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歓迎会

ジュゲ大密林は年間を通して一定の気温と湿度を保っているのが特徴的な土地だ。

そのおかげかキノコや山菜などが年中安定して収穫可能だった。


「父上、本日は西の方に行きキノコを取ってこようと思います。」


「そうか、コトもそろそろ食用とそうでないもの、危険なキノコの見分けがつくだろう、良いだろう門番にも行き先は伝えるように。」


「もちろんです!!では行ってまいります!!」


◇


集落から西に進んだところに小さな湖がある、古くから女神湖と呼ばれるその湖は天使が降り立ったという伝承があり、森エルフたちはその湖を神聖な土地として扱ってきた。


「お、これは食べれるキノコ、薬草もあるな…腰痛に効くからみんな喜ぶぞ…。」


湖の周囲は不思議と生き物が近寄らず食用のキノコや野草が野生動物に食べられることなく群生してる。


「あまり採りすぎると良くないな…これくらいにしておくか。」


コトは背負子にたくさんの野草を積み少し早い帰路に就こうとしていた。


「ん?あれは…人間?」


湖畔に人が倒れているのを見つける、この時森エルフは中立な立場としてゴルド王国と魔王国の戦争に関与していなかった。


当時エルフ種は奴隷としての需要が高く、ジュゲ大密林にも奴隷狩りが何回も来ては撃退されている。


しかし西の森は人間の国の反対側、森エルフの警戒網を潜り抜けた先だ。

こんなところに人間がいるだけで大問題なのだ。


「なんでこんなところに…。」


木の上に登り様子を伺う。


◇


鈍い頭痛に起こされ周囲を見渡す、見覚えのない風景に混乱するがその混乱もすぐに収まる。


「あぁ、この感覚が光魔法か…。」


先ほどまで居た空間で天使から説明された内容を思い出す。


「転生か…なんだか変な感覚だ、ここはどこなんだ?湖?」


周囲を見渡しても現世とかけ離れた環境なのはハッキリとわかる。

湖から顔を出してる亀の頭に角がありサイズもリクガメくらいでかい、木に巻き付いているツタ性植物も毒々しい色をしている。


「まるでおとぎ話の森だな、えっと何だったか東に向かえばいいのか。」


男は迷うことなく天啓の通りに東へ歩き始めた。


「天使なんてのは居ないと思っていたが、こうも目の当たりにすると信じざるを得ないな。」


その時男の目の前に1本の矢が突き刺さる


「止まれ!!ここは人間の立ち入って良い場所ではない!!」


男は両手を上げ武器を所持していないことを示す。


(あの男、先ほどから『天使』だの『転生』だのと…なぜ森エルフの伝承を知っている?)


