サタンちゃまとタイ紀行その2 雑草とゴム
ユウト艦長から解放された俺たちは、スワンナプール空港があるタイの首都バンコクで円をバーツ(タイの通貨)に両替して準備万端だ。
しかし外に出ると日本と違って温暖なのでびっくりだ。だから俺と魔女二人以外は皆半袖だ。
ちなみに俺の長袖ドレスは夏は涼しく、冬は温かい冷暖房機能付きだ。
んで町彦がアミュレットマーケットと呼ばれる市場に行きたいと言い出した。勝手について来た癖に旅行の主導権を握るとは中々図々しい。
町彦が言うには、アミュレットマーケットに呪物屋が集まっているらしい。だからなにがなんでもそこに行きたいらしい。
俺たちはマーケット目指して移動始めた。
「ねぇっ屋台あるの?」
メリーが俺に聞いてきた。
「市場にゃんだから、屋台あるに決まってるにゃ」
「なにを偉そうに……ちびっ子に聞いてないわよ」
「にゃんにゃメリーッ!」
親切に教えてやったのにこの反応はない。あと偉そうには余計だ。いや、偉そうじゃなく、実際俺は偉いんだよ。
「にゃむ〜……ムシャムシャにゃにゃっ♬」
思考がモヤッとした時はうんまい棒を齧るに限る。これは俺独自のストレス解消法だ。
「ちょっとなに一人で菓子食べてるのよっ、あたしにもよこしなさいよ」
食いかけの駄菓子にメリーが手を伸ばしてきた。猿じゃないんだから意地汚い女だ。
とりあえず一本あげた。
「異国に行ってもいつもの棒菓子に依存する呆れた子供だ」
「にゃにっ!」
遠目から俺を見ていたドルチェルが呆れるように言った。
子供に向かって依存とは失敬だな。
「分かった分かった。そうムキになるなちびっ子」
「にゃにっ! まだ言ってにゃいにゃ」
「ふんっ、とりあえずこの先に大きな市場が見えるぞ」
ドルチェルが杖の先を向けた方向に確かに市場が見えた。しかもいかにも東南アジアの巨大マーケットと言う感じでワクワクしてきた。
「アミュレットマーケットはここじゃないはずなんですが……」
町彦が首を傾げていた。
「にゃんにゃ違うのかにゃ?」
「……ええ、先月タイに行ってましたし、かれこれ何十回と行ってますから分かります」
「にゃにっ」
何十回も行ってるなら今回ついて来るなよ。
「にゃら目の前の市場はにゃんにゃ?」
「そんなことも分からないのか?」
「にゃにっ!」
背後から誰かが言ってきたんで振り返った。するとそこに二人の日本人が立っていた。
ボサボサ頭の無精髭の男と、もう一人は背が高い顎ひげ丸眼鏡の爺さんだ。
「誰にゃっ!」
また妙なおっさんが俺に絡んできた。しかも美形ではない。たまには美少女出て来いよ。
「……なんだ、忘れたのか……俺を」
「だから誰にゃっ」
「……くく、くくっはぁっはっはっは!」
ボサボサ頭が突如笑い始めた。まさか毒キノコでも食ったか?
「くくっ、いや〜驚いた。あの時俺にあんな仕打ちをしたお前がすっかり忘れていたとは……怒りで思わず笑ってしまったよ」
「だから誰にゃっ」
「くく、忘れたとは言わせないぞ俺だよ俺」
「にゃっ……」
またヤバい奴に絡まれたと思った俺は顔を背けた。しかしホント可愛いからか絡まれる。
「だから誰にゃ? と聞いているにゃ」
「くく、相変わらずふざけた口調のガキだぜ。ああ、忘れたのなら思い出させてやる。俺は……プラントハンターで有名なスベリヒュ村井だ」
「にゃに、スベリヒュ村井にゃあぁ……」
プラントハンターで有名は余計だが、スベリヒュと聞いて思い出した。確か邪神が復活させた土竜戦の日に出会った男だ。
それはいいとして、そのあとエルフの村の貴重な植物を盗掘した罪で捕まっていたハズだ。
「おみゃえエルフに捕まってたハズにゃ」
「確かに捕まった。お前のせいでな」
「にゃっ!」
ニヤリと微笑むスベリヒュ村井が俺を指差した。全く大の大人が子供のせいにするなよ。
「くく、しかし、あの時は危うくエルフ共に火炙りにされるところだったぜ」
「にゃに、草盗んだだけで厳し過ぎにゃいか?」
「いや……一回逃げてからエルフの女の子に手を出したら捕まり物凄く怒られた……」
「当たり前にゃっ」
「クク、だからお前のせいだ」
「にゃにっ! 一回目はまだしも二回目の原因はおみゃえが招いた罪にゃっ!」
他人のせいにするなよクズが……いや、清々しいまでのクズだな。
てことは、隣にいる白髭爺さんも草繋がりか?
