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Earchlo  作者: 稲土瑞穂
第二章/首都の生活
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第十四話「粛清」(#18)

 L’2038/2/28、日曜日。殆どの買い物を昨日迄に済ませた故、五人とも仕事以外特にやることが無かった。私も只しん〳〵と降る雪を眺めていた。雪は昨日一旦止んだものの朝になると又降っていた。何時降り出したのかわからないが、既に溶け切った筈の其れは入口が使えなくなる程迄に厚く積もっているらしかった。らしい、と云うのは外から確認したわけでは無いからだ。此処には当たり前だが悪戯で戸に鍵を掛ける人も居なく、扉を開かなくさせる人も居ない。冷え切った一階の窓は真っ暗で何も見えなかったから然うだろう、というだけである。

 昔は雪の色を「君の肌の色にそっくりだ」とよく云われたものだが、今はそんな他事を考えずに唯本を読むことだけに集中できるようになった。其れは私が外で燥いでいる子供に苛ついたり、茶を啜る音を気にしたりしていた頃とは何かが違うことを意味していた。故郷の言葉とは違う体系の於合語族系の言語を日常的に使うようになったからだろうか。其れとも此の家庭の中で床しき居敷の三人の「あの」言葉を話すようになったからだろうか?其れとも、そんなものよりもっとずっと前、色々な体験をしたからだろうか。

 私にとって、少なくとも此の四人との出会いは自分の中で枯れかけていた母性という忌み嫌っていたものをに水を与えた。水はある種の本能だった。此の星の中で然うである様に、私の中でも水に例えた其れは循環しているのだ。其の水はきっと乳に代わる何かとして四人に与えられるのかもしれない。経験か、知識か、其れ以外の何かか。其れはわからないが、実はもう与えているのかも知れない。何しろ本能と名の付いた、多くの人に共通する「無意識」のものなのだから。

 それにしても経験か、マコトに此の前私の過ごしてきた日々を語ったが、もっと古い話でもしようか。此れ迄、何回か四人に「つち」の話をしてきた。実を言うと越してきてから図書館で子供達に似たような内容の絵本だったか紙芝居だったかの読み聞かせをした事が何回かあるのだが、「つち」も其れも極度に抽象化と脚色とがなされて本当のものが見えなくなっていた。

 じゃあ、自分の知っている其のもとになった戦争の話をしよう、と思い立った。

 ではいつ話題を出そうか。食後でいいかと思い、読書の時間は終了した。


 昼食を終えた。大体斯ういう時は五人揃っていただきましたをする。其れが終わると雑談の時間である。

 最初の話題は二人の国鉄の話だった。昨日あんな事があったがピミャは何事も無さそうでよかった。彼れは私と旅をしてから正直者になり、嘘を吐くとはっきりわかるような人になった。彼れは其れに気づいていないらしいが、察するが苦手な私にとっては耳が赤くなったり、無意識的に体の一部を「戻し」たりするので非常に便利である。

--話題が逸れた。いけない癖だ。

 其の中で、私に前の路線に乗ったって云ってたよねとマコトが訊いてきた。

 私は頷いた。「当時の摂政のアルマトンのした粛清だね」

「どんな感じだったのかな」

 ミツグが聞いてきた。前にマコトには伝えた筈だが、興味本位で斯ういうことを聞いてくるのはあまりお勧めしない。

 併し断る理由も無く、聞かれて不快な人でもないので私は粛々と語り出した。君達は既に知っているだろうから割愛する。斯く斯くの次第を話し終えると、ミツグとシルとは目を丸くした。確かピミャには二人で旅をしている最中に話の種にしたかだったかで話していたから特に彼れは何も云わなんだ。

「其れにしても、此のアルマトンにしても、此の前暗殺された李茶奴にしても、摂政で皆から代表者としてダルンデネトの人から選ばれたのにどうしてこんなやあんな粛清をするんだろうね」

 シルが茶の一服の後に云った。彼れは前、合為の今の憲法の解説書を借りてきていたっけ。……確かに二人共正規の手段を経て選ばれた人だ。

「大体皆移住者だよね、二人共……僕達と同じ」

 ピミャも云った。彼れは炬燵布団に手を突っ込んで擦り合わせている。

 マコトと私とは抑々そんな何処の出身かなんてことを知っていなかったから意外だった。

「そうなんだ。出身は何処なのさ」

 私は興味本位で聞いた。……私だって何もかも此の世の全てを知っている訳でもない。

「東側の、於亜か出十亜デルトアだったかな」

 彼れは自信無さげな顔で云った。出十亜は合為の西側にある共和国で、大陸の東側で最も古い国だ。嘗てデルトアは出於合枝全域を支配する程の帝国だったらしい。

「へえ…………」

 其れから暫く、新しい話題に就て話し合っていた。

「然う云えば、国鉄で思い出したんだけど」

 其れが終わってから、私はマコトを向いて云った。

「何かな」

 彼れが訊いてくる。

「二人共、一回赤坂に行った方がいいんじゃないかな。あの会社、出勤を前提としているみたいだから、行かないと給料も出ないと思うな」

 彼れとピミャとの二人は其れを聞いてびくっとした。

「然う云えば此処数か月の給料未だ出てなかったね」

 ピミャの方を向いたマコトが云った。

「……明日から行くよ」

 ピミャは下を向いて然う云った、

「まあいいのさ。今日は休みだからね。こんな吹雪が明日は止むといいね」

 シルが然う云ってピミャの肩を叩いた。

「そうだね。それで、くつね、教えて欲しいことがあるのだけれども」ミツグが彼れを慰めた後云った。「此の前、私にもつちの噺をしたよね。彼れは一体どんな出来事だったのか、具体的に教えて欲しいな」

「わかった」私は内心嬉しかった。「私が実際に経験した話でもあるけれど、飽く迄私の主観だから、其処に留意する様に。」

 然う一言入れてから、私は「つち」の噺の下敷となった、複雑な神話と、自分が嘗て経験した戦争の話を始めた。

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