「申し訳ない、姿が見えないのだが何者だ?」


「この森の住民だ!目的はなんだ!?所属国はどこだ!?」


「まってくれ!!今目が覚めたばかりで何もわからないんだ!!国の名前も地名も何もわからないんだよ!!」


コトは木から降り、弓を構えたまま姿を表す。


「なんだ?とんがり耳?」


「申し訳ないが拘束させてもらう!」


「抵抗したら?」


「ここで殺す、この森で我々から逃げられると思うなよ。」


男は周囲を見渡す。


日差しが入りはするものの濃い森だ、未知の世界で生きるすべを持たない男は諦め、おとなしく拘束された。


ツタでしっかりと縛られ、両手も縛られる。


「あんたは人間で間違いないか?」


「え?あぁ人間だ、信じてくれないかもしれないが転生してきたんだ、違う世界からこの世界に。」


「…その言葉を鵜呑みにはできない。」


木の実を入れる用だった麻袋を被せて歩かせる。


「なぁ、俺って殺されるのか?」


「…いや、それは無いと思う…森エルフは人間国とは中立的な立場だからいろいろ聞いた後、森から出て行ってもらうんじゃないかな。」


「そうか、殺されないってんならありがたいお話だ。

俺はクニヒトって言うんだ、君は?」


「敵か味方か分からないような奴に教える名はない。」


◇     ◇


「カカ様!!」


村で一番大きいツリーハウスにドタバタとせわしなく門番が駆け込む。


「騒がしいぞ、どうした。」


カカと呼ばれた老エルフは眉間にしわを寄せる。


「人間です!人間が来ました!!」


「何?何人だ?」


「1人です!」


「ん?どういうことだ?攻め込んできたという事ではないのか?」


「それが、連れてきたのが西の森に採取に向かったコトでして、発見したのが女神湖の畔だそうです。」


「ほう、それは興味深いな。」


森エルフに伝わる女神湖の伝承は有名で大人から子供までみんな知っている。


はるか昔に女神が降臨したと伝えられる湖は神聖な場所として村人ですらあまり近付かない。


「そんなところに人間が…そいつは今どこに?」


「門の外です、村に入れずに拘束を続けてます。」



◇



「ここへ来た目的は!!?」


「どこから来た!!」


「仲間はいるのか!?1人か!?」


門の前で兵士に囲まれ問い詰められるクニヒト。


「頼むから1人ずつ話してくれ、聖徳太子じゃあるまいし。」


地面に座り罪人のように尋問が行われていた。


その後ろで


「女神湖で倒れていた?それで『転生』や『天使』と呟いていたと…。」


「そうです、なので殺してはマズイかと思って…。」


コトが門番に説明している、だが門番の手に余る問題の様で困った顔をしている。


「これは長老の話も聞いてみないと分からないな…森の入り口の警戒兵からは人間が森に入ったといった報告はなかったから、もしかしたら本当におとぎ話の天使様と関係あるのかも?」


「ていう事は、女神様が遣わした使徒様!?」


「声がでかい、その判断は早急だと言える。

もしあいつが侵略者や敵だった場合、持ち上げるのもよくない慎重に判断せねば。」


その時、兵士の間をかき分けて一人の老人が姿を現す。


「長老!」


「乱暴なことはしておらんだろうな。」


長い顎髭にとんがり耳、周囲の兵士達と比べて高級そうなローブを身に纏い高貴な雰囲気を漂わせていた。


「こやつか。」


「長老さん?自分はクニヒトって言うんですが敵じゃありません、転生してきて何も分からないんです!」


「ふむ…転生と申すか、良しここで話すことではないな私の家に来たまえ。」


兵士たちがどよめく


「良いんですか!?」


「もちろん君たちも同行したまえ、拘束は解かずにそのままでな。」



◇     ◇



大木をそのままスライスしたような立派なテーブル 、対面には長老と護衛、クニヒトの周囲にも複数人の兵士が付いている。


「さて、君の言っていることが本当なら君は転生者と呼ばれるおとぎ話の存在だと…そういう事になるが?」


「そのおとぎ話ってのは分からないけど、アストログロブって天使から聞いた話だと徳を積んだ人は転生できるって話だ、それで…。」


「まて…その先は言わんでよろしい。」


重々しい言葉が響く。


「兵士諸君席を外したまえ、君たちもだ。」


どよめく兵士達であったが逆らうわけにもいかず、クニヒトの拘束を再度しっかり確認した後部屋を後にした。


「信じてもらえるのか?」


「その為にはいくつかの質問が必要だ、いまさっきアストログロブといった天使に会ったと言ったな?

詳しく聞かせてもらおうか。」


「詳しくも何も、徳を積んだとかで転生ができるって話しを聞いたんだ、好きな能力も貰えるって聞いてそれで転生したらあの湖の畔でさ、直前に東に進めば良いって聞いたから。」