「おみゃえは誰にゃ?」
「……ほうっ、あれだけの仕打ちをしといて初対面の振りするとはのう〜……やりおる」
「にゃにがっ!?」
一度会ったかも知らないけど一々覚えていられるかよ。特にどうでもいい奴はな。
「いや知らんっ誰にゃ?」
「……ほうっ、まだしらばっくれるか? 良かろう教えてやる。わしは異世界サボテン栽培家で有名な、大谷五無雄じゃ……」
「にゃっ、おみゃえあの時のゴムかにゃっ!」
確か異世界大陸でサボテン栽培していた日本人で、弟子の女性の異世界人の旦那に嫉妬して、接木植物魔物を操り花屋に襲撃して来た困った爺さんだ。
「……ゴムっ?」
怪訝な顔したドルチェルが首を捻った。まぁ流石に異世界人でもゴムの意味知ってるらしい。だから名前がゴムって変だと感じたんだな。
しかし何故コイツもここにいる……。
「おみゃっあの時捕まったハズにゃ……」
「ふうむ……逃げたんじゃよ」
「にゃにっ」
シンプルな答えだ。
「ぼろぼろになりながらも必死な思いで日本に帰ったわしは名声財産全てを失った境遇を呪った。そう、全てはお主が悪いのじゃ……」
「にゃっ!」
そう言ってゴムが俺を指差した。
しかしコイツも逆恨みかよ。
「にゃんにゃやんのか?」
「『……』」
二人は黙っている。
売られた喧嘩なら買ってやる。だから護衛に三馬鹿を召喚した。
「社長っお呼びでっ」
呼んだから来たんだろ黒鴉。
「サタン様っ〜呼ぶのが遅いですよ〜」
目を潤ませ俺に抱きつこうとするクレナをかわした。
「ちょっと暑い……」
陽に焼けたくないのか周囲を見回し日陰を探すロウラン。
「おみゃえら仕事にゃっ」
「社長っ呼び出して早々に仕事命令とはブラックすね……」
「うるちゃい。アタチに喧嘩売ってきたそこのおっさん二人倒したらアイスあげるにゃ」
「ホントすかっ! ケケッやります!」
アイス一個で機嫌が良くなる低コストな黒鴉だ。
「さて、そこにいるスベリヒュ野郎とゴム野郎を叩き潰せばよろしいっすね?」
「にゃっ」
凄く侮辱的に言ってるけど意味が合っているからまたなんとも……。
「ま、待て、わしらは復讐を果たしに来たわけではないんじゃ」
「にゃにっ……」
「じ、実はのうっ……このチャットチャックマーケットで植物を買いに来たんじゃ」
この二人は植物マニアだから自然な理由だな。
「にゃにを企んでいるにゃ……」
「べ、別に企んでないぞい。ここで再会した縁じゃっ、わしらも買い物に参加しても良いか?」
「にゃむ〜……」
罰を受けずに逃げて来た犯罪者の言うこと全然信用出来ないのだが……。
「社長はワタシらがお護りしまっせ」
「そうです。このクレナが命に掛けてサタン様をお護りします!」
「仕方ないわね……護るわよ」
一部ヤル気のない不届き者がいるみたいだが、三馬鹿がいるから俺は同行を許可する。
んでまぁ長くなったけど、新たに雑草とゴムを加えて市場に入ることにした。
しかし遥か先まで続く広大な植物マーケットだ。良く見ると雑貨屋もあるし、もしかして呪物屋も見つかるかもな。




