表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Earchlo  作者: 稲土瑞穂
第三章/空白の四年間
35/55

第?話[ERROR]+第六話「追走と異世」(#34)

[接続が中断されました。視点を変更しますか。変更しない儘放置した場合、元の視点で再開されます。]

……

…………

[一定時間が経過しました。再開します。]


 人生と云うものは何が起こるか分からないとは雖も、こんなに唐突な出来事は流石の私も初めてだ。周囲は見慣れた電子的空間であったが、あの草叢と一本の木は見えない。

 あの不思議な女と再会したと思えば、此の場所に座っていた。何が起こっているのかさっぱり分からぬ儘、不安感だけが心にあった。不安になるのが飽きてきた頃、私の中の違和感の正体に気付いた。マコトたちが知覚出来ないのだ。私は今の所彼れらの行動を貴方達に伝えてきた其れだけの存在でしかないのは重々承知して居る心算だが、此れでは私の存在意義が見当たらない。斯様な状況の儘では私の取り乱しのみ伝わり彼れらの心情や行動が全く不明になってしまう。

 困惑して居た処に、散った李茶奴の記憶が目に入る。孤独になってしまったと思って居たが、然うでは無かったらしい。電子的な心理世界の中の彼れの欠片を拾おうと立ち上がると、叢があった方向に絆が見えた。

 絆は精神を結ぶ、とはくつねからか本でか知った事の様な気がする。非論理的なのは理解しているが、同時にこんなに確信できるものだとは思わなかった。「人間」というものを理解して来た心算だったが、私は未だ〳〵理解が不十分だったのだろう。

 絆、と云えば私はマコトと過ごした日々を思い出すが、今は其れを思い出してもらう時ではない。私はあれ以前の私に似た、併し若干自由を与えられた、そんな人工物なのだ。

「……」

 泣きたくなる気持ちを抑え、私はあの命令を送信した。

/*視点変更*/



 悪夢を見た。天から落ちる夢を。あえかな夢を見続けてきた中で、其の夢は異なものだった。

 雲を突き抜けて落ちた地上は草原で、其処には誰れも居ない。其れが確認出来て暫く一本だけ生えた木の周りを駆ける。其の後、辺りを見回すと、地面に垂直な平面の先がまるっきり変わっている。其の先は無機質な世界で、草原との境目の僕に最も距離が短い点の近くに、自分のような体を持った某かゞ泣いて居る。顔は見えないが、其の髪は長く、青かった。男か女か其れも解らず、困惑していると目が覚める。

 一体此の夢は自分の何を表しているのだろうか……自分が知らない過去なのだろうか。確かに、薇や茸が生えていた記憶のある森の近くの草原と似ている気がする。だが、其の草原の中に木は無かった筈だ。

「……マコト、思案に耽ってないで行くよ。其れとも彼奴に何かされたか」

「あ、御免。何でもないよ」

 僕は一瞬見た夢が気になっていたとは言え、こんな処で思案を巡らせてまったことに気付き、くつねの言に従って走り始めた。何うやら追っている人物は前此処に来た時会った女、サラであるらしく、くつねの嘗ての知り合いでもあったとの事だ。運命の悪戯か、偶々なのか判らないが、彼れは〈エフューラ・テサノタ〉の一員となっている。くつねは何故彼れが〈エフューラ・テサノタ〉に入ったのか聞き出そうと必死になって焦っている。

「其処を右に」

 くつねを始めとした六人は先頭の彼れの号令に従って、波無津の町を西へ東へ駈け回る。走っている途中のエリナーの事に拠ると、歴史の古い街らしく、計劃無しに拡大していった街衢が何もかもを覆う様に広がっていたらしい。其の所為か、此の街の彼方此方を走るのはきつかった。

「みっ、いや左、此方だ!」

 くつねの視力と聴力とには敵うものが居ない為に彼れが何を見ているのかわからないが、彼れの眼ははっきりとサラを捉えていたのだろう。皆が汗塗れになり商店街に入った其の時、景色が一変した。

 小路は土瀝青に。

 丘は平に。

 木造は混凝土製に。

 快晴は晴天に。

 雲居の空。

「此処は何処なの……」

 ミツグが額を拭いながら云った言葉は、六人の心情が同じ事を示していた。戸惑いつゝも辺りを見回すと、広い場所に居ることに気付いたが、余りにも情報が足りず、僕が云えた言は「わからない」だけだった。彼れは何時もの様に然うと云って此方を見た。其の顔は仰天のだった。其れに気づいたエリナーも、自分以外の五人全てが和服を着ておらず、姿を変えていることに吃驚した。ミツグは狼的な特徴な消え人間の姿になり、青い服を着ていた。ピミャは如何にも一般人と云った雰囲気を醸し出す白い襯衣(しやつ)に、青い長袴を纏っていた。

