サタンちゃまと松尾
「松尾と言ったにゃ?」
「へいっ松尾と申します。サタン様」
江戸っ子口調で返事する松尾。しかし一見強面だけど俺みたいな幼女に頭をさげるとは、ずいぶんと腰の低い悪魔だ。
そうそう見かけは強面モヒカン頭のいかにも『ヒャッハー』しそうな松尾は主人に対して従順なんだよな。もしかして俺がサタンだからかな……。
それを分かっていても、まだ慣れない俺はおよび腰に松尾の顔を見あげた。
凄く強そうだけど不安要素がある。それは彼のレベルが1ってこと。ゲームなら1から始まるのが当たり前だけど現実まで同じだと困っちゃうな。
すでに大勢のゴブリンに囲まれている。数にして三十匹と流石に不安になる数。
しかもゴブリンのレベルは少なくとも1以上。だからレベル1 の松尾がたった一人で、多勢に対抗出来るのか心配だ。
「なぁ松尾〜一人で大丈夫にゃ?」
「もちろんっ!ゴブリンだか知らねえが三百年前に戦った天使騎士に比べたら屁でもねえさっ!」
松尾が自信に満ちた目を輝かせ三叉の槍を構えた。
「サタン様っ危ねぇからさがってな!」
「にゃっ!?」
四方八方からゴブリンが来てるのにどこにっ!?
「ギギャッ!」
小人帽子を被ったリーダーゴブリンが叫ぶと仲間が一斉に飛び掛かって来た。
すると松尾は槍を振り回し飛んで来たゴブリンを弾き返した。
「あらよっと!」
「ギャッ!」
そしてすかさずゴブリンの胸に一刺して持ちあげ、固まった数匹に向けて放り投げた。
「ギッ!」
「ゲョワッ!」
投げつけられた一匹にぶつかったゴブリンたちが、将棋倒しに転倒した。
「ギッ……」
予想以上の強さの松尾に怯んだゴブリンたちが警戒して固まった。
ラッキーだ。さて、今のうちに出来ることはないのかな?
すると松尾がなにか言いたげに両人差し指を合わせモジモジさせた。
「にゃんだ松尾っ言いたいことにゃったら言ってみにゃっ?」
「へいっ……実はあっしは腹が減ってますんで、なにか食べ者ありやせんか?」
申し訳なさそうに松尾が腹を手で押さえながら聞いた。
「にゃ〜っあるかにゃ〜」
ドレスのポケットを手探りで探っていると宝石を掴んだ。先ほど倒したゴブリンから拾った赤、青、黄、緑の宝石だ。
「むうぅぅ……にゃいなぁ食べ物……」
「おっ!」
握った宝石を開いて見せた。すると松尾が興味を示し覗き込んだ。
なんだ欲しいのか?
「サタン様……なんだかこの宝石初めて見るのですが、無性に食欲が増してきてます……」
「にゃっ!松尾っこれは食べ物じゃにゃいにゃっ!」
「いえ、大丈夫です。良かったらください」
「マジにゃっ!?」
真顔で返事する松尾にびっくりして思わずヒックリ返るところだった。
とりあえず要らないから松尾に宝石を渡した。すると松尾は手のひらに乗せた宝石を見つめよだれを垂らした。
「宝石を食いたいなんてどうかしてると思うが……どうしても食欲が止まらねぇ……」
「よ、よすにゃっそんなもん噛んだら歯が砕けるにゃっ!」
「すっすまねえサタン様。本能的にこの宝石食べたい。だからっ!」
なにをトチ狂ったのか松尾が全ての宝石を口に入れ、なんと噛み砕いた。
「ガリッガリッボリッ…………」
なんか凄い音してるけど歯が欠けてないのか心配だ。
「…………ウッ……ウメーーッ!!美味えぞコイツは!」
「マジにゃっ!」
松尾は宝石をまるで飴を砕くように食べ歓喜した。そんなに美味しいのなら食べてみようか……いやないない。
俺はプルプルと首を横に振った。
「美味いっすよサタン様っ是非食ってみてくだせい」
勧めんなよ。それに全部食ったじゃないか。
「んっ…………………!」
「どうしたっ!?」
急に喉元を押さえてむせる松尾の身体が発光し、電子音が鳴ってステータスが表示された。
『レッドデビル松尾のレベルが4にあがりました。新たな必殺技にウイングカッターが使えるようになりました』
なんと用途不明の宝石の使い方が今はっきりした。召喚悪魔のレベルアップに必要で食べさせる物だと理解した。
宝石四個でレベル4か……じゃあもっと手に入れて食わせればどんどん育成出来るな。
なんだかゲームみたいで楽しくなってきた。
「サタン様危ねぇから少しの間頭を地面に伏せてもらいませんか?」
「にゃっ……わ、わかったにゃっ!」
早速新技を披露するつもりだ。確かウイングカッターだったな、間違いなく切り裂き系だから、首チョンパされたら敵わんと俺は縮こまった。
「サタン様っ協力感謝しやす。では……ウイングカッターッ喰らいやがれっ!」
ズバッズバッ!!
