表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮初を生きるもの  作者: 木南一果
その手を

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/101

目が覚めると、天幕の外が明るかった。


昨夜の喧騒が嘘のように静かだ。

まだアナスタシアさんとリュミは寝息を立てている。


私は起こさないよう静かに身支度を整えて、外に出る。



「おはよう」


ユーシリアさんとフェリクスさんが、火のそばで手を振る。


少し離れたところで、エルドさんと団長が何か話していた。

低い声で、真剣な表情のまま。


あたりを見渡す。


昨夜より、人が少ない。

隣にあった大きな天幕も、なくなっていた。



「随分といなくなってる」



思わず呟くと、フェリクスさんが湯気の立つカップを手に近づいてくる。



「夜中に盗みがあってさ。騒ぎになったんだよ」

「え?」


「俺たちの近くじゃないけどな。少し離れたところで。捕まったやつもいれば、逃げたやつもいる」



全然、気づかなかった。

ぐっすり眠っていた。



「気づかなかったです、私」


「そりゃそうだ」



団長が静かに言う。

いつの間にか、こちらを見ていた。


「天幕の紋様に魔力を流してた。外の音が入らないように」


「……それで、眠れてたんですね」


「刺繍が途切れかけてるから、力技でな」



面倒くさそうに言う。

けれど、その目の下には、わずかに影が落ちていた。



「その紋様、刺繍なんですよね?補修できるか、詳しく見てみたいです」


思わず口にする。

刺繍ならば、私にも何かできる事があるかもしれない。


団長が、少し目を細めた。



「できるか?」


「わかりませんが、図案を写して試しに別の布で刺してみます」


「……頼んだ」


団長は短く言って、カップを口に運んだ。




荷をまとめ、天幕を畳んでいく。

野営地を後にして、再び城門へと向かった。

馬たちは短い距離でも歩けて嬉しそうに尻尾を振っている。



城門には人の列ができている。

朝だからだろうか、昨日よりも人が多い。


行商の荷車、旅人の一団、兵士に付き添われた豪華な馬車、様々な人が順番を待っていた。



「いい返事、もらいたいねぇ」


リュミが伸びをしながら弾むように言う。


「うん、そうだね」


小さく頷きながら、列に並ぶ。


ゆっくりと列が進んでいく。

昨日と同じように1組ずつ止められては、手荷物や荷馬車の中を確認されている。

昨日の私たちのように兵士に書類を渡し、列から離れる人たちも見受けられた。



やがて、私たちの番が来た。


「書類は昨日提出してあります。確認にきました」


団長が落ち着いた声で告げる。


兵士が書類を確認し、顔を上げる。



「……まだ最終確認が終わっていない。夕刻にもう1度来い」



「え」


リュミが思わず声を漏らす。


「まーじーかー……」


フェリクスさんも肩を落とす。

門は、すぐそこにあるのに。


昨日より、近い。

でも、まだ入れない。

私も静かに息をつく。



「承知しました」



団長はそれ以上何も言わず、静かに頷いた。

私たちは列を外れ、城門から離れる。

また今朝までいた野営地に逆戻りだ。一体いつになったら入れるのか、それとも審査が通らず入れないのだろうか。



そんなことを考えていたら、歩きながら、団長がぽつりと呟く。


「この様子なら、うまくいけば今日には通れるな」

「そうなんですか?」

「ああ。ダメなら、この時点で答えが出てる」


ほら、見てみろと顎で門の方を示され、振り返る。


門の前で別の一団が話をしているところだった。

昨晩野営地で見かけた顔だった。

兵士が首を振り、何かを告げられている。そしてそのまま列の外へと誘導され、野営地とは反対の街道へと歩いていく。



「……確かに」


「入城証の発行に時間が必要ということだ」


エルドさんが静かに説明する。

それに団長が、疲れの残る横顔で頷いた。


「遅くても、明日の朝には入れるだろ」



少しだけ、皆の肩の力が抜ける。


門は遠くない。

けれど、まだ越えられない。

その距離が、やけに長く感じられた。


野営地に戻ったところで、エルドさんが馬を少し歩かせたいと言い、ユーシリアさんと2人で手綱を握って街道へと向かった。


「楽器は出すなよ」


団長が皆を見渡しながら言う。


「高いもんを見せびらかす必要はない」


皆が頷く。


「見て!屋台出てるよ」


リュミが城門の方を指した。


いつの間にか、城壁沿いに屋台がいくつか並び始めている。

兵士たちも特に咎める様子はない。


「冷やかしに行くか」


フェリクスさんが軽く言う。


リュミ、私、フェリクスさん、セヴランさんの4人で近づいてみる。


干し肉、保存のきく焼き菓子、水袋、縄、薬草。

旅に使えそうなものが色々並んでいる。


けれど。



「……なかなかの……」


思わず声が出た。

高いのだ。農村で買った干し野菜の値段、ミルダールで買った干し肉の値段、比べてみると倍以上はする。


「そりゃそうだ」


フェリクスさんが肩をすくめる。


「すぐ入れると思ってきたのに入れず、物資が足りなくなった人間がここで買わざるを得ない。そういう商売だ」


「だから……」


「農村で買い足してたんだよ」


なるほど。団長やユーシリアさんが物資の補充にこだわっていた理由が、ようやく腑に落ちる。


屋台を眺めながら歩いていくと、城壁のさらに先の方に人だかりができていた。


気になって皆で近づくと、何人か地面に座り込んでいる。

そしてその人たちの隣に兵士が膝をつき、何か書き留めながら話しかけていた。


「あれ?あの人、昨日見たような…」


1人の青年に目をやる。

野営地で見かけた顔だった気がする。


「ああ」


セヴランさんが静かに言う。


「朝言ってた盗みの被害者だろうな」


青年は膝を抱えたまま、下を向いていた。兵士の声は、思ったより優しく穏やかだった。


旅はうまくいくばかりじゃない。

それを、また1つ知った気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