30.
朋子は帰り道の間じゅう、秋山について語り続けた。
「感じがいいし、すごいイケメンだったよね。うらやましいな、あんな人とお話できて」
「客商売だもの。誰とでも世間話くらいはするわよ」
朋子は信じられないとでも言うように目を剥いて、
「何言ってるの。あんなに大きくて有名なカフェで、ちょっと通ったくらいで顔を覚えてもらえるなんてすごいことだよ。もしかすると向こうも舞のこと気になってるのかもね」
「からかわないで」
「からかってないよ。舞は美人だよ」
「第一、私にはそんな資格ないから」
「資格?そんなものがなきゃいけないの?どうして普通に恋愛して、幸せになっちゃいけないの」
素朴な、だが鋭く胸を突く朋子の言葉に、舞は息を呑んだ。
朋子の瞳は夕日を浴びて黄金色の光をたたえ、まっすぐ舞を見上げてくる。
返す言葉が出てこず、たじろいでいると、
「お帰りなさいませ、舞お嬢様」
屋敷の門扉から影のように現れたのは藤城だった。
朋子ははっと顔を強張らせる。
「変なこと言ってごめんね。じゃあまたね」
「ええ。また今度」
舞は朋子の後姿を見送りながら、藤城に背を向けたまま淡々とした表情で言った。
「いつからそこにいたの」
「つい今しがた、」
「嘘はおやめなさい。萌様に言われて、ずっと私たちの後をつけていたのでしょう。気づかないとでも思ったの」
振り向いた舞の険しい表情に、藤城は頭を下げた。
「申し訳ありません」
「化け物にはプライバシーを持つ権利もないというわけね」
「ご自分をそのように傷つけるのはおやめになってください」
あくまでも静かな口調に、舞はカッとなって右手を振り上げた。
だが、やがて手は体の横におろされる。
「藤城。しばらく私のそばを離れて、朋子を守って」
「それはいたしかねます」
「私の命令でも?」
「わたくしの務めは舞様のおそばに仕え、あらゆる危険からお守りすることですから」
舞は自分が思った以上に動転し、傷ついているのが分かった。
「藤城。私が恋をしたと言ったら、人はきっと笑うでしょうね」
藤城は何も答えない。だが、舞自身が誰よりよく分かっていた。
許されない。
自分が、許されるはずがないのだと。




