襲撃
「しっかしまぁ大変なタイミングでおいでなすった。」
カール髭の商人は手綱を握りながら話しかけてくる。
「我々商人としては陛下がお亡くなりになられたことで、今までの仕入れなどが変わる可能性があるので怖いんです。」
「確かに普通の商人ならまだしもエルフの国との行商人ならば少しばかりは影響が出そうですね。」
「そうなんですよ、他のグランシェル諸島や西側諸国とやり取りしているところはそこまで厳しくないんだが、エルフの国に関しては審査が厳しくて…。
次期国王陛下が早急に今までのを継続するのか変わるのかを発表してくだされば良いんですが…。」
西側諸国やグランシェル諸島では国王の特別な許可は要らない、事前に貿易を担当している大臣などが許可書を出せば良い。
しかしエルフの国はその特異性から国王陛下直々の書面と許可書が必要であり、ゴルド国とエルフの国の総意の元発行された許可書は10枚。
つまり10人の商人しか認められて居ないのである。
「教会さんも忙しいでしょうに。」
「そうですね、もちろん今は大忙しでしょう。
ですが担当が決められているので…人が多すぎても足手まといになってしまうので。」
「はぁ、そういうもんなんですねぇ。」
「心配はいりませんよ、葬儀は早急に執り行われすぐに次期国王が誕生しますから。
国の王が亡くなる時には大体次期国王があらかた決まっているものですよ、まぁ国によっては争いますが…ゴルド王国に関してはそれがないのが良いですね。」
「確かに、西側の国は第何王子が~みたいな話聞きますよ、こっちは平和的でいいですよね。」
「ふふっ確かに、国民からすればちゃんとした王様であれば誰でもいいですからね。」
「はっはっはっ、違いない!
いや~、教会の人のイメージ変わっちゃうなぁ、なんか厳しいイメージがあって下手なこと言うと怒られっちまうかと思ってましたよ!!」
「ふふっ、中には厳しい方もいますので……あら。」
夜が深まってきたころ、一番初めに気が付いたのはセティだった。
「5…6、もっとかしら?」
「?」
「恐らく賊ですね、ここら辺はよく出るんですか?」
「い、いやこのルートはそんな話聞いたことがないですが…。」
「ふ~む、この先は…あぁ少し狭くなってるんですね、襲うとしたらココですか。」
地図を広げ確認すると少し行った先に岩場に挟まれた道があり、賊が襲いそうな地形だ。
「護衛馬車は何台目でした?」
「4台目です、呼びましょうか。」
「いえ、今動きを見せると向こうも襲い掛かってくるでしょう、場合によっては逃げる可能性もありますから、このルートに出る賊は是非捕えておきたいですね。」
「な、なるほど、我々はどうすれば?」
「そうですね、今騒ぐのは得策とは言えないでしょう、馬車の間隔を狭めてください。
後ろの馬車にもお伝えして来ますね、賊の対応は任せて貰ってもよろしいですか?」
「分かりました、お任せいたします。
待機している冒険者の方も自由にお使いください。」
セティは頷き馬車の後ろに移動する。
熟睡しているケンジの横を音を立てずに歩き、懐から真っ黒なマントを羽織る。
馬車の帆から顔をのぞかせ、後続の馬車とアイコンタクトを取り飛び移る。
その際周囲を飛び交う光の玉を操作し影を作り出す、いくら夜目が効く賊とは言え真夜中の闇の中を移動する黒い影に気付ける者は居ないだろう。
「ど、どうかされましたか?」
「山賊が出ました、今はまだ特に行動を起こさないでください。
私が対応いたしますので、このまま間隔を狭めて走行を続けてください。」
「分かりました。」
従者も只の従者ではない、元冒険者や元旅人といった荒事に対応できる人物を取り揃えている。
状況を判断し、自分が気が付かなかった賊をいち早く察したセティ
そんな彼女の実力を見抜きおとなしく従った。
セティは続いて4台目の馬車に乗り移る。
「何だ?」
いち早く反応を示したのは護衛任務として雇われていた冒険者3名。
スキンヘッドの男が剣を握りしめてセティを凝視する。
残りの2人は寝ていたが男の声で目を覚ました。
「落ち着いて聞いてください、賊が出ました。
まだ様子を見ている段階でこの先の道が狭くなっているところで襲撃してくる可能性があります。」
