配信53枠目 序章、第一節。
『後は頼んだよ。僕の親友』
誰かの囁く声に心臓が跳ねる。それは、頭が突き刺す様に痛むよりも先に、胸の中にぽっかりと空洞が開く様な虚しさを覚えさせた。それを感じながらの目覚めは、比べようのない酷さだ。
「…痛むな……」
黒髪が揺れる。気付けば、視界の上端に前髪が垂れ込む様になっていた。部屋からはいつまでも埃の匂いがして、幾ら換気をしても埃の匂いが消える事は無かった。その匂いにもいつしか慣れ始めた。
(……起きてるかな…)
部屋を埋め尽くす様に段ボールが天井近くまで積み重なり、一部の段ボールからはガラクタ達が顔を出しており、歩く道すらも190を越える体躯ではマトモに確保出来ない。そんな隙間をなんとか縫い歩き、扉を開けた。
朝でも日差しのない、暗く静かな廊下を歩き、扉の隅から漏れる光を頼りに、リビングを目指す。目覚めの悪さ故か、その足取りはとても軽快な物とは言い難く、その一つ一つが重量を感じる。
そうして、リビングの戸を開けた時、既に起きて朝食を用意していた先生と目が合う。決して大きい訳ではない瞳を狭めて笑う艶やかな笑顔に、やはり既視感を覚えた。
「アレ?起きたんだ。まだ5時なのに。眠気も取れていない様だし、もう少し寝ていた方が良いんじゃない?」
何よりも早く不調を感じ取り、相手に意識させない様に休息を促す姿も、頭に浮かぶその人物と重なる。容姿が似ていない訳では無いが、自分とその息子程では無い。だからこそ、確信が持てない。
「…知っているかい。人の性格は遺伝が半分を占めるらしい。そして、残りの半分は育った環境らしい」
「突然だね。どうかした?」
「…遺伝って言うのは両親のどちらを引くんだろうね」
———
——
—
「今日から夏休みー!!!」
「ウェーイ。ピースピース」
浮かれる部長と、それよりかは落ち着いているが、それでも浮かれているのは分かるマーク。彼等はリビングに入って来て開口一番にそう口を開いた。
「今日から毎日朝から晩までここに来れる幸せ」
「帰っていいよ。全然」
「イケメン君さ。なんか不機嫌じゃない?」
「自覚なし…と。なんとも…まぁ、救えないね」
今日から一月は続くであろう面倒事に、白氷はただでさえ多い頭を悩ませる問題が、更に増えた様に感じた。しかも、その原因は更に暴走を続け、次に矛先が向いたのは先生だった。
「どう?先生!現役JKの私服!」
「うん。センスも良いし、可愛らしくて、とてもよく部長さんに似合っているよ」
「んふっ……でしょー!」
キッチンで洗ったばかりの食器を、布巾で拭ってしまい、拭ってはしまい、と。一つ一つ片していた手を止め、真剣な顔で見つめながら吐かれた甘い言葉に、少々照れつつも、喜びの声が漏れる。
「……なんか変だよ!?」
その一部始終を見ていた凛がそんなツッコミを入れる。突然にそう声を上げたので、作業に戻っていた先生の意識もそっちに向き、内容からも自分に向けた言葉だと理解し、凛へと問い掛ける。
「ごめん。何かおかしかったかな」
「いや、えっと…ね。あはは…」
「変なところがあるなら教えて欲しいな。今すぐにでも直すよ」
「だ、大丈夫。わ、悪い意味じゃないから…」
(無理無理!言えないよ!乙女ゲームの攻略対象みたいな台詞回しになってるだなんて!)