「ふむ、その話を聞いているだけだとにわかには信じがたいな。」


「じゃあ能力を見せるよ、多分それが一番分かりやすい。」


「どのような?」


「食べ物を出せる。」


「何?」




テーブルには水がたっぷり入った水瓶が置かれていた。


拘束を少し緩め片手だけ動かせるようになったクニヒトは水差しに手をかざす。


すると水差しはカタカタと小刻みに揺れついには倒れる。

中から大量の水がこぼれる、しかし不思議なことに水が1か所に集まり始めた。


波打ち、まとまり、よく見る球体になる。

水球はリンゴの形になり少し震えたかと思うと色付きはじめ、そしてテーブル上に鈍い音を響かせ転がった。


「これは驚いた、水からリンゴが出来た…!」


カカはリンゴを手に取るとナイフで半分に切る。


「うーむ、これはすごい、匂いもまるでリンゴだ。」


「聞いてはいたが凄い能力だなこれ。」


天使から説明や力の使い方を教えてもらってはいたものの、実践は初めてだという。


「何を申すか、凄いどころの話ではないわ!この世には水が無限に湧きだす水壺という奇跡がある、それと組み合わせて使えば天下も取れかねん力だ。」


カカの顔から笑みが消え、深刻な表情に変わる。


「クニヒトと申したな貴様。」


「そうだ。」


「貴様を転生者として認めこの村の滞在を許そう。」


「本当か!?」


「だが条件がある。」


「なんだ?さっきのは疲れるから1日何回もは出来ないけど。」


「条件はこの村から出ない事、そしてこの能力の事は誰にも言ってはならんという事、これらが守れるなら自由は保障しよう。」


「そんな!村から出られないって!?」


「これは貴様の為を思っての話だ、想像してみろ水から食料を生産できる能力!そんな力どこの国でも欲しがる、外ではゴルド王国と魔王軍の戦争真っ最中だ、それに比べ我々森エルフは中立を宣言しておりこの世界のどこよりも安全と言えるだろう。」


