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長老たち

森エルフの国まで目と鼻の先まで来たところでケンジたち一行は野営をしていた。


「あとどれくらいなんですか?」


こういった野営では難しいとされる暖かいスープに豪華な肉の乗ったパンを頬張るケンジ

セティの四次元ポケットのような奇跡のおかげだ。


「もうすぐですよ、半日もないでしょう。

入国が少し手間取るとは思いますが問題はないかと、どちらかと言えばあちらが問題ですね。」


2人の目線の先には賊が縄で拘束されていた。


「セティさん、少しよろしいでしょうか?」


カール髭の商人が髭をいじりながら話しかけてきた。


「先ほど冒険者達と相談したところ、冒険者達と1人商人が残ります。

賊の引き渡しが完了したら森エルフの国へと合流しますので。」


飛ばした伝書鳩はもうゴルド王国の騎士団詰所まで到着しただろう。

そうなると後は早い、あらかじめ待機していた騎士団の東部警備隊が派遣されこちらに猛スピードで追いつく。


その後は引き渡しと情報伝達、周囲の捜索や賊への尋問が行われる。


一通り済んだ後に王国への連行となる。


「そうですね、その方が良いでしょう。

ここからは賊が出るような所は無いでしょうし」


「あと、賊に関して恐らく賞金がかかってまして冒険者組合と貿易法により、今回同行した『鉄の盾』に一部払うことになっておりまして。

セティ様に満額お支払いする事が出来ないのですが…。」


どうやらあの賊の頭には賞金がかかっていたらしい。

護衛任務を担っている冒険者が賞金首や魔物を討伐した場合は、ギルドにて追加報酬が貰える。


護衛任務を生業とする冒険者達には「襲撃があった方がおいしい」派と「襲撃は無い方がいい」派で分かれる、『鉄の盾』は無い方がいい派だ。


『鉄の盾』リーダーは今回の襲撃について我々はほとんど仕事をしていないと主張し、シスター殿に報奨金をとの申し出だった。


「報酬に関しては我々は一切受け取りません、私が所属するアストログロブ教による慈善活動として…どうしてもというなら本国に帰られた際には是非教会に立ち寄り、感謝の祈りとほんのお気持ちの寄付を。」


「おぉ、なんと慈悲深い!!是非ともそうさせて頂きます!!冒険者達にもそうお伝えします!!」


深々とお辞儀をして去っていく商人の背中を見つめながら少しもったいないなと感じたケンジ、セティの路銀に不安はないのだろうか?