申し訳無さそうな先生に、タジタジになりながらも、何とか話題を終わらす。ヒナと凛とのやり取りを見ていたマークはいつからか堪えきれない笑いに身を任せ、部屋に笑い声を響かせていた。
「あーあ。分かってたけど、兄弟揃ってかぁ……くぅー……ニクいねぇ!」
「流れ弾が飛んできたんだけど?」
「自覚なし…と。なんとも…まぁ、救えねぇぜ」
「…はぁ、もう良いよ」
何を返そうと無駄な手間だと理解し、勘違いされたままと言うのは癪だが、反論は諦める事にした。それに、白氷にはそれよりも優先すべき事があった。
「そう言えば、昨日は遅かったね。何してたの?」
無論、そんな事が知りたい訳では無い。この質問は先生に対し、軽く探りを入れるモノだった。昨晩からどうも引っ掛かる違和感を解消したくなったのだ。
「昨日かい?嗚呼、ちょっとした所用が出来てね。決して大した用事じゃなかったんだけど、時間が掛かりそうだったから、父さんを先に帰らせたんだ」
「へぇ。所用って?」
「んー……友達の…家?に行ったと言うか…軽い飲み会みたいなモノだよ。まぁ、オレは呑めないんだけどね」
フフッと鼻を鳴らして、穏やかな表情のまま、作業に戻る姿を、白氷はジロリと観察する様に眺めていたが、直ぐにヒナが新しい話題を出した事で、意識と共に視線も戻した。
「そうそう。そう言えば、3人暮らしだったんだね」
「まぁ、それは最近になっての話だけどね」
「先生がシラユキグループを調べてた理由も良く分かったよ。予想は出来てたけど」
「その件は本当に申し訳がないよ。昔から俺は面倒臭いと後回しにする事が多くて…」
「それで?その人は今はどこに居るんだ?」
「朝から外出してるよ。忘れ物?が有るんだって」
(大方、思い出した記憶の中にやるべき事か、確かめたい事でもあったんだろうな。かく言うオレにも、やらなきゃいけない事が…)
昨晩の事を思い返す。ミカくんの父親と話した事とその内容。そして、ミカくんの実家である皇家について。それら全てが今の先生の目下の問題だった。
「それで。頼んでた件はどうだい?」
「問題無いよ。それに、こっちもこっちで驚く事ばかりだったんだ。それは、昨日の件よりも」
「ありがとう。メッセージにでも送って置いて貰えるかな?」
「うん」
「それじゃ、オレは自室に戻るよ。今日も暑いから熱中症には気を付けてね」
そう言って見せていた笑顔も、暗い廊下に入った瞬間には消える。そして、タイミング良く送られて来た凛からのメッセージに目を落とした。
(流石…オレなんかじゃ、知り得ない事ばかりだ)
彼の情報源が気になりつつも、操作していたスマホを耳に当てた。その後、3コールとしない内に相手と通話が繋がる。
「もしもし。青くんかい?」
『…珍しいなぁ、先生から連絡なんて。一体、何があったんだい?』
———
——
—
「それで。なーは兄さんに何を?」
先生が居なくなった後のリビングで、白氷は神妙な顔持ちで凛に問い掛ける。その真剣な表情に凛も、気を引き締めた。
「分からないんだ。僕も調べて欲しいとしか言われてなくて」
「内容は?」
「んー。まぁ、口止めされてる訳じゃ無いし、教えるよ」
そして、先程ポケットに仕舞い込んだスマホを取り出し、先生に送ったばかりの、ファイルの内容を読み上げ始めた。
「内容は配信者の『ミカくん』について。それと、彼の家?家族について。恐らくだけど、後者が本当の目的だと思うよ」
「ミカくんって、実況者の?今でも偶に見るな。何でんな人の事調べてんの?」
「「あー…」」
何も知らないマークの問い掛けに呆れたと言うより、諦めた様な腑抜けた声を出すヒナと凛。「面倒臭い」とでも言わんばかりに、頭を抑えた白氷が口を開く。
「兄さんはその人と友人なんだよ。高校生の時からね。じゃ、詳しくは後で話すから。なー。続きをお願い」
