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Earchlo  作者: 稲土瑞穂
第二章/首都の生活
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第二十二話「あつかひ」(#26)

 L’2038/7/1。遂に一号線の開業が来年の春迄にすると決まった。其の為マコトとピミャとは随分うきうきとしていた。

 家の中でも二人がにこにこし続けているからか、シルは二人に影響されて何だか楽しくなってきたらしく、本を読む彼れの顔の口角が段々と上がっていくのが解った。ミツグも似たような感じで、お茶を淹れる時に特に笑顔が際立っていた。

 私は少し其れとは距離を置いて、マコトの楽しそうな表情を見た。二人は例のいめを見てからと云うものの、互いに親睦が深まっているような感じだ。其の所為か(全く関係の無いことかも知れないが)マコトは私と一緒に寝る時に彼れの方から抱いてくるのを躊躇わなくなった。肩幅や背など、体格が同じだからだろうか。個人間の付き合いだから私が穿鑿する事でもない。

 扠、私が今読んでいるのは遺伝子に関する本だ。嘗て地球で生きていた頃には確かXYだったような覚えがあり、今は何うなのか気になった故図書館で借りた。借りた理由には私が、取り敢えず旅券を得る為に遺伝子検査をしたが特に異常はない「ZZ」だと云われた、ということもある。

 体が男であることはまあ前々から気付いていたし、問題は無い。前世の経験が無ければ大変だが、幸か不幸か慣れてしまった。本題は何時頃からZWに変異したか、である。併し答えは書いていなかった。何故か、と云うと、XYからZWへの変遷を示す化石が無いからである(此れを知った時抑々化石から遺伝子を見つけ出せる事に驚いた)。斯うであると現状最高とされる科学技術でも出るのは不明と云う結論のみである。勿論推測も可能であるが誤差が大きすぎるらしい。……なんて思案を巡らしている場合ぢゃなかった。本題に戻らねば。

「マコト」私は本を読み終えてから尋ねた。「一号線の開業には式典とかあるの」

 彼れは首を縦に振った。あるのか。併し、彼れの表情は、でも暗殺なんてもう二度と御免だ。発狂も、と言いたげたった。

 …………然う云えば、彼れは李茶奴の体を触った途端に血液型が解ったとか云っていなかったか。私が彼に其のことを訊くと、

「え、普通に判ることじゃないの」

 然う返された。「無いよ」とぶっきらぼうに返しそうになるのを堪えて、……判らん、――少なくとも多数派にとって――判らぬものだ。特別な科学(或いは魔法)を応用した検査用器具一揃いで時間を使ってやっとわかるものだ、と彼れに教える。

「…………そうか。勘違いかもなあ」

 マコトは然う云って熱が冷めた顔をしてすっかり冷めたお茶を一服した。

「……其れもいいけど、鉄道、決まってよかったね」

 話題を唐突に変えて、今更かもしれないがと伝えるような口調でミツグが云った。

「然うだね。科学の力は使い方によるからね」

 何かの偶然か、少し前に私が思ったことを彼れは云った。

「全く其の通りだ」

 ピミャが頷いた。彼れは前世で堤に命を助けられたことがあると云っていた。治水も科学の見地の上に成り立っているものの一つだ。

「使う人次第だからね」

 シルは其の言葉を口切りに、科学に就て延々と語り始めた。皆の嫌そうな顔にも気づかず、以前鉄道に就て語った時のマコトの様に止まらず、止めれえせん、其処に誰も居なくなっても外界との接続が切れたように、家鴨の様にまくし立て続ける。最近マコトが落ち着いてきたと思ったら今度はシルがおかしくなってしまったと、皆呆れた。

 いや、もしかすると何回かかけた魔法が残留しているのかも知れぬと云う可能性を思い出し、一階から二階の台所へ向かい、冷凍冷蔵庫に入れた、東河畔に生えていた精神安定剤になる薬を取り出した。スクレイブハに拠ると、異常な言動が見られた時、冷凍保存された此の草を使うと草自身が症状を判断して効き目を調節するらしいのだ。用量は細切れ一個でいいとのことだ。早速其れを彼れの湯呑に入れると、果たせる哉、彼れは何もしゃべらなくなって落ち着いた。

 少し、彼れの扱いを改善した方がいいかも知れないと思った日であった。

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