スキンヘッドの男はギョッとした顔をしたがすぐに冷静に聞き返す。
「なるほど、何をすればよい?言いに来ただけではないだろう?」
「2台目の馬車に皆さんを集めてください、襲撃ポイントに着いたらすぐに2台目に移動をお願いします。
その後は馬車の護衛をお願いします。」
「承った、おいお前ら仕事だ起きろ。」
先ほどまで寝ていた2人はすぐに装備を整え襲撃に備える
長髪の男は鎧のベルトを閉め、金属の棍を装備する
赤髪の男も弓を背負い張りを確認し、矢筒を背負う。
「ではお願いいたします。」
セティに対し3人は無言で頷く。
彼らは護衛任務を専門とする冒険者『鉄の盾』
ゴルド王国でも指折りの護衛金級冒険者だ。
その後1台目の従者にも伝えケンジの元に戻る。
戻るとケンジは起き上がっていた。
「何かあったんですか?」
「あら、起こしてしまいましたか。
少しトラブルが起こりまして、山賊が出ました。」
「えっ!山賊!!?」
「大丈夫です、雇った冒険者の方々がこの馬車を守ってくださいますので馬車から出ないようにお願いします。
もう少ししたらこの馬車にすべての同行者の方が集まりますので少し荷物を端に寄せておいてください。」
「は、はい。」
今回同行させてもらった商人はゴルド王国からエルフの国への貿易馬車である、その内容は防具や武器類、金属食器類などである。
だがケンジの乗っている2台目には食器類の木箱が積んでいるだけで他の馬車に比べると一番積載量が少なかった。
ケンジは荷物を片側に寄せ大人が数人入れるスペースを作る、それしか自分が出来る事は無いと判断出来した。
戦闘力は皆無、人を殴ったことすらない。
更に魔法の適性もなく神からもらった授かり物も生産に特化した能力だ。
(やっぱり戦闘訓練しときゃよかった…!)
そんなことを考えていると馬車が止まった。
「!」
馬車の帆が捲られ後続の馬車から人が乗り込んできた、同行してた従者たちだ。
「いやぁ大事になりましたね。」
後続の従者が2人と先頭の1人が乗り込んできた。
「大丈夫でしょうか?」
「大丈夫でしょう、今回雇いました冒険者は護衛の金級ですから、賊には何回か遭遇したこともありますが殺しまではしないでしょう。
恐らく賊はこちらがエルフの国と貿易していることを知っています、このルートを通る商人は限られてますから。」
森エルフの国まで行くにはいくつかルートがある、しかしエルフの国へ近づくとジュゲ大森林が待ち構えており、入り組んだ森では賊は襲いづらい。
故にその手前である街道での襲撃が多い。
「このルートは大丈夫だと思ったのですが…別のところから流れてきたのかな?」
「すいません、先ほど殺されはしないと言いましたがそれは何故…?」
「我々のような商人は出発した日時と到着した日時を連絡し合います、それが到着しないとなるとトラブルがあったとされ王都騎士団に連絡が入り捜索部隊が派遣され、賊を片っ端から捕獲、駆除します。
つまりリスクが高いので物品だけ盗むパターンが多いです。」
「なるほど。」
ひそひそ話で会話していると馬車の帆が開かれた。
「どうも、護衛をさせて頂いているものですが、今から皆さんを護衛する為に守っていただきたい事があります。
馬車から顔を出さない事、外の様子を伺うのも禁止です。
外から声を掛けられても返事をしないでください、音も出さないでください。
終わったら『ゴルド国王陛下万歳』と言います、それが安全の合図です。」
それだけ言い切るとスキンヘッドの男は帆を閉じしっかりとロープしめた。
そしてすぐ周囲を大人数が走り回る音が聞こえ始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
ジャックの人生はいたって普通の人生だった、田舎に生まれ成人したら労働を求め王都に出稼ぎにいった。
様々な仕事があったが、1番稼ぎが良いのは冒険者だと酒場の誰かが言っていたのを耳にした。
もちろん冒険者になるには才能が必要だ、危険な仕事だし命を落としたという話しをたくさん聞いてきた、しかし冒険者で成功する者達もたくさん見てきた。
ジャックは同じような仲間を集めパーティを組んだ、最初は順調だった。
