配信56枠目 破章、第一節。
顔の見えない人々が、責め立てる様な指先を此方に向けている。耳を劈くのは雑音の混ざる罵声。そして、先の見えない暗闇の中で一際輝く眩い光。分かるのはその程度。
「———!——!」
「——!—————!」
「…夢か」
「—————!—————?」
どう考えてもあり得ない状況と罵声の中、彼は淡々と呟く。夢から覚める為か、自らを騙す為か。もしや、それ以外の理由でもあるのか。何度も「コレは夢だ」と落ち着いた心で唱え続ける。
既にその身体は何者かに邪魔でも受ける様に、命令通りには動かない。力のままに動こうとする内に次第に荒れ出した息。彼の紅い瞳は希望の無い世界で静かに淀み、その眼は濁った血溜まりの様に暗く沈んでいく。
それでも、彼は何かが変わると信じて、眼前に灯る微かな一筋の光を目指し続けた。手繰り寄せる様に、探し求める様に、ただただ手を伸ばす。
しかし、光に手を伸ばした事で見えたのは、返り血に染まった醜い自分の手であり、積み重なる誰とも見知らぬ亡骸の数々だった。
———
——
—
薄暗い部屋のカーテンの隙間、そこから朝を告げる僅かな日差し。名前の知らない聞き馴染みのある鳥の囀りが聞こえる。6時半にセットしたアラームが鳴っていない事から、まだ早朝である事が伺える。
「……はぁ…」
認め難い悪夢から目覚めた先生は、動きの鈍い身体で静かに吐き捨てる。目覚めた時から、天に縋るように伸ばされた右手には既に何の感覚も無い。当然、その手に握られたモノも無い。
それでも、貴方の心に影が刺し続ける事はない。貴方の身体にはどんな困難も乗り越え、全てを笑い飛ばせるだけの力と器が有るのだ。
「……相変わらずタイミングが悪いなぁ。君に付き合える様なテンションじゃないんだけど…」
青ざめた顔を俯かせ、額に当てた手には冷えた汗が滴る。指の間から見せた赤黒い血の様な色をした眼は、デスクの上に置かれた液晶タブレットと、その専用の電子ペン。それか、黒いゴミ箱に向いている。
今日はゴミ回収の日だと、ふらつく足取りでデスクに置かれたゴミ箱を手に取る。中に入れていた黒いビニール袋の端を持ち、ひっくり返っても中身が漏れてこない様に固くキツく封をする。
貴方はどんな冷水風呂でも30分以上浸かれる程の我慢強さを持っているが、今回は相手が悪い様だ。まさか、その相手は貴方以上に無敵で輝かしいとでも言うのだろうか。
「…ケホ……嗚呼、確かにね。相手が悪い同意するよ。換気した方が良いかも知れない。乾燥で喉も少しやられてるみたいだ。ちょっと暑いかも知れないけど、仕方ない」
何日。又は、何ヶ月間も付け続けていたエアコンの電源を切った。カララと、軽い音と共に窓を開ければ、微かな涼しさも感じる夏風が耳をくすぐり、貴方の寝起きで癖のついた髪と頬を優しく撫でる。
貴方以上に眩い恒星は存在しないとは言え、時には太陽の日が見たくなる時もある。だが、この部屋からは太陽を拝む事は出来ない。しかし、淡い青空に遥か先で発達している入道雲は夏を思わせる風貌をして、貴方の心を少しずつでも確かに軽くした。
「…確かに。少しは気晴らしになったかな」
強がりは時に格好良く素晴らしいモノだが、貴方の顔色は決してそうではない。その細めた目線の先は彼方遠くにあり、上の空と言った様に何かに気を取られ、少なくとも、この世界は貴方を悩ませているようだった。
「…今日はやけに元気だね。……まぁ、君が相手でも言えない事はある。いや、君だからかな」
それならば仕方がない。貴方の精神がこの惑星最強の硬度を誇っているのはこの世の常識だ。だが、いつまでもその憂鬱で陰湿な梅雨の様に、晴天を知らない様な表情を見せる以上。苦肉の策として、傍観者における最低の行為。ネタバレをする事にしよう!
