25.
「鉄は盗まれる前日、あなたから川村の竿を預かった後、竿が全てそろっていることを確認している。あなたでも鉄でもないのなら、外部から何者かが侵入して竿を盗んだことになる」
オードブルが下げられると、女帝はナプキンで口元をぬぐい、
「それに、何よりおかしいのは……映っていないのよ。防犯カメラには、誰ひとり不審人物は映っていなかった。人影どころか、ネズミ一匹ね」
敵は日向野の鉄壁の守りを打ち砕き、防犯カメラさえ欺けるほどの技量をもっている。
さらに言うなら、そこまでして竿を奪う必要のある人間なのだ。
「犯人の動機に心あたりはおありですか」
鉄の顔が一瞬歪んだように見えた。
「日向野に恨みを持つ人間の仕業かもしれないわね。ところで舞、あなたの家の人間は自分付きの執事を持つと聞いているけれど」
「はい。執事は主が盗めと命令すれば、忠実に実行するでしょう」
下手な小細工はするだけ無駄だ、舞は正直に答えた。
しかし女帝も鉄も、まだ何か隠しているように見える。
日向野に恨みを持つ人間がいたとして、難攻不落の要塞に、金にならない竿を盗みに入るだろうか?
「その女狐に騙されてはならぬぞ、舞」
声が響いて、正面のドアが開いた。
ドアを開けたのは執事の天河、その天河に抱きかかえられているのは御剱萌だった。
「萌様」
萌はめったに人前に姿を現すことはない。
御剱家の人間さえ、その顔を拝むことなく一生を過ごす者も多いというのに、一体どうしたことだろう。
天河は壊れものを扱うように丁寧に、そっと萌を椅子におろした。
「久しぶりじゃの、日向野の年増殿」
辛辣な一言に、女帝は艶然と笑って、
「またお目にかかれて光栄だわ。御剱の若造りのおちびさん。
一体何の用かしら。招かれざる客は早々に立ち去ってほしいのだけど」
「妾とて、好きこのんでこのような俗世へ降りたわけではないわ。
じゃが、舞は御剱の跡を継ぐべき大切な姫。あらぬ疑いをかけられているとあっては、黙っておるわけにはゆかぬからの」
萌は毅然とした表情で女帝を見据えている。