「あ、うん。『ミカくん』登録者60万人超えのゲーム配信者。主に、配信を切り抜いた動画なんかを多く投稿してるから実況者って思ってる人も多いみたいだね」
「俺ちゃんの事か」
「本名、皇和葉。25歳。男性。4月2日生まれ。身長180cm。名家。皇家の跡取りにして、現当主の一人息子。皇家の面汚し。やら。皇家の汚点やら。裏では色々言われてるみたい」
「へぇー。坊っちゃんなんだ」
「こっわ。毎回どっから持って来んのお前」
一同が関心の声を漏らす中、白氷だけは顔に手を当て、頭を悩ませていた。そうこうしているうちに、続きが凛より語られる。
「皇家は昔から様々な企業の経営をしてて、特に有名なのは平定株式会社。平定グループホールディングスって言った方が伝わり易いかな。彼はそれの次期会長とも言われてたりするよ。また、彼が面汚しや汚点って言われてる理由は多いんだけど、過去、学生時代に何度か警察沙汰を起こしてたりするのが原因みたいだね。でも、その全てが揉み消されてるのか、詳しくは分からなかったし、その辺りは、当時から付き合いのある先生の方が詳しいだろうから調べてないや。産まれて早々に母親が他界し、兄弟が1人もいない事から、傍系から目をつけられ、程の良い操り人形にする為、幼少期の頃から英才教育を受けさせられたりと、家には良い思い出がないそうだよ。それに、父親とは——」
「はい。一時停止。長過ぎまーす」
全く終わりの見えない話に、マークが思わず一時停止する。
「普通に世界観が違うなぁ…」
「後どれくらいある?映画何本分?」
「文庫本1冊」
「振れ幅がデカ過ぎる…」
そんな、何の為にもならない話が繰り広げられた時、ずっと流石に頭を働かせていた白氷がその口を開いた。
「兄さんから依頼されたのは、いつ頃?」
「2日前だね。それまでは副部長のお父さんについて調べてたよ」
(なら、やっぱり関係は無いか…?しかし…)
「何?イケメンレーダーに反応でもあった?」
「その呼び方やめてね。まず、そんな物ないし」
そうして、ヒナにも聞こえる様にワザと大きな溜め息を吐く。それを聞いたヒナが「は?」と、苛立ちを覚えているのを横目に、白氷はまたしても深い思考に入り浸る。
(2日前だからと関連性を疑わないのは早計か…?やはり、行動を共にしてたあの人の方が怪しいが……あの人の記憶を取り戻そうとしてる間に何かあったか?どちらにせよ。1つ言えるのは…)
「とりあえず、なー、続きをお願い」
「うん。それでね。彼は母親を——」
(……退屈だ)
———
——
—
「突然呼び出したり…悪いね」
「いやぁ、他でも無い先生からのお誘いなんだから、僕はいつでも大歓迎さ。そんな気に病まなくても良いよ?それで?突然呼び出したりなんかして、何かあったのかい?」
若者らしいお洒落な服を着こなした青髪のその青年は、腰掛けていたアーチを離れ、立ち上がる。
「ミカくんの事で話が…」
先生の顔を見て真面目な話と察したのか。それとも、彼自身、何かを知っているのか。理由は兎も角、見せられた笑顔から、光が消える。
「…へぇ。良いよ。何について話そうか。とりあえず、例の件かな?」
「…知ってたんだね」
「知ってたかって?いつの間にか、付き合いも十何年を超えてたんだ。そりゃあ、嫌でも耳に入るよ」
伏せていた目線が、先生と合った時、先生はその闇深い暗い瞳に、心臓が飛び跳ねたかの様に、その鼓動が激しくなるのを感じた。無意識から強く握り締められた拳の中には、既に冷や汗の様なものが滲んでいる。
「嗚呼、そうだ。もう1人呼んでおいたんだ。だからもう少し此処で待とうか」
「…あ……嗚呼、そうだね」
ユリウスの言葉も既にマトモに聞き取れない。どんな何の音よりも、心音の激しさが勝って仕方ない。静止させようにも、心臓は先生の言うことを聞かない。夏の暑さも相まって、また額から汗が線を引いた。
(変だ……焦っている?…いや、怯えてるのか?…オレが?)