「…ネタバレね」
この先の貴方を出迎えるのが、果ての無い試練で有ろうと、手から零れ落ちる程の祝福で有ろうと、貴方は笑顔をもって満足な終わりを迎えるだろう。
「——は?」
何故なら、この物語はコメディーなのだから!
———
——
—
『グビッ!今日だけ特別?無礼講飲酒BAR〜!!!』
『『『『『フォ〜〜〜!!!』』』』』
シオシアのタイトルコールと共に、この場に集まったメンバーが歓声を上げる。ゴミ箱イベントの2次会。と言う名の、ただの未成年厳禁飲酒配信である。打ち上げ配信とも。
「いやー、長い1日でしたね。明日からも頑張りましょう。皆さん。お疲れ様でした。高評価とチャンネル登録よろし——」
『何勝手に締めてんだ!ゴルァ!』
『おい!なんだこの司会、やる気を感じねぇぞ!ヘイヘイヘイ!キャラ被りとか舐めてんのか!マイペース自堕落キャラは1人で良いんだよ!』
『粛清!粛清だよ!コイツを粛清しなきゃ!』
「嗚呼…オレ…皆が怖いよ…ウルウル」
『あんま擬音声に出す人居ないと思うのね』
開始早々、さっさと配信終了を目論む先生の努力は虚しく。無尽蔵の体力を持つゴミ箱ライバーにより、戦意を失い身を震わせるだけに終わる。この1日で、下剋上は不可能な上下関係が出来上がってしまっていた。
『クゥー!っぱ、仕事の後のアルコールは身に染みるねぇ!』
「切り替えが早いなぁ…さっきまでキレ散らしてたのに…」
『いやぁ、シオシアの場合。大して仕事してなくても変わらないだろう?そもそも、まともに仕事していないのだから。話に聞くところ、かなりの呑んだくれのようだし、正に女子高生設定(笑)だね』
『設定やめろや』
軽快に喉を鳴らすシオシアに、何を言っても無駄でしかない。だが、それは何処にでもいる有象無象の話である。この男なら。ゴミ箱が誇るロクデナシなら。彼ならシオシアにも口撃を通せるのだ。
『フッ……よく酒を片手にそんな事が言えるな。俺なら自尊心と羞恥心でそんな事言えないのね』
と、容赦無いツッコミを入れた金髪ウルフのイケメン。彼はジアルート。『ジル』と言う愛称で呼ばれ、野生味溢れる鋭い眼付きと髪型の所為で、何処となく不良やチンピラ感が有るが、その実。ゴミ箱ライバーの中では結構な常識人と言われている。
「我が友、李○やめてね」
『え〜、私、女子高生なので難しい事分かりませーん。JKなので。JKなので〜』
『えぇ?まさか、まだ女子高生が通じるとでも思ってたのかい?かれこれ3年くらい配信しているのに?嗚呼、なんてことだ…。同期の頭がこんなにも残念な事になっていたなんて…。気付いてあげられなくてごめんよ。無力な僕を許してくれ』
『は?急に何コイツ。また空気読めない奴が会話に割り込んできたかと思えば…。キレていいか?なぁ、ジル。酒の席ではキレるのがこの国の礼儀だったよな?』
『フッ……知らねぇ礼儀出て来た。俺困っちゃうのね』
『僕が予想するに、彼女は僕等と文化が違う程の田舎者なのさ。仕方ない仕方ない。この感じだと…ほら。きっと山育ちだろうからね。慣れない街に降りて来て、少々気が立ってるんだ。野生動物と大差ないさ』
『あ?キレたが?お前ん家特定して乗り込むからな。その腐った首洗って待ってろ』
『あー。シオ先輩。一旦落ち着けますか?』
シオシアを宥めたのは、黒い髪に赤色のメッシュが入った女性。彼女は桜城エマ。よく読み間違えられる苗字と、『エマち』と言う愛称で親しまれ(ユリウスの所為で)キレると口が悪くなる事で有名である。
『後、ユリウスは黙れ。お前だけセリフが長いんだよ。アーカイブが長くなるだろ』
『嗚呼!なんて恐ろしいんだろうか!そうやって直ぐに下品で貧困的な言葉遣いになるの、今からでも直した方がいいんじゃないかい?それじゃあ何処に行っても苦労するだろう?』
