星の巫女という不適合者② 星の巫女
クラス『星の巫女』。
この50年の間で、最も謎とされているクラス。
最初にこのクラスを発現した者は、アラスカに住む女性だった。その、あまりにも意味ありげなクラス説明から、天上に対する何らかのカウンターなのではと噂された。
更には、元から使える専用魔法『全能力向上』。
1日1度しか使えない変わりに、魔力を10割を消費することで15分間、1名に限り全ステータスを20倍向上させるという、破格の性能を持っていた。
だけどクラスの制約でレベルアップが出来ず、その解除方法もないと言われてしまえば宝の持ち腐れ。
防衛戦とは、集団戦である。
たった一人を強くしたところで、短時間の間に、防衛戦での勝利条件を満たさなければならない。
そもそもの話、本人の弱さもあって、むしろ死のリスクを高めることに繋がってしまう。
実際、30年前に参加させたことで死亡した事例が存在している。
結果、ダンジョン内のボス戦でのみ使うのが、このクラスの運用方法となった。
それでも道中は、魔物から守らないといけないので、リスクとメリットを天秤にかけるほどの価値があるのかと問われると、難しい話でもあった。
だがそれでも、不適合者であるはずの『星の巫女』が、ダンジョンへの入場が許可されている理由だ。
そして、『星の巫女』の謎はここからとなる。
これまでに、『星の巫女』のクラスを授けられた者は延べ20名にも及ぶ。その全てが女性で、『星の巫女』の保持者が亡くなると、翌年には次代へと引き継がれる。
まるで世界が、絶対に絶やす訳にはいかないと、そう言わんばかりに、今日まで延々と引き継がれてきた。
そして今代の保持者が、藤宮咲なのだ。
***
「私を……パーティーに?」
「そうだ」
いきなり俺と組んでくれと言われたからなのか、藤宮さんは少し困惑気味だ。そうなるのも無理はない。同じ不適合者の俺にそう頼まれたのだから。
「えと、それってつまり、ボス討伐でのバフが欲しいって、こと? それに、天上って……」
「いいや違う」
「え!?」
藤宮さんの問いに、首を振って否定する。
そんなんじゃ、やっていることは葉隠たちと同じになってしまう。
そんな道具扱い同然のことをしたいというのなら、そもそも一緒に天上をぶっ潰そうだなんて、誘うはずがない。
「藤宮さんにも、一緒に強くなってほしい」
「えぇ!?」
「実を言うと、守護者協会で少しだけ信頼を得ることが出来たんだ。それで、今後はダンジョンへの入場についても許可が貰えるようになったんだよ」
「そ、そう、なんだ……」
「あぁ。それで思い切って、藤宮さんに対しても、ダンジョンへの入場許可に対する制限を解除してもらえないかと、打診したんだ」
「────」
一種の賭けではあったが、笹倉さんは『面白い』と言って承諾してくれたんだよな。ほんと、先生のように、頼りになる大人がいるというのは心強い。
「具体的な話は組んでからとして……、どうかな? 藤宮さんにとっても悪い話じゃないはずだ」
「わ、私は……」
話し終えれば、藤宮さんの表情は少しだけ暗くなる。
カランッと、コップに入っている氷の溶ける音が小さく店内に響く。それから少しの間沈黙が続いた後、『ごめんね』と、申し訳なさそうな声色で、そう返事をする。
「誘ってくれるのは嬉しいんだけど、葉隠ちゃんを……、裏切るのは……」
「裏切る? あいつは藤宮さんのことを道具としか思ってないだろ?」
昔、葉隠が藤宮さんに対して、暴力を振っていたところに出くわしたことがある。
理由は、バフをかける対象を間違えてしまったことによる、ラストアタックの経験値ボーナスが別の者に奪われてしまったからだ。
当時はまだダンジョンに潜り始めたばっかりで、色々怖かったはず。それに、恐怖から対象を間違えるだなんて、駆け出しの守護者にはよくある話だ。
「それでもだよ。私にとって葉隠ちゃんは、一番の友達なの……。それに、葉隠ちゃんはそんなに悪い人じゃないよ。ただ……」
藤宮さんの表情がどんどん暗くなる。
まるで、何か罪悪感を感じているかのようだ。
(俺が知らないだけで、2人には何かあるのか?)