ゴルド王国は人間の国ではあるが適年のクニヒトが入国すればすぐにでも従軍させられるだろう、さらにその能力がバレた場合はどうなるか、考えなくても分かることだ。


魔王国なんてもってのほか、人間という事だけで殺されるだろう。


その他グランシェル諸島なども人間に対して友好的な国ではあるが、行くには戦争中のゴルド王国を横断せねばならない。


世界事情をカカから聞くと反抗する気も起きなくなる、今の世界だとエルフの森に転生したのは幸運だと言えるだろう、もしかしたら天使様が気を使ってくれたのかもしれない。


「分かりました、この村に住まわせていただきます。」


「うむ、村のリーダーたちには私から説明しておこう。

ん?という事はこの世界の事を何も知らんのだな?」


「恥ずかしながら。」


「なるほど、おい誰か!!」


カカが手を鳴らすと奥の方から扉を開けこちらに歩いてくる音が聞こえた。


「お呼びでしょうか?」


呼ばれてきたのは1人の女エルフ、エプロンをしていることから家政婦のような仕事をしているものだろう。


「こちらは今から捕虜ではなく客人だ、だがこの世界の事をまったく知らん。

子供に教える様に丁寧にこの世の事を教えてやれ。

クニヒト殿、こちらは世話係だ何かあったら彼女に言いたまえ。」


「ありがとうございます。」


こうしてクニヒトのエルフの森での生活が始まった。




◇     ◇     ◇     ◇




「代々長老に口づてに伝わるお話ではこのように伝えられておりました…。」


ヨヨが話し終えると同時にセティが質問をする。


「ではそのクニヒトといった異世界人が今のジュゲ大密林同盟国エルフ区を作った、もしくはそれに尽力したという事ですか?」


「そういう事になります、もちろん表舞台には出てきてませんし記録にも残っていません、今では長老である我々3人しかそれを知りません。」


双子の長老エリとキリも頷く


「そこでケンジさんに、是非見てほしい代物があるのです。」


ヨヨは木箱を取り出しケンジの目の前に置く。

漆が塗られた重厚感のある木箱だ。


「これは?」


歴史がある物だと悟り、慎重に開ける。


「クニヒト様が残した本です。」


中には複数冊の本が入っており、番号が振られていた。


「我々も大切に保管してきました…そしてこの本の内容を失礼ながら読み解こうとしたのですが…古今東西様々な言語を調べつくしましたが分からなかったのです。」


「なるほど、そこで異世界人のケンジさんなら内容が分かるのではないか?といった狙いですね?」


「はい、今回お招きした理由もこちらの本の解読をお願いしたく思ったまでです、森エルフの根幹に関する物ですので他国の言語学者に依頼するわけにはいかず…。

長年の謎が解決するかと思うともう居ても立っても居られなくて。」


「なんだか、そう言われますと緊張しますね…。」


ケンジは本をペラペラとめくる


「あっ、これは…日本語だ…。

その日にあったことが書いてあります…

『今日は晴れ

畑に植えた野菜が収穫できそうだ

エルフの森は気温が一定なので育てやすい』と書いてあります。」


「日記?」


少し残念そうな表情を浮かべるヨヨ。


「もしかして、技術書な期待していました?」


ヨヨは少しいたずらっぽい声色のセティに対し心底残念そうに答える。


「恥ずかしながら少しだけ…そうですか日記ですか、ですが先人が残した貴重な物には違いありませんありがとうございます。

ところでケンジさん、そのニホンゴという言語は異世界の言語ですか?」


「そうですね、自分が元居た世界で使われていた言語ですね。

この言語を使うのは世界的に見てもごく一部でして、元居た世界でも難しい言語として有名でした。」


異世界に来て初めて出会う故郷の文字に少し懐かしさを感じた。


読み進めて分かったことがある、彼は農業の知識はほとんどなかったこと、しかしそれでもあきらめず見よう見まねで元居た世界の農地を再現しようとしたこと。


それが実を結び大規模農園を作ることに成功したと日記には書かれていた。

そして最後の日記は本の真ん中あたりで終わっていた。


「クニヒトさんは最後どうなったんでしょう?」


「言い伝えでは寿命で亡くなったそうです、お墓は女神池の畔にありますが森エルフ以外の立ち入りは禁じられていますので…すみません。」


「いえいえ!大丈夫です。

こうやって日記を読ませていただいただけでもありがたいです。」


丁寧に木箱にしまいヨヨに返却する。


「転生者は、我々にとって救世主です。

先人たちの遺志を継ぎ、もしまた転生者が現れたら恩返しをしようと心に決めておりました。」


ヨヨは優しく木箱を撫でる。


「そうですか…自分以外にも転生者がいるのではないかと思ってましたがまさか同郷だとは…。

とても貴重な情報ありがとうございます。」


「いえいえ、ケンジさんがこうして現れたのも何かしらの運命を感じます。

我々の歴史が動いたことは確かです、本当にありがとうございます。」


少し目頭が熱くなったヨヨにすかさずセティが切り込む


「ではその恩返しとして、農場の見学をさせてもらえませんか?

