8 七人の兵
ヴェイルの復活と、その前に兵舎で起きた、使用人との騒動。秘密が公になるには、その二つで十分だった。
私は今、家畜小屋の陰で、七人の兵に囲まれている。要求はたった一つだった。
「それで……あんたに記憶を渡せば、女神の加護とやらが貰える訳か。奴のように」
落ち窪んだ目をした男。この砦の将校だ。
焦点の合わないその視線には、狂気じみたものが宿っていた。
「……はい」
「そんなもの、いくらでもくれてやる。だから、私に力を寄越せ!」
手を激しく掴まれ、痛みが走る。それでも拒む気はなかった。今は戦争のさなかで、国が、人の命が、懸かっている。拒む理由など、どこにもない。
あるとすれば、それはただの、私の我儘だ。
三度目の、頭をこじ開けられるような感覚。
流れ込む景色……戦場。
(痛っ……!)
腹に槍が突き刺さり、血が滾々と流れ出ていく。死の恐怖。死神の吐息。嫌だ、死にたくない——
気づくと私は、男の手を振り払っていた。荒い息が漏れる。まだ、腹が痛むような気がした。彼は自分の手を見つめ剣を抜くと、近くの木を一撃で両断した。
「本物だ……この力は、本物だ!」
どよめきが起こる。次の瞬間、兵たちが一斉に群がってきた。腕が千切れそうなほど引っ張られ、無理やり立たされる。
「次は俺だ。この力は、皆のものだ」
手を掴まれ、誰のものとも知れぬ記憶の奔流が、また始まった。
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びちゃびちゃと、私が吐いたものが、地面で爆ぜる。六人目の直後だった。
恐怖、悲哀、痛み。澱のように溜まっていく記憶。彼らが渡してきたのは幸福な記憶ではなく、忘れてしまいたいトラウマばかりだった。この人たちにとって、私はきっと、ただの記憶の掃き溜めに過ぎなかった。
「やっと、俺の番だ」
七人目が近づいてくる。もう、限界だった。
「待って……少しだけ、休ませて」
でもその声は、届かない。伸ばされた手を、思わず払い除けてしまった。それがいけなかった。
乾いた音とともに、頬が熱を帯びる。自然と涙がこぼれ落ちた。
「ふざけるな。お前とあの男が黙っていたせいで、何人死んだと思っている」
骨が軋むほど、強く手を握られる。頭が痛む。吐き気が止まらない。このままでは壊れてしまう。
でも——これも、罰なのだ。
私欲のために、この力を使おうとした罪の。
受け入れなければ。そう分かっていても、心の奥底では求めていた。
助けを。ヴェイルの姿を。
唐突に、歪みかけていた視界が戻った。私は力を失い、地に崩れ落ちる。遠くで、言い争う声、駆けてくる足音、金属のぶつかる音、そして、何かが倒れる音。
しばらくして、体がふっと持ち上がった。曇天の下、ヴェイルの顔が見える。抱きかかえられながら、私は、村で助けられたあの夜のことを思い出していた。
「すまない……遅くなった」
でも、あの時とは違う。
彼の声は、妙な緊張を帯びていた。
顔についた血が、不穏を物語っていた。




