魔王国からの来賓
ゴルド王国では大きなパレードが開かれていた。
前国王が亡くなってすぐにパレードを行うのは昔からの伝統で、故人を送る際には明るく送り出す習わしがある。
これは市民でも国王でも変わらず執り行われる。
パレードは国王の住居であるイヴァン城から中央広場まで移動し、その後国内を1周するかなり長いコースになってる。
「陛下。」
「どうしたイディオ、まだまだパレードは長いぞ。」
国民が立ち並ぶ大通りをゴルド王の馬車がゆっくりと進む、ガラス越しに目の合った市民へ手を振りながら側近であるイディオの話に耳を傾ける。
「各辺境伯が到着しました、今夜のパーティーには参加できるとの事。」
「そうか、いちいち呼ばなくてもいいのにな。」
「向こうがそうはいかないのですよ、こちらが良いといっても出席しなければ周りからは忠誠心が無いとと捉えられても致し方の無い事です。」
「大変なものだな。」
「あと、気がかりなのが1点。」
「それが本題だろう?お前は昔から重要な話しを後に話す癖がある。」
「申し訳ありません、それでそのお話なのですが…どうやら魔王国側からも参加者が。」
「魔王国からも?誰だ?」
「それはわかりません、どうされますか?
入国を拒否出来る事も可能ですが。」
「いや、アケラ村との交易許可は出しているんだろう?それなのに拒否するといった真似はせん。
向こうも人型に近い配下をよこしてくれると助かるのだが…。」
「確かに、それが心配ですな。」
ゴルド王は中央広場に近づくにつれ増えていく民衆に大きく手を振った。
◇ ◇ ◇
その裏で忙しさのピークを超えた教会。
本部に居た白服たちはルーシーの部屋に集まっていた。
「ただでさえ狭いのになんでここに集まるの?」
「ルーシー様が書類の山を減らせばもう少し部屋が広くなるんじゃないですか?」
「あんたが一番面積取ってんのよ。」
狭い部屋の中に高身長で分厚い筋肉を持ったバラモが居ると部屋の温度が5度ほど上がったかのように感じる。
「あの、私たちが呼ばれた理由は何でしょうか?」
呼ばれたのはポルンとバラモ、ダデン商店の調査で活躍した2人だ。
「少しお願いがあってね、今夜の即位の宴…パーティーに参加して欲しいのよね。」
「パーティーにですか!?」
ポルンは思わず隣に立つバラモを見上げる。
国内の女性でも一番大きいであろうバラモは目立つ、更にオーガの血が入っているため少し肌も赤みがかっており、何よりダボっとした白服の下には鍛え上げられた肉体が隠されている。
「何言ってんのバラモは警備、こんなの目立ちすぎよ。」
「こんなの…。」
「パーティーにはポルン、貴方が参加して頂戴。」
「私がですか!?」
ポルンは自身の顔についている大きな引っ搔き傷を触る。
「大丈夫、アイマスクを被ってもらうから。
パーティーには各国の大臣や貴族が参加する、その中には冒険者上がりの貴族もいるから傷なんて普通よ、むしろ誇りにしてる貴族もいるくらい。」
「しかし、何故パーティーなんかに?」
ポルンの疑問はもっともだ、現在中央広場では陛下のパレードが進行してる。
その警備に騎士団や一部の教会関係者が当たっている、彼らに参加や警備を引き続き任せればよいのでは?
