異世界ジャガイモ
アケラ村にて、新しく完成した領主館の2階。
領主の執務室にアケラは居た、革張りの上質な椅子に座り今日も書類と向き合ってる。
「今日ぉ!?」
メイドであるメメからの知らせに目を丸くする。
「はい。」
「ぐぬっ、やはり魔族も長命種、時間間隔が人間と大きくずれているな。」
つい先ほど魔王国側から来訪の知らせが届いたのだ。
ジャガイモの収穫が終わったので手紙を出したが、まさかこんなに早く来るとは思っていなかった。
「とりあえず魔王国に降ろす品を準備しよう、ダロランとリガを呼んで来てくれ、出来れば鍛冶師のノックスも。
魔王国側は鉱石や魔物素材の品が多かったから詳しいものに見せよう。」
◇ ◇
「いきなりの訪問で申し訳ない。」
布で顔を隠す魔族が従者を連れてやってきた、以前と違うのは正式に交流が決まったので商品を持ってきてる事だろうか。
外交用の馬車でなくキャラバンの様な馬車でやってきた。
アケラの新しい仕事場である執務室の隣にある応接間。
そこに通された布の魔族、2回目の会談なので護衛はなく2人っきりの空間だ。
あたりをきょろきょろと見回し少し興奮した様子。
「いやはや素晴らしい館ですね、黒王樹ですか…これらを加工できるとはいい職人ですね。」
「ありがとうございます、ゴルド王国でも指折りの木造建築科が手がけました。」
「木造建築ですか、いいですね!魔王国では石造建築が主なので新鮮です。」
会話の合間でふと気が付いたように魔族が頭を上げる。
「あぁ申し訳ありません、本来ならば開口一番に言わなければならない事を私としたことが…この度はお悔やみを申し上げます。」
「え?」
豆鉄砲を食らったかの様なポカンと顔をするアケラ。
「も、もしかしてまだ知らせが届いていない?」
「何の…まさか。」
アケラが魔族に顔を近づけると、魔族も布で覆われ見えてるかわからない顔を近づけ周囲に聞こえないように話す。
「ゴルド国王陛下が崩御なされました。」
それは王都が出す新聞よりも早いニュースだった。
「それは本当ですか?」
「ほぼ間違いないかと思われます、ちょうど昨夜魔王様の元に手紙が来まして。
今回急な来訪になったのも魔王国からの使者をゴルド王国へ送るために馬車に乗せての事です。」
「途中まで乗せてきたのですか?」
「はい。」
「言ってくだされば早馬をお貸ししましたのに。」
「お心遣いありがとうございます、ですが急を要してましたので…。」
「そうですか…恐らく明日、早ければ今日の夕刻にでも知らせがきそうですね。
生憎こういった情報が一番早い白服が居なくて。」
「彼女たちも今は一番お忙しいでしょう、後日改めて貿易担当官のシルマを向かわせます。
王都に堂々と行くわけにはいかないので交流のあるアケラ村に代理でお悔やみの挨拶を。」
布の魔族やシルマも魔族の中では比較的人型に近い姿をしているが、それでも一目見たら魔族と分かる。
王都に直接向かうのはトラブルの元になるだろう。
「承りました、その日には我々も準備しておきましょう。」
恐らく教会側の準備が必要になるだろう。
「よろしくお願いいたします、では話が変わるのですが黒王樹の建材についてですが…。」
少しドライに感じるがこのような場では感情は持ち出さないほうがアケラの好みだ。
アケラの中で魔族の評価が少し上がった。
◇
会談というより商談といった方がしっくり来る話しをしている部屋の下。
少し広い別の応接間で鍛冶屋のノックスとダロラン、リガの3人が頭を合わせて商品を見定めていた。
テーブルの上には様々な品物のサンプルが並び、眼鏡をかけた紫の肌の4本腕の商人が3人の正面に立っていた。
「これは…?」
「これは鉄鉱石じゃな、じゃがこちらで採れるのと少し違うな。」
ノックスは鉱石を手に取り匂いを嗅ぐ
「恐らく鉄の含有量が多いんじゃろう、魔王国領にある鉱山は室の良い鉱石が取れると聞いた事があるが、これ程とはな…。」
「お気に召されたご様子で。」
魔族は4本腕のうち2本を組み、残りの手でもみすりをしている。
「うむ、鉄の含有量が多いということは不純物が少ないという事、質の良い製品には必要不可欠。
2倍の金額で買う鍛冶屋も居るだろうな。」
「それは素晴らしい。」
リガがリストにチェックを入れる。
「こちらは?」
「魔物の皮を使った巻物です、記録用にもお使いいただけますが一番用途が多いのは魔法ですね。
命令式を書き込んで使用、巻物だとかさばるので切って使用しているのを見たことがありますね。」