「ケンジさんの考えが分かりますよ?もちろんお金は旅をするにあたり重要なものです、ですが白服は毎月教会側からお給料が出ますので貯金はたんまりあるのでご安心を。」


「教会から出てるんですか?」


「もちろん、黒服の子たちには出ていませんが代わりに衣食住を提供しています、白服になると仕事に使う必要経費が必ず出るので。

私なんか奇跡の回収を仕事にしてますから教会の予算を使用する権限が一部与えられてます、なので問題無いですよ、安心して旅を続けましょう。」


ゴルド王国の国教であるアストログロブ教の金を使用する許可が出ている、その言葉だけでケンジの頭の中には天井まである金貨の山が安易に想像できた。


「すごい…。」


「ふふっ、無駄使いしたらありえないほど怒られますがね。

さて、今後の予定ですがお聞きになった通り2班に分かれます、この距離なら半日もかからないでしょう。

国に入ってしまえば賊の心配はありません、後は基本的に私が手続きや話を進めますので。」


「すみませんお願いします、私が話したらがボロが出そうなので。」


「えぇ、そしたら後は観光ですね、農園などの視察や国の街並みを見ていってください。」


「わかりました。」



◇     ◇     ◇     ◇



一方そのころゴルド王国では。


「この度は即位の儀、お疲れ様でございました。」


「うむ…。」


国の中央にそびえるイヴァン城の一室に2人の人影があった。


部屋は豪華絢爛に装飾されており、その部屋の主の権力を誇示するような作りになっていた。


「うーむ、毎度思うがもっとこう、落ち着いた部屋はないのか?」


「しばらくはこの部屋でお過ごしください、配下の者どもや貴族共に威厳を示さねばなりませぬゆえに。」


「むぅ、それもそうか…明日の日程は?」


「はい、パレードがございましてイヴァン城から中央広場まで、そのあと右回りで国内を1周して頂く予定でございます。」


「疲れるな…。」


豪華な魔物革で作られた執務椅子に座る青年は深々とため息をついた。


「しかし、それが国民が望む王の姿というのならば…やぶさかではないな。」


青い瞳に金髪が煌めく凛々しい顔をした青年こそこの度新たにゴルド国王を襲名したゴルド・オーラン4世である。


「さてイディオ、前国王が亡くなった際の周辺国の行動はいかがなものだった?」


側近のイディオは卓上に数枚の手紙を置いた。


「まずは隣国のジュゲ大密林同盟国エルフ区から弔意の手紙をお預かりしてます、南国のグランシェル諸島の代表からも。

西側諸国の王族貴族からも来てます。」


「魔王国からは?」


「いえ、一通も。」


「…そうか。」


天井を見上げる国王にイディオは心配そうに声をかける。


「本日即位の儀が終わったことですし、明日からは各国の王族貴族らから大量のお手紙が届きますよ。」


「…そうだな、今は目の前の仕事に集中するか…そういえば、北の村と魔王国が取引をしてたな。」


「はい、アケラ村と名を改め魔王国と小規模ながら物資のやり取りを行っているそうです。」


「あぁ!そうだアケラだ!騎士団長のベルモンドが気に入っていた娘だ。

牢屋で潰すには惜しい才能だと思い辺境伯にしたんだった、この短期間で素晴らしい成果を上げているな。」


「お呼びいたしますか?」


「そうだな、落ち着いてからにしようか。」


「かしこまりました、では本日サインしていただきたい書類ですが…。」



◇     ◇     ◇



森エルフの国、正式名称は『ジュゲ大密林同盟国森エルフ区』となる。

しかしその正式名称で呼んでいるものは少なく、だいたは森エルフの国や密林同盟国などといった呼ばれ方をしている。


その国は鎖国的な政策を取っており、国内に入れる人物は国民以外だと非常に厳しい審査が必要だ。


その国の入り口でケンジたちは身体検査を受けていた。


「何か招待状や入国許可書などをお持ちですか?」


ツンととんがった耳にスラリと細身長身の美形の男性、第一印象は絵にかいたような男性エルフだった。

森エルフはケンジの知るファンタジーに出てくるエルフ像そのままだった。


セティが懐から手紙を渡す。


「…ありがとうございます、身体検査をしますので奇跡の類や魔道具などは外していただいて鑑定士にお渡しください、あ、貴女は大丈夫です。」


指輪を外そうとしていたセティが警備員に止められる。


「お名前は存じ上げておりますセティ様、上の方から寛大な処置を心がけるよう命を受けておりますので。

ではそちらの人間の方は身体検査の方をお願いします。」


森エルフでありながら人間社会で名声を上げている人物は地元でも有名人らしい。


「えっと、奇跡などは持ってなくて、ナイフと…冒険道具くらいですかね。」


テーブルの上に荷物をごそごそと置いていく、ゴルド王国で購入した湾曲が特徴的なナイフと発火の魔法陣が描かれたキャンプキットあたりが危険物だろうか。


「ふむ。」


中年に見えるエルフの鑑定士が眼鏡を持ち上げナイフをじっくりと観察する。


「特になんの変哲もない普通のナイフ、ドワーフ製ですが恐らく卒業作品の物ですな。」


「そんなことまでわかるんですか!?」


「だてに100年も鑑定士をしておらんよ。」


ナイフを鞘にしまいテーブルに置く。


「他は基本的な物ばかりだな、特に危険性はないな、いいぞ。」


紙にサインをし警備員に渡す、警備員はそれを確認し書類にサインする。


「ではこちらに来ていただいて。」


誘導されるがままにお立ち台に立ち、2人がかりでボディチェックを受けた。


「はい、ご協力ありがとうございました。

セティ様は国内に入っていただいて大丈夫ですが、ケンジ様に関しましては別室に移動していただきまして森エルフの国に関する座学を受けて頂きます。」


これも事前にセティに聞いていたので驚きはしなかった、むしろ親切でありがたいとまで思う。



◇     ◇



「やっと終わりました。」


「お疲れ様です。」


部屋から出るとセティが待っててくれた、キャラバンは先に国内に入り荷下ろしなどのやり取りをしている。


「どうでした?座学は。」


「おおむねセティさんが馬車の中で話してくれた内容そのままでした、森エルフの生活についてなどが主な内容でしたね、国内での注意点や罰則例など。

鎖国的と聞いていたので警戒してましたけど、案外親切なんですね。」


「完全な鎖国ではないですから、これでも昔に比べかなり緩和された方なのですよ?」


戦後間もないころ、それもまだゴルド王国との貿易が無かったころは今よりもっと厳しく、他種族に対する差別や偏見も色濃かったため国内に入れるものは森エルフ以外認められていなかった。