訳も分からず収まらない動悸に、混乱が収まらない。理由も原因も、見つけるにはあまりにも手掛かりが少なかった。その上、収まらない心音の所為で、考えが纏まらない。
そんな時、先生は右の肩に何かが触れたのを感じ取った。不意に現れた感触に、思わずその場から距離を取る。此処で漸く冷静を取り戻し、先生は自分の肩を触れた相手を視界に入れた。
「ど、どした?そんな驚くか?」
長い黒髪に赤いメッシュが混じる様に入っている若い女性。強気な性格が、雰囲気と口調に表れているのが、容易に見て取れる。当時とは少し様相が変わっているが間違いない。先生の知り合いの1人だった。
「……部長。あまり脅かさないで下さいよ…」
「いや、お前がビビり過ぎなんだよ」
と、その女性は先生に何の合図も無くペットボトルを投げる。先までの焦りは無くなり、突然投げられたそれに驚く事もなく、平然と片手でキャッチした。そのペットボトルは、結露が出来て滑りそうな冷たさをしている。
「飲んでいいぞ。後、悪いがお前の分は無い」
「酷いなぁ。差別かい?」
「区別だな。可愛い後輩と本のゴミ虫じゃ比べ物にならねぇよ」
貴方は冷たいお茶で喉を潤わせながら、2人のやりとりを眺めた。お互いがお互いに邪険な態度を取っているが、貴方にしてみれば、仲裁する事を思いつかない程、感慨深い懐かしさを感じる光景だった。
うーん!いつ見てもお似合いの2人だ!2人はお互いに邪険な態度を取っているが、夫婦漫才にしか見えない。やはり、お似合いの2人だ!彼等を見た人全員がそう思うに違いない。
(…その変なナレーションは何なんだ…?)
「2人とも落ち着いて。青くんも、お茶はオレのをあげますよ。まだ開けてませんから」
受け取ったばかりのお茶をユリウスに差し出し、なんとかその場を収めようとするが、その努力も虚しく、2人の口論は先生を挟んだ上でも行われた。既に、何の為に集まったのか忘れてしまった様だ。
「嗚呼、なんて優しい後輩なんだろうね。レイシストの貴女とは大違いだよ。全く…」
「もう一回言おうか?区別と言ってくれ。後、イブ。お前もコイツなんかに渡さなくていいから」
「いえ、良いんです。今は喉も乾いてませんし。それよりも、何年くらい経ちました?久し振りですね」
本人に聞く前に、一度自分で考えてみるのはどうだろうか?高校時代より会っていないのだから、悩む程の計算もいらないだろう。貴方はそう考えた。
しかし、もしも貴方が話を逸らす為、敢えてこの様な言い方をしたのなら話は変わってくるだろう。もしも、そうであるのなら、貴方はコミュニケーションの天才であると同時に、今すぐ称賛されるべきだ。
(本当に、さっきから何なんだ……)
「アタシが卒業して以来だから…6年くらいか?もうそんなに時間が経ったんだな」
「やっぱり、先生は部長の事なんて忘れてしまったよね。まぁ、たったの1年の付き合いだ。忘れていても仕方ないし、思い出せただけで一等賞だよ。それに、こんな蛮族。わざわざ記憶する必要なんてないしね」
満面の笑みで忘れた事を賞賛するユリウスを、部長は躊躇いも無く蹴った。遠慮のない蹴りがユリウスに当たる直前で、先生がユリウスを引き寄せた事で蹴りは誰に当たる事もなく空を切った。
「わぁ!正気かい?暴力はどんな理由があろうと、法で禁じられているんだよ?」
「言える立場じゃねぇだろ。イブも庇わなくていい。その文弱に触れると手が汚れる」
「それなら、部長が手を汚す理由もないでしょう…」
「アタシのは既に汚れてるからセーフだ」
………。ん?おっと、なんてことだ。考え事をしていたらいつの間にか出番が来ていた。しかし、今更になって読み上げるのも面倒なので、この出番は初めから無かったことにしよう。そうしよう。
(どうせするなら、ちゃんとしてくれ…)