『うざ…。誰が好きで暴言なんか吐くんだよ。お前以外に暴言吐いた覚えがねぇよ。お前の大好きな特別扱いだろ。光栄に思えよ』
『はいはい。お2人さんステイステイ。言い合いは良くないない。そこのお馬鹿さんの頭くらい良くないない』
『あ?何お前』
この様に、喧嘩ばかりの2人をジルが仲裁するこの一連の流れ。ゴミ箱ファンにとっては、今日1日だけで何度見たかも分からない。既に見慣れたものになった。ただ、今回に限り、仲裁の代償として鎮火寸前だった火が再燃してしまっているが。
『何故?どうして煽るんです?折角、このクズを生贄にシオさん落ち着かせたのに?』
『クズ?皆。クズって一体誰の事だい?…嗚呼。まさか自分の事だったかい?そんな卑下しなくともエマちはクズじゃないさ。そんなに気に病まなくても良いんだよ?』
『コイツマジで何?』
『フッ……本当に煽る事しか脳が覚えてないんだな。知的な猿の方が、よっぽど知能が高そうなのね。シオとタメ張れるかもな』
『あ゛?』
『何故???どうして煽るんです???』
勿論、ジアルートは2人の仲裁に入る。それと共に、シオシアを煽る事も忘れない。彼等も彼等で何かしらの確執があるのだろう。問題は、ジアルートに煽っている自覚がない事と、2人の喧騒を止められる人が居ない事の2つだ。
「少し黙ってるだけで2試合も決定する謎」
『戦後もびっくりの試合ペースですね』
「うーん?着眼点が違う!流石!さすシノ!」
頼みの綱も、垂れ下がっている位置が何処かおかしい上、既に事態の収集は困難な状態になっている。もう何をしてもしょうがないので、先生は考えるのをやめたくなっていた。
「それはさておき…さっきから、1人足らなくない?乾杯の時は居たよね。画面上には7人ちゃんと居るけど」
『そういや寝坊した司会進行が居ないな』
『ハッシーならツマミ買いにコンビニ行った』
「何してんの?」
シオシアの言う「ハッシー」と呼ばれたライバー。彼女は花簪。ゆるふわパーマの金髪美人でゴミ箱最初期メンバーの1人。マイペース。自由奔放。おっとり。コレらを最大限極めた女性である。
また、シオシア。ユリウス。花簪。この3人を纏めてゴミ箱3大ロクデナシ。人類の枠を超えたダメ人間。等と呼ばれ人気を博しているが、肝心の当人達はその一切を否定している為、まさかの非公式である。
「…それで。シオシアさんは何でその事を?」
『さっき「お金が足りない〜」って無心が来た』
「マジで何してんの?」
『だーいじょーぶだいじょーぶ。いつもは私がアイツに奢らせてるから』
「もう終わりだよこの国」
ただでさえ良くはない彼女達の印象が、更に悪く強く刻まれていく。その所為か、昼の嫌な出来事が頭もよぎり、頭痛からこめかみに手を当てる。いつか、この頭痛が胃痛に変わる日が来るのだろうか。
「はぁ………」
『コレを見てる皆さん。悪い事は言わないんで、ユリウスとか言うクズとは縁切るのがオススメです』
『そんなまさか!皆、君じゃないんだから、そんな直ぐに暴言吐いたりなんかしないよ。絶縁宣言なんてそれこそ有り得ないだろうね。君が素直に謝罪をするくらい有り得ないんじゃないかい?』
「うわぁ、まだやってるよ…」
なんやかんやと背景で白熱していたバトル。ユリウスが他人と激しめの対話をすること自体、そう大して珍しい事ではないが、せめて時と場所くらいは選んで欲しいのが先生の本音である。
『は?お前の道徳心溢れる素晴らしい言葉の一切が載ってないペラペラの虫食い歯抜け辞書とか違って、アタシの辞書には謝罪の言葉が載ってるからな?お前相手に使う理由が見当たらないだけで』
『さっきから変な生き物が鳴いてるね。僕が無知だからか、何言ってるのかさっぱり分からないけど。全く…そんな当たり前の事誇ったりなんかして、本当に高校を卒業出来たのかい?』