簡単な雑用や魔物の討伐、護衛任務などもこなしていき気が付くと銀級の腕前になっていた。
とんとん拍子で仕事をこなす日々、つい魔が差して難易度の高い依頼を請け負った。
それが間違いだった、身の程に合わせた依頼を受けるべきだったのだ。
結界、任務は失敗するどころか護衛対象に損害を与え賠償を背負う羽目になった。
その後冒険者は引退し酒を浴びるように飲み、ガラの悪い連中とつるむようになった
綺麗とは言い難い金で借金を返済したものの、すでに悪いウワサが流れた後だった。
仕事をするうえで信頼は大切だ、一度失ったものを取り返すのは難しい…。
今思えば奴隷にならなかっただけマシだったと思えるかもしれない。
薄暗い廃屋でジャックは昔の事を思い出していた。
「おいジャック、そろそろだ。」
山賊の仲間がジャックを呼びに来た。
「来たか、4台?」
「あぁ、予定どおりだ、冒険者は3人雇ってるらしいが…気になる報告が1つ。」
「なんだ?」
「何やら松明やランタン、照明魔道具じゃないらしい、恐らく光魔法と思われる。」
「光魔法?なら騎士団か?」
「でもそれならもっと人数が居るはずだ、王都から見てたが相手は9人らしいぜ、1台ごとに1人の御者が居るとして客が2人、冒険者が3人の計算だ。」
「ならば騎士団ではないか…冒険者に元騎士団の奴がいるか、教会関係者の客か。
冒険者の特徴は?」
「王都の乗合所で見たやつはスキンヘッドの男、右目に眼帯の男、弓矢の赤髪の男だ。」
ジャックはその特徴に聞き覚えがあった。
冒険者ギルドで幾度か聞いた特徴だった。
「あぁ、それは『鉄の盾』だな、名前こそ弱そうだが護衛任務は失敗なしのパーティだ。」
「強いか?」
「大丈夫だ、3人のうち1人がエンチャント使いだがコレがある。」
不気味に輝く水晶玉がはめられた杖を掲げる、以前別ルートの商人を襲撃した際に頂戴したものだ。
「『封魔の杖』か、売ってなかったんだな。」
「奇跡は有効活用した方がいいんだよ、このレベルの奇跡は売れば足が着いてしまうしな。
そして『鉄の盾』には光魔法の使い手はいない、魔道具ならそれまで、だが光魔法の使い手が居たとしてもこれで完封できる。」
「なるほどな、そうなりゃ気を付けるべきは鉄の盾の3人だな。」
「あぁ、そろそろ移動しておくか。
相手は護衛のプロだ、いつも以上に距離を置いて追跡しろ。」
「了解。」
◇ ◇ ◇ ◇
「賢いな、1台の馬車に人を集めたか。」
先頭から2台目の馬車をぐるりと囲むジャックたち、それぞれ略奪品を身に着けており統一性のない装備だが共通する特徴として皆眼帯を付けていた。
「賊か、この荷が森エルフの国とゴルド王国との物と知っての行動か?」
「あぁ、知っての狼藉さ!ゴルド王国では国王が亡くなって大変だろ?」
「ふむ、最近の賊はしっかりしてるな。」
「命までは奪わん、荷物を見せてもらおうか。」
「やってごらんなさい。」
賊の目線が馬車の上に集まる。
闇夜に白服が光の玉に照らされはっきりと浮かび上がる。
「やはり教会か、雇われか?客人か?まぁどちらでもいい、降りてこい。」
「やたらと強気ですね、よほど腕に自信がある様子。」
「調子に乗るなよ、お前らは今生かされてるんだぜ、選択を間違えるなよ。」
ジャックは杖を取り出す。
「教会だろうが騎士団だろうが知らんがな、魔法が使えなきゃタダの雑魚よ。」
水晶に禍々しい光が宿り、怪しい光があたりを包む。
「あれは…!」
すると周回していた光の玉がふっと消え、あたりは真っ暗になった。
「何だ!!おいエンチャント!!」
「ダメだ魔法が使えない!!精霊の気配が消えた!!」
「なんだと!!魔道具もか!?」
「そうだ!!」
鉄の盾に緊張が走る、エンチャントを施し防御力や攻撃力を上げてから戦闘に入るのだがそのエンチャントが封じられた、こうなれば頼れるのは己の肉体のみ。
しかし先ほどまで光の玉であたりを照らしていたこともあり目が慣れていない。
「賊共の眼帯はこの為か!」
スキンヘッドに鉛のように思い汗が滲む、賊ごときに遅れは取らないと思っていた自分を責めていた。
思ったより賊が賢かったからだ、その証拠に暗闇になってから誰一人として会話をしていない、完璧な沈黙だ。
(どうする、第一は商人と客人の命だ、そのあとに荷物!
