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Earchlo  作者: 稲土瑞穂
第三章/空白の四年間
48/55

第十九話「破壊」(#47)

 L’2039/12/3。

 ――爆音。

合為王国波無津郡波無津町、字堀川橋ほりかわばし、波無津鉄工所。炎が落ちて来て、其の珍しい鉄筋混凝土の建物は爆散した。上から来た飛翔体によって、正確に、其の工場のみが破壊されたのだ。須臾にして隊員が乗った救急の紋章の服を着た龍と消防士とがやって来る。

「工場の中に人は居るか」

「今日は稼働していないから誰も居らん筈だ」

 対岸の火事ひのことに集まった会話する野次馬の輪の外の岸に、肥えた人が一人居った。無言の彼れは野次馬を一瞥した後、大海原を見霽かし、暗鬱な表情をして、鼻歌を歌う。併し、近づく蹄の音に、唐突に歌うをめた。馬は近くで止まった。

「ハミルトンさん」乗馬者を降ろした馬は人の姿となり、話しかけた。「其れ所ではないかも知れませんが、此れから行くのは決まり事、而も重要な事です」

「わかっている。国民の安全を守ると云う、国家の義務に係わる肝要な話だからな」

 頷きに二人は安心した様で、ハミルトンは地面に置いていた黒い鞄を携えた。馬に乗っていた人が変身したたつに乗り、馬だった人が手を振るのに応えた後、飛翔んだ。


 波無津鉄工所が破壊された事は勿論、新聞社の報道を待たずして、合為国鉄に伝えられ、次の行動に移行した。

「マコト」マコトとピミャとの二人は年末で忙しくなる事を見越して、朝早くから字赤坂五番地の国鉄本社に来ていた。「大丈夫か」

「……」暫く平穏を装って考えるマコトだが、爆発と云う予想外の出来事に混乱していた。「大丈夫とは言い切れんな」

「無理する必要は無い。今回の事件は警察が捜査してる。今は国鉄としてやれることをしよまい、マコト、――」

「二人共!」アルマダだ。李茶奴の事件以降国鉄の業務の責任者も兼ねていた。「鐘が鳴ったらば会議を始める。㐧二会議室だ。議題は新しい委託先。急ですまん」

「急なのは波無津鉄工所をあんな事にしたなにがしですよ」

 ピミャの冗談を聞かぬアルマダであるが、二人は咎めようとは思っていない。奇怪、又二目に見られぬ出来事に誰もが慌てふためいていた。彼れも例外でなく、せわしなく廊下を走り去っていった。

「潰滅、か」ピミャは不図呟いた。「まるで近代戦争の始まり方みたいだ」

「……其の時代区分で、現在いま何時いつなのさ」

「前世」聞かれたくないような小声で簡潔に言った。少し気持ちがざわついているようで、其の証拠にピミャの手には鱗が一瞬見えた。「人間が他の星の生命を然うとは知らず蹂躙して、人間がした様に無人機で攻撃し返される、そんな典型的な異星人との戦争の始まり方に似てる」

「他の星、ね」空想科学の範疇の噺と許り思っていた事を経験談として語られて自分にあるらしい前世が何か見当が付かず目を細める。

「個人的な考えだよ。……どうかしたのか。今日波無津の報を受ける前からなんかおかしいぞ」

「自分に本当に前世があるのかな、なんて昨日の夜だったかに考えてね。れは単なるくつねの推論でしかないとは雖も、僕にとっては信じ難きことだから」

 確かに然うだとピミャが頷くと、合わせたかの様に鐘が鳴った。其の途中、「此の鉄工所がおすすめですよ」とハミルトンが中々に厚かましい願いを人にしているのを見た。波無津鉄工所が襲撃されたからとは雖も、変更先を既に纏めて資料にしていたのだろう。準備が無駄となったのだと状況を理解した其の時になって、二人は国鉄の仕事を始めたばかりの頃、誰かが持ってきた用地の帰属を示す書類を持ってきた時に同僚、部下や会議の同席者がした不愉快な顔の意味が解った。多事多端な日常から少し解放されるが、他の事を知れない危険性を二人は重々承知している積りだった。……が、議事進行係とでも云おうか、一人が叫び、手筈通りに始まった会議は思っていた以上に選べないものだった。

「議題は伝えた通りだ。先づ、合為国内にある鉄工所は波無津を除くと二箇所しかない。エラビ郡と、風見かざみ郡との二箇所。何方も国鉄線の沿線から数粁離れた場所だ」

「波無津の当初の計画の様に路線を鉄工所へ直接引く、と云うのは何うだ」

「今年度の予算は決まっている。出来たとしても再来年度からになる」

「エラビ郡の鉄工所は以前摂政専用のつるぎを鍛えてもらっていた所の筈だから伝手つてがあろう」

「確かに。風見郡は落雷で郡役所が全焼して今はそんな余裕も無かろうし」

 口々に言っても聞こえる程に会議の人数は少なく、皆が意見を揃えるのにも然程時間はかからなかった。

「……時間だ。意見に賛同の者は起立を。一つ、エラビ郡、二つ、風見郡、三つ、両方に賛同しない。三つ共起立しないものは棄権と見做す。では一つ、エラビ郡」

 此れには多くの人が立った。過半数を超えているのは目に見えていたが、手順は手順だ、残りも行われた。結果は思った通りだ。

 エラビ郡(漢字だと「⿰扌⿺辶⿱⿰巳巳共」になるらしい)猪名山町の鉄工所、「猪名鉄工所」に決定した。此の様な多数決で決定が許されるのは、合為の予算が此れを問題無く出来ると郡長会議で既に結論が出ていたかららしい。

「……本日は以上です。皆様お疲れ様でした」

 多数決の直ぐ後会議が終わると、二人は力が抜けた。ぞろぞろと皆――と云っても十数人――が会議室を出る中、一番前に坐っていた二人は束の間の待ち時間に会話を交わした。

「エラビ郡て何処にあるのさ」

「僕も初めて聞いた。旧出流兎亜時代の命名だと思うけど、合為って天山平と海岸沿いと湿原と以外は殆ど必ず山があるし、猪名山が分からないから……」

 其処迄言った処で、ピミャが「くつねに訊くか」と発案したが、知っているとは限らない、図書館が確実だと二人の寄り道が決まった。


 図書館に行き、尋ねると『合為地名辞典』がお勧めと返された。手に取り、読むと、エラビ郡猪名山町の凡その位置が分かった。

「天山平の東、交通の要所で旧出流兎亜時代に猪人いのししびとが領有していたから猪名山と命名、か」

「ダルンデネト以外だと殆どが名付けられてから百年も経ってないんだね」ピミャは関心を持っていたようだった。

「どうしてそんなに楽しそうなの」

「だって」ピミャはじっくり言葉を選んだ。「三言語話者だから、何と無く解釈できそうな地名、あと人名を耳にしたり目にしたりすると考えちゃってね。自分は此れが楽しいから」

「へえ」三言語、とは龍人の言語のカネムツァと、合為語と、前世の言語とを指すのだろうが、マコトからすると彼れには読めるであろう言語が漢字様文字の言語——確かデルトア(Rtnfej-)祖語(smdelt'am)か古デルトア語などといった筈——など他に幾つかあるように思えた。「言語は確かに人間特有の……否、知的生命体特有のものと云えるからね」

 スクレイブハに龍人と人間とが別の系統の種族であると教えられた事を思い出してかの発言に、ピミャは頷いた(知的生命体か……二人は「知」をどう捉えているのだろうか)。二人は王立図書館を後にした。

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