『おーい?我が身とか見れるか?その部屋に鏡とか有るか?自己認識能力はちゃんと持ってるか?それとも、残念ながら生まれ持てなかった欠落者か?』
『フッ……何気にエマちも煽りカスだな。勿論、一留の癖に煽る方が悪いが』
『まぁ、ユリウス先輩だけでしょうね。エマち先輩が煽るのは。エマち先輩は基本は温厚な方なので』
『せ、先輩…???聞き間違いか?このクズに?先輩?敬称???』
『ウッソだろ?シノさん正気かぁ?』
シノの「ユリウス先輩」発言に、場がどよめく。コメントもシノに対する疑問ばかりで「?」の文字だけが流れている。どうやら、ユリウスが嫌われているのはゴミ箱において、変わらない共通認識の様だ。
『…お前。さては誰かの恩人でも何人か殺したろ…』
『あらら。君に同情されるなんて僕も落ちぶれたね。この生涯の中でも、この上ないだろう惨めさを感じてるよ』
『嗚呼、そうだな。同情したアタシが馬鹿だった』
『おや?やっと理解したかい?自らに非があると』
『は???[訴えられたら負ける言葉]!!!』
ユリウスの言葉に遂にエマが我慢の限界を迎える。決して文面には起こしてはならない内容だが、彼女を非難する人はこの世にはただの1人も居ないだろう。
『コレ、エマちが1番嫌ってるまであるな』
『その気持ちは分かるし、否定はしない。寧ろ、肯定すべき。コイツは産まれるべきでは無かった』
『シオ。流石に言い過ぎだと思うなんだわ』
『は?敬称つけろよ。お前は私より偉いのか?』
『フッ……怖い。マジで何…?何で突然キレられたの…?更年期特有のアレなの…?女子高生なのに…?敬称ってミスで良いの…?ジル分かんない…めぅ』
『テメェも随分な煽りカスじゃねぇか…』
なんて、2人から一歩引いていた筈のジアルートとシオシアも、また一触即発の雰囲気を醸し出し始めた。4人に置いてけぼりの先生とシノは、静かに手元のグラスを傾ける事しか出来ない。
だが、折角のイベント。その2次会の様なモノを、陳腐な言い合いを流すだけの変な配信にする訳にはいかない。面倒だと思いながらも、先生は手を叩いて全員の注目を集める。
「はいはい。ケンカップルの方々。そんな事してると、カップル物の公式グッズと同人誌を出されるよ」
注目を集めてからの先生の発言に、空気が一瞬にして凍りつく。少しばかり落ち着かせる筈が予想以上の効果。それどころか、画面越しに無言の怨念さえ感じている。
「……なんて事を言ったら、全員から嫌われる事になるので、みんなも言わない様に気を付けよう」
『逃げましたね』
「もっと綺麗な言い方があるよ。戦略的撤退」
覚悟は決めていたと言わんばかりにカメラ目線でキメ顔を披露する。表情がトレースされた立ち絵も、キリッと効果音が出そうな程、凛とした表情で決めている。
『フッ……先公。逃げるなんて男が腐るぞ』
「うぇぇへぇっーん…怖いよぉぉ…オレ、女の子にされちゃった…」
『うわ。ごめん。死ぬ程吐き気した。誰に訴えたら勝てる?裁判所?』
わざとらしく泣き喚く先生。その誤解を生みそうな発言に、ジアルートの感じていた怒りは無くなる。だがしかし、それと同じだけの忌避感が発生してしまっていた。
『あー、でも私。ジルとのグッズが出たらマジでキレるかも』
「何で?死ぬ程吐き気を催すから?」
『えー?だってコイツ金無さそうじゃん。私、養ってくれる人が好き。先生も私を養ってくれるなら考えるよ?』
「ごめんなさい。気持ちは嬉しいんですけど。貴方とは友達でいたいかな…笑」
『何で告白した事になってんの?』
申し訳なさを微塵も感じない上、明らかに見下した態度と発言に、舌打ちとお気持ちのお言葉がお返事として返ってくる。どうやら、シオシアにもジアルートと同類の感情を抱かれた様だ。
『やーい。先公如きに振られてやんの〜』
『先生もだけど、コイツとカップリングされるのも癪だな。ロープ買お』
