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Earchlo  作者: 稲土瑞穂
第二章/首都の生活
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第十六話「出社」(#20)

 L’2038/3/1、僕とピミャとは、吹雪にも関わらず、昨日くつねに云われた通り、此の字赤坂五番地の合為国有鉄道本社へ来ていた。斯様な天気であるからと、くつねが外出用の黒い外套を二着貸してくれた。因みに此の前エリナーから貰った指輪も嵌めて、謎の男からくつねが貰った僕が何故か所有している土地の書類も持っている。

 新聞紙では番地など「アルマダ・サトウ」政府広報官(其の面では写真付きだった)が発表したこと以外載っていなかったので詳細は知らなかったが、意外にも簡素な建物だった。吹雪でよく見えないが……此の建物は武家屋敷と同じく、高くは無いが広いのでダルンデネト特別区内では豪華な方かもしれない。其れにしても異質な洋風建築である、区役所や僕達の家なぞよりは余程自然で、町に馴染んでいた。

 土間に入ると、暖かい空気が僕達を迎えた。二人揃って雪塗れの外套を脱いで畳むと、ピミャが僕が自分で――但しくつねに教えてもらいながら――織った筒袖の普段着を見た。

「此の服装でよかったのかな」

 ピミャは足を空に、自分の服を見ながら云った。此方も筒袖だが色が少し違う。

「いいじゃないかな。此の前李茶奴に貰った正装は、あんなことになってまったから禊いでもらってから処分した故何時ものしか無いし」

 僕は然う答えた。彼れれから二カ月位になるが、あんな血塗れになった風などもう処分するしか道はなかったろう。其れに二人共、否、五人全員正装は持っていなかった。エリナーは王女なので何かしら持っているかもしれないが、女性用のものが多いであろうし、然程仲も良くないので借りる訳にはいかない。

「まあ、服が此れしかないからいゝか」

 いくないと云われたら其れ迄。然う思って二人は下駄箱に下駄を入れて中に入った。

「あ、」

 眼鏡を掛けた人が廊下に居た。彼れは此方に気付いて一言発した。背の高く大人に見え、胸に名前が記されている服を着ている。和装には似合わない刺繍だが、楔形文字に似た其れを読むことは当然出来なかった。僕達の面は割れていたらしく、直ぐ様説教を受けた。

 数分経って、僕はすみませぬと云ってから、名前を尋ねた。

「ああ、私はアルマダ・サトウです。何回か政府広報官として新聞紙に載っていたから若しかするとご存じかもと思いますが、李茶奴暗殺事件の後、頼まれて国鉄の代表者を任されて、貴方二人の指導を担当させていただくことになりました。此の刺繡は漢字様文字です」

 耳慣れない単語があったが、どうやら、何を見ていたか理解したようだ。

 自分が方言に詳しくなく、合為語も学習中のみである為表現し辛いが、彼れはダルンデネトの民衆とは違う方言乃至言語の影響を受けたかのような喋り方をしていた。

「漢字様文字って」

「前新聞紙に載ってた筆音遺跡の、周辺からよく出土する粘土板に記されている文字だよ。……知っているかわからないけれど、要はシュメール語と楔形文字」

 ピミャに囁いて訊くと、少し長い答えが返ってきた。シュメール語?何処かで聞いた事がある様な気がするが、どんなだったか思い出せない。

「古い文字ですよ、筆音で出土した粘土板にあるものなのですが、其の粘土がは合為国内の土からのものらしいということで、自分で縫ったのです。一応広報官ですので」彼れは然う自慢する様に云ってから、眼鏡を直した。「……記したいなら自分でやって下さい。ことばももじもどっちのジテンも図書館にありますからね。……では案内します」

 三人以外に社内には誰も居ないらしく、中々街中では見ない伝統の灯りではなく電灯の点いた長い廊下は静かだった。其れも迚も然うだった。

「此方が二方の部屋になります。私室でもありますから、用途は自由です。えっと、……。寝台はありません」

 「ねだい」派の彼れはある部屋の前で障子を動かしながら然う説明した。自宅の部屋と同じ位の大きさ、机二脚、床は自宅と違って畳である。快適そうだが使う機会はあまりなさそうだった。

 彼れは説明を終えると、障子を閉じて、別の場所へ案内する。彼れは立ち止まって、行き止まりの廊下の先の障子を開けた。

「此処は、一番広い部屋で、設計に就て抔の為の会議室です。……屛風は余り触らないで欲しい、と設計者が云っておりました。」

 金色の、竹の描かれた屛風が半双、先ず目に入った。畳は先程の部屋よりも上質のものらしい。若しかしたらミツグとシルとが働いていた農家さんの畑から採れた藺草が使われているのかも知れない。

 暫くもう片方の屏風を探していると、右側に竹――左とは違って、多分竹の花の描かれた半双を見つけた。

「どうして竹なんですか」

 ピミャが問うた。

「西竹林について知っていますか」

「にしたけば……ああ、王城の堀の北にある、城壁に囲まれた東川の西側の竹林ですね」

「此処の城壁も元々は西竹林に住んでいる神様を護る為だったらしいんです。其れで、陛下が此れをお選びになされて、此の一扇をはじめとして、幾筋もの竹を描いたということみたいです」

「へええ。……」

 二人はそんな会話を交わした。政府広報官の彼れも又、くつねと同じ位、色々知っているのかも知れない。

「まあ、此処の案内は以上ですが、私は……其の、此処以外だけでなくて、国鉄の、一先ず既完の一号線を案内するよう云われていますので、少し休憩してから、するというのでよろしゅうございますか」

 彼れはピミャとの会話を切り上げて、僕にも云った。

「……問題無いよね」

 ピミャが訊いてきた。抑々今日は国鉄の事が長くなるかもしれないから朝から来たのだ。僕は頷いた。

「では、私は一旦――」

「一寸待ってください」僕は抱えている書類を思い出した。「此の書類、国鉄の二号線とかの敷設のための土地に関するものなのですけれども、何故か僕の所有になっているので、国鉄の土地に出来ないでしょうか」

 然う言うと、彼れは封筒を凝視した。

「何故持っているのかわからないけれども、ですか、其処は、まあ、権限を任されているので出来るでしょうが、今直ぐは無理ですな」

 僕だってわからないから彼れが驚くのも無理は無かろう。

「……国鉄の方で預かっても」

「大丈夫です」彼れの質問に僕は全然首肯した。「敷設用の土地ですから」

 僕らは暫くの休憩の後、本来はあの李茶奴の演説の後、列車に乗って一周する筈だった、一号線の中を歩くことになった。

「今は再開の目途が立っていないので、送電は停止されていますので第三軌条に触っても大丈夫です」

 彼れは、三人共保護帽を被っていることを確認してから、然う云った。三人共揃って、本社の建物の地下にある隧道へ梯子を伝って降りた。

 隧道の床は混凝土、詰りはスラブ軌道である。直ぐ西に隧道の出口があり、区内を流れる東川の橋が架かっているが、其の吹雪を見るに其れで良かったと思う。

彼方(あちら)に行こうか」彼れは西側を指した。「吹雪の中だから気を付けて」

 吹雪いている外に出ると、鉄道路線の確認はあっと言う間に雪山探索のような状態になった。外套でも寒い。可也風が強く、飛ばされそうだと思っていると、転んだ。

 ピミャが咄嗟に駈け寄って来るが、あまりの寒さに、嚏をした。――――――――其の嚏は飛沫だけでなく、火も伴った。僕が火傷を負ったことは、想像に難くなかろう。

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