といった疑問だ。
「じつはパーティーに魔王国が参加するとの情報が入った。」
「!!」
「今パレードに参加してる教会関係者や騎士団は恐らく全員顔が割れている、となると?動けて尚且つ今日一日教会内部もしくは忙しい時期に酒場に居て?教会関係者と顔の割れていない2人のうちで、目立たないのは?」
ルーシーが持つペンはポルンを指す。
「私、ですよね。」
「正解、魔王国の参加者は誰が来るかわからない、できれば接触したいところだけど出来そう?」
「大丈夫です、任務に私情は持ち込みません。」
「さすがだね、挨拶が出来たら任務達成だと思ってもらっていいよ。
白服と気付いているなら挨拶すら交わさないだろう、ダデン商店の件は魔族側も教会の仕業だと気付いているに違いないし…。」
ダデン商店での出来事を知っているなら白服メンバーを調べるだろう。
戦時中と違い、今では表立って活動する白服も増えた、その気になれば顔や名前程度は魔王国でも調べられるだろう。
「逆に言えば白服と気ずかずに接触してきたなら、魔王国のレベルはその程度だと分かるだろうね。」
「むしろ、警戒しないといけないのは白服とわかりながらも接触してきた場合ですね。」
「そうだね、けど魔王国側からすれば敵地のど真ん中、揉め事は絶対に避けたいはず。
ダデン商店と魔王国が繋がりがあったのかを調べる重要な機会だ、だが決して深追いはしないでほしい。
挨拶をすることが目的と言ってもいい。」
ポルンは深く頷いた。
「じゃああたしは警備を?」
「バラモは騎士団と連携して警備にあたって欲しい。
各国の重鎮が訪れるからね、最高レベルの警備をお願いしたい。」
「ならセティは?あいつなら警備や護衛にピッタリだ。」
「彼女は…とある重要人物の護衛をしてもらって今はゴルド王国に居ない。」
「そうなのか、彼女ほど警備に向いてる奴はいないと思ってるんだが…。」
「彼女は今、エルフの国にいるから呼び出しても間に合わないかな。」
◇
「本日はお楽しみいただけましたか?」
エルフの集落を一望出来るツリーハウスにケンジとセティの部屋が用意されていた。
「えぇ、かなり。
私が知らない間にエルフの森がこんなに発展してるとは思いませんでした、やはり定期的に里帰りするべきですね。」
「セティさんが森を出られたころはまだ小さい集落がいくつかあるだけの森でしたからね。
そのころに比べるとかなり発展したと言えるでしょう。」
「こんなに急に発展したのには何か理由があるんですか?」
ケンジの疑問はもっともだ、森エルフの寿命がどれくらい長いかは分からないが集落から国になるのなんてそう簡単に出来るものではない。
「そうですね、一番の理由はやはり戦争ですね。
戦争が起きると様々な産業の需要が上がります、となると人手が要りますよね?」
後は言わずともわかる、奴隷の需要が上がり森エルフもその対象になったのだ。
その後小さな集落は自衛のため集まり、大きな集落となり。
それを繰り返し今の国となる。
「もちろん、あの方の影響も大きいですよ、人口が増えれば必ず食糧問題は起きますからね。」
少し言葉を濁すヨヨ。
「それより、同じお部屋でよろしかったのですか?他に来賓用のお部屋がいくつかありますが…。」
「えぇ、一緒で大丈夫です私の役目は護衛も務めてますので。」
それははたから見れば警備を信頼していないと捕えられても不思議ではない発言だった。
しかし異世界人だと判明している今、その特異性を認知しているヨヨは文句を言わずにむしろ快く承諾した。
「確かに、セティさんが傍に居ることが一番の警備でしょうね。
では私はこの辺で、あまり長居しますとゆっくり休む時間が減ってしまうので。」
にこやかに去っていくヨヨを見送り、部屋にセティと2人きりになる。
「さて、情報をまとめましょうか。」
セティは懐から分厚い1冊の冊子とペンを取り出す。
◇
今判明している情報としては森エルフの産業にはケンジより前の世代の異世界人が関わっていたという事。
しかしこれは本には書かない。
『痛撃の契約書』により交わした契約で【その場にいた5人以外の第三者に漏らさない】といった内容だ。