『フッ……人○しはちょっと。先公が相手じゃないと許されないのね』
「多分そう言う意味じゃない。後、流れ弾が痛い」
『おやおやぁ!?2人に嫌われてるんじゃないのかい?嗚呼、なんて可哀想だろう!何も全ては先生。君自身の発言故だけれどね!』
「なんで嬉しそうなんだよ。1番嫌われてる癖に」
楽しそうな嫌われ者筆頭に、負け惜しみの反撃を口にする。しかし、そんな事言われ慣れているであろうユリウスに、その程度の言葉は痒みを催す事すら出来なかった。
『いや、まぁ、真面目の話だけどね。シオは一丁前に年齢とか気にするタイプだろう?アラサーのジルは最早相手にはなり得ないんじゃないのかい?嗚呼、勿論だけどシオは僕もお断りだよ。何なら、この箱の人間全員お断りだね』
『ユリウス。お前、いちいちセリフ長いんだけど。黙って聞くこっちの気持ちにもなれよアラサー。何?人って年取ると話が長くなるの?』
『いやいや、待ってね。流されたけど俺アラサーじゃないのね。アラトゥエなのね』
「ジルさんやジルさんや。アラトゥエって何ですか?ピチピチの20代がアラウンドとか使っちゃってるんですか?わーーーお!!!若見えー!」
『フッ……ウザイなお前!急にどうしたよ!ビビったわ!てか、20代もアラウンド使うだろ!何なら、20代も後半からはアラサー名乗るんだから、20代の半分くらいはアラウンド使ってんだろ!』
『24歳が22歳に噛み付く…悲しい構図ですね』
しみじみと日本酒に口をつける。配信が始まってこの方、シノの飲酒ペースは決して緩んでいない。この配信に於ける飲酒量は彼が頭1つどころか、桁1つ上回っている。だが、それに気付いている人物は居ないだろう。
『うーん。先生。君の煽りは的確な様で何処かズレているんだよね。煽り慣れてないんだろう。これじゃあ相手にマトモなダメージは与えられない。煽る意味がこれっぽっちも無いね』
『お前はどこを評価してんだよ。少なくとも慣れるべきじゃねーよ。お前が喋ると教育に悪い。24歳俺が教えてやろうか?正しい言葉遣い』
『わー!24歳!24歳じゃん!アラサー手前!24歳って小学生からしたらもうおじさんでしょー!』
『うっせぇな。人を年齢で呼ぶな年増。お前も年齢で呼ぶぞ』
『やめろや』
『あー?えー?どうしたどうしたぁ?んんー?年増さぁん?君ってば年増さんなのかなぁ!?ミス・シオは、ミセス・シオだったのかなぁ!?』
『殺します。ミュートお願いしまーす』
『うわっ、マジかコイツ。最後にこれだけ言わ——』
ジルの言葉は無惨にも途中で途切れた。何処かでこの配信を監視している者(※ゴミ箱社員)が、彼から言葉を奪い去ってしまったのだろう。今となっては無音で動くだけの絵でしかない。お通夜にも似た静寂が訪れている。
「…ジアルートは死んだ。買うべきでは無い怒りを買ったのだ。彼は若さを誇らしげに主張していた。若さを主張する奴に碌な奴はいないので、まあいいか……」
『そんな若さ主張してました?だまされんぞ』
「ペニ○ワイズやめてね。でも、まぁ、ジルニキが後先考えずに特攻したのは若さ故の蛮勇でしょ。あの行動が若さを主張してたよ。あの蛮勇、見習いたいね。俺も若返りてー!」
『老化を知らない最年少が何か言ってるなぁ。うんうん。あんよがとても上手だね。積み木は楽しいかい?』
『殺します。ミュートお願いします』
『ん?なんだい?なんで君——』
ジルに続き、ユリウスの声が途絶えた。エマの果てなき怒りを買ってしまったのだ。どうやら、彼女の優しき心は自分だけで無く、他人が煽られる事にも怒りを覚える仕様のようだ。
「ああ!何故にエマちが…!」
『交通事故ですかね。最近は多いと聞きますが』
「明らか違うよね?どう見ても過失じゃないよね。どう見ても意図的だよね。故意だよね」
『コイ?それは、彼等に春が訪れたって事ですか?』
「違ぇよ。話が通じねーって言ってんだよ」
