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Earchlo  作者: 稲土瑞穂
第二章/首都の生活
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第六話「覚」(#10)

おぼえ

L’2037/6/23、土曜日、ダルンデネト特別区、字山下67番地、朝。

 今日は休日であるので、五人共居る。僕は飯を食べ終わると、郵便受けを確認して、郵便物が一通入っていることに気が付いた。僕は差出人が国の其れを、宛先の通りマコトに渡した。

 其れには廿五日に保護者と共に城に来いとあった。……保護者は何うするか、と彼れが発問した。僕がしたいと言うと、いいと三人とも賛同した。

「何か要るかな」

「礼儀くらいでいいでしょ」

 何時もの如くぶっきらぼうにくつねが答えた。

 二日経って、廿五日、同区字丸の内(番地不明)(王城)、朝。

「楽しみだね、ピミャ」

「うん」

 頷いた。僕はマコトと共に、此処に来ていた。案内人に連れられて城内に入り、部屋に入ると数名の人が居た。其処にて僕達は質問を受けて答えていった。其れは「鉄道」の動力や車輛のことなど詳しい質問だったが、マコトは僕よりも詳しく答えた。かかる時間は短いと伝えられていたが休憩、食事を挟んだ所為か、終わったのは夕べだった。結果は数日後に御伝えしますと云われ僕らは其処を後にした。

 夕日の中川を渡ってから何も言葉を交わさず歩く。彼れは寡言に遠い目をして城壁を見つめ続けて居た。僕は彼れの楽しそうな眼を思い返していた。其れは擬弐となって心に懸かっていた。「鉄道」というものを詳しく彼れは語っていた――

 運行。架線。第三軌条。枕木。隧道。軌条の金属の比率。

――僕の知らないこと迄知る彼れは韋編三度絶つ程鉄道の本を読んだのだろうか。抑々何故此の提案をしたのだろうか。鉄道の話題は最早此処にては禁忌となっているのに……いや、僕が呉下の阿蒙であるのかもしれない。仮令禁忌であっても、歌は世につれ世は歌につれと云うように、利便性抔の要因で此処にても亦鉄道が日の目を見る折が来たのかもしれない。

 あの便利さに敵うものは僕は知らない。彼れの話が机上の空論であると云えるとしても、再び見れると言うのなら是非とも見たかった。

 家に帰った頃には既に日没は過ぎ、新月が壁から顔を出しているのが見えた。

「ただいま」

「御帰り、夕飯つくってあるよ」

 僕達が二階に上がって同時に言う。ミツグは何かが載った皿を持っていた。

「ああ、有難う」

「いいのよ、気にしなくて。用事だしね」

 マコトの言葉に彼の女は然う返し、皿――中身は魚と赤茄子の入った咖哩だ――を机に置いた。既にある湯気の立つ味噌汁と納豆が、食欲をそそる(……此の組み合わせは合うのだろうか)。

 暫くして、僕らは五本の匙を手に取った。疑問の答えが合わないだと分かる迄には数十秒もかからなんだ。後で聞いて分かったが、味噌汁はくつねがつくっていたが、先ず食べた炭の味がする咖哩はミツグだった。

/*視点変更*/

 日の沈んだ八時は就寝時間だ。大抵ピミャの声掛けで皆が床に就く準備を始める。然し彼れは今日は僕の付き合いで疲れたのか、ぐったりとして既に其の前に舟を漕ぎ始めていた。くつねが何時もより早く寝ましょうと言うと、夫々が個室に入っていく。まあ年頃の人が多数いるのだ、枕を並べる訳にもいかないらしかった。

 僕は布団に入っても尚今日のことで中々寝付けなんだ。今後の通知もあるが、何うして自分があれ程鉄道に詳しいのか自分でもよくわからなかった為でもある。質問されると辞書を引いたみたいにすら〳〵すら〳〵答えが口を衝いて出てくる。まるで何もかも頭の中に入っているようにすら思える、此の知らない自分の奇妙さ。

 扉の開く音がした。

「……起きてるか」

 くつねの声がした。振り返る迄も無いが一応見ると、白皙の顔と狐耳が見えたが、直ぐに見えなくなった。

「――眠れんのか」

 微睡みかけた彼れの声が、暗い部屋にて弱く響いた。目が慣れてくると、扉に対する背丈の高さと彼れの眠たそうな顔とが相俟って幼姿に見えてくる。

「うん。」

 悟られない様に答えた。

「実は私もなんだあ」

 然う行って彼れは大きな欠伸をした。此方もしそうになる。僕は何をしに来たのか問いたかったができなさそうだった。

「ちょっと話をしたくてね」彼れは察しがいいのか顔を何時ものに戻して告げた。「鉄道に就てで」

 今日話したじゃないか、と言うと、彼れは何処にて知ったのかと問うた。

「何処かは…………」僕は暫く思い出そうとした。「……知らない」

「知らない?」

 傍点が付いた様な彼れの言葉に僕は頷いた。

「何処かで覚えた記憶はあっても心当たりがないんだ」

「其れに関わる鉄道以外の記憶、詳しく教えてよ」

 僕は彼れに其の事を話した。居敷とも違う何処かの建物の中で暮らした記憶や、鉄道が実際に走っている映像、おかしな月の浮かぶ夜の記憶と此処の月の架かった夜空の記憶。全て現実的であった事や二人にも話さず悩んでいたヿ。凡てはにかまずに話した。

 成程、と彼れは途中云って、転生という考えを彼れは説き始めた。

「てんしょう……」

「そうよ。此処の宗教で一般的な世界観なんだけれども、胡散臭いからざっくりとだけ言う」

 彼れの話は其の記憶に登場する「牟尼」の説いた教えにも似たもの、業抔で何の道――例えば畜生とか――に生まれるかゞ決まるというものだった。依然として其の科学的な証明は出来ていないものの、あらゆるものに神が宿ると同じく一般的に信じられるものであった。

 其の話の後、彼れは答えの無い筈の、こんな事を言った。

「貴方は自分に就ての今知らないことを知ったらどうなるとか考えたことはあるかしら。」

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