思えば、俺たちは中学時代からの知り合いではあるけど、そこまで深く踏み込んだ話はしてこなかった。
何せ当時の俺は、他人に構うだけの余裕が今よりもなかったから。
(今はまだ、時期尚早だったかもな)
「分かった。でも、俺は諦めない。俺が強くなるためにも、そして藤宮さんが強くなるためにも、絶対に必要なことだから」
「凄いね。私も、強くなりたいって想いは同じなのに……」
「葉隠のところで、強くなれるのか?」
その問いに、藤宮さんは首を振る。そこまで分かってるのに……。
「ごめんね、こんな中途半端で」
「いや、いい。俺も無理なお願いだというのは分かってるつもりだ。…………1週間後、もう一度答えを聞かせてくれ。諦めるつもりはないが、それでも答えが変わらないようなら、2ヶ月後の防衛戦については、俺1人でなんとかする」
「うん、分かった。考えて、みるね」
それからスッと、藤宮さんは立ち上がる。
「私は学校に戻るけど、神薙君は?」
「俺はこれからダンジョンに潜る。時間がないから、それまで学校も最低限しか出ないつもりだ」
「そっか、頑張ってね」
「あぁ」
それから藤宮さんは学校へと戻っていき、残ったのは俺たちだけ。
──キュルゥ……
「そう、しょげるな。俺らは俺らで、やれることをやろう」
そう、藤宮さんだけに構えるだけの時間的余裕は今はない。今回が無理だったとしても、時間をかけて少しずつ、気持ちを変えていくことだって……。
(封印についての記述……、必ず抜け穴がある)
そのためには、彼女の心を強くしないといけない。今の強化アイテムに近い扱いのままじゃ、絶対に無理だ。
「行くか」
──キュル!
──チュンチュン!
──カァァア
俺らも立ち上がり、カフェを出る。この後はFランクダンジョンに籠もって、レベル上げだ。
***
「…………神薙君、強くなってたなぁ」
ほんの数日会わなかっただけなのに、なんだか彼が、遠い世界に行ってしまったかのように思えた。
元々彼は、人一倍強さに貪欲だった。不適合者と罵られ、才能がないと言われ続け、ひたすらにバカにされても、一切を諦めることなく、努力し続けていた。
私のように中途半端に揺れず、まっすぐと自分の信念を貫いている。
(私は、本当はどうしたいんだろう……)
私だって強くなりたいし、そのための理由だってちゃんとある。
だけど──
「あれぇ? もう帰ってきたんだ」
「葉隠ちゃん」
教室に戻れば、葉隠ちゃんが声をかけてくる。
「なんの話だったの? まさか愛の告白?」
「違うよ。一緒にパーティーを組んでくれないかって、誘われたの」
「へぇ〜〜、ずいぶんと大きく出たね、神薙君。レベルが上がって、調子に乗ってるのかなぁ?」
「違うよ。神薙君はいつだって強くなることに貪欲で、守護者としての責務を真っ当しようとしてるだけ」
「ふぅ〜ん。あんな命懸けの戦いに、自分から参加したいだなんて、ほんと頭おかしいよね」
「葉隠ちゃんだって、守護者だよ? いつか、今よりもレベルが上がったら参加することに……」
そう告げると、『なんで私が』と、苦虫を噛み潰したような表情になって、吐き捨てる。
「忘れたの? 私はのんびり、協会職員としての勤務に就きたいの。そのために楽して、ボス討伐をしているんだから」
戦う術を持たない、戦うこと自体を放棄、もしくは結婚などの理由から、守護者が続けられない者は多く存在する。
そういう者たちは、インフラ整備や学生《守護者の教育、低ランクダンジョンでの魔石回収といった、後方の支援へと回される。
そしてそれ以外の者たちは、一定のレベルに到達すれば、前線の防衛戦へと参加していく。
それがこの世界でのルールだ。
だが学生に限り、一定の成績を収めた者には、協会職員といった公務員としての進路が選べるようになる。
その成績の基準には座学以外にも、ダンジョンのボスをどれだけ倒しているのかも含まれていた。
「本当に、葉隠ちゃんはそれでいいの?」
「は? 死にに行く方がバカでしょ」
「でも、前線にいる先輩たちは……」
「そういうのは、戦いたい奴だけでやらせてればいいの!」
「あぁ、そう言えばあんたも戦いたがってる人間の1人だったね。入院中の家族のためにも」
「っ!」
「でもごめんね。そんなこと、絶対にさせないから。私の人生を狂わせた責任を、取ってもらうまでね」
「……分かってるよ。だからちゃんと、神薙君のお誘いは断ったんだから」
「そ! なら良い。あぁそれと、明日はCランクのダンジョンに潜るから、そのつもりでね」
「うん、分かった」
それだけ言って、葉隠ちゃんは自分の席へと戻っていく。
そう、私には責任がある。それを果たすまで、私はいつまで経っても強くなる道には進めない。
──葉隠のところで、強くなれるのか?
「どうしたら、いいのかな。神薙君」
きっと、君がそれを知れば、手段こそ違えど、手を貸してくれると思う。それでも私は、そんな身勝手な理由だけで、他人を巻き込むのはもう嫌だった。
(お姉ちゃん……)
終わりの見えない道を歩きつつも、今日も私の日常を過ごしていく。