兎も角、このままでは一向に話が進まないと察した先生は、心内で重い溜め息を吐きながら、話を本題に戻す。
「それよりも、今はミカくんの件です」
「嗚呼。そういや、そんなのもあったな」
「こいつの所為ですっかり忘れてたよ」
またしても険悪になる2人に、先生は呆れのあまりに、頭を抱えそうになるのをなんとか抑え、何とか取り仕切ろうと言葉を選び始めた時、ユリウスが口を開いた。
「でもさ。僕達に出来る事って何だい?」
「………」
先生はその言葉に反論する事が出来なかった。それは的確に、それでいて、強烈に先生な無力さを語っている。
「先生。君は然程愚かじゃ無いだろう?まさか、そんな事も分からないなんて言う筈ないよね。なんたって、相手は大企業だ。その分、コネも多いだろう。無策じゃ対等に戦えないし、相手にされないよ?」
「青。その辺でいい」
「そも、あのラギが自らあの道を選ぶと思うかい?ラギが望んでその選択をすると?本当にそう思っているかい?」
「おい。青」
「ラギが。自分の意思に関係なく、行動に移してる時点で、向こう側の強さが分かるだろう?その上で聞くよ?僕達に出来る事って何だい?」
焚き付ける様な言葉に耐え切れなかった部長が、ユリウスの胸倉を掴んで壁に強く押し付ける。そして、鬼気迫る表情に、先とは一風変わったドスの利いた声でユリウスを威圧する。
「おい青。一旦黙れ。いい加減にしろ」
「えぇ?なんでだい?僕だって何とかしようと頑張ったんだよ?その上で無理だったから、そんな相手に戦えるのか、その覚悟を問うただけじゃないか」
それでも、そのヘラヘラとした表情は変わらず、ユリウスは反応がどんなものかと先生に目を向けた。
「嗚呼、確かに。それはそうだ。何ら一つとして間違いはないよ。…でもね。僕が助けを求めたのは、ひとえに、盤面をひっくり返せる打開策があったからだよ。残念だけど、無策で抗う程愚かじゃないんだ。期待させといてなんだか申し訳ないね」
まるで意に介していない様な笑顔で、ユリウスに微笑み掛ける先生に、ユリウスもポカンと理解が及ばずら剥いた牙を仕舞う。ただ分かる事は一つ。
(キレてるなぁ…)
(キレてんな…)
何と言う事だ!気付いていないかも知れないが、貴方は自分を見失っている!今すぐに正気を取り戻すべきだ。怒りなんてあまりにもナンセンス!人生は常に楽しくあるべきだ!
(いい加減煩いよ。頼むから静かにしててくれ…)
思わず飛び出した溜め息に、2人が反応を示す。決して、彼等2人の所為で出た溜め息ではないが、勘違いをさせてしまった様だ。
「おい。なんか言う事あるだろ…」
「…はいはい。変な事言って悪かったよ。ちょっと虐めたくなっただけだからあんまり気にしないでね」
「うっわぁ…加虐趣味って…お前……」
「悪いかい?結構、ノってくると楽しいよ?」
「捕まらない範囲でお願いしますよ…」
そんな軽口だらけの会話をしながら、3人は目的地も分からないままに歩き始めた。それぞれがそれぞれ、心内に思惑を秘めながら。
(そんな事、オレは嫌でも分かってるよ…)
(全く、らしくないなぁ…)
(二度と、イブと会う気は無かったんだけどな…)
貴方は嫌われてしまったのだろうか?この沈黙が続けば続く程、貴方は辛くなっていくだろう。さぁ、早く新しい話題を振るのだ先生。話はそこから始まるのだから。
(…本当に煩い)
———
——
—
その現代の洋風建築とは浮世離れした、昔ながらの屋敷では、襖からの隙間風と共に、鹿威しの音や、雀の囀りが聞こえる。縁側から差す日差しは夏を感じさせる暖かさがある。
敷居を挟んだ先の離れ座敷では、正司が薄物の着物に身を包み、整えられた中庭を眺めながら、サッと毛筆を走らせている。
「…こんなものか」
そうした穏やかな時間も、そう長くは続かず、すぐ遠くからはドタドタと耳障りな足音が耳に入る。そして、それよりも大きい声が正司を襲う。
