表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮初を生きるもの  作者: 木南一果
呼ぶ声

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/101

43

影路の上は静かだった。

音がない、というよりも音が遠い。


風が吹いているはずなのに、肌に届かない。

景色は流れているのに、匂いがしない。

薄い布を1枚、世界との間に挟んだみたいな感覚。


隣に座ったリュミと話していても、声は聞こえるし言葉も分かるのに、どこか夢の中で話しかけられているような感じがする。

悪いわけじゃない。

ただ、ここでは世界が少し遠い。

進んでいく景色と、遠い音。まだ慣れない。


私は足元を見ないようにして、流れていく草原に視線を向けた。


遠くを見ていると、少し離れた丘の麓に村らしきものが見えてきた。


「あれって…」


草原の向こうに小さな集落が見えてくる。

とはいえ、聞いていた予定と随分食い違う。



「え、近いね?」

「近すぎない?」


リュミと顔を見合わせると、フェリクスさんが腕を組んだ。


「あの村は違うんだよなぁ」


少し間を置いてから言う。


「あそこは酒もあるし宿もある。そして音楽好きも多くてな。小さいけど、いい村なんだよ」


思い出しながら話すその顔は、なんだかとても楽しそうだった。


「ただな、出禁なんだよ」


「え?」


衝撃的な言葉に思わず声が出た。


「出禁って……フェリクスさん、何をしたんですか?」


「待て待て! 俺は何もしてない!」


フェリクスさんが首を振りながらはっきりと言う。


「団長が酔っ払いに絡まれて、喧嘩買って、勝ったら尾ひれ背びれついて悪い噂になった」


「それで出禁に……」


「そういうこと」


私はそろりと団長の方へ視線を向けた。


団長は、いつの間にか馬たちの方へ移動していた。

コレットの首を撫でながら、小声で何かぶつぶつ言っている。


「……俺だけが悪いわけじゃ……」


聞こえた。

確かに聞こえた。


コレットは慣れているのだろう。

団長の手に鼻先を押しつけていた。


「だからあそこには寄れない。ちなみにこの後も村や町はいくつか出てくるけど、全部寄れないんだ」


「出禁多いですね!?」


思わず大きな声が出てしまう。

リュミは私とは逆に、呆れた顔で何も言わず団長を見ていた。


「違う違う。出禁はあの村だけ。余所者は病原菌だからって入れてくれない町とか、盗賊かもしれないって大人数だと入れてくれない村とか、いろいろあるんだよ」


なるほど。団長のせいではなかったらしい。


リュミと2人、そっと団長の方を見る。


「……いつもいつも……」


どうやらまだコレットに愚痴を言っているらしい。

疑ってしまってごめんなさい。


そのまましばらく影路に乗り、流れていく景色を眺めて過ごしていると、復活した団長が影路に声をかけた。


「よし、今日はここまでだな」


影路がゆっくりと薄れ、足元の黒が土に溶けていく。

それが完全に消えた瞬間、青い風が来た。


草原の真ん中。

遮るものが何もない。


荷車の幌が風を受けて、ばたばたと鳴る。


「風が強いな」


団長が手早く縄を引っ張りながら言う。


皆がそれぞれ動き出す。

私はリュミの隣に立った。


「これ、どこに?」


布を抱えたまま聞くと、リュミが迷わず指差す。


「馬の風よけ。あっちに張って」


「わかった」


柱に布を渡して固定していると、リュミが隣で縄を結びながら聞いてくる。


「天幕の杭、打ったことある?」


「ううん、ない」


「じゃあ次それ一緒にやろ。風強い日は深めに打たないと抜けるから」


「深めね、わかった」


あれは、これは、と声をかけ合いながら手を動かす。


前回よりも動ける。

何がどこにあるか、誰が何をするか、なんとなく分かってきた。


やがて天幕が立ち、馬の風よけも張り終え、焚き火の準備も整う。


全員が揃い、皆が休憩といった様子で草の上に腰を下ろした時。


「開けてる」


エルドさんが草原を見ながら言った。


「こういう場所は、盗賊が来やすい」


喉がひゅうと鳴った。


「ちょっとエルド!」


リュミがすかさず声を上げる。


「怖いこと言わないでよ!」


リュミは心配そうに私を見て、それから胸を張った。


「私がいるから平気。絶対守るから」


その顔があまりにも真剣で、心強いというより、なんだか微笑ましくて思わず笑ってしまう。


「ありがとう」


「まかせて」


リュミが得意げに頷く。


エルドさんは頭を掻き、それきり何も言わなかった。

ただ、見張りの位置を確認してから、静かに夜の草原へ目を向けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