今になって漸く先生は気付いた。シノは酔っている。恐らく、知らないだけで配信が始まるよりもかなり前から呑んでいたのだろう。心の中で「貴方ツッコミだろ」とツッコミを入れたのもやむなし。
『さて。皆のツマミって何?私は兄貴ニキが作った奴』
「思ったよりも早く戻って来たな……。まぁ、オレは特に無いかな。麦ティーだし。シノさんとか手作りしてそうなイメージある」
『ええ。それなりには…あまり手の込んだ物は作れませんけどね』
『フッ……良いねぇ良いねぇ!ツマミは直ぐに出来てナンボだと俺思うのね!自作のツマミこそ良し!最高に憧れるってワケ』
「良かった。生きてた」
『因みに先生は料理上手いよ』
『うわっ、ユリウスか。誰かと思った』
「辛辣ぅ…」
断罪終了後のエマから飛び出した直球な罵倒に、例え相手がユリウスであろうと、幾らかの同情の念が芽生えそうになる。勿論、芽生える事はない。地球が平面だというくらいあり得ない事だ。
『じゃあ、次のイベントで手料理対決させようぜ。シノさんと、兄貴ニキと、先生で』
『ライバー、私1人しか居ませんけど…?』
「てか、兄貴ニキって何…?」
『誰得なんです?ソレ…』
『じゃあ〜、私食べる役が良い〜』
『フッ……誰?』
突然、会話に参加する間伸びした女性の声。そう。彼女こそ、ハッシーと呼ばれるゴミ箱ライバーだ。大事なイベントにすら寝坊する。それくらいマイペースを極めた人なのだ。
『お。引きニートじゃん。おかえり。人の金で何買ったん?』
『赤ラ○ク〜』
「ヤニカスじゃねぇか」
———
——
—
546 風邪引けば名無し ID:LgvpOqMm
乙
547 風邪引けば名無し ID:sWaQcdXj
乙〜
548 風邪引けば名無し ID:FjXpYwkj
終わっちまった…
549 風邪引けば名無し ID:OgyDaxSw
1日通して終わってはいたけどな
550 風邪引けば名無し ID:fapygjfJ
うーん。せやな!
551 風邪引けば名無し ID:Oagvdyaj
初手MCが遅刻するのでダメだった
552 風邪引けば名無し ID:Cdptyjwm
ゲストがMCやってる事の方がおもしれーよ
553 風邪引けば名無し ID:Odjadxgj
なんで遅刻魔とゲストがMCなんだ…
554 風邪引けば名無し ID:SlGgomFw
どこを切り取ってもユリウスがウキウキで好き
555 風邪引けば名無し ID:OgfAyJst
正直、先生が1番働いてて草なんだ
アイツ、初めから最後まで何食わぬ顔で居るの何?
休憩とか知ってる?
556 風邪引けば名無し ID:EgtMjfzO
流石、ゴミ箱の誇る過労死枠
557 風邪引けば名無し ID:FptMjnaJ
※先生はゴミ箱所属のライバーではありません
558 風邪引けば名無し ID:GogjMmdf
以下。イベントまとめ。
○祝!初めての箱イベ開幕!MCヒキニートが遅刻!特別ゲスト先生!たったの1人で頑張った!
○開幕から全開!ユリウスとエマちコンビ。愉快なパーティーゲームが愉悦なデスゲームと化す!
○シオとゆうちゃん!運ゲーに脳がびしょびしょ!息が出来ずに溺れ死ぬ!水死体は浮かばない!
○朗報!ユリウスついに刺される!エマち会心のフレンドリーファイヤー!コメント湧く!
○シノ&ジル!ヤ○ザ事務所を開く!拳銃複製で最強無敵!ユリウスの暗殺依頼が止まらない!3回目の死!
○クソガキコンビ!下手にハイスペの所為で分からせる事が出来ない!詐欺にマッチポンプ!ユリウスが死体で見つかる!
○なのちゃんヒキニートと組まされた!ブレーキは右左どっち?掟守りの都会走り!先生助手席で口説かれる!焼死か事故死か!
○星屑カイト!ホンモノを見せつけ、先生怒りの咆哮!何故かユリウスが反応する!クズの自覚あるなら死ね!
