29.
「いらっしゃいませ。お客様、2名様ですか?」
「はい。禁煙席でお願いします」
朋子の後ろから現れた舞に、秋山は目を細めた。微笑みかけて軽く会釈する。
「こんにちは。お席までご案内いたします」
窓際のテーブル席まで案内されながら、朋子は小声で舞に耳打ちした。
「もしかして舞、ここに来たことあったの?」
「ええ。前に何度か」
「どうして誘ってくれなかったのよ」
「そのときはほら、朋子はテスト中で忙しかったし」
「嘘。かっこいい店員さんをひとりじめしたかったんでしょ」
心臓がひときわ大きく波打つ。
秋山に聞こえたらと思うと、舞は冷や汗を感じた。
「そんなんじゃないって。やめてよ朋子」
「むきになっちゃって。怪しいなあ」
「こちらメニューになります。本日のアイスはクランベリーのアイスになります」
2人が席につくと、秋山はにこやかに言った。
「今日はお友達もご一緒なんですね」
「はじめまして。石田朋子っていいます」
朋子は持ち前の人なつっこい性格を発揮して、満面の笑みで挨拶した。
「舞はどれくらいここに来てたんですか?聞いても教えてくれなくて」
「そうですね、先週はわりとよく来られてましたよ。最近来られないので、寂しいなと思っていたところです」
照れるどころか臆面もなく言ってのけたので、舞はぎょっとした。
「へえ~そうなんですか~」
朋子の含み笑いに耐えきれず、首筋まで真っ赤にしてうつむく。
秋山と朋子は顔を見合わせ、共犯者めいた笑みを浮かべた。
「それでは、ご用がおありでしたら何なりとお申しつけください」
と言うと、秋山は右手をゆるやかな孤を描いて胸の前に上げ、美しい礼をしてみせた。