リガには思い当たるふちがあった。
「着火紙?」
以前ケンジに使い方を教えたことがある冒険者必需品のうちの一つだ。
紙に書かれた魔法陣には火の精霊に火をつけるように命令式が書かれており、ほんの少しの火花や火種で焚火を起こすのに重宝されている。
「そうですね、冒険者の間ではそう呼ばれていたはずです。
普通の紙でも代用は効きますが、こちらですと水に強く破れにくい、更には火にも強いので何回でも繰り返し利用が可能です。」
流通している『着火紙』は植物性の紙で出来ており火花や火種で焦げると繰り返しの利用は不可能になる。
更に濡れると使用できないといった欠点もあり、雨の日や川を渡ったあとなどは乾かしてからでないと使えないという本末転倒な事がたびたび起きていた。
「確かにそれは素晴らしいアイデアですね、魔法学園もこういった実用的な物を作ってくれれば良いのに…。」
「ゴルド王国とは動物性の革の需要が違うのかもしれませんね、魔物は繁殖力が強く魔王国で頻繁に目にしますが、ゴルド王国では毛皮というのも貴重品で衣服や装備、日常道具に加工されることの方が多いのでしょう。
魔王国では革が有り余ってますので今後はそちらもリストに入れておきましょうか?」
「是非とも、お願いしたいですな。」
こうしてどんどんチェックリストが増えてゆき、今回魔王国側から購入する商品リストが決まった。
「さてさて、今度は村の商品を見せてもらっても?」
「もちろん、リガ君持ってきてくれまえ。」
◇
「こちらです。」
目の前に置かれたのはバケットに山盛りになった黄色い棒状の物。
「これは?」
「こちらは村の方で名物にしようとしております『フライドポテト』です、ジャガイモを揚げたもので軽食にちょうど良いかと。」
ホカホカの出来たてのフライドポテトは少し太めで食欲を刺激するいい香りが鼻腔をくすぐる。
「では…。」
一つつまみ口に運ぶ。
「む!おいしい!!」
魔族の眼鏡の奥に光が灯る
「どれ、ワシも一つ。」
ノックスも2〜3本掴み口に運ぶ。
「あぁ~、これは酒が進むな!酒場にあれば絶対頼みそうだ!!」
「確かにおつまみとしてちょうど良いですね、このジャガイモはこの村の?」
次々に口に運びながら会談を進める。
「そうです、つい先日収穫を終えたばかりの物でして担当者曰く、少量の土をつけた状態で袋に入れ涼しい暗所で保存すれば3か月は保存が効くとの事です。
日光と水分が天敵だそうです。」
「やはり優秀な保存食ですね。」
この3か月という期間は食材として非常に優秀な長さであり、干し肉や干し魚などの携帯保存食でも1か月以上は食中毒の危険性があった。
「これは今どのくらい在庫が?」
「村の貯蓄を考慮しまして中袋(20kg)が20袋程準備がございます。」
「では…5袋いただきましょうか、ジャガイモを中心とした食生活ではないのでどこまで影響が出るかわかりませんので…ですが先ほどのような料理なら食べるでしょう。」
「その、魔王国領民はどのくらいいるんですか?」
リガの質問は戦時中なら敵軍の総力を教えて欲しいと言ってるようなものだった。
「うーん、今の魔王領は少し複雑でして…正確な人数は把握できてないのですが魔王軍でしたら幹部や兵士、城の騎士など含めると100人程ですかね。
もちろんこれらは魔王城に駐在してる者達ですので魔王軍全体の人数ではいので…ね。」
あとは察しろと言わんばかりに人差し指を立てる魔族。
「…なるほど、でしたらまずはどれ程の消費量なのかを調べる必要がありますね。」
「そうですね、けどこれなら大人気だと思いますよ、魔王城の食堂でだしてみたいのでまた作り方を教えていただけますか?」
いつの間にか空になったバケットに視線を落としながら魔族は顎に手をやる。
「もちろん大丈夫ですよ。」
その後はゴルド王国特産の装飾品や黒王樹で作られた木工製品などもチェックリストに入れて一通りの会談が終わった。
◇
「なるほど油で炒めるんですね。」
場所が変わり厨房。
普段ジギしか入っていない厨房は魔族とギルドメンバーでほぼ身動きできないほどぎちぎちになっていた。
「正しくは揚げるというのが正解らしい。」
ジギはフォークをジャガイモに刺し火の入りを確かめる。
「こんなもんでいいだろ。」
金属製の網の上に置き油を切り、少し冷ました後は皿に盛り付けて完成だ。
「先ほど作ったものよりおおきめに切った、皮を残して見たがどうだろうか?」
更に盛り付けられたのは先ほどの細長いフライドポテトではなくざく切りの大きなポテトだった。
