第二十四話「通話」(#52)
おせちと云うものは中々興味深いものである。嘗ての文化が受け継がれている事を実感できる為だ。最早形式的でしかないとの意見もあろうが、仮令然っても先祖が子や将来を如何に大事にしていたか気付ける。世界を跨ぐ文化とは言い過ぎかも知れないが、出流兎亜時代に始まった此れがダルンデネト原住民の文化と融合して別の名称を与えられて食文化も百年かけて変って来たのだ。一部始終を見ている訳でもないし、折畳程でもないが、興味を唆られる。――特に、出流兎亜時代の文献や映像記録に残る初期のおせちに似るあの五人の家のは然うだ。
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昼、作った量から半分減ったおせちを片付けると、音楽が鳴った。着信音であると気づいたのは所有者のくつねしか居らなんだ。
「折畳式の携帯電話……ッ」
エリナーは餌に飛び掛かる魚の如き勢いで飛ぼうとしたがマコトに羽交い締めにされた。彼れは大人しくなったかに見えたが衍溢せんとする旺盛な好奇心は萎まずあるらしく、くつねの持つ折畳の其れに視線を注ぐ。
「つ……つゞけて」
マコトの言に従って携帯電話を開くと、「通話 ウィンパー・ロバートゟ」と表示されており、皆の前で携帯電話を使おうか少し迷ったが既に取り出している故出ることにした。
「山下のくつねよ」
「……青畠のウィンだ」咄嗟に字名を冠して居る事に気付いたらしく、引っ掛からなんだ事を悔しがった。「あけましておめでとう」
「あけましておめでとう。……要件は何」
「ずばり、何か送って欲しいものはあるか、だ」
「は」ウィンとは〈エフューラ・テサノタ〉関連の話ばかりしていた所為で切る方向が想像と真逆で沈黙してしまった。「……………………」
「買い物だ。買い物だよ、くつね、何か足りないものはあるか」
突然の電話に奇妙な問いかけをされて混乱しないひとが居ようか。併し、くつねはウィンがとった嘗ての態度を思い出し、混乱を抑えた。
「エッ……急に先生時代みたいになって……特に無いけどが、……其の様子だと福袋ぢゃなくて別に其方から送りたい何かがあるんぢゃないの」
「……二人だけの話でもええか」
「まあ、ええよ」
「……『船』の所在地が分かった」
「……ッ」白皙の狐人は狐耳をぴんと立てた。「何うやって。彼れから三千年近く経ったのよ。地形も変わってしまったのに――」
「地質だよ。二、三千年前にかけて地表だった所が露出している地域を探した。分かった所在地は合為の、甘蔗郡第二山麓村大字杣山関だ」
猩々紅の狼人が自分の知らぬ内に此の星の、否、此の世界の過去に係わる存在の見当を付けていたとは。自分は五人のことで精一杯だったと云うのにと、くつねは事実を受け止めて驚愕した。
「そまやまのせき……大分珍しい地名ね。」
「百年前の魔王の命名だよ。現地語から魔王の母語を経由して重訳したんだと。……『クヱアツ』に関しては訓練の方法が分かり次第連絡しようと思うが、何せ別の国だ、時間は限られているから其方で独自にやっても構わない」
「……難有う、ウィン。其れで、此方には足りないものがあるのだけど、買ってくれると云う事でええか」
「嗚呼」向こうの彼れは頷いた様だった。「勿論」
「頼みたいものは、工具と、転生者が『発明』した電化製品よ」
ピミャは何かを察した。通話を通話の片側しか聞いていないと雖も、其の新語が差すものや、差すものがある世代の人にとって忌々しい記憶と共に染み付いている事も知っていた。
「出来れば、」
「分かった。何の製品にするかは正月休みが明けてからにしてもええか」
「当然よ。突然かけてきて喫驚したわ」
「……」
「……切ってええか」
「嗚呼」
「ぢゃ、失礼するわ」
携帯電話を畳んだ途端にエリナーが駈けてくる。
「其の携帯電話、自作ね」
何かと思えばぴしゃりと言い当てた。頷くと、其れだけで満足したのか帰っていった。全く、折畳狂いの王女はよくわからない。
一方、他の人は工業製品が一般向けに既に販売されている事を知り呆然としていた。鉄工所に行ったことはあっても、製品は知らなかった様だ。
「工具、と」ピミャの口が谺を返す山の様に遅れてくつねの言葉を反射した。「何処でそんなものを知ったのか」
「其れは……前世になるかね」
「ぢゃあ、入手方法は何う知ったのか」
「……私は未だ知ってないわ」
「ん……あゝ、だから其れで頼んだのか」
白皙の狐人は携帯電話を四人に見せた。シルとマコトとが初めて見たと云う表情をする中、ミツグは、「忘れていたもの」を思い出した時、或いは腑に落ちた時の喫驚の表情を見せた。ミツグは地球の空とマリンスノーを見た夢の中、而して波無津の奇妙な「空港」の地で、携帯電話を見ていた。だから尋ねるのは自然と言えよう。
「どう作ったの」
「数十年前、今の通話相手……前、波無津で通話した相手と同じなんだけど、其の人と二機で一対の携帯電話を、廃材から搔き集めて作った」