解釈次第によっては本や紙に情報を記す事も契約内容に触れる可能性があった。
現に長老たちは異世界人の存在を本などではなく口頭で説明をしていた。
「書く内容は現状の森エルフの国の現状ですね。」
米の栽培安定化や特産品の栽培方法の確立はケンジの仕事。
セティは森エルフが今後取引をする国との橋渡しやコンサルが主な仕事になるだろう、もちろん奴隷問題も片付けたいところだ
「私の見方としては、この国は非常に脆いです。
今この国を支えているのは農作物の生産力のみ、軍事力や特別な技術があるかと言われればありません。
言ってしまうと今の戦力が落ちたゴルド王国でも侵略行為は可能でしょう。」
「な、なに言ってるんですか!?」
「これは真剣な話です、各国の軍事力を見るとこの国は非常に脆弱です。
この問題を解決しない限りケンジさんは危険な存在でしょう。」
「え?僕がですか?」
「そうです、なんたってこの国唯一の抑止力を壊す可能性のある人物ですから。」
「…そうか。」
【農作物生産のノウハウ】これこそが森エルフの国が今まで生きながらえてきた理由だ。
それを流出させる可能性のある人物こそがケンジである。
「契約書を使ったりしたのって…。」
「もちろん信頼を得る為です、『我々は森エルフの国と友好的だと、外部に情報を漏らさないよ』と思ってもらうためです。
もし痛恨の契約書を拒否していた場合敵対する可能性がありましたから。」
「寝てる間に暗殺されたりとか…。」
「その為に私が居ますので、さすがにここまで信頼を築けたのなら害をなすつもりはないでしょうが…今後も森エルフからは注目されるでしょうね。」
「胃が痛くなってきたな…。」
アケラ村では魔王国との交易のため重要な役割を与えられ、今度は森エルフからも要注意人物として見られることになりストレスが溜まってきた。
教会が保護してくれるとはいえ前世の暮らしに比べるとあまりにも刺激的すぎる。
「では今日は早いですが休みましょう、ちょうど陽が落ちてきましたし。」
ツリーハウスから見る夕日は濃い森に阻まれながらも燃えるように赤く輝いていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「お疲れ様です。」
ぐったりとした様子で座り込んでいたパサミに声をかけるポルン。
パサミはいつもの白い修道服とは違い、皆と同じ黒い修道服を着用していた。
「あ、お疲れ様です…。」
「ずいぶんとお疲れのご様子。」
「えぇ、今日はとても疲れました。」
パレードには教会関係者も多く参加しており、多くは列に参加してるだけだったが一部は怪しいものが居ないか周囲に目を配らせたり、すぐに動けるように常に気を張っていた。
「では引継ぎを。」
怪しい人物などの情報や連絡事項を引継ぐ。
「パーティーに騎士団長が?」
聞き逃せない情報が耳に入る。
「どうやらそのようです、騎士団員達が話していました『いつも突発的な行動をするから困る。』と。」
「その話が本当なら副団長も来られるでしょうね、優秀なブレーキ役です。」
「あの団長が来賓のお客様に貴族の交流ができるとは思いません、絶対なにかしらの不敬を働きますよ。」
騎士団との深いつながりがあるパサミには容易に想像できた。
団長は実力こそ本物だ、それに異を唱えるものは国内に居ないだろう。
だが尊敬できるかと言われれば話は変わる、だらしなく、敬語を使わず、独断で動く。
トラブルの大本である。
「副団長に頑張ってもらいましょう。
あとは各国の来賓ですが、皆知ってる顔ぶれですね。」
「では警戒すべきは魔王国側…。」
「はい、くれぐれも慎重にお願いします…先輩に言う言葉ではありませんが。」
パサミは白服の中でも最年少でその1つ上がポルンだ。
序列も13位と12位だ。
「大丈夫ですよ、1つしか違わないのでもっと気楽に接してください。」
「では……ポルンちゃん。」
「そうじゃなくて。」
◇ ◇
パーティー会場はイヴァン城の大広間、サッカー場程もある広さの大広間は各国から新ゴルド国王への挨拶へとはせ参じた王族貴族でいっぱいになっていた。