更に欲を言えばエルフ区以外での農作物栽培にも目をつむっていただきたいのですが。」


セティはここへ来た本来の目的を話す。


「アケラ村では今現在ジャガイモの栽培に成功しております、これらは他国との貿易に利用しており今後も規模を拡張する予定です。

世間一般的には農作物のほとんどは森エルフ産といった認識です、我々としては今後『アケラ村産』の農作物を出す許可、または森エルフのお墨付きが欲しいのです。」


もちろん作物を栽培する権利は誰にでもある、法律で制限されているわけでもない。

だが今までは森エルフの独占商売とされてきた。


「その、疑問なんですが…何故作物の栽培を他国などに広めなかったのですか?」


ケンジの疑問はもっともなものだった、転生者の存在を表に出したくなかったとはいえ栽培方法だけなら長老の発明として世界に発信してもよいと思うだろう。


「そうですね、私も生まれたときは農作業の方法を広めたらよいのにと思いました、しかしそれが出来ない時代背景があったのです。」


当時戦時中、どの国にも属さない森エルフは中立の立場を貫いていた。

しかし戦争が長引き治安が悪い世の中が続いた時、奴隷狩りが横行した。


エルフはその容姿や貴重性から奴隷としての価値が高く、森から出れば奴隷狩りに怯えなければならなかった。


それらの危険性をなくすために森エルフとしての別の価値を生み出す必要性があった。

『森エルフには高度な作物栽培技術があり、奴隷狩りの被害にあえば作物の提供を辞める。』といった脅しだ。


「つまり森エルフ達は自分たちを守るために農作物などの栽培方法を独占してきたのですね。」


「はい、ですがそれは今までの話です。」


「?」


「つい先日ゴルド国王陛下がお亡くなりになられましたよね?」


情報が早い、恐らくその日のうちには耳に入っていただろう。


「実は先代国王と約束しておりまして、その約束というのが次期国王には奴隷制度を廃止するように遺書に書くといったものです。」


「それは本当ですか!?」


「恐らく教会でも把握していない内容だと思います、陛下との個人的なやり取りでしたので。」


ヨヨは手を組みなおしケンジを見据える。


「もしこの奴隷制度廃止が実現した暁には、我々が奴隷狩りから怯える時代が終わる。

そうなればケンジさん、我々は喜んで貴方に協力しましょう。」


「待ってください!奴隷制度を廃止するなどにわかには信じられません!奴隷制度は国の奥深くまで入り込んでいます、それをいまさら廃止するとなるとどうなる事やら…。」


慌てふためき頭の中で高速で思考を巡らせているセティに対してケンジは何が問題なのかわからなかった。

それもそのはず、ケンジは奴隷が居ない時代からやった来たからだ。


「奴隷が居なくなることはそんなに大変な事なんですか?」


「それはもう、あ、ケンジさんは奴隷制度について知らないんでしたね。

簡単に説明いたします。」


◇


『奴隷制度』


昔は奴隷の権利を無視したひどい扱いをされてきた者たちが大勢いたが、近年の奴隷制度はかなり変わった。


まずは奴隷になる者、彼らの大半は金銭的なトラブルによって奴隷落ちとなったものが多い。

冒険者の任務違約金、ギャンブル、借金など理由はさまざまだ。

そうなった者たちは奴隷商人のところへと行きつく、そこで契約を交わし『自身を商品として金を得る』


例えば冒険者が護衛任務中に依頼品を破損させたとして保険などに入らず1,000Gの違約金を払わされることになったとする。

払えない冒険者は奴隷商へ行き自身を1,000Gで売りに出す。

それを客が購入する、元冒険者の奴隷なら護衛か労働が主な仕事な場合が多い。


出来る仕事やスキル、従順さや時には容姿などで給料が変化するが、自身を売りに出した金額に達するまで奴隷身分から抜け出すことはできない。


・雇い主は衣食住の保証と命を脅かすことはしてはならない。

・奴隷は雇い主に危害を与えてはならない。

・奴隷の所有権は購入した本人にしか与えられず、譲渡は不可とする。


◇


「などなど他にも細かい決まりごとはありますが、基本的には困った人の救済処置といった捉え方でよいと思います。」


「なんだか、想像してたのと違ったかもしれません。」


「その奴隷は今や国を支えるほどにまで発展しました、貧しい者達への救済処置でもあるのです。

それが廃止となると…貧しい者達の働き口はなくなり冒険者も苦しい思いをするでしょう、奴隷から冒険者に復帰する者はかなり多いのです、それが無くなると浮浪者になったり最悪、賊になったりする可能性も出てきます。」


「賊…。」


ここに来るまでにであった者達を思い出す、元冒険者だったものもいるのだろうか。

もしあのような者たちが増えた場合、今まで行き来してた道中が一気に危険なものと化してしまうだろう。


「それは…困りますね、しかし森エルフの皆さんの事も考えたら奴隷狩りは怖いですし…。」


「いくら国が森エルフの奴隷を国が禁止にしても裏で違法な取引が行われてしまうのが現実です、ゴルド王国では取引が出来なくとも他国だと監視の目が甘いですからね。

我々の願いはただ一つ、奴隷そのものを失くしてほしいのです。」


少しの間沈黙が流れる、セティとしてもヨヨの言い分は理解できるのだろう。

しかし簡単な問題ではないのは事実だ。


立場としてセティは弱い、それこそゴルド王国の中心に近い人物でないとこの問題は動かせないだろう。


「私としては…同胞が奴隷狩りの被害にあってほしくはありません、森エルフが堂々と歩ける世界を作りたい…ですが、今の私では次期国王が遺書に従ってくれるのを願うしか…。」