「あ、マコト」僕は其のピミャの声で、共通の夢の事を思い出した。「此処、前に」

 たった其れだけの言葉で、二人は居場所を理解した。“空港”、少なくとも二人が然う呼んだ場処。くつねは辺りを見回し、六人の夫々の位置を確認した。

「滑走路の上だわ。取り敢えず……あの建物の方へ」

「わかった」

 五人が同時に然う云うと、又駈け出した。姿が変わった所為か、疲労が気付かぬ内に回復していた様で、直ぐ其処に着いた。息を切らして滑走路の方に目をやると、飛行機が着陸していた。

「……」エリナーは天を飛んだものが帰還する様子を見て、自分が何も理解出来ない事を思い知っていたのかも知れない。彼れは飛行機が止まった場所を一瞥すると、くつねの頬を平手打ちした。「貴方の打付けな行動に振り回される此方の身にもなってよ!前は睦んでたのかも知れないけど、こんな事に現を抜かした所為で戸胸を吐かされたじゃない!……説明してよ」

 慳貪に云ったエリナーは、誑まれた様な現状を実覚できていなかった。更に理解不能なものを次々に見せられて置いてけぼりにされた事に怒りを覚えてもいた。少し尻尾が太い白皙の狐人になっていたくつねは、一から状況を説明し始めた。

「此処は、『日本』と云う昔存在した国家だわ。多分、『尾張』の空港。何うして此処に迷い込んだのかわからないけれど……」

「然う。理由が解らんなら仕方無い事だわ。此の六人の誰の意志でも無く、帰還の方法の見当が付かんなら困惑せず沈着にするしか無いのね。……御免」

 飛行機が着陸してからも轟音は鳴り響き続けて居た。翼の無いものを運ぶ機体が地に着いてゆっくりと止まると、上の方で写真機がシャッターを切る音が聞こえた。其れは車の駐車場らしき場所がある六人の隣の建物の屋上からだった。上の方が安全であろうことは六人の誰もが瞬時に解した。くつねは何を思ったのか遠い手摺を摑む様に手を伸ばして跳んだ。明らかに力の足りない跳躍だったが、何故か屋上へ移動出来た。皆がてもなく、空港の屋上へ手摺を手握っただけで移れた事に驚いたが、五人も順に屋上へと動いた。写真機を手にシャッターを押す人や家族連れなどが幾人も居たが、何故か六人には気付かない。殊にエリナーは、其の髪の色と服装とが珍奇に映ってもおかしくないのに一瞥もされなんだ。

「日本と云う国家は嘗てはダルンデネトに似た服装を文化として持っていたのだけれど、近代化……えっと、他国の文化に影響されて斯う云った着物を着るようになった。次に、左側通行。他には……」

「島国」

 僕は枕木と云った時の様に、ぽつり、無意識に、一言だけ、未だ当惑するエリナーの為に補足説明をし出したくつねの言に、加えた。

「……確かに然うだったわ」自分では無い何かが然う云わせた事を直感したくつねだったが、其れに全く触れず説明を続けた。「で、何うやって戻るのかはわからないけれど、取り敢えず状況の把握をした方がよさそうね」

 六人が階段を下りて空港を出ると、外の景色は一変していた。報道局の記者が詰め掛け、戸惑いながらも状況を必死に話している。何が起こったのか確かめようと、警察が入らないでと呼び掛けている場所から誰にも気にされずに抜け出し、歩き回っていると空港の見える鉄道の駅に着いた。/*視点変更*/鉄道は、路線色こそ違ったが基本的な規格はマコトが提案したものと同じだった。

「此れが貴方の発想の元なのかしら」

 エリナーの問いに答えることが出来ず、列車の往来を唯眺めていると、マコトの姿は忽然と消えた。みんな、と云おうと辺りを見回すと、五人に続いて鉄道の駅も路線もが、然して何もかも消えた。最後の一瞬、着地せず唯飛行する航空機の姿が見えた。其れが可也旧いものである事を、彼れは知らなんだが、轟音とは言えない大きさの其れに耳を澄ませている内に、真っ暗な辺りが田圃に「戻る」のを明瞭に感じた。時が凍るような寒さとなり、逆流する。自分の体が消えてしまうのでは無いかと思う程の孤独の恐怖が胃腸の調子を悪化させた気がした。……気違いの様に狂うのではないかとの恐怖。…………………………こわい、との怖れだ。其れが恐怖から畏怖に変わると時の寒さは消え、彼れは水中に居た。

 やっとのことで水面へ出ると、つい先刻迄居た、あの波無津に戻って来れたことを実感したのか、疲れがどっとやって来た。

 桟橋で眠った彼れは、暫くして五人に見つかることとなる。結局原因は解らずじまいとなってしまった。併し、何故六人が例の場所へ着いたかは、六人にはわからなくとも、()には何となくわかるような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