第十八話「設計図」(#46)
――十一月二日、アルマダ・サトウ政府広報官は定期記者会見でシェルターの設置計画の為の専門家委員会を設置したと伝えた。委員会に参加する人に就ては後日詳細が決定すると伝えた。――
新聞紙の中面の左下隅に配置された一行にも満たない記事に、思わず溜息を吐いた。数週間前に郡長会議を扉越しに盗み聞きしていた時に議事堂に入って来た者に就ての情報が無いか知りたく新聞紙を読み漁っていたと云うのに、読みが外れた。新聞社にとっての大事な情報は一体何かと少し考えてみたが全く私には分からなかった。国家、地域、政策。何れも重要でありそうだが取捨選択は報道の常である。幾ら考えても正解には辿り着けそうになく、又正解を提示されても納得になどいかなさそうだった。其れは私が王女であるからではなく、報道するものと報道を受け取るものとの間にある越えがたい壁の所為だ。
……自分で探そうか。
其の考えが頭に浮かんで直ぐ新聞紙を卓子に置く。枯山水を眺めていた父さんが立った音に気付いて此方を振り向くが、構わず駈ける。字丸の内のほぼ全てが合為王家、詰り父さんの所有物であるが、其の全てを活用できる訳では無い。召使が居らず、普段アルマダと三人で過ごしている為だ。流石に議事堂には専門の清掃係が居るが其れだけである。例えば字丸の内には、埃に塗れた倉庫、なんてものもある。前述した通り、字丸の内の中に護衛なんてものは無い。其れは、或る意味、自分の好きなように場処を扱えるという事でもあった。
其の「埃塗れの倉庫」は、字丸の内の中でも、西竹林に近い北西寄りの処にある。斯の場所を見つけてから私は好き勝手に此の空の倉庫を改造した。現在此処は調べ物をする際に最も役立つ場所となった。扉開け、入り、直ぐに項目を列挙する。
「調べるものは……シェルターの法案だから……」
入力の後結果した項目を上から流していくと、目当ての「各郡のシェルター設置に関する法律」が見つかった。飛び降りて内容を見るに何らおかしなことは無い。宇宙からやってくる隕石と、転生者による強力兵器とから国民を守る為の避難所。
「此れの子項目を調べれば……」
法案成立が直近である分、子項目は少なかった。子方向への分岐は二つしかなかった。きちんと目当ての方へ飛び移ると、委員会の人が細かく書かれていた。
合為出身の転生者兵器の専門家。天文学の権威として知られる齢卅の学者。合為建国以前からある建設会社の建築学者。有名、而して信頼出来る人間の名が連なっている中で、其れは目を引いた。
「波無津鉄工所の職員」。
波無津鉄工所と云えば国鉄の軌道を製造している所だ。併し、何故職員と書かれているのか。詳しく調べてみると、専門家でもないようだった。
「名前はハミルトン。男。出身は出流兎亜時代の合為。波無津鉄工所の職員で、又資本家である。」
記述は要約すると此れ程か。過去の経歴は無いが、写真が載っており、写っていたのは肥えた、転生者による異世界の作品でよく見る悪役の資本家の容姿に似たものだった。苗字がない事からして一般的な合為の人間だ。
「……」
詳細を辿ろうとしても個人の情報には保護が掛けられており、捜査機関であると認証をしなければ閲覧不可能だとある。……一応、委員会に属する人を調べると云う最初の目的は達成できたが、ハミルトンの事が気になって仕方が無かった。此れ程迄に興味と云うか、妙な予感と云うか、調べなければいけない、と五人に出会った時以来の思いを持った。
私が斯く思案していた其の日、早速「シェルター」の設計が行われていたのだった。