この暗闇で1台目馬車と3,4台目馬車の荷物を盗まれても仕方がない...。
シスター殿はどうなった?もう少しすれば月明りで目が慣れるはず…。)
◇ ◇
光の玉が消えてすぐ
馬車から離れた森の開けた所にセティ達は居た。
「驚いたな、教会の教えでは人を見捨てて逃げろとでも教えてるのか?」
ジャックの他4人がついてきてセティを取り囲んでいる。
「いいんですか?私に5人もついてきて。」
「あぁ、一番後ろの荷馬車から物盗むだけでいいからな、今頃あの冒険者たちは来ない襲撃に対して怯えてるぜ。」
「それより私が逃げる方が面倒だと。」
「どう考えてもそうだろ、あの複数の光の玉はあんたが出してたんだろ?
騎士団でも2個出すのがせいぜいだと聞いたことがある、あんたかなりのやり手だ。」
ジャックは左手で杖を握りながらも右手で剣を抜く。
「あら?殺生はしないのではなくて?」
「すこしおとなしくしてもらうだけだよ、足を刺し走れないようにするのさ。
負傷者が出ればあんたらは王都に逆戻り、その間に俺らはとんずら…。」
「なるほど、初めてじゃなさそうね。」
「さ、おしゃべりはおしまいだ、光魔法が使えないシスターなんてただの女だ。」
「へっへ、どうせなら少し楽しんでもいいな、エルフのシスターは珍しいぜ。」
ジリジリと近付いてくる賊、しかしセティは深いため息をつく。
「どうして、こう…賊ってどの地域でも同じような事を言うんでしょう、何か決まり事でもあるんですか?
まぁいいでしょう、では襲う前に一つ聞いていいですか?」
「なんだずいぶん余裕だな、覚悟が決まった女は嫌いじゃないぜ。」
「あなたの持っているその杖、どういった杖ですか?
先程から精霊の気配がなく魔法が使えないのですが…。」
セティが注目したのはジャックが持っていた『封魔の杖』
禍々しい光を帯びている水晶は暗闇でも薄暗く存在感を放っていた。
「いいだろこれ?だが喋ると殺すしかなくなっちゃうからな、教えるわけにはいかねぇな。」
「ふむ…エンチャンターや魔道具までもが使えなくなったことを見ると魔封じ系の何かですかね、そして術者本人に作用するのではなく周囲に広範囲に影響する…であってます?
となると、あなた方も魔法類を使えないのでは?」
ジャックの表情に怒りの色が出た。
それは『封魔の杖』の性能を当てられたからである、だが自分が優位に立っている事を思い出した彼はすぐにその苛立ちを隠す。
「馬鹿だなお前、黙っとけばよかったものを…お前を殺してバラして獣の餌にしてやる。
王都の行方不明者一覧にお前の名を刻んでやるぜ。」
ジャックの威勢は奇跡による信頼の上に成り立っていた、賊の中でも魔法を使えるものはいたが、そいつらがこぞって魔法どころか魔道具すら使えなくなったのだ。
目の前にいるシスターが丸腰なのは目に見えて分かる、歩き方の重心を見ても武器を隠し持ってるという事は無いと確信していた。
こちらは5人、元とは言え銀級の冒険者もいる。
俺らが丸腰の女一人、しかも魔法頼りの森エルフに負けるはずはないのだ。
「負けるはずがない、相手は女一人、魔法が使えない。
おおかたこんな考えをしているのでしょう…。」
セティは両手を大きく広げる。
「特別ですよ?教会が世間に染み込ませた常識の真実をお見せしましょう。」
(何する気だ?)
