サタンちゃまとたこ焼き屋
昨日のゴブリン狩り勝負は対戦相手の勇者チームに余裕で勝利した。それが我が白銀の聖女チームだ。
その後、富士の樹海前の駐車場で車中泊して朝をむかえた。
そして俺は椅子に座って朝ごはんを今か今かと待っていた。すると聖女さまに話し掛けられた。
「おはようサタンちゃま」
「あっ聖女さまっおはようにゃっ」
「……その喋り方なんとかならないの?」
正面に座った聖女さまが俺の猫口調が気になる様子で、あわよくば標準語に修正するつもりだ。気持ちは分かるけど固定された口調で無理だ。
それにこのサタンちゃま口調こそが個性であり魅力だと自分なりに思う。
それを他者が気に入らないからって変えさせる行為はちょっと乱暴。例えるなら、眼鏡が魅力の子にコンタクトに変えさせる愚行となんら変わりないよ。
「無茶いうにゃっ聖女さま」
「……なによ、あたくしに意見する気……まぁいいでしょう。それよりおかしいのよねー貴女が倒したゴブリンから一つも宝石が見つからなかったのよ。心当たりがあったら教えてくださる?」
「にゃっ………………………………………しっ知らにゃいにゃっ」
「あ〜ら、貴女ずいぶんと沈黙したわね……」
「にゃっ!」
聖女さまが怪しむように目を細め俺の顔を覗き込んだ。ネコババがバレたら、なにお仕置きされるかたまったものじゃないから、絶対に隠し通そう。
「ちょっとなんであたしがこんなチンチクリンの世話係なのっ!」
ウチのチームに引き抜かれた元勇者チームのメリーが、俺を指差しながら聖女さまに文句を言って来た。
「あら、メリーおはよう」
振り返った聖女さまは俺の尋問を中断した。本当助かったよメリーさん。
メリーは俺の左隣の椅子にドンと座って、不満気に手と足を組んだ。
「おはよう聖女様。それより貴女に引き抜かれたのには不満はない。でもこのちびっ子のお世話係なんて聞いてないわよっ!」
メリーは立ちあがりテーブルを叩いて俺に指を突きつけてから、聖女さまに不服を訴えた。
テンプレ的なツンツン少女が仲間になってずいぶんと、チームが賑やかになったもんだ。
結構彼女はキツいこと言ってきそうだけど悪くない。返ってご褒美だよ。
て、俺ってドMかな……。
「仕方ないわねぇ……これあげるから機嫌直してメリーさん」
聖女さまが巾着袋をメリーに差し出した。テーブルに置いた時、ガチャリと金属音がした。
「な、なによ……」
困惑気味のメリーは巾着袋を受け取り中身を確認すると、急に黙って懐に仕舞うと大人しく座った。
「にゃっ」
現金な奴だと思わず笑ってしまった。
「な、なにがおかしいのよチビ……」
「にゃっ!」
メリーに頬っぺたツネられた。
やっぱりこの赤毛のツインテ苦手だ。
「それより聖女さま」
「なんでしょうかメリーさん?」
「にっ……メリーでいいわよ。それよりさぁっいつあたしらの故郷に旅立つの?」
「ああ、それでしたら先に日本政府から依頼を受けた魔物討伐クエストを全てこなしてからですわね」
日本政府直々の魔物討伐クエストとは、北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州、沖縄に棲息するボス級魔物退治の依頼だ。
順番は特に決まってないが、最初に討伐依頼されたのが関東の横浜にあるネオ横浜と呼ばれる廃墟都市だ。
ネオ横浜とは、今から三百年前、ネオシティ構想と呼ばれるプロジェクトの第一弾として作られた街。
特長は、全長15メートルの壁がまるで外部からの襲撃から守るかのように、都市全部を囲っていること。
しかし過去に、なにかが起きてネオ横浜は壁と土台だけを残した跡地になっていた。
それって松尾が言っていた三百年前の天使騎士との戦いと関係あるのかな……。
今は不明だけど、クエストをこなしていく内に判明していくかもな。
「へぇ……政府直々にねぇ……面白そうじゃない。気に入ったわ。早速出発しましょう」
目を輝かせたメリーが立ちあがり腕を組んだ。
「そんなに急がなくても朝食食べてからにしたら?」
「いいえ聖女さま。目的地はどこっ? 近場なら着いたら現地の飲食店で食事を済ませればいいじゃない?」
「…………しょうがないわねぇ」
強引なメリーに根負けした聖女さまが了承した。しかしなんで俺には厳しくて、メリーには甘いんだ聖女さまぁ……いじけた俺は口を尖らせた。
□ □ □
ネオ横浜に向かう前に旧横浜に向かった。
エアカーに乗って到着したのはまだ午前10時頃。某ショッピングモールの駐車場。
皆車から出るとメリーがショッピングモールを見あげた。
「あら、大きな市場ね。丁度いいわ。中に入って食材を買いません?」
勝手に仕切るな。
それに食材買って自炊する気か?
