれるように消えていった。
"魔石(F)のエネルギーを抽出します"
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"100のエネルギーを抽出完了"
"追加契約まで、3100/5000"
「魔石(F)のエネルギーは100か」
魔石はダンジョンのランクに応じて変動する。
Fランクのダンジョンなら魔石(F)、Dランクなら魔石(D)と言った感じだ。
ちなみに俺が入ったデッドダンジョンはDランク相当だったらしく、そこで得られた魔石は『D』であり、それから抽出出来たエネルギーは『200』だった。
なので、魔石の半分くらいは『メルメル』で競売にかけ、残りをエネルギーに変換を行った。
ほんと、金欠すぎてきついんだ。
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クラス『式神使い』
制限解除:
魔石に内包されるエネルギーを抽出し、一定値を超えると、契約できる式神が1体追加される。
(魔抽:3100/5000)
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性能が解除したことで現れた、追加契約システム。
魔石のエネルギーを抽出することで、実質的な契約数の制限を無くすことに成功した。
といっても、自分で倒して入手した魔石じゃないと意味がないらしく、他人のを使っての魔石ドーピングは不可能。
まったく、どこまでいっても現実的な仕様だ。
(手持ちの魔石(F)は全部で34。つまり19個分抽出すれば、追加でもう1体の式神の契約が可能……と)
契約中の式神は全部で5体。レベルアップによる追加分と合わせれば、新たに5体の式神と契約が出来ることになる。
つまり、実質的なステータスはオール『500』となり、更にここからレベル10に到達すれば、契約できる式神が6体に増え、クラス補正が働く。
そうなれば、同レベル帯かつ補正込のクラスと比べても、遜色ない強さを得るだろうし、もうFランクとバカにすることも出来ないな。
いや、元々ポテンシャルがあったクラス。恐らく極端にレベルが上がり難い代わりの救済措置がこのシステムで、本来はコツコツ強くなることを想定していたのだろう。
「指輪のおかげで、その想定からも逸脱。ふっ、どこまで行けることやら」
限界点の1等星たちは、最低でもレベルは200に到達しているらしいし、ゼロたちに至っては更に上のレベルに達している。
先はまだ長いが、指輪の効果もあればそう遠くないうちに到達出来る確信がある。
それに、藤宮さんの力も加われば、より強くなるための道が盤石となる。今はまだ無理だが、俺が強くなれたように、藤宮さんのクラスだって条件を満たせば、強くなれるはずだ。
そのための条件として、思い当たるのは──
(そういや藤宮さん、大丈夫なのか?)
彼女が守護者を続ける理由についてだけは知っている。
未だ呪いで意識の戻らないお姉さんを目覚めさせるために、彼女は今も守護者を続けている。
「はぁ……、そういえば、強くなることだけを考えてて、コミュニケーションについて、色々疎かになってたかもな」
これからは人と触れ合う機会だって多い。相手の事情なども、ちゃんと知っていかないとだなぁと、心の中で反省する。
「まっ、それは戻ってからだな」
一旦それらは棚上げにする。まずはやれることを一つずつやっていこう。
「もう少し休憩したら、攻略を再開するぞ。新しい家族とは、もろもろ終わってからな」
──キュルルン!
──チュチュン!
──ワン!
戻ったら式神との契約に、藤宮さんのことを少し調べてみよう。
少し先の方針を決め、コノエたちと一緒に携帯食料を食べていく。
やらないといけないことは多いけど、とりあえず目下として、レベル10になった時の補正がどれほどのものか、それが楽しみでもあった。




