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Earchlo  作者: 稲土瑞穂
第二章/首都の生活
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第十九話「いめ」(#23)

四人が何故旅券を作ったのかを聞いた。其の理由は私と共に旅が出来る様に、と云う迚も真っ当なものであり、何より私の行動が切欠であった。そんな行動をするなど考えても居なかった。慣れ過ぎていて人の行動が本来殆ど予測不可能なものである事を忘れていたのだ。而して私は彼れに自分が何をしていたのか告げる事無く、察され、旅券の件は切欠諸共有耶無耶になった。私を非難する事も無かった。

 三人が通常の人間ではないと判明した事も知った。だから何う斯うする理由もない。三人は侵掠者ではなく、普通の人間、私の考えが正しければ地球の存在する或いはした世界からの転生者だ。転生者自体、最近では侵掠者だと云う過激な意見もちらほら耳にするが……未だ輿論とは言えない。

 新しい事が判っても、何かを隠していても、普通の日常は戻って来た。

 --併し、少し前に私を抱いて押し倒したピミャが、話したい事があると云って私を呼び出した。其れは、天気が近々桜の花が咲くような兆しを見せ始めたある日のことであった。

 私達二人は、三人に見つからないように、と云う事で東門より北の城壁内の、合為王国の原型となった国家の一つの設立者の銅像のある広場に来ていた。此の広場の名は彼れから採った「アーウィック」である。生きていれば私より十歳位しか変わらない、夭折した彼れの銅像を見ながら、ピミャは私にしか話せないと云う、三ヶ月程前の国鉄一号線の橋での出来事に就て話し始めた。

 火を噴いてしまった後、気絶したのだが、其れから彼れは奇妙な夢を見たらしい。彼れの前世で過ごした、ある地球のとある空港の滑走路の上で始まる夢だと云う。彼れは前世の姿で、男の青年の声と吹く風とで其の事に気付く。其の青年は今生の名で彼れを呼んでいた。彼れは、青年がマコトであることを其れと無く気付き、其の名を口にした。すると視野が開け、起き上がってマコトの姿を見た。彼れは洋服に身を包んでいること以外あまり変わらない姿で、ピミャの姿の違いに驚いた顔をしていた。マコトは彼れがピミャであることの確認をした。然りと答えてから暫く沈黙があり、彼れは隣の滑走路に着陸してくる自衛隊の轟音から此処の所在地を理解する。妙に色褪せた空の下で、二人は転生に就て語り合った。彼れはマコトに覚えている前世を教えた。其れは彼れにとって聞き慣れた語が多く含まれていたらしく、殊に日本に関する事象はよく覚えていたのだと云う。

 然して、折角前世の姿其の儘なのだから、とピミャは彼れに、襷掛けにしていた鞄に其の儘入っていた名刺を彼れに渡した。其れには前世のピミャが大切にしていた、今思えば必要も無いことが書かれていたという。マコトも然うだな、と使い古した長財布から名刺を取り出したが、渡す前の其の所で目が覚めた。

 彼れは其れだけ云いたかったんだ、と私を向いた。私は唯然うかと呟いて視線を雲から彼れに戻す。

 彼れの顔は複雑そうで、何うやらマコトの姿が今生も前世も似ていたことが心に懸かっているらしい。訊けばいいじゃないか、と彼れに提案したが、ピミャは、目覚めて後から聞いても知らないの一点張りだった、と答えた。

 ピミャは彼れの前世の物事を自らが体験した出来事としてはっきりと記憶している。私も幾百かの地球に関する記憶を見て聞いて来たし、其れらの内数十個は実際に経験した感覚がある。併しマコトに、否、あの三人には、そんな記憶は無さそうだった。普段は仄めかしただけだから未だしもいいとして、神話の詳細を教えた時でさえ、異星人の襲撃と云う絶対記憶に残る筈の事を何故覚えていないのだろうか。ピミャの様に其れを経験していない出来事が起こる以前に其の世界を出た乃至別の時間線からの魂なのだろうか。抑々私が初めて会った時に、彼れは「つき」と「うさぎ」との間にある、ある特定の地域の人しか知らない関係性を知っていると思ったことが御門違いだったのかも知れない。

「…………」

 何時の間にか二人の間には沈黙に支配された春分間近の草叢があった。

 私は、彼れに地球に来た異星人に就て初めて教えた時のことを思い出した。彼れが未だ顔が強張り、まるで「仮面」を被っているかのようだった時の日のこと、凍結した海で釣りをしながら、海の話題で彼れが「わだつみ」と云う日本語を呟いたのだった。今は五人でよく使っている故慣れたが、当時は久々に聞いた日本語であった。もう子孫は変質しすぎて其れを祖語として再構出来ない程になってしまったのだから仕方が無いと思っていた当時の私にとって、私が純粋だった頃の、あの時代の言葉は嘸かし特別なものだったろう。

 其れから地球の話題になり、二十一世紀の頃に生きたとピミャが告白したので、君が死んで一年後に黒い異邦人が地球を攻めてきたのよ、と云ったのだった。私からすれば常識でも、彼れからすれば初めて聞く事だった。転生を主張して去勢と追放とをされて以来、ずっと仮面を被っていた彼れは其れから打ち解けるようになったのだ。

「そうそう、地球と云えばさ」ピミャが日本語で沈黙を破った。あの頃の仮面の様な表情は無い。「鉄道もあったよね」

「ああ、あったね。電化されたものも」

 地球の世界でのあの襲撃の前一般的であった自動車に取って代わったあの箱型の電動輸送機械。此の世界の鉄道列車も電動であるが、発電所はどうするのだろうか。


 適当なところで切り上げて家に戻った。其れからまた何事も無かったかのように日常は過ぎ去る。四人の旅券が出来た(三人は前述の事情によって獣人扱いとなった)。而して何時の間にか、一号線と共に最初に計画された国鉄の路線である、二号線から七号線迄殆どに線路が敷設される目途が付き、其の一号線用に設計され実際に十編成が完成していた00系の再度の塗装が行われ、李茶奴暗殺事件によって開業が無期限延期状態になった一号線の開業が、更に延伸を行い完成した頃に決まりそうだとなった。

 尚列車は10系という新しい車両に置き換えられるようだ。既に一号線を当初の予定通りであれば運用できる程量産されていた00系が不憫であるが、事情が事情である、仕方が無いのかも知れない。


 嘗て、地球で生きて居た頃に、意思を持たない機械は使い手によって悪魔のようにもなるというような言葉を聞いたが、鉄道であっても其れに乗る「客」が殺す予定の人間扱いをしない存在であるか、一般人であるかと云うのは一般大衆にとって其の輸送手段の印象を大きく変えるのだ。

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