12
階段を登り、廊下を歩く。扉が見えてきたあたりで、ふっとリュミが息を吐いた。
「なんかさ、難しいこと考えるのやめよ」
くるりとこちらを振り返る。
「のんびりできるの今晩くらいでしょ」
少しだけ肩をすくめて笑う。
「……確かに」
自分でも気づかないうちに、少し力が入っていたらしい。
軽く腕を引かれ、そのまま抱きつくように肩を組まれる。
「部屋戻ったらふかふかの寝床が待ってるんだよ?ほんっと最高じゃん」
その言葉に、思わず笑ってしまう。
「そうだね」
その通りだね、と言った私の顔を覗き込み、リュミがわずかにほっとした表情をする。
楽天的で直情型と思いきや、リュミは人の機微をよく感じ取っている。
そしてこうして、さりげなく笑顔にしてくれる。
「今日はもう、ゆっくり眠りましょう」
ユーシリアさんが同意し、アナスタシアさんもやわらかく頷いた。
廊下の奥、それぞれの部屋の扉が並んでいる場所へと戻ってきた。
そこで自然と足が止まる。
「じゃあ、ここで」
足を止めて、ユーシリアさんが振り返る。
「また明日ね」
「おやすみー!」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
リュミが元気よく手を振る。
それぞれが自分の扉へ向かっていく。
私も、自分にあてがわれた部屋の前で立ち止まった。
扉を開ける前に、今日1日を思い返す。
少しだけ、長い1日だった気がする。
けれど。
扉に手をかける。
「……楽しかったな」
小さく呟いて、扉を開けた。
部屋に入ると、静けさがすっと体を包んだ。
さっきまでの賑やかさが少しだけ遠くに感じる。
なんとなく灯りをつけるのを躊躇う。
この静かな時間には光より暗闇が似合う気がする。
そのまま灯りはつけず、一度窓のそばに立つ。
外は真っ暗だった。
海に光はなく、何も目印がない。
寝台にすすみ、腰を下ろす。
柔らかい。身体が沈み込む。
そのまま力を抜くように横になる。
もう、まぶたが重い。
「……明日も、たのしみ」
誰にともなく呟いて。
そのまま、意識はゆっくりと沈んでいった。
コンコン、と扉を叩く音がした。
「……ん」
目を開ける。
明るい。
窓から差し込む光が、部屋の隅まで届いている。
「リネー、起きてるー?」
リュミの声だろうか。まだぼんやりしていて自信がない。
「……今、開けます」
声が掠れた。
起き上がると、体が少しぐらりと揺れた。
扉を開けると、やはりリュミだった。
布に包まれた何かを抱えて溢れる笑顔で立っていた。
「おはよう!」
明るい声だった。朝からこんなに元気がいいリュミは初めて見た。
「……おはよう…」
「気付いてる?だいぶ日が高いよ」
「……え?」
思わず窓を見る。
眩しさに目を細める。
確かに、日差しが高い。
「…いつもなら、もっと早く目が覚めるのに」
「うんうん。ずいぶん寝てたよね」
リュミが笑いながら部屋に入ってくる。
「疲れてるんだろうってことで起こさなかったの。朝ごはん、包んでもらってきたよ」
布を広げると、パンに野菜が挟まれた物と干した果実、それから小さな菓子が入っていた。
「嬉しい。ありがとう」
素直に言うと、リュミが寝台の端に腰を下ろした。
「早く食べて!今日は日が暮れるまでは自由時間だって」
「自由時間?」
「団長、昼に来る予定だったのが延びてさ。夕方にくるの。それまで好きにしていいって」
だから早く早く、と急かされる。
「それなら何故、急いでるの?」
寝起きのままパンを口に運ばれ、思わず目を白黒させてしまう。
水分をまずは摂らせてほしい。
「だってたくさん時間あるんだよ!街の中見に行こうよ」
団長は夕方まで来ず、時間はまだまだあるから街を見に行きたい、早く支度をして出かけよう、ということか。
ようやく頭が動き出してきた。
「わかった、急ぐね」
私も街を見に行くのは楽しみだ、早く支度を済ませなくては。




