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Earchlo  作者: 稲土瑞穂
第三章/空白の四年間
46/55

第十七話「避難所」(#45)

 L’2039/10/13。其の日、合為王国ダルンデネト特別区字丸の内の会議場にて、各郡長(各町村が選んだ町村長の中から一人ずつ選ばれる)とオコンネルとが会議を開いた。其れは郡長会議と呼ばれるもので、日本で云えば国会の様な、其の国の方針を決定したり立法したりするような会議である。併し、開催日程が不定期であった。

「……こんなに鉄道が速いとは。電気さえ通っていれば今後は龍に載る必要もありませんね」

龍鳴(たつなき)郡長(こおりのおさ)藍子(あいこ)が字丸の内の城の門が開くのを待ちながら言った。

「確かに然うですね。私達からすれば不安要素でしたが、鉄道の国民に対する悪印象も払拭出来たようですし」天山平郡の郡長である天山平あまやまだいら郡長(こおりのおさ)(ながれ)が頷いた。

「李茶奴が突然『言論の自由が無い。従って其れの回復をするべきだ』と言い出した時は驚きましたが……国民の案で鉄道の復活が出来て、精神が破壊されたとは雖も李茶奴は嬉しがるでしょう」高山麓たかさんろく郡の郡長、高山麓郡長(こおりのおさ)平子ひらこが賛同したが、重い扉が車輪を鳴らして地を擦る音が消えたことに気付いた。「開きましたね。入りましょう」

 時計がぴったり〇分を指すと、議長が開議を宣告した。

「此れより、会議を開きます」

 手筈通りだ。今日の議題がオコンネルによる法案「各郡のシェルター設置に関する法律」である事が告げられた。而して結果は可決。巻き起こった拍手を聴きながら、其の会議室の隣の廊下で、エリナーは父の言を思い出していた。

――――「此の数十年で発明された兵器は極稀に生れる強力な魔法使いと同等、或いは其れ以上の効果がある攻撃を容易く使える様にした。其の為の対策をせねばならん。併し全ての人間が対策をして過ごせる訳ではない。此等の攻撃を免れる事の出来る場所を、国内の数か所の、地下数百米に設けては何うだろうかな、てね」

「へえ。真面目だね。父さん、そんな事も考えるんだ」

「シェルターが笑い話になればええさ。併し、現実は然う楽観出来る様なもので無い事も皆が知っておる。仰有った様に、未だ人間は全てを納得させ得る社会の在り方を発見出来ずに居る。いづれ、戦争は勃発こる。」

 至って真面目な口調。戦争は必ず起こり、其の時必ず誰かが死ぬ。其の事実から逃げようとしていない。あの時は父の心を心配したが、今は彼れに共感する者が現れた(予算委員会でも賛同する者はいた気がする)事で負担が減ればええな、と一人思った。

会議は続いて、可否を取っていっていた。法律で定められているとは言え、態々大変だ。併し手続きは法律、而して憲法によって決められている。声を聴いていると、肥った誰かが歩いて来る足音が聞こえた。会議が開かれている最中に誰が来るのは迚も珍しいが、何と無く嫌な気分がしたので急いで空間を折り畳みながら廊下を駆けて議事堂を出た。

 庭に出ると、会議の声は聞こえない。幾ら国王の娘と云っても、法律の成立に介入できる様なものではない。国王であるオコンネルの提案した法案でさえ、予算委員会、而して郡長会議と、正規の手順を踏まなければ成立できない。然う言った面は逆に平民(最近改正された憲法下では斯の呼称は廃止されたが、つい使ってしまう)の方が有利に思えた。

併し、此れは憲法が変わった故に起こる事だ。今の憲法の成立の切欠はあの白皙の狐人、くつねだった。李茶奴が摂政をしていた頃、ダルンデネトの商店街で彼れの退陣を求める抗議の行進があった。当時商店街には、李茶奴が摂政の特権で設置を決めた監視器が数多く試験的に置かれていた。其の中の録音器が、くつねのマコトに対する説明の科白を拾ったのだ。其れが李茶奴に聞かれる事は無かったが、李茶奴が例の式典のテロで気絶してから、郡長に聞かれ、皆が其の事を知ったのだった。「此れ迄の摂政は城孤社鼠だったのか」とオコンネルは気付いたわけだ。其れから当時の正規の手段で憲法は改正され、摂政の役割は補助的となり、法律の成立には郡長会議での過半数以上の賛成が必要となった。

 ……其処迄考えてみると、実際に各郡長を買収して自分に有利な法律を成立させるのは平民には難しい。其れこそ莫大な資産を持つ王室や国鉄にしか出来ない事だ。但し、国鉄の資産は今回の憲法改正で国王の手を離れ独立した国家によって厳重に管理されているから使えぬな、と、そんな小難しい事に使っていた頭を、秋めいた風が撫でた。

 エリナーは王女だが、生活は至って標準的なダルンデネトの其れである。自由に外出出来、好きな様に過ごせ、三食のご飯がある。思考も自由であった。

 図書館にでも寄ろうかなと、正門へ向かって歩き出せば、会議場は小さくなり、殆ど飾りの王城の大きさが際立っていく。城壁は段々と門に近い所が高くなっており、美麗な姿を演出していた。門を潜れば、紅葉もみづいた木々を揺らした風は竹林へと向かっていた。

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