「あらっ!いい匂い」
今度は食べ物の匂いを嗅ぎつけたメリーが周囲を見渡した。
本当この人はコロコロと興味が目移りする。
「あっ!ちょっと見てアレッ!」
俺たちが呆れている最中メリーが指差して叫んだ。全く忙しない。
メリーが指差した先に、一台のオープンキッチンカーが停車していた。
営業中らしく看板には『天使の八っちゃん亭』と書かれていた。
ソースの香ばしい匂いがキッチンカーに漂い。どうやらたこ焼き屋らしい。
「ねえっ屋台でしょうっ?」
「……」
興奮したメリーが聖女さまの肩を叩き屋台に指を差した。
本当怖い物知らずだな……。
「仕方ございませんね」
「ええっ!いいのっ? じゃあっ」
メリーは聖女さまに手を差し出した。駄賃を要求ってかこの娘厚かましい。
「……いいですよはい。その代わりこの子の見張りを忘れずに……」
聖女さまはお金をメリーに手渡した。
「へへっラッキー!」
メリーはお金を懐に入れた。
『コラッ!』着服するなよ。
「じゃっ一緒に行くわよチビ」
「にゃっ!」
メリーに手首を掴まれ屋台まで引っ張られた。本当強引だなぁ……。
屋台の前に着くと若い女の子の従業員がせっせとたこ焼きを串で転がしていた。
「ねえねえオススメは?」
「…………!」
屋台にオススメ聞くって……。
メリーが聞くとマスクした従業員が顔をあげた。
16、7の年齢のかなり若く小柄な女性だ。
そして目を惹いたのが外見だ。
前髪をパッツン切り揃えた黄金色のおかっぱヘアー。そしてアクセントとして角の丸い四角眼鏡を掛けている。
マスクをしていても美少女と分かる可憐な彼女は、屋台名通り天使のように見惚れる美貌だった。
「い、いらっしゃいませなのだ」
「ん…………」
妙にキヨどってる。人のこと言えないけど癖のある口調の従業員だ。
そんな色々な意味で異質な従業員を見たメリーが固まった。あのツッコミ担当を黙らすとは相当だよ。
「あっ!オススメ。オススメはぁ〜ないのだ……」
「ないのかよっ!もういいわっノーマルなたこ焼きでいいわよっ!」
「でしたらいくつ?」
客にタメ口かよ。
「そうねぇ……」
腕組みして片目を閉じたメリーが指折り数えて考え中だ。そして手をポンと叩くと笑顔で従業員に指差した。
「たこ焼き五つよっ!」
一つ余計な気がするが、まさかメリーは二つ分食べる気ですかねぇ……。
「はっはいっ任せるのだっ」
「ハイッ代金。釣りは要らないからテーブルまで運んで来て」
メリーは勘定せず適当に代金をカウンターに置き、俺の手を握り手を振って立ち去った。
釣りは要らないってそれは聖女さまのお金だろう。本当厚かましい異世界人だ。
「………………お金足りない…………」
従業員はそう呟いて呆然と代金を見詰めていた。
しばらくして従業員さんがわざわざ俺たちが座るテーブル席までたこ焼きを持って来てくれた。
「へい、お待ちなのだ」
「わざわざすみませんね」
気を使った聖女さまが礼を言った。
「いえいえ……はいどうぞなのだ」
従業員さんが一人一人の前にたこ焼きパックを置いてくれた。どうでもいいけど一々語尾になのだ入れなきゃ気が済まないのかな?
とりあえず俺がたこ焼きを受け取る番がきた。
香ばしいたこ焼きの匂いが鼻口をくすぐり思わず笑顔になった。
「にゃはっ美味そうにゃっ!」
「んっ!」
すると従業員さんと目が合った。
「……………」
「にゃあ…………?」
「あ、あ、あ、悪魔王……………」
ドチャッ!
「にゃあっ!」
俺の顔を見た従業員さんが手にしたたこ焼きを落とした。
「あっ!すっすみませんなのだっ、い、今から代わりのたこ焼きお持ちするのだっ」
落としておいて『のだ』じゃないだろ。
癖のある従業員が慌てて屋台に戻って行った。
それにしても……彼女今ポツリと俺の顔見て悪魔王と言ったな……まさか凄く怪しい……。