○デデデッデン!社長が登場!先生の性癖を深掘りして上流階級の威厳を見せる!ゴミ箱が震え上がった日!真の罰ゲームとは死刑の事だった!
○新人組!先生ママから浴衣を贈られる!先生!採寸は何時やったんですか?まさかの質問に先生火葬!二酸化炭素と水だけが残る!
○ほらふきママ!ユリウスに記念イラストを贈る!一体何故?ユリウスの一人称視点!イラストにユリウスだけが何処にも居ない!
○鎹ママ!兄シオのビジュを発表!予想外のビジュに二次創作作家が死んだ!だがしかし、先生ではないので炎上回避!
○ヒキニート!配信しなさ過ぎて記念イラストが描かれなかった!貴女は何をしていたのですか?ちちかまぼこママ祝いの一言!
○間中生ままなママ!ジルを脱がせた!割れた腹筋!現実はこの倍くらい割れてるらしい!人間超えか?シックスティーンパック以上確定!
○小鳥遊みなとママ!エマちのえっどな際どいイラストを贈る!致命的なファイル選択ミス!コレを通したゴミ箱運営はもう手遅れ!
○万命ママ!クソガキコンビにイラスト贈る!成長ifに水着を併せる名采配!美男美女でも中身はクソガキ!ヤ○サーの教科書!
続く。
559 風邪引けば名無し ID:XgLNfwpj
草
560 風邪引けば名無し ID:NsvEaVdx
普通に草生えた
561 風邪引けば名無し ID:SkGydaEt
コレはロックやね
562 風邪引けば名無し ID:FptOBwMv
アカン
疾走感が好き過ぎる
563 風邪引けば名無し ID:gSoaXjmj
掟守りの都会走りは安全運転定期
564 風邪引けば名無し ID:LsyDxjJe
新人組の新衣装の盛り上がりは異常だった
炎の勢いも異常だった
565 風邪引けば名無し ID:SrJyBoDt
新衣装小ネタ。
なのちゃんとゆうちゃんのリストバンド?はお揃い
シノさんの巾着袋にはエナドリが入ってる
566 風邪引けば名無し ID:fsyjGglA
多分ヘアゴム。あまりにてぇてぇ
567 風邪引けば名無し ID:BsOngyJt
コメント「兄シオ…黒髪なんや…」
↑コレはガチで思った
568 風邪引けば名無し ID:FpwAugOb
ゆうちゃんの髪結び差分
手首からヘアゴム消えてるの細かい
569 風邪引けば名無し ID:OgvAntMl
″シックスティーンパック″
コレ流石にバカ過ぎて好き
570 風邪引けば名無し ID:CdpTyjjy
鎹ママの炎上回避理由が好き過ぎる
先生が先生と言う理由で炎上するの可哀想
571 風邪引けば名無し ID:LsyyMlnp
″二酸化炭素と水だけが残る!″
完全燃焼してて草
572 風邪引けば名無し ID:JxpLjYtx
″クズの自覚があるなら死ね!″
この勢いマジでズルい
流石に耐えられなかった
573 風邪引けば名無し ID:gCdwSvjw
拳銃コピーコンボマジで好き
拳銃持ち過ぎて弾丸持てないの愛すべきアホ
574 風邪引けば名無し ID:SrtXdjJx
″水死体は浮かばない!″
どうやったらギャンブル中毒から
この言葉が思いつくんだよ
575 風邪引けば名無し ID:cpXkeAyw
社長。最初に罰ゲームを実演するの天才よな
576 風邪引けば名無し ID:cdTyaMGs
必死さが段違いで盛り上がりがエグかった
尚、ただただ罰ゲームを受けただけの先生よ…
577 風邪引けば名無し ID:OsOjwxGu
先生「え?せ、性癖発表?マジの罰ゲームじゃん…。じゃ、じゃあ、太ももで」
社長「抽象的過ぎる」
先生「…え?あっ、えっと…じゃあ、ひんやりした二の腕で」
社長「もっと具体的に。鮮明に、誰にでも分かりやすく。この3倍以上は最低限必要。日を跨ぎたいんですか?」