関所から出ると目の前には広大な密林の入り口が広がっていた。


「おぉ…。」


「ふふっようこそ、ジュゲ大密林同盟国エルフ区へ。

今見えている密林すべてが森エルフの区域ですよ。」


アケラ村周辺の森の木をはるかに超える背丈の大樹、幹は太く、ツル性の植物がびっしりと巻き付いていた。

ケンジの記憶にあるメタセコイヤという大木を彷彿とさせた。


密林ときいて勝手にアマゾンの様なものを想像していたケンジだったが、人の手が入った痕跡がある巨大な自然公園のようなイメージに変わった。


木々の間の雑草は少なく、木々も等間隔で杉山の様に管理された森だった。


「もっとジャングルみたいかと…。」


「でしたら山を越えた向こう側のジュゲ大密林ですね、あちら側は湿度が高く足場も悪いです。

生態系も大きく異なるのでジュゲ大密林で話がかみ合わないことも多々あります。」


「なるほど。」


「セティ様とケンジ様でございますね?」


今しがた出てきた門から青年エルフが声をかけてきた。


「はい。」


「長老のところまでご案内いたします。」


「あら、それはご親切に。」


「あれ、国を見るんじゃ…。」


「ケンジさん、長老のところに招待されたということはいわゆる国王陛下に呼ばれるのと同義ですよ、断る理由がありません。

さ、馬車に乗りましょう。」


馬車に乗り込むとその異質さに気付く。


「セティさん、この馬車窓がないです…。」


馬車の内装は綺麗に仕上げられておりクッション性の高い座席で快適だが、外の様子が一切分からない使用になっていた。


天窓から差し込む光で暗くは無かったが、狭苦しく感じた。


「まだ完全に信用しきってないんでしょうね、国内を行き来できる商人は信頼と実績を長年積み重ねた商人です。

一方我々は隣国の無名の村から来た者、信頼しろというのが難しい話でしょう…大体予想はついていましたがここまで予想通りだとは。」


「長老とどのように話せば…。」


「基本的には私が会話しますよ…ですがもしかしたら長老が話したいのはケンジさんかもしれません。

そうなったら…。」


顎に手をあて少しの沈黙。


「隠し事はしたくないですし出来ないでしょう、となればやはり正直に話すべきでしょうね。」


セティがいう正直というのは異世界関連の話だろう、以前セティは教会に関する情報を知るものは限りなく少なくあるべきといった話が合った。

だが相手はゴルド王国の友好国、変に噓をついて印象を悪くするのは良くない。


「包み隠さず?」


「えぇ。」


「分かりました、セティさんを信じます!」


こうしてケンジはゴトゴトと馬車に揺られ、想像していた物と違う形で森エルフの国への入国を果たした。



◇     ◇



「到着いたしました。」


青年エルフが扉を開けてくれた。


質素な建造物が目に入る、木造の見事な建物だ。

神社などを連想させるような開放感のある作りで、何人もの森エルフが働いているのが入り口からでも見れる。

その入口の正門前には1人の年老いた森エルフが待っていた。


「ようこそお越しいただきました、セティ様、ケンジ様。

森エルフ一同あなた方の訪問を心より歓迎いたします。」


両腕を組み深々と頭を下げる。


2人ともお辞儀をする。


「立ち話もなんです、森エルフが誇る大役所をご紹介しながらでも…。」


「よろしくお願いいたします。」


案内されるがままに正門をくぐる。



「この大役所と呼ばれる建造物は古来より伝わる伝統的な建築方法で建てられておりまして、釘などを使わない特別な技法が使われております。」


