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記憶いただきます  作者: 猫屋敷浜辺
第二章 記憶を奪った女神
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6 赤い強欲

 見張りのいない城壁の上、満天の星の下、二人きりだった。


「今日は、大活躍だったみたいですね」

「ああ、恐ろしいくらいだ。こんなに強くなれるなんて。まだ、手が震えている」


 自分の手を見つめて笑う彼。その高揚の裏側に、どこか壊れてしまいそうな危うさを感じて、胸がざわついた。


「この力があれば、この砦も、国も……皆を守れるかもしれない」


 固く握られた拳。私は、彼にすべてを話した。

 女神像のこと、メモリア・リンクのこと。

 ただし、願いの中身だけは、伏せたまま。


「俺がリアに渡した記憶は、今、お前の中にあるのか」

「はい」

「どんな記憶だった」


 私は、あの光景……騎士に憧れた、幼い日のことを話した。彼は頷きながらも、どこか、ぴんときていない様子だった。


「不思議な気分だな。まるで、赤の他人の話のようで……それは、本当に俺の記憶なのか」


 私は頷いた。力のためとはいえ、彼の原点ともいえる記憶を奪ってしまった。改めて、とんでもない力を授かってしまったのだと、少しだけ、恐ろしくなる。


「なあ、そのメモリア・リンクというのは、誰にでも使えるものなのか」

「……え?」

「俺以外にも、力を与えられるなら……女神の加護を受けた、最強の軍団が作れる。そうすれば反撃して、魔王を倒しに——」

「待ってください!」


 私は慌てて遮った。


「このことは、まだ誰にも言わないでください。記憶を流し込まれる時、私はそれを実際に経験