「おい。クソジジイ。岸尾に聞いたぞ。アイツと話したんだろ?アイツに何言ったんだよ」
その騒々しさの主は、縁側を突っ走ってきた様で、着崩れた着物を整えながら、中庭を眺めていた正司の視界を遮った。その明るい茶髪が、日光を背に金色に反射している。
「…おい、和葉ぁ。誰に物言ってるか分かってんのか?人には物聞く態度つーもんがあるだろ?」
邪魔だと言わんばかりに、しっしと、虫を祓うかの様に和葉を退かそうとした後、再び真っ白な半紙に筆を走らせ始めた。和葉の事などお構い無しだ、
「…アイツに何言ったんですか」
予想外の和葉の言葉に、正司の筆が止まった。
「テメェ、チョロいな。さては馬鹿だろ」
「あ?いいから答えろよ。こっちはちゃんとしただろ」
正司の前に向かい合う様に腰掛け、覗き込む様に睨み付ける。これ以上、のらりくらりとはぐらかした方が面倒臭いと、心底嫌そうな態度で答えた。
「へいへい。しゃーねーな。ただ簡単な事。お前と縁切れつって——」
正司の言葉を遮るが様に、畳に拳を振り下ろした。座卓の上のすずりに溶かしていたすみが、その衝撃で卓上に飛び散った。
「おぉ…コワコワ。そんな怖い事すんなよ。年甲斐も無くチビっちまうだろーがよ」
慌てた様に「畳に落ちたらどうすんだ」と愚痴を溢しながら、卓上のすみを沢山の失敗作で拭き取っていく。
「勝手にチビってろよ。俺は縁なんて切らねぇぞ。テメェがなんて言おうとな」
強気な態度で断言する和葉の誇らしげな態度から、既に誰にも止められない域にいるのは容易に想像出来る。しかし、それでもやはり、正司の重い言葉が屋敷に走る。
「駄目だ」
「あ?もういっぺん——」
「駄目だ。お前がなんて言おうとアイツとだけは駄目だ。他の奴はいい。でも、アイツは駄目だ」
辺りを閑散とさせる様な、和葉以上に強気で負けん気の無い正司に、和葉も返す言葉も思い付かず、反論無く黙り込む。当主と言うだけあり、その威圧感も常人を逸脱している。
「…んでだよ」
何とか絞り出した質問に、正司は遠慮も躊躇いも無く淡々と答える。
「ソイツが天野家の人間だからだ。コレだけは譲れない。何があっても駄目だ。絶対に」
「天野家の何がダメなんだよ」
何度目かの説明に、そろそろウンザリしてきていたが、それでも。正司は今でも時折思い出す、あの身を震わせる様な恐ろしさが、心の奥底に深く刻み込まれている。それ故、絶対に妥協はしない。また、何度目かの説明を始めた。
「…業界人なら誰でも知ってる。あの家は呪われてんだよ。あの家と関係を持つ者は、それが誰であろうと不幸になる。半年前にも、天野家前当主の末娘の夫が亡くなったそうだ」
「最早どこだよ」
「現当主の妹の夫だろ。分かれよ。馬鹿か」
「はぁ?どこ見て言ってんだ?馬鹿じゃねぇだろ?馬鹿って言う馬鹿が1番馬鹿なんだろうが。んな事も知らねぇのかバーカ!」
「じゃあ、お前は俺の5倍も馬鹿じゃねぇか」
この上ない呆れが押し寄せ、あまりの知能レベルにその将来を心配しつつも、正司は何処か楽しそうにして、和葉にバレない様に微笑みを浮かべる。
「まっ、どうでも良い。一つ言えるのはアイツとは縁を切れっつー事」
「勝手に決めてんじゃねぇよ」
「死にてぇのかよ」
「そんなの気にしねぇつってんだろ」
あまりに強過ぎる鋼の意志に、正司もこれ以上相手にしていられない。このやり取りも、既に両の手で数えられない回数を超えた。ただの現状維持の繰り返しに、疲れが溜まってきた。
(………)
「へいへい。もうそれ以上に用がないならさっさと出てけ。俺も暇じゃねぇ」
「チッ…クソ暇人が」
話にならない正司に、捨て台詞を吐いて、和葉はその場を後にする。そして、苛立ちの混じる足音が、正司から離れていく。
「はぁ…」
(……気にしねぇから困るんだろうが…コイツ馬鹿か?)