上座には新国王であるゴルド・オーラン4世が座っており、次々と挨拶に来る客に愛想よく返事をしてる。
新たに玉座についた国王は前国王よりはるかに若く、20代半ばといった印象を受ける。
金髪の好青年、が第一印象だ。
故に『新たな王はいかような者か。』と挨拶と同時に見極めようとしてるのだ。
「陛下も大変…。」
2階から見下ろしていたポルンは控えめなドレスを身に纏い、顔の傷を隠すアイマスクをつけて会場に潜伏していた。
「まったくもってその通り、団長にも見習ってほしいですな。」
聞いたことのある落ち着いた低い声。
「モーグ副団長。」
軽量鎧を着用した騎士団副団長であるモーグはやや疲れた顔をしていた。
「お疲れですね。」
「えぇ、まったく。」
「お聞きしても?」
「団長は今までこういったのには出たがらなかったのですが、貴族も来ることを知ると『アケラも辺境伯で貴族だよな?』なんて言い出し、そこからはもうなに言っても聞かなくて。」
アケラの実質的な育ての親であり、本人が嫌がってるにもかかわらず娘呼びをしてる騎士団団長レイ・ベルモンドは噂どうりの人物だった。
「それは…大変ですね。」
「そちらも羨ましいです、管理された組織としての手本ですね。
騎士団もそうでありたいものです。」
心の奥底からの声が漏れるモーグの瞳には羨む感情が乗っていた。
「ポルン殿も陛下へ挨拶を?」
「いえ、どちらかと言えば…。」
ちょうどその時ハンドベルの音が鳴り響く。
「あちらが目的ですね。」
「ふむ。」
国王の横に立ち小さなメガホンの様なもので呼びかけていたのは側近のイディオ。
毛髪が死滅した頭皮が会場の照明に照らされて一際目立っている。
「皆さまお集まりいただき誠にありがとうございます、今回集まっていただいたのは陛下の即位を祝っての事ですが、実はこの場をお借りして皆様に新たな盟友をご紹介させていただきたいのです。」
すでに情報を掴んでいた一部の者達はやっとかといった表情をし、それ以外の者はこんなに注目されるなんてどのような人物なのかとひそめき合っていた。
「それではご紹介いたしましょう、魔王国からお越しくださったリリアント・イヴェール卿です。」
魔王国!?のような驚きの声は拍手によってかき消された、後ろの扉が開かれ姿を現したのは想像を絶する美女。
一部の者は拍手をするのさえ忘れてしまっていた。
顔が良すぎるとある一種の恐怖を覚えるというが、まさに彼女がそれだろう。
ゴルド王の横に立ち貴族の挨拶を交わす。
その後正面を見据え、透き通る声で話し始めた。
「ご紹介に預かりましたリリアント・イヴェールと申します、魔王国からゴルド王国と友好を深める為にやってまいりました、どうぞよろしくお願いいたします。」
話し終えてしばらくしてから拍手が起こる。
ゴルド王もやれやれといった表情で彼女をエスコートし、貴族たちの輪に混ざった。
そんな光景を2階から見ていた2人は互いに目を合わせた。
「どうですか?あれを害とみなしますか?」
「恐らく、陛下も気が付いているのでしょう…だとすればあれは陛下のご判断、我々がどうすることもありません。」
「左様ですか、でしたら騎士団も同じ考えで行きましょう。
にしても凄まじい『魅了』、恐らくあれでも制御してるのでしょうな。」
「光魔法を履修している者や加護がある者以外は流されるでしょうね、理性を失うほどでは無いでしょうが。」
再びリリアントに目を戻すと男性貴族が自身の領地を猛アピールしていた。
だが彼女の視線は貴族の後ろに向いていた。
そこには肉と酒を両手に持ちあまり貴族の話を興味がなさそうに聞いていた騎士団団長レイ・ベルモンドの姿があった。
「おっとマズイ、では私はこの辺で。」
モーグは少し小走りで螺旋階段を下りて行った。
「さて、もう少し落ち着いてから私も行こうかな。」
ポルンはメイドが運んでいたワインを手に取り、酔わない程度に飲み干した。
◇
「もしかして、かの有名なベルモンド団長ですか?」
「ん?」
ベルモンドは少し酔っていた。
普段はこの程度で酔う男ではないが、今日はショックなことが起きたのだ。
