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仮初を生きるもの  作者: 木南一果
その手を

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92/101

12

階段を登り、廊下を歩く。扉が見えてきたあたりで、ふっとリュミが息を吐いた。


「なんかさ、難しいこと考えるのやめよ」


くるりとこちらを振り返る。


「のんびりできるの今晩くらいでしょ」


少しだけ肩をすくめて笑う。


「……確かに」


自分でも気づかないうちに、少し力が入っていたらしい。

軽く腕を引かれ、そのまま抱きつくように肩を組まれる。


「部屋戻ったらふかふかの寝床が待ってるんだよ?ほんっと最高じゃん」


その言葉に、思わず笑ってしまう。


「そうだね」


その通りだね、と言った私の顔を覗き込み、リュミがわずかにほっとした表情をする。

楽天的で直情型と思いきや、リュミは人の機微をよく感じ取っている。

そしてこうして、さりげなく笑顔にしてくれる。



「今日はもう、ゆっくり眠りましょう」


ユーシリアさんが同意し、アナスタシアさんもやわらかく頷いた。


廊下の奥、それぞれの部屋の扉が並んでいる場所へと戻ってきた。

そこで自然と足が止まる。


「じゃあ、ここで」


足を止めて、ユーシリアさんが振り返る。


「また明日ね」

「おやすみー!」

「おやすみなさい」

「おやすみ」


リュミが元気よく手を振る。


それぞれが自分の扉へ向かっていく。

私も、自分にあてがわれた部屋の前で立ち止まった。

扉を開ける前に、今日1日を思い返す。


少しだけ、長い1日だった気がする。

けれど。


扉に手をかける。


「……楽しかったな」


小さく呟いて、扉を開けた。



部屋に入ると、静けさがすっと体を包んだ。

さっきまでの賑やかさが少しだけ遠くに感じる。


なんとなく灯りをつけるのを躊躇う。

この静かな時間には光より暗闇が似合う気がする。

そのまま灯りはつけず、一度窓のそばに立つ。

外は真っ暗だった。

海に光はなく、何も目印がない。


寝台にすすみ、腰を下ろす。

柔らかい。身体が沈み込む。

そのまま力を抜くように横になる。


もう、まぶたが重い。


「……明日も、たのしみ」


誰にともなく呟いて。

そのまま、意識はゆっくりと沈んでいった。




コンコン、と扉を叩く音がした。


「……ん」


目を開ける。

明るい。

窓から差し込む光が、部屋の隅まで届いている。


「リネー、起きてるー?」


リュミの声だろうか。まだぼんやりしていて自信がない。


「……今、開けます」


声が掠れた。

起き上がると、体が少しぐらりと揺れた。


扉を開けると、やはりリュミだった。

布に包まれた何かを抱えて溢れる笑顔で立っていた。


「おはよう!」


明るい声だった。朝からこんなに元気がいいリュミは初めて見た。


「……おはよう…」

「気付いてる?だいぶ日が高いよ」

「……え?」


思わず窓を見る。

眩しさに目を細める。

確かに、日差しが高い。


「…いつもなら、もっと早く目が覚めるのに」

「うんうん。ずいぶん寝てたよね」


リュミが笑いながら部屋に入ってくる。


「疲れてるんだろうってことで起こさなかったの。朝ごはん、包んでもらってきたよ」


布を広げると、パンに野菜が挟まれた物と干した果実、それから小さな菓子が入っていた。


「嬉しい。ありがとう」


素直に言うと、リュミが寝台の端に腰を下ろした。


「早く食べて!今日は日が暮れるまでは自由時間だって」

「自由時間?」

「団長、昼に来る予定だったのが延びてさ。夕方にくるの。それまで好きにしていいって」


だから早く早く、と急かされる。


「それなら何故、急いでるの?」


寝起きのままパンを口に運ばれ、思わず目を白黒させてしまう。

水分をまずは摂らせてほしい。


「だってたくさん時間あるんだよ!街の中見に行こうよ」


団長は夕方まで来ず、時間はまだまだあるから街を見に行きたい、早く支度をして出かけよう、ということか。

ようやく頭が動き出してきた。


「わかった、急ぐね」


私も街を見に行くのは楽しみだ、早く支度を済ませなくては。



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