その溜め息は、穏やさを取り戻した離れ座敷に静かに響いた。いつの間にか飛び去っていていた小鳥達も、その姿を再び中庭に見せ始めた。
すると、遂にその足音が聞こえなくなった時、和葉が去っていた方とは、反対側から高価な着物に身を包み、長い髪を頭で短く結っている初老の女性が姿を現す。
彼女は皇ハナ。三代前の当主、皇義晴その三男の娘であり、正司との関係で言えば、従叔母に当たる。皇家の傍系としては、1番強い権力を持つ人物であり、血筋と家格を必要以上に重んじる性格だ。
当然、礼儀知らずな和葉とは違い、当主である正司に敬意を表し、対面1番に正座で頭を下げた。だが、しかし。いや、やはりと言った様に、正司の反応は良い物ではない。
「…当主にご挨拶申し上げます」
「帰れ。俺は忙しいんだよ」
その格式ある挨拶をもってしても、正司は少しも相手にしようとしなかった。相手の用事を聞くまでも無く、スバっと切り捨てた。
「お言葉ですが、和葉様にもう少し厳しく接するべきかと。あんな傍若無人振りでは、皇家の格も落ちてしまいます」
「はいはい。そうだな。で?本題に入れよ。無駄話がしたいなら、そこら辺の便所にでも垂れ流してろ。いいか?俺は忙しいんだよ」
「それでは遠慮無く。和葉様の婚約者の件。こちらの方で手配しておきました。式はいつ頃に致しましょうか?」
「は?」
信じられない物を見るかの様な顔でハナを眺める。怪我をしている訳でも無いのに、ズキンとした頭痛が強く響く。眉間を押さえて堪えるが、それでも痛みが消えない。
「悪い。今なんて言った?俺達のどっちか、耳が腐ってたみたいだな。話が噛み合わねぇ」
「前々から話していた後継の件です。和葉様も既にお年は25。後継者を産むには、遅いと言っても差し支えないでしょう?」
「嗚呼、成程な。今のでよーく分かった。腐ってたのはテメェの耳だな。間違いねぇ。俺は忙しいつったよな?面倒事増やすなよ。で?何故こんな事した?」
問い詰める様に睨み付けるが、この程度の威圧感には既に慣れたハナに、それは通用しない。寧ろ、売り言葉に買い言葉で、同じ土俵で迎え撃った。
「何故?それは単純な話でしょう?正司様の言う通り、和葉様が相手を選ぶのを待ちましたが、あまりにも答えを出さないので、私が自ら選出したに過ぎません。それ以外に何か?皇家の。それも、直系を絶やすだなんて事、あってはならない話ですよ」
「…言いたい事は分かった。確かにそれはそうだ。それで?和葉は納得してんのか?」
「当然でしょう」
(嘘だな。…まぁ、大方。何かしらの手段で脅したか、馬鹿が物事を軽く見て了解の返事をしたか。そのどっちかだろ)
ハナの表情を見るまでも無く、和葉な態度を見るに、その言葉だけで全てが嘘だと分かる。その為、わざに反論する事もせず、頭の中で対抗策を構築し始めた。
「ならいい。で?婚約相手は?」
「今頃、和葉様と仲良くしているでしょう」
その一言で相手すらも察した正司は、もう全くの予想通りに、驚く事も呆れる事も無く、心底面倒腐そうに密かに悪態をつく。
(っんの、クソババア…魂胆が丸見えなんだよ。本当、自分の孫娘を何だと思ってんだ。馬鹿なんじゃねぇのかよ。……それにしても、どうしたもんかなぁ…)
「そうか——」
正司の脳裏に、先日、腹を割って話したばかりの青年の顔が浮かぶ。凍える様に冷たい表情だったが、その赤い眼光の裏に秘めた意志は、和葉に負けず劣らずの強さだろう。
(まぁ…どうにでもなるか。あんなのでも、アイツが自ら命を賭けたんだ。それくらいは余裕だよなぁ?赤眼ちゃんよぉ)
「——それは、随分と見物だろうな」
「…?」