「おぉ~。」


(神社っぽいって感じたのはそれかな?柱の作りとか天井が似てるんだよな。)


「この様なおもてなしは何か理由が?」


「もちろん、セティ様は有名人でございますから。

森エルフでありながら人間界で数々の偉業を成し遂げ、アストログロブ教の幹部にまで上り詰めた偉人です。」


「こちらではそんなに持ち上げられてるのですか?なんだか恥ずかしいような…。」


「なかなか外とのつながりを持ちたがらない国民性ですから、森エルフの人間界での活躍は誇らしいものです。」


「それでこの待遇ですか?」


「…もちろんそれもありますが、ここだけの話、長老たちの興味はケンジ様にあるように見受けられます。

セティ様から入国の許可を求める手紙が来たときは…少し騒がしいように感じました。」


「やはりですか…いまいち長老たちの考えが読めませんね。」


「ですが害をなそうといった事は万が一にも無いです、それは我々森エルフの誇りにかけて誓いましょう。」


大きな扉の前に着き、こちらを振り返る老人の目は真剣そのものだった。


「では、この先に長老たちがお待ちです。」


扉が開かれ、招かれる。


早まる鼓動を感じながら、セティの後ろを小鴨の様についていった。




「ようこそ、森エルフの国へ、国を案内する前にこのようなところに呼び出して申し訳ない。」


入口の正面、最奥の上座の席。

そこには白いローブを着た長髪の中年男性森エルフが佇んでいた。


その左右には2人の若い女性森エルフ、3人は軽く頭を下げ歓迎の意を示す。


「こちらこそお招きいただき誠にありがとうございます。」


ケンジらも合わせて礼をする。


「ささ、おかけください。」


自然光が差し込む聖堂のような会議室、大木をそのままスライスしたような立派なテーブルを囲んで5人の会談が始まった。


「ご紹介が遅れました、私、森エルフ区の長老の一人、ミッドネス・ヨヨ・ハバーランドと申し上げます。」


腰まである白髪の男性は、今までケンジが見てきた森エルフと明確に違う身体的特徴があった。


それは長い耳であった。


もちろんセティもほかの森エルフも耳は長い、だがそれは人間種であるケンジの耳を引っ張り伸ばした感じだったが、彼らの耳の長さはそれよりはるかに長かった。


ほぼ真横に伸びた耳は少し垂れ、耳たぶにあたる部分には翡翠のピアスが揺れていた。


「長いので、ヨヨとお呼びください。」


「私たちは双子で長老を務めさせていただいてます、我々も名が長いので…エリとお呼びください。」


「私はキリとお呼びください。」


ほぼほぼ見分けがつかない2人はそれぞれ右耳と左耳に分かりやすいイヤリングをしていた。

エリは赤の宝石を右耳に、キリは青の宝石を左耳に。


だが装飾品を外されたら見分けがつかないだろう。


「セティ・パロネルと申します。」


「ケンジと申します、アケラ村から来ました。」


「遠いところからようこそお越しくださいました、ご用件はおおむね把握しております。

我が国の農園を見たいとか。」


「はい、こちらのケンジさんはアケラ村で農業を担当しているギルド職員でして、ゴルド王国の最大の貿易相手であるジュゲ大密林森エルフ区の農園を見学したいと。」


ヨヨは手を組み顎に当て肘をつく、某司令官のようなポーズになる


「ふむ、実はですね私どもとしては農園を見て頂くのは一向にかまわないのです、しかし…。」


「しかし?」


「いえ、これは勘なのですがね?