アケラ村から代表が来ると聞いて愛しのアケラが来ると思っていたのに来たのは髭の生えた老人、名はダロランと名乗った。
アケラは忙しいので代理だというその男にアケラから何かベルモンド宛に手紙か伝言はないかと尋ねたがそれらしいのは無いとはっきり言われた。
それがショックだった、アケラ村には彼女の友で同期であるベリットを向かわせた、自分が心配していることも伝わっているはずなのだ。
好かれているとは思っていない、だが嫌われているとも思っていない。
せめて手紙の1つくらいは欲しいものだ。
代理のダロランにその旨を伝え、ここに来た意味が無くなりどうせならタダ飯だけでもと思っていた矢先だった。
「どちら様で?」
人の話に興味のないベルモンドはリリアントの紹介も聞いていなかった。
「私、魔王国から友好を深めるためにやってきたリリアント・イヴェールと申します。」
「へぇ、どうりで人外じみた美貌なわけだ。」
つま先から頭までじっくりと観察し言葉を発したところでベルモンドの記憶は止まっている。
「失礼。」
頭蓋骨と金属が激しくぶつかる音が響く。
「大変失礼いたしました、私ゴルド王国騎士団の副団長を務めさせております、ギルデント・モーグと申します、そしてこちらの無礼者がお恥ずかしながら我が騎士団団長のレイ・ベルモンドです。」
「ふふふっ、大丈夫でしてよ。」
ぐったりとうなだれるベルモンドを片手で支えながら礼儀正しい挨拶をするモーグ副団長。
「この奴は実力こそ本物ですが、それ以外はどうもだらしなく。
ですが此度はゴルド王国と更に確固な友好を結ばれた手前、何かあれば力となりましょう。」
「なんと頼もしいお言葉でしょう、武力を使わないようにするのが一番ですがまた何かありましたら、過去の事は水に流しお互い協力し合いましょうね。」
微笑む姿にモーグですら揺らぎそうになるが鋼の精神で一瞬の隙も出さず挨拶を返した。
「では、我々は警備の仕事もありますのでこれにて。」
「はい、またどこかで。」
ベルモンドをズルズルと引きずり会場を後にしたモーグ、はたから見れば異常事態だが騎士団をよく知るものにとっては普段の光景だった。
◇
「すみません、私すこしお化粧直しに。」
一向に減る気がない挨拶を切り上げ、メイドに案内されながら会場を後にしたリリアント。
「動いた。」
これを機にポルンは行動を開始する、貴族に囲まれておらず尚且つ面と向かって話せるチャンスが来たのだ。
この機会を逃すとパーティーが終わってしまう。
急いで駆け下り後を尾行、動きやすいスリットの入ったドレスをなびかせつつも呼吸一つ乱さない。
VIP専用の部屋に入るのを目撃し、しばらく待つ。
出てきたところに軽く挨拶だ、気取られずに、自然に。
頭の中で何度も予習する。
ルーシーの言葉を思い出す、挨拶さえできたら成功だと思ってもいいという言葉。
魔王国の幹部、白服でも接触できたのは限られてる魔族。
跳ね上がる心拍を抑えこみ気を静める、白服としての自覚を持ち集中する。
ガチャ
VIP室の扉が開く、いつもより音が大きく感じた、1歩踏み込み自然に歩く。
メイドに案内され廊下を歩いてくる標的
廊下の真ん中あたりで立ち止まり、彼女の顔を見つめる。
それは魔王国から来た客に興味を示す貴族の娘のように。
「あ、あの!お話いいですか!?」
少し声を裏返す、緊張してる娘そのものだ。
「あら?何かしら可愛いお嬢さん。」
足を止め、優しく話を聞く姿勢をとるリリアント。
メイドに目配せし2人きりにしてもらう。
「あ、あの私しがない領主の娘なんですけど、魔王国は今後ゴルド国とどのようなやり取りをされるのでしょうか!?」
「あら、若いのに親の仕事に興味があるのね、立派だわ。
そうね、アケラ村はご存知?」
少しだけ心音が上がる。
「アケラ村っていう魔王国から一番近い辺境の村があるのだけど、今はその村とやり取りをしているのね、なので王都とはまだまだ本格的なやり取りは行わないかしら。
前に一度村に行ったのだけどいい村だったわ、少し建物は古かったけどそのほうが復興のやりがいがあるというものね。」
「アケラ村に、行かれたことがあるのですか?」
「えぇ、今はジャガイモの収穫をしてるそうよ?