ポテトは次々と口に運ばれた。
「あっ、こっちの方が好きかもしれません。」
「うんうん、デカい方がほくほくしててうまい、細いのはカリッとした食感だった。」
「うまいな。」
と好評な意見もある中で。
「うーむ、皮がない方がいいかもしれませんね。」
「ワシ的には細い方が好きじゃな。」
といった意見もあった。
「なら別のメニューにするか。」
貴重な意見をまとめ、新しいメニューが誕生した。
「にしても素晴らしい料理ですね、ジャガイモは蒸かすかそのまま焼くくらいしか知りませんでしたから…これなら簡単です!!」
◇ ◇ ◇
その後は荷馬車から鉄鉱石や魔物素材を降ろし、代わりにジャガイモを積み込む。
村と魔王国側で料金を決め、ジャガイモ5袋分相当の商品と交換した。
「ゴルド王国で流通している貨幣は魔王国領では使えないから…やはり物々交換となると。」
「アケラ様、やはり次回の商談に向けて金装飾品なども蓄えるべきでは?」
ダロランの意見は正しい。
エルフの国でもグランシェル諸島でも魔王国領でも等しい価値を誇るのが金や銀の希少金属だ。
国内で生活する分ならGでも大丈夫だろう、しかし国外となるとその価値が変動する。
今後魔王国との交流が増えるであろうアケラ村からすれば希少金属の備蓄は問題となってくるだろう。
「心当たりがある、その件については任せてくれ。」
「かしこまりました。」
アケラの頭の中にはこの世で一番金にうるさい大男の姿が浮かび上がっていた。
◇ ◇ ◇ ◇
一方エルフの国にいるケンジは田園の前に居た。
「こちらが我が国の米を栽培している所になります、今年の収穫はもう終わりまして今は土地を休ませているところになります。」
「なるほど。」
目の前の田んぼには水がなく乾いた状態で所々雑草が生えていた。
「収穫量はどのくらいあるんですか?」
目の前にある田んぼの面積は目測ではあるが約3反(約3000㎡)ほどあるように見える。
十分な広さに見えるが国が手がけてる農地にしては少し小さいといったのが第一印象だ。
「そうですね…今年は袋が20~23程だったような。」
「どれくらいの大きさの袋です?」
「子供くらいです、この高さの。」
エリは自分の背丈より少し低い位置に手を置きおおよそのサイズ感を示した。
(なるほど、30キロ米袋くらいかな?大人1人が運べるほどだろうからそのくらいだろう、それが23程…700キロ?この面積の畑なら少ないよな?)
「う~ん。」
「どうかされましたか?」
「いえ、私の経験上この面積でしたらもっと収穫できそうなものなのですが…。」
するとエリは少しうつむき観念したかのように呟いた。
「やはりお分かりになられますか、実は病気にかかりまして…様々な方法を試してみても駄目でした。」
「病気!」
ケンジが最も恐れていた事である。
ジャガイモや米などといった身近な作物があり忘れてしまいがちだが、この世界は異世界である。
未知の異世界産の病原菌やカビ、ウイルスがいる場合がある。
そうなればケンジにできることなどほとんどない、ケンジは農家であり大学の研究員や教授ではない。
ポピュラーな病気ならまだ対策を知っている、しかしそれ以外は対策など見当もつかない。
試行錯誤するしかないのだ。
「その病気の特徴を聞いても?出来れば今年の天候や気温、湿度がどうだったかなど…。」
「えっと、たしか…葉が部分的に枯れてしまって実の部分も枯れたりで、あっという間に病気が広がって、気温は涼しかったんじゃないかしら?雨もよく降っていたし水不足などはなかったはずです。」
ケンジにはこれらの特徴に心当たりがあった。
(いもち病か?原因はカビだから感染する条件が揃うと一気に広がるし、収穫量もガクッと減るしな…。)
「何かわかることがありますか?」
「そうですね…実際に見てみないと断言できないので何とも…もしよければ次の米を栽培するときにご一緒してもよろしいですか?」
「えぇもちろん!米は王国内でも非常に高値で取引されている商品ですので、これ以上の収穫量減少は避けたいのです。」
もちろんケンジも米が食べたい、出来れば加工前の白米の状態で。
今のところこの世界の米の食べ方はリゾットしか見たことがない、もし玄米の状態で入手出来たら日本人のケンジなら複数の食べ方が容易に想像できる。
玄米ご飯、白ご飯、米粉にすればせんべい、発酵させれば日本酒や米酢などもできるだろう。
(日本酒なんて作ったことないから分からないけどこの世界の酒作りに詳しい人に聞いたら何とかならないだろうか?)