もしかするとですが…ケンジさんは何か、特別な力をお持ちなのではないかと…。」


ドキッと心拍が跳ね上がる。


「と言いますと?」


間一髪入れずにセティが聞き返す。


「今まで森エルフの農園を見たいと申し出るものは数多くいました、もちろん我々も国民を養っていかねばなりませんから、技術の流出には最大の警戒をしています。

なので今までそういった要望は断ってきました。」


この世界でなぜ農業が発展していないか、今までいろいろな仮説を立てていたが今はっきりした。


それは森エルフの国による技術の独占が原因だったのだ。


だがそれは悪いことではない、森エルフの総人口が何人かわからないが仕事は必要だ。

自給自足だけで生活できれば良いが、それができない場合貿易を頼ることになる。


もし国外に農作の技術が流失し、他国が森エルフの国の農産物より安い自国の農産物を消費し始めると森エルフたちはどうなるだろうか…。


「もちろん我々も友好国の飢饉を見て見ぬふりはできません、なので小麦などの主食になりうる農作物の栽培方法は国外への流出を認めています。

栽培できるかどうかはその土地によりますが…。」


「つまるところ何が言いたいのですか?」


ヨヨは少し座りなおす、そして口を開く。


「まず、今まで里帰りもしなかったセティさんが急に同伴して人間を連れて帰ってくる。

そして、以前魔王国からの使者を名乗るものから貿易が出来ないかの手紙が届きまして、まだ信頼が出来てないとしてお断りしましたが…少し怪しく、調査した結界アケラ村とやり取りを始めた様子でして。」


指を2本立てこちらを見据えるヨヨ。


「その2つと勘でケンジさんを何かしらの特別な力を持っていると?」


「じつはあと1つ、確信に至るお話があるのですが…これは我が森エルフ一族の根幹にかかわるお話ですので…。」


エリが深刻そうな顔で話す、声のトーンや表情から緊張感が伝わってくる。


「つまり、ここから話す事や見る事を外に漏らさない約束が欲しいという事ですか?」


「そうです、今からお話しすることは森エルフの長老にしか伝わらないお話。

口約束ではなく奇跡による契約をしていただきたいのです。」


「『痛撃の契約書』ですか?」


「さすがセティ様、お詳しい。」


「え、なんですかそれ、怖い名前してますけど。」


「『痛撃の契約書』というのは森エルフに伝わる奇跡の事で、契約書とは言いますが香炉の様な見た目をしており、中に約束事を書いた紙を入れ燃やします、そして燃え尽きるまでに『約束事を破るとどうなるか』を唱えるのです。」


「すばらしい、完璧な説明です。

そして今回していただきたい約束事は『この5人でこれから話した事は他言厳禁』という内容で、破った際には死を。」


「死…。」


「いいでしょう、では紙を。」


すんなりと要求を呑むセティ


「良いんですか!?」


「もちろん大丈夫です、『痛撃の契約書』はゴルド王国との貿易協定の際にも使用されたことのある信頼された奇跡なのですから。

実は国同士でのやり取りで使用される奇跡は非常に少なく、効果の鮮明さ、公平性、不正行為のしにくさなどを考えたら『痛撃の契約書』はまさにこう言った会談の場のために生まれた奇跡と言って過言ではないのです。」


早口で説明するときのセティは誰にも止められない、エリさんとキリさんも若干引いている。


「そ、そうですセティさんのおっしゃる通り公平性が保たれたものですのでご安心ください。」


そしてテーブルの上に『痛撃の契約書』が置かれた、見た目こそ普通の変哲のない香炉。

中に灰などを入れて香木などを燃やし部屋に香りを充満させる際に使われるのと非常に似ていた。


「失礼、中身を見させていただいても?あと細部も。」


「えぇ、大丈夫ですよ。」


懐からシルクの手袋を取り出し、なんたら鑑定団の様にじっくりと眺める。


「あっなるほど…ここは…〇〇地方の香炉に近い構造…けどこの形はあの地方では見られない作り…やはり仮説が違う可能性が…。」


ぼそぼそと周りに聞こえないような小声で呟き奇跡をぐるぐるとなめるように見つめまわす。


(この人これ見る為に承諾したんじゃないんだろうな…?)