あ、言わないほうが良かったかしら?この話は他言厳禁ね?」
「え、えぇもちろん。」
アイマスクの下で嫌な汗をかく。
(何?村を訪問?ジャガイモの収穫?どこまで知ってる?異世界人の事は?)
一瞬の思考が、顔に伸びる手を避ける判断を遅らせた。
「あっ。」
アイマスクを取られる。
「そのお顔、隠さないほうがいいわポルンちゃん。」
「なっ!!」
後ろに1歩下がったところで壁にピッタリと押さえつけられる。
抵抗するもピクリとも動かず、見た目こそ人間だが魔族なのだと再認識させられる。
「大丈夫大丈夫、そんな慌てないの。」
優しい声で囁きながら顔を近づけてくる、甘い匂いがポルンをくすぐる。
「いい?私たちは今とても大切な時期なの、魔王国は本当にゴルド王国と仲良くしたいし揉め事は起こしたくない。
アケラ村で行ってるやり取りもすべて許可を得てるし、双方に損がないわ。
もちろん教会が我々の事を調べるのは構わない、けどやり方は変えて頂戴。」
「…何を望むんだ?」
「昔みたいなやり方をするなって言ってるのよ、アケラ村っていう便利な窓口作ってやったんだからそこから来なさい。
協力できることは協力してあげるから、ね?わかった?」
両手を押さえつけてる手を放し、ポルンは解放された。
「…。」
「ちょっと睨まないの!かわいい顔が台無しよ。」
ポルンは奥歯をかみしめる、この顔の傷は村が魔族に滅ぼされたときに付けられた傷だ。
関係がない者とは言え魔族に言われるのは耐え難い侮辱だ。
大きく息を吸い込み吐き出す、そして息を調えたポルンは平常心に戻り眉間のシワもなくなった。
「分かりました、信じます。
ですが…『過去の事は水に流す』そんなこと簡単にはできませんよ…これはあくまで私の独り言ですが。」
「そうね難しいわよね、はいこれアイマスク。」
リリアントから受け取るとすぐさま身に着ける。
「お話、ありがとうございました、では。」
足音を立てずに踵を返し廊下の奥に消えていったポルン。
リリアントの影から声が聞こえる。
『行かしてよかったのか?』
「えぇ、まだまだ若い、あんな子大好き。」
『好みだから見逃したのでは?』
「あら、そんなことありませんわ、魔王様と違ってちゃんと後先を考えて見逃したんですよ、そんなのだから30連敗なんですよ。」
『う、うるさいわ!チェスとこれとは違うだろう!』
「はいはい、ではパーティーに戻りますので静かにしててくださいね。」
『うむ、くれぐれもトラブルは今ので最後にしてくれよな。』
リリアントの影が少し揺らめいたがそれに気が付く者は誰も居なかった。
読んでいただき誠にありがとうございます!!
X(旧Twitter) @yozakura_nouka
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