先生「嗚呼〜っ!もうっ!二の腕がっ!実は脂肪って!発熱しないので夏でも冷たかったりするんですっ!今日みたいな夏の暑い日に!エアコンが壊れた暑い部屋でボロボロの扇風機に冷やされた、程良く脂肪がついてふわふわのヒンヤリスベスベ二の腕に汗でじっとりとしながら頬ずりしたいんですっ!コレでどうですかっ!!!」
社長「うわきも」
先生「……だれか…ぼくをころしてください」
578 風邪引けば名無し ID:OtyPojpT
ごめん草
579 風邪引けば名無し ID:AcegGyjj
本当に酷くて笑っちゃったんだ
580 風邪引けば名無し ID:OgvJvjwn
あのヒキニートですらかなりガチってたの凄いよな
581 風邪引けば名無し ID:cNpvJxgw
やっぱ、社長って人の扱い上手いわ
コレは社長の器
582 風邪引けば名無し ID:fMgrJucJ
あの短時間で業が深過ぎる性癖を
全て言語化出来てしまう先生も怖いよ
583 風邪引けば名無し ID:faxRtlnG
そういう表現無いのにえっちが過ぎる
584 風邪引けば名無し ID:zXlaBgyd
絶好調だなこの変態
585 風邪引けば名無し ID:CgsQyxtm
とても親友が失踪してるとは思えない
586 風邪引けば名無し ID:faBaxTto
ガチの笑えない案件じゃねーか!
587 風邪引けば名無し ID:LmgodUlj
こいつのメンタルどーなってんねん…
588 風邪引けば名無し ID:IjgOwjDw
流石の鋼メンタルやね
———
——
—
彼女は手慣れた手つきでマウスを動かし、ディスプレイに映し出されるスレッドを流し読む。最新のレスまでスクロールが終わり、呆れた様に溜息を1つ。そして、更新ボタンを押した。
「…コレだから君達は……」
また1つ。また1つと溜息を吐く。ここにレスをしている彼等は本当に配信を見ていたのか?そんな疑問が頭を駆け巡り、察しの悪さに呆れる事すら馬鹿馬鹿しいと鼻で笑う。
「どう見ても絶好調なんかじゃない。最近の配信見る限り、明らかに調子悪そうだったけどね」
ファンでも無いんだし分からないのは当然だ、と。理解は示すがそれだけだ。彼女にしてみれば、最近の先生の配信は今までとは明白に違う様だ。それは、まるで人でも変わったかの様に。
諦念した態度で新しいレスに目を向ける。そこに馴染みのある言葉を目にして、彼女はキーボードに手を伸ばす。カタカタと文字を打ち込み、そのレスに返信を打った。
601 風邪引けば名無し ID:FgyjPywt
あれ?厄介ニキネキは?
いつも先生の話題になると
Gみたいに這い出てくる癖に
602 風邪引けば名無し ID:LtYgymTj
はぁ…お前らは本当にダメダメやね
闇夜血炎の事が1ミリも分かってないわ
そんなんじゃ闇夜血炎ファンは死んでも名乗らさんぞ
まっ、教えるつもりはないけどな
頑張って自分で気付くんやで
そうとレスを返せば、3分もしないうちにアンカー付きで殺意を含んだ返事が返ってくる。何度として見慣れた光景。自分と言う存在が闇夜血炎と同じ括りでネタとして消費されている事に優越感を覚える。
「ふふっ…いいね。いいね」
似たもの同士だとか、お似合いだとか。そんな、本来なら貶すつもりで放たれたであろう言葉に、彼女は喜びと幸福感を感じていた。それがネタであろうとも、好意を抱く人物との相性を良さそうと言われるのは嬉しくなるものだ。
「……それにしても…。本当に大丈夫かな…」
今日の配信に映っていた彼の姿は、今までの彼の姿よりも遥かに暗く落ち込んで生気を失っているようだった。その上、彼女はそんな彼の様子をどこか懐かしいとも思っていた。
まるで、過去に似た雰囲気の人と出会っていた人と出会っていたかの様な。
「まぁ…でも、私に出来る事はないかー…」
静かに無力感を嘆く。溜息を吐くとともにブラウザを閉じて、チェアに身体をゆっくりと預けた。薄氷の様な澄んだ色の瞼を落とし、心を落ち着かせる。
「なんだか、馬鹿みたい…」




