第二十五話「城壁」(#53)
月が欠け、又満ち始める。当たり前のように繰り返される再生は、正月の空気の抜け切らないダルンデネトの町の人々に、身を以て諸行無常を示しているかのようだった。
ピミャとマコトとはダルンデネト特別区字赤坂五番地の国鉄本社を出て、門の外を目指して歩いていた。仕事始めと共に合為国有鉄道でも諸々の業務が再開していたが、二人の今年初めての仕事は交渉だった。直接相手方に出向き、設備であるとかを具体的に決める。交渉の日程は当然前もって決められており、伺う日も通知している為、二人のすべき事はほぼ、決定された事を伝達する事に等しい。国鉄二号線の東門駅から二号線に乗り、エラビ郡の鉄工所の最寄り駅で降り、其処からピミャが龍化し、マコトが彼れに乗って鉄工所の前迄移動する。行きの列車は急いでいると云うのに遅延していた。補塡にと発行された遅延証明書を受け取り駆け着くと仕方ありませんねとエラビ郡の鉄工所の職員が迎えてくれた。
交渉は半時間も経たずに終わった。鉄工所の側でもしたであろう精査を重ねただけだ。「交渉」より「最終確認」でしかない。一階より数回確認する方がええのは然うだが。
「……あれ、東門の城壁の近くに町なんてあったっけ」
東門駅から本当の東門迄を歩いている中、マコトが道の南側、東門よりにある其れに気付いた。
「電柱に東口町幹ってあるから多分町名は東口町だろうね。睥睨処の拡張といった所かな」
ピミャの説明の「睥睨処」が何を差すか分からず、訊ねるマコトに、彼れは「東門と北門とにある、職員が在中したり待つ人が多い時に其処で待たせたりする城壁と一体化した一連の施設だよ」と説明した。「何だ、……ああ、彼処に工事の説明書きがあるね」
東門の手前に看板が設置されており、睥睨処の改修の為に東口町に家を建てたとあった。然う言えば此の城壁が何時建てられてものなのか知らぬとマコトは思い出し、何の様な意図での建設だったのか少し正解或いは正解と信じられている説を知る迄の間の妄想に耽っていた。
数日経って、マコトは図書館の中にいた。城壁の記述はダルンデネト特別区誌にはなく、探し続けている内に出流兎阿の魔王の記述に辿り着いた。ダルンデネトは彼れが生きていた――正確に言うと現在彼れの生死は不明らしいが――時代からあるらしく、ヒジリの原型は当時からあったようだ。城壁の起源は意外にも、西竹林の神聖さを保つ為の壁と記されていた。初めは、竹地区(いりちく。恐らく西竹林と日の「入る」方向との混同だろうと注釈が付いていた)の西竹林を囲む様に建てられたらしい。字ヒジリを含む聖地区との間にも壁があった。其の最初の壁が建設されてから暫く経って、出流兎阿の成立期の戦争の影響で防衛の為に都市を囲んだらしい。城は、出流兎阿が崩壊してから建て替えられたものではあるが都市城壁が完成した頃と(耐震・免震機能を有した階層が設けられた事を除いて)何ら変わっていないらしい。城壁の多くは二百年以上前から現存しておるが、竹地区には三百年以上前に遡る場所もあり其の場所は西竹林の神域の影響を受けて浄化されているらしいともあった。
又、睥睨処も同じ時期からあり改修するのは当然と思えた。
図書館から見る城壁は変わって見えた。果たして其れは、知識の理解の深まり故か、実際の外見の変化故かはわからなんだ。