「ありがとうございました、大変良い奇跡ですね。」


「ありがとうございます?」


急に褒められたヨヨは訳が分からないまま『痛撃の契約書』を受け取る


「では契約内容を。」


紙は普通の物でよいらしく双方確認の元、内容がつづられた。


『セティ・パロネル、ケンジ・ナカヤマ、ミットネス・ヨヨ・ハバーランド、エリ、キリ

5人で話し合った森エルフの歴史の根幹にかかわる秘密を5人以外に漏らさないこと。』


そう記された紙を4つ折りにしヨヨに渡す。


「では。」


ヨヨが火をつけ炉に入れる。


「約束事を破った者には死を。」


セティが唱える。


『痛撃の契約書』からは白い煙が立ち上り紙が焦げる匂いがした。


蓋の隙間から中身が見える、覗き込むと折りたたんだ紙は綺麗に燃え尽きていた。


「ありがとうございます、これで『痛撃の契約書』の儀は終わりです。」


「いえいえ、こちらこそ貴重な体験をありがとうございました。」


席に座りヨヨが奇跡を片付けに、一度退出した。



「セティさん、因みに死ぬとは言いますけど具体的には?」


「安心してくださいケンジさん、効果は私が保証します。

『痛撃の契約書』の裁きは有名な話で、過去には結婚式の誓いにも使われていたことがありました、その際に愛を誓った2人が居ましたが夫が浮気をしてしまったんですね。

そしたら語るも躊躇われることがおきまして。」


「ゴクリ。」


「男性はもがき苦しみ、3日3晩苦しんだのち原因不明の死を遂げました。」


「怖い…。」


「さらに怖いのはここから、なんとその妻も数年後似たような死に方をしたんです。」


「えっ!?なんでです?」


「これが恐ろしいところです、契約内容では2人は浮気しないことを誓いました、夫の死後悲しみを埋めるため別の男性と再婚をした妻を『痛撃の契約書』は浮気だとみなしたのです。」


「そんな。」


「そのお話、確かに記録されていた事実なんです、なので『痛撃の契約書』を使用する際の約束事を書く紙にはより細かい詳細を書くことが推奨されています。」


エリが力強く念を押す。


「なので今ここで話している内容に関しましては大丈夫です、約束事の条件を満たしておりませんので。」


この場にいるのはヨヨを除く4人、つまり約束事に書いた5人での会話でもなければ森エルフの歴史の根幹に関する話ではない。


「そういうことなんですね、奇跡も万能かと思ってましたが使い方を誤るととんでもないことになりそうですね。」


「そうなんですよ、なので私のような奇跡収集家が大事になってくるわけですね。」


鼻高々に自慢げに話していたところでヨヨが帰ってきた。


4人は一気に集中する、これから話す事が自分の命を握るからだ。


「お待たせしました、いやはや宝物庫までが地味に遠くてですね。」


衣服を整え席に座ると真剣なまなざしをこちらに向けてきた。


「この度は快く承諾してくださり誠にありがとうございます。

では今よりお話させていただくことには国家機密となりますので…よろしくお願いいたします。」


念に念を押すヨヨ、そこまでされると嫌でも緊張する。


膝の上に作った拳を開き、大量の手汗をズボンでぬぐう。


一拍置いてヨヨが口を開く。




「実は、今の国を作り出したのはニホンジンと呼ばれる異世界人なのです。」


読んでいただき誠にありがとうございます!!


X(旧Twitter) @yozakura_nouka


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