膝の上に置いてあるセティの拳に力が入る。


「そのお言葉だけでもうれしいです、この問題は早急には解決できません。

セティ様、ケンジ様、今回のところは農場の見学だけでもよろしいですか?」


「…そうですね、見学だけでもありがたいです。」


「はい…ありがとうございます。」


2人は深々と頭を下げた。


「先ほどおっしゃったジャガイモの栽培に関して、市場に大量に流通させないのであれば我々は目をつむります、その他作物に関しましてもアケラ村内で収まる量でしたら大丈夫です。

もし奴隷制度が廃止された暁には…我々も協力を惜しみません。」


ヨヨ、そしてエリとキリは立ち上がりケンジたちへと歩み寄る。


ケンジとセティも同じく歩み寄り、5人は固い握手を交わした。


「本日はありがとうございました、非常に有意義な時間を過ごせました。

長年の疑問であったクニヒト様の本の内容もわかりましたし、こうして転生者様に恩返しできる機会をいただけて感謝しております。」


「こちらこそ、まだまだ解決しないといけない問題がたくさんありますし、いろいろお世話になるかと思いますがよろしくお願いいたします。」


ヨヨとケンジは長い握手を交わした、こうして突然行われた歓迎会は幕を閉じた。



◇     ◇     ◇



「こちらが、我が国が誇る農園でございます!」


エリとキリに案内されて向かったのは森エルフの農園。

そこはケンジの想像をはるかに超えた景色が広がっていた。


「な、なんだこれは…。」


見わたす限りの畑、奥には棚田の様なものも見える。

奥に見える森はよく見ると果樹園だ。


所々に小屋が立っており、育苗している光景が目に入る。


「す、凄い規模だ…。」


その中でも目を引いたのは地面に植わっている半透明のカプセル型の何か、まるでビニールみたいな見た目をしているそのカプセル型のものの中には唐辛子らしき植物が育っていた


「これは何ですか?」


「これはスライムを利用した温室カプセルと呼ばれるものです。

スライムは核を破壊すると液体状になってしまいますが、とある方法を使うとこのように弾力性を持った薄い膜だけが残ります。

それを利用し中の温度を高め、気温が高い地方でしか取れない作物を栽培できます。

あ、もちろん温室カプセルの作り方は秘密です。」


笑顔で答えるエリ。


「つまりビニールの様なもの…まさかこのレベルとは…。」


まさかの技術に驚愕し感心する、まさか異世界にきて温室栽培を見ることになるとは思わなかったからである。


「更に奥の方ではお米も栽培してますよ。」


「本当ですか!!??見させてください!!!」


暴走するケンジにやや引いてるエリはあっという間に農園の奥へと消えた。


「ケンジさんがあんなに興奮しているのは初めて見ました…。」


「ふふっ、奇跡を見てるときのセティ様もあんな感じでしたよ?」


「もうっキリさん、さすがにあそこまでではないですよ。」


「はは…。」


「ところで、一つ質問が。」


「はい、何でしょう。」


「この農園の広さ、さすがにすべてには手が回らないでしょう?」


ねっとりとした視線にキリは寒気を覚える、イヤな予感は当たる。


「最低でも水壺…それ以外にも奇跡を使用した農法があると思ってるんですが…いかがです?」


「い、いかがというのは…。」


「是非、案内して欲しいんです、もちろん全部。

私がいたころはまだこんなに農園が発展してなかったので…この機会に隅々まで見させてもらいます。」


「あ…あはは。」


キリは案内を押し付けたヨヨを少しばかり恨んだ、絶対こうなる事は分かっていたはずだから…。


読んでいただき誠にありがとうございます!!


X(旧Twitter) @yozakura_nouka


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