飛び掛かってもよかった、全員ジャックが合図をすれば一斉に切りかかれる距離にいた。
しかし冒険者時代の名残か、嫌な予感が脳裏によぎる。
その勘が判断を数秒遅らせた。
パンッ
乾いた拍手の音が暗い森に響くがすぐに木々に吸われる。
だが、代わりにまばゆい光が周囲を照らす。
木々の合間を光が走り、ケンジたちの馬車列まで届く。
帆の中で丸まるケンジが朝が来たと間違えるほどの閃光、気の毒な事に周囲の闇を凝視していた冒険者はうめき声をあげていた。
「ああぁっ!!」
そんな光を至近距離で浴びた賊は反射的に顔をそらす者、何が起きたかわからず剣を振り回す者、その場で直立不動で動けない者など様々な反応を見せた。
「クソがっ!!何が起きた!!」
「『光魔法』って言われれば疑いなく魔法だと思いますよね、それが普通ですから。」
セティは光の剣を作り宙に浮かべる。
「時々いるんですよ、魔法を封じればシスターや騎士団に勝てると思っている人が。
光魔法に頼り切っている集団の魔法を封じればよいと…そんな初歩的な事に気が付かないほど馬鹿ではないのですよ。」
光の剣を飛ばし賊の意識を1人、また1人と刈り取っていく。
剣は賊の頭をすり抜け、賊は糸の切れた操り人形の様にその場に倒れこむ。
「魔封じなんてものは効かないし、周りに光がなくとも光魔法は使える。
まぁ教えれるのはこれくらいですかね、それ以上知ってしまうと殺すしかなくなっちゃう。」
少し馬鹿にした声色を聞いたジャックはカッとなり声がする方に切りつける。
同時に腹の底から己を鼓舞するかのように仲間に合図する。
「殺せぇ!!!」
だが振り切った剣には手ごたえもなく仲間の応答する声もなかった。
「くそっ、やられたか。」
「殺しはしてませんよ、気絶しているだけです。」
少しずつ目が慣れてきたジャックはゆっくりと目を開ける
悲惨な光景に思わず息をのんだ、目の前には仲間が横たわっており、その中央には白い服を着たシスターがこちらを見据えていた。
「クズが、楽しみやがって。」
「貴方たちがそれ言いますか?魔法を使う相手に魔封じをして1対5で襲うような人達が。」
ジャックは勢いよく踏み込む、冒険者をしていたころに聞いたことがあった。
『騎士団が使う光魔法には殺傷能力は無い』
死ぬことはないという確信が踏み込む速度を上げた。
だがその一閃は固い感触に阻まれた。
「なっ!?剣!!?どこから!!??」
ジャックの剣を受け止めたのはスラリとした細身の直剣。
全力の両刃剣を到底受け決めれそうにないほど細い剣に止められ動揺が走る。
「ふふっ。」
その笑い声がこちらの動揺を見透かしているようで頭にきた。
ジャックは役に立たない杖を放り投げ、両手で剣を握りしめる。
その瞬間ジャックは目の前のシスターの視線が、投げ捨てた杖に向いてる事を見逃さなかった。
「死ねぇ!!!」
怒りに我を忘れ、首を目掛けて鋭い一突き。
首に鈍い痛みが走る、脳と身体の神経がプツプツと切り離され目の前が真っ白になる。
無抵抗で顔から地面に倒れこみ、ピクリとも動かなくなった。
「ふぅ、危ないところでした。
駄目ですよ奇跡をそんな雑に扱ったら。」
地面に着く前に杖をキャッチし傷が無いか丁寧に確認する。
ジャックの首筋から光の剣が抜かれる。
「奇跡に意識を向けすぎるのは悪い癖ですね、背後に剣を迂回させてなければ危ないところだったかもしれませんね、さてさて。」
直剣を収納して縄を出し、せっせと気絶している5人を縛る。
「向こうは大丈夫でしょうか?護衛の金級、いかほどの腕前でしょうか?」
◇ ◇ ◇
「何だったんだ今の光は?」
「分からん、あのシスターじゃないか?」
「だが今の光でわかったぞ!後方馬車だ!!」
弓を背負った男が後方に向かって矢を放つ。
4台目の馬車付近に矢が落ちる音がした、次の瞬間激しい光と音がバチバチと鳴り響く。
「うぁ!」
「居たぞ!!3人!!」
爆竹を括りつけた矢、本来ならば獣避けや敵を怯ませる為の物だった。
スキンヘッドとエンチャンターが走る。
「バレたぞ!!」
「やるしかねぇ!!」
3人の賊は盗んだ荷物を投げ出し剣を抜く。
「魔法が使えねぇエンチャンターに何ができる!!」
賊はエンチャンターの男に向かって渾身の一撃を叩き込む。
だが剣は空を切る、勢いよく飛び込んだ男は寸前で急ブレーキし数センチの差で躱す。
身体を両断せんとする勢いで振り下ろされた剣に重心を持っていかれ、賊は大きくバランスを崩す。
そこに金属特有の鈍い音が賊の顎から聞こえた、エンチャンターの金属製の棍棒が賊の顎を砕いたのだ。
「基礎体術があってこそのエンチャントだ、覚えておけ。」
「この野郎!!」