もうすでに米を食べる事しか頭にないケンジはエリが呼びかけていることに気が付くまで少し時間がかかった。
「ケンジさん、では次はいつ来てくださるのでしょうか?」
「え?あぁ…田植え…いや本格的するなら苗からやりたいな…よし2月からやりましょう!!」
「にがつ?えっといつでしょう?氷賢の季ですか?それとも草賢?」
「あっそうか、セティさんに聞いてきます。」
「ご一緒しますわ。」
エルフの国にはカレンダーというものはない、魔王国との交流を持たないので存在すら知らない。
故に時期は4季の区切りでしか判別していない。
そもそも長命種は時間間隔がずれがちなのでカレンダーというものは不要なのかもしれない。
◇ ◇ ◇
「でっか。」
セティの口からは驚嘆と感激とあっけに取られた声が漏れ出た。
キリに案内されて(案内させた)場所にあったのはエルフの農園を支える小川の本流、その上流に存在する水源。
そこにあったのはセティの背丈を優に超える巨大な水壺。
少し斜めに角度をつけて岩魔法で補強された壺からは留めなく水が流れ出ており、滝つぼに激しい水音を立てながら流れていた。
「この水壺はどこで?」
「水の都、グランシェル諸島で見つかったものを買い付けたのです。」
「買った?これを?」
セティの脳が目の前の奇跡を、希少性と流れ出る水の性質や壺の柄から推定金額を高速で算出する。
「どう考えても『買える』といった代物では無いですね…このようなものが発見された時点で大きな騒ぎになってるはず…ふむ。」
目線が巨大水壺からキリに移動する。
「わ、分かりましたお話します。」
時は遡り、エルフの森にまだ天然の川が流れていた頃。
農業が軌道に乗りゴルド王国に定期的に卸せるようになってきたタイミングである悲劇が起きた。
川が枯れたのだ。
当然エルフたちは困った、生活に使う様な小さな川は生きていたが農業に使う分には到底足りない。
その際に出た案が『水壺』であった。
実際に水壺を倒し川を作った前例はあった、もちろん環境を大きく変える可能性があったため問題視されている方法ではある。
水壺の中身によっては周辺の土地が死ぬ可能性すらあったため長老たちは悩んだ。
その時、とあるエルフがグランシェル諸島にいい水壺を仕入れる売人が居るという噂を聞いた。
そのエルフは長老の許しを得て藁にもすがる思いでその売人の元に赴いた。
「なるほど?その売人から買ったと。」
「ですがその売人はグランシェル諸島の王族貴族とコネクションを持ってまして、話がだんだん大きくなっていってしまい…。」
「なってしまい?」
「水壺を譲る代わりに農作物を無償で提供することになりまして。」
「そんな!!明らかに釣り合わない……しかし、ゴルド王国のシスターとしては何もいう事はありません…ですが生まれ故郷の事ですので、その…複雑な気持ちです…。」
なんてことを!!と喉元まで出ていたがふと冷静になる。
セティはエルフの国の住民でもなく、ましてや国の方針や内政に口出しをできる立場にない。
行き過ぎた行為だ。
セティは発言を反省した。
「すみません、ですがおかげでこうして立て直す事が出来たのも事実です。
グランシェル諸島との交易も非常に良いものとなっております、搾取されるといった事はなく平等に取引をしています。」
話しでは最初の十数年程は無償で農作物の提供を行っていた、しかしグランシェル諸島の上層部が代替わりしたタイミングで契約が破棄され、正式な交易相手として再契約をした。
「それは…知りませんでした、グランシェル諸島との交易があったのは知っていましたがまさか背景にそんなことがあったとは…。」
「報告されますか?」
それは不安が混じった声色だった。
だがセティはその不安を汲み取るような優しい声で答える。
「いえ、私は珍しい奇跡を見ただけです、どこから運ばれてきたのかなどを記録しなくてもよさそうですね。」
「ありがとうございます、意外でした、教会はもっとお堅い組織かと。」