その言葉の意図が全く理解出来ないハナは、表情に出す事はなくとも困惑している。当然、そんな事はお見通しの正司は、ハナの事などお構い無しにほくそ笑んだ。
混乱止まないハナに、追い打ちをかける様に、鹿威しが音を鳴らした。その音は閑静な中庭によく響いた。
———
——
—
396 風邪引けば名無し ID:ggyRCdXt
後4日かぁ…
397 風邪引けば名無し ID:RToMxtyF
こっからが長いんだよなぁ…
398 風邪引けば名無し ID:CgVxsmeT
配信も減って暇や
他箱にお邪魔させて貰うか
399 風邪引けば名無し ID:RtyJAyTt
イベント前にこの男は…(呆れ)
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ダークナイト何某@依頼停止中
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大事なお知らせ。
vuasjpnapo.com
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400 風邪引けば名無し ID:IsyDjyXu
マジで笑えない奴で笑う
401 風邪引けば名無し ID:gCjwtJxt
コイツが真面目な時は″ガチ″
402 風邪引けば名無し ID:sOmtYzxJ
普段からもっと真面目にしろ
403 風邪引けば名無し ID:QvmTpVwn
原因不明の活動休止ってなんや…(困惑)
404 風邪引けば名無し ID:GljYxstO
ミカくんが配信しなくなる
↓
音信不通で編集者(先生)も分からない
↓
その他友人も連絡取れず
↓
とりあえず、活動休止と言う事に←イマココ
405 風邪引けば名無し ID:sDngYtwX
マジの失踪じゃねぇか…
406 風邪引けば名無し ID:gCjsYwjw
コイツはほんまネタが尽きんな
407 風邪引けば名無し ID:gVjsWnTw
本当にネタですか…?
408 風邪引けば名無し ID:CsvMxpYx
ネタじゃ済まない定期
409 風邪引けば名無し ID:MgVcfAJI
何気に人生ハードモードの男
410 風邪引けば名無し ID:PvtWgmDx
ネタキャラ過ぎて忘れるけど、
先生ってかなり不憫だし、
闇が深いんだよなぁ。
411 風邪引けば名無し ID:aaAomPtW
人に言えない重い過去があるけど、
今はケラケラと愉快に笑ってて、
時折、その闇を見せるキャラが癖です。
コイツを推すべきですか?
412 風邪引けば名無し ID:iWyaTxJn
クソみたいな自己紹介乙
413 風邪引けば名無し ID:osyWitTn
良いと思うで。変態やけど
414 風邪引けば名無し ID:KjyMgVnl
この切り抜きから入るのオヌヌメや
1番有名やし、しっかりオモロいで
415 風邪引けば名無し ID:RzoAvjGx
ほな、URL貼れやカス
二度と喋んな無能
ゴミクズがよ
416 風邪引けば名無し ID:RTmDqWMb
言い過ぎや
417 風邪引けば名無し ID:FgyMtYjX
流石に草生える
418 風邪引けば名無し ID:SyjsYmxT
このイカれ具合…お似合いやね
419 風邪引けば名無し ID:JojPygWn
先生はイカれた奴とお似合い把握
まさか、一番最初に本名が出るのがミカくんとは…分からないものですね。(流石に投稿遅れ過ぎました。すみません)
皇ハナに関して、正司との関係が叔母となっていましたが、正しくは従叔母です。申し訳ありません。