残る2人が襲い掛かる、だがそれよりも早く横から介入者が現れた。
スキンヘッドの男だ、馬車の影から飛び出した男は賊を2人まとめてタックルで押し倒す。
剣を振り上げた賊達は無防備な脇にタックルされ無様に転がる。
「こいつっ!」
組まれた賊は剣でスキンヘッドの男を切りつけようとするが、振り上げた脇の下に潜り込まれ上手く振れない。
「よいしょ。」
エンチャンターが棍を振り上げる。
「あっ、やめ!」
有無を言わさず振り下ろす、手加減すると気絶しないが本気でやると死ぬ。
その見極めが出来るのも冒険者がなせる業なのかもしれない。
鈍い音がなる中で運よくスキンヘッドに組みつかれずに転倒した賊は分が悪いと判断したのか、勢いよく立ち上がり森に逃げようとした。
だがそれは叶わなかった。
「ぐっ、畜生!」
逃走を試みた賊は前のめりにこけると左太ももを抱えてうずくまった、そこには1本の矢が刺さっていた。
「お見事!」
「む、当たったか」
2台目から4台目までの距離はそこまで離れていなかったにしても、暗闇の中で正確に射るのは至難の業である。
3人の賊を縛り上げ道沿いに転がしておく、1人意識があるが抵抗する気を失くしたのかうつむいたまま何もしゃべらない。
◇
「良く当てれたな。」
スキンヘッドの男が矢を回収しながらぼやく。
「実は周りが暗くなった時からずっと目をつぶってたんだ、音だけで探ろうと思ってね。」
「なるほど、あの時には完全に目が慣れてたわけだ。」
「こいつらはどうするんだ?」
「本来のやり方なら騎士団に連絡する方法でいいだろう、森エルフの国の方が近いが迷惑はかけられん。」
街道で賊が出た時の対処法としては2つ、来た道を引き返すか、連絡方法がある場合は騎士団本部まで連絡する。
その日のうちに討伐隊が編成され次の日には捜索が始まる。
略奪品の回収率は30%と低めではあるが、かえってくる可能性があるだけでもマシである。
「シスターさんは?」
「先ほどの光がそうだろう、少し離れたところに行ったらしいが…ん?そうか光魔法の光か。
おいエンチャントしてみてくれ。」
「あぁ、そういうことか。」
エンチャンターは棍棒で地面を3回突きその後に術式を描く。
よく見ると棍棒にも似たような術式が刻まれており、地面に描かれた術式と棍棒に刻まれた術式が淡い光を帯びる
「火よ、炎よ、我らの武具に憑きたまえ…エンチャント。」
棍棒の一部が光る、それと同時に火打石を棍棒に叩きつけ火花が散る。
宙に舞いそのまま消えゆくはずの火花が大きくなり3つの火の玉になった。
火の玉は自らの意思で『鉄の盾』の各々の武具に近づき棍棒、剣、弓矢に当たり…弾けた。
「どうだ?使えるか?」
エンチャンターの問いに弓を弾いて返答する。
矢は地面に綺麗に突き刺さった瞬間にバチバチと音を立てて矢じりが燃えた。
「エンチャント成功だ、つまり魔法が使える、魔道具も使えるはずだから騎士団に連絡だな。」
「引き返さなくてよかったな、光魔法が使えるなら我々も使えると思ったが当たったか。
つまりシスターさんの方も大丈夫そうだな。」
ウワサをすると森の方からセティが帰ってきた。
「ご無事で。」
「お疲れ様です、そちらも怪我がないようで何よりです。」
「そちらは…何人いました?」
セティが手にもっていた禍々しい杖を見て、それが魔法を封じていた物だというのは素人目で見ても分かる。
スキンヘッドもプロの冒険者だ、細かいことは聞かない。
「5人です、賊のリーダーらしき人物もいましたので後で運搬をお願いします。」
「ご、5人…凄いですね…さすが捕縛術に長けた光魔法。」
「護衛にぴったりですね、難しい依頼の時は光魔法の使い手を雇うのもありかもな。」
「検討しよう、こちらとしてはこれで全員だと思いたいのですが、どう思われます?」
セティは光の玉を複数出して周囲を徘徊させる。
「えぇ、これで全員だと思いますよ。」
「ありがとうございます。」
スキンヘッドの男は馬車に回り込み大声で叫んだ。
「ゴルド国王陛下万歳!!」
合言葉を言ったあと帆を捲る。
合言葉を忘れてめくった冒険者が過去に警戒してた商人に殴られた話がある、忘れてはいけない。
「もう大丈夫です、賊はすべてとらえました、騎士団へ引き渡しの為、明日の朝までこの先の開けたところで野営します。我々は警戒を続けます。
商人の方々は荷物の確認等をお願い致します。」
「おぉ、素晴らしい。」
カール髭の商人はよほど鉄の盾を信頼しているのか馬車から飛び降り荷物の確認へ向かった。
従者もその後に続き各々の馬車の確認に向かう、2台目の馬車にはケンジだけが取り残された。
◇
「ケンジさん、お変わりないですか?」
「セティさん!もうめちゃくちゃ怖かったです!!