「もちろん私だからですよ?他の白服ならもっっっとめんどくさいことになっていたでしょうから。」
「それは…恐ろしいですね。」
懐からメモ帳を取り出し水壺をスケッチし始めたセティはしばらく自分の世界に入った。
故郷に対する思い入れが薄いと感じていた自分だったが、先ほど声を荒げてしまったことを思い出しながら。
心の奥ではまだ故郷を思う気持ちが残っていたことに、驚きと安心が入り混じった複雑な気持ちを落ち着かせながらペンを走らす。
遠くからセティを呼ぶケンジの声にまったく気が付かないほどに。
◇ ◇
「お楽しみいただけたようで。」
屋敷に戻るとニコニコ笑顔のヨヨが出迎えてくれた。
「さて村の感想は食事をしながらでも、エルフ式ではありますが宴をご用意しました、今夜はこちらでお泊りください。」
こうして至れり尽くせりの宴が始まった。
客人であるケンジと、久方ぶりに故郷に帰ってきたセティを歓迎するエルフの宴は大変興味深いものだった。
特にケンジが興味を持ったのは料理だった。
「これは、芋?」
目の前に置かれた黄色の楕円形の球体、少し湯気が上がっていることから皮をむいた蒸かした芋の様に見える。
驚くべきことはその大きさ。
「大きいですね…。」
セティもアケラ村で収穫されたジャガイモを見ている故、目の前に出されたジャガイモの様なものがおなじ野菜だとは思えないほど大きかったのだ。
(男爵芋?それよりも大きいぞ…ソフトボールよりでかい、変異体か?)
フォークで少し刺したがかなり柔らかく、芯まで火が通ってる証拠だ。
「珍しいですか?そちらは少量しか収穫できないジャガイモで時々出来るんです。
非常においしくこの時期しか味わえない物ですよ、是非食べてみてください。」
ジャガイモと聞けば安心する、規格外のサイズではあるが味の想像ができるからだ。
「で、では。」
少しほぐし口に運ぶ。
衝撃。
ケンジの最初の感想はそれだった。
「甘い!?」
口に広がったのはサツマイモの様な甘さ
ジャガイモと思って食べたらねっとり系の甘みのあるほくほくのジャガイモだったのだ。
「しかも全然繊維質じゃない、食感や香りは蒸かしたジャガイモなのに味がサツマイモだ!!」
フォークが止まらない、混乱する脳に対して身体が問題を何回も確認しようと口に運ぶ。
「これおいしいですね、王都へは輸出してるのですか?」
セティも気に入ったのかパクパクと口に運んでる。
「いえ、こちらは本当にたまにしか収穫できないので国内で消費してしまいます。」
「あらもったいない、ですがこんなおいしいもの市場に出たら混乱が生じますでしょうしこれでいいのかもしれませんね。」
あっという間に平らげハーブティーをすする。
「どうですかケンジさん、私どもとしてはこういった作物を安定して栽培したいのですが…可能だと思いますか?」
ヨヨは探る様な目線をこちらに向けてくる。
「う~ん、これは…変異体?交配でできたのかな?場合によっては土の影響…そもそもエルフの国自体が特殊な環境だから再現出来るかどうか…でも毎年少量収穫できるという事は種芋の段階で特別な事をするのではなくて生育段階か........。」
腕を組みあれこれ呟き、ケンジが出した答えは。
「恐らく、可能…かも…多分........。」
自信なさげな返答に対して大きな声を上げたのはヨヨ。
「おぉ!!本当ですか!!??やはりあなたは救世主だ!!」
飛び上がり大喜びするヨヨ。
「いいんですか?無理なら無理と言うのがいい場合もありますよ、と言うかほとんどの場合そうですけど。」
心配するセティの言ってることはもっともだが、それよりケンジの心の奥底に小さな火が付いた。
異世界に来て初めて遭遇する未知の野菜。
自分が持つ特別な力と知識。
宴で提供された料理はケンジに未知への好奇心と謎の自信をもたらした。
読んでいただき誠にありがとうございます!!
X(旧Twitter) @yozakura_nouka
ご感想や質問などお気軽にどうぞ!