「ギャッ!」
「ギッジャアッ!」
松尾の背中の翼が回転してゴブリンたちの首を次々と跳ねた。
勝負はあっという間に終わった。目の前には首のないゴブリンの死骸が転がっていた。
「なんだ。大したことねーなぁ、異世界の魔物は……」
「良くやったにゃ松尾っ!」
「へへっ当然でさぁ、あっしはサタン様の命令とあれば命に掛けて従いまっせ」
俺に褒められ嬉し恥ずかしいのか松尾が、鼻の下を指で擦り照れ笑いした。
「本当にたのもしいにゃっ!それにゃあ、時間までゴブリン退治に付き合え松尾っ!」
「へいっかしこまりやしたっサタン様っ!」
返事を返した松尾が三叉の槍を両手で構えた。
□ □ □
こうして夕方までゴブリンを狩りついでにレベルもあげた。
現在の俺のレベルは、
【職業サタンちゃまレベル5 魔力45 攻撃力12 力9 体力10 素早さ10 幸運35 特殊スキル 悪魔ガチャレベル5】
と相変わらず魔力と幸運の数値があがっていて、他はちょっとづつしかあがらない。
とはいえ俺は悪魔召喚に全振りだから、今のところ問題はなさそうだ。
その後宝石をかき集め松尾に与えた。
その結果松尾のレベルは8になった。まぁ、充分なレベルだ。あとはじっくり育成して楽しむよ。
その後松尾の協力で狩ったゴブリンの首を駐車場に集めた。その数は数え切れないほど、相手チームより山積みだった。
「嘘っ信じられない……」
委員長のアヤネがゴブリンの首の山を見て驚き、口をパクパクさせた。
それで誰が見ても俺の勝ちだと分かった。
「これサタンちゃまが一人でやったの……」
聖女さまが聞いて来たので、松尾に命令して狩ったと正直に答えた。
「松尾……あの赤い悪魔がね……」
今は皆んながびびるといけないから松尾は仕舞った。それで、首を駐車場に運んでもらった時に聖女さまと会ったから説明する手間が省けた。
「ちょっと待てよ。こんなチビ一人で大量のゴブリン狩れる訳ないだろっ!」
早速勇者がイチャモンつけて来た。絶対難癖つけて来ると思ってたから冷静でいられた。
「あら、見なかったの?」
すっとぼけた顔で聖女さまが勇者に声を掛けた。
「なにがっ邪魔するな白銀っ!」
「あら〜この子が召喚したレッドデビルが狩ったゴブリンの首を運んでたのよ。まさか勇者様とあろう者がそんな重要な場面を見てなかったの?」
「ぐっ…………み、見てないが……召喚獣を使うなんて卑怯だぞっいや、ル、ルール違反だっ!」
勇者は都合の悪い記憶は改変するらしい。しかし聖女さまはクスリと笑って、空間にディスプレイを表示させ録画していた証拠映像を流した。
「貴方は確かに召喚悪魔の使用を許可しましたよね? その証拠は映像に記憶されてます」
「ぐっ…………た、確かに……」
「ふふっならばこの勝負我々の勝ちですわねぇ……」
「分かったよ」
負けを認めた勇者は聖女さまから背を向けた。
「あらっ……約束はお忘れ?」
「なにがだよっ!」
苛立ち気に振り返る勇者。
約束って相手チームの引き抜きだ。元々勇者が聖女さま欲しさに提案した賭けだから、知らないはずがないんだよ。
「本当っ負けると都合の悪いことは忘れるのね。勇者ガレオ」
「ぐっ……ひ、一人だけだからな」
観念した勇者が仲間を呼んで一列に並ばさせた。選ぶのは聖女さまでこの中で一人、勝者側が仲間に引き抜く約束だった。
「さて、誰にしようかしら……」
勇者率いる太陽の獅子のメンバーの一人一人見定める聖女さま。
そんな中俺は出来れば高嶺ユウナを選んで欲しいと願った。
しかし、彼女は意外な冒険者の前に立ち止まっり指を差した。
「えっ!あ、あたしっ!?」
「そうよ。貴女よ」
聖女さまに指名された赤毛のツインテールの美少女剣士メリーが狼狽えた。
「そんにゃあぁぁ……」
憧れのクラスメイトのユウナが選ばれなかったことに俺は落胆した。
それもよりに寄って勝気なメリーかよと。まぁ選ぶのは聖女さまで、新人の三人をあえて選ぶ必要がなかった訳だ。
それにしても俺は落胆した。
だってせっかくユウナを勇者から取り戻すチャンスだった。それが出来なかった。恐らく二度とチャンスはない。
「どうちて……」
流石に今回ばかりは、自分に彼女たちを選ばせてくれなかった聖女さまを恨んだ。