周りがどうなってるかわからないし急に光るし!!」
わたわたと慌てふためくケンジ、周りに商人と従者が居たとはいえ賊の襲撃を受けた一般人はこういう反応になる。
「ふふっ、ご心配をおかけしましたね。
ですがもう安全ですよ、しばらくすれば移動を再開すると思いますので。」
セティは馬車に乗り込むとケンジの隣に座る。
「セラピーをしましょう、恐怖心や不安もなくなります。」
そう言うと熱を測るようにケンジの額に手のひらを合わせる。
温もりのある光がケンジの頭を包む。
(あ...なんだか懐かしいような...。)
「はい、セラピー終わりです!
本来ならば1回10Gほど頂くのですが、ケンジさんだけ特別に無料でして差し上げます。」
不安と恐怖心が大半を占めていた脳からそれらを取り除かれ、セラピーが終わったケンジは非常に穏やかな気持ちへと戻っていた。
「光魔法って、すごい...。」
「そうなんですよ〜、この力で人々を癒し戦後の荒れた世を治していますからね〜。」
ニコニコと戯けた感じのセティだったが、それも事実なのだ。
実際、教会の信者はセラピーに助けられたものが多い。
パートナーを亡くした者やトラウマを抱えた者など様々だ。
遥か遠方からセラピーを目的に来訪する者も多い。
「ありがとうございます、すごく楽になりました。」
「いえいえ、本来は慣れることの方が異常ですから。
さて、ここを抜けるとすぐです、緊張で疲れたでしょうから休んでて下さい。
なんならポックリと眠れる光魔法もありますよ。」
「あっ、遠慮しておきます。」
◇ ◇ ◇
「こちらは損害無しです。」
「こちらも。」
「うむ、素晴らしい!
暗闇に乗じた奇襲だったがシスター殿と冒険者達の働きによって損害はゼロだ!!
『鉄の盾』諸君には追加報酬を払おう、賊の首に懸賞金がついていたらもっと弾むぞ!!」
上機嫌な商人だが、『鉄の盾』のリーダーが口を挟む。
「ありがたいお言葉ですが、今回我々はほとんど働いていません。
荷物回収係の3人しか捕縛してないんです。
そちらに運んできた5人は全部シスター殿が...。」
カール髭を巻いていた手がぴたりと止まる。
「何?」
振り返った先には手足を厳重に縛られ、完璧に拘束されて気を失っている5人の姿があった。
『鉄の盾』が拘束した3人は顎の骨の骨折、頭部打撲、左脚刺突傷などの怪我をしていたが5人には怪我すらなかった。
「なんと不思議な...一体どんな手を使ったのか...。
いや!いかんな!!
プロとして検索のしすぎは短命の元、素晴らしい手際だったと、それだけだな。」
「流石です。」
スキンヘッドの男も正直気になっていた、光魔法は優れた魔法とは言え賊を無傷で捕える方法。
だがそれを知るにはあまりにもリスクが高い。
これだけ知られているのに誰も詳細を知らない、原理を知らない。
つまりそういうことだ。
検索は短命の元、長生きしたければ踏み込まないに越した事はない。
「先ほど騎士団には連絡鳩を飛ばしました。」
「うむ、では行こうか。」
森エルフの国へ向かう一行は3台目の馬車と4台目の馬車に賊を詰め込み野営候補地へと向かった。
読んでいただき誠にありがとうございます!!
X(旧Twitter) @yozakura_nouka
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