24.
第三夜
バイオリンのどこか物悲しい調べが流れていた。
高層ビルの最上階にあるレストランからは、ネオンの光が氾濫した夜景を見おろせる。
簡素だが品のいいワンピースに身を包んだ舞は、貸し切られたレストランの個室で席につき、日向野鉄と女帝と正対していた。
オードブルが運ばれてくるまで、女帝も鉄も一言も発さなかった。
舞は、二人の様子が普段と違うことに気づかないわけにはいかなかった。
不吉な予感胸をざわめかせる。
「突然呼び出してごめんなさいね。何しろ事態は急を要するものだから」
女帝はごく丁寧な口調で切り出した。
舞は銀のナイフとフォークを置いて身構えた。
「実はね。竿塚から竿がなくなったの」
と言いながら、女帝は舞の反応を注意深く観察している。
それが分かっていながら、舞は動揺を隠しきれなかった。
女帝と鉄のグラスにワインが注がれる。
赤紫の透明な液体の描く流曲線を見つめながら、舞は頭を回転させ、紡ぐべき言葉を考えていた。
「それは紛失したということですか。それとも、盗難ということですか」
「私たちもそれを知りたい。だからあなたを呼び出したのよ」
舞は女帝の大きな瞳に射すくめられる。
「日向野エンタープライズの本社は、あらゆるセキュリティで防護されているわ。その中でも、あの地下倉庫は第一級の特別秘密区域。
赤外線センサー、防犯カメラ、熱感知器、警報装置、全てをかいくぐり、なおかつ私と鉄しか所持していないカードキーにしか反応せず、一万通り以上ある暗証番号を打ち込んで侵入できる人物。
そんな人間が、そういるとは思えない」
ようやく事の次第が飲み込めて、舞は自分の置かれた状況に愕然とした。
『竿塚の鉄』以外にあの倉庫に近づいても不審がられず、最も竿を奪取することが容易な人物は、他ならぬ自分なのだ。
「私の仕業だとおっしゃりたいんですか」
疑いを晴らそうと、脳内で論理を組み立てる。
「確かに、状況から考えて私を疑うのは仕方ないと思います。ですが、私がもし竿を盗みたいのなら、一度竿塚に預けてから改めて盗むなんて手間のかかることはしません。
第一、あんな物を盗んだところで何にもなりません」
話しているうちに、ようやく舞は冷静さを取り戻してきた。
女帝は鉄と目を見交わせると、腕を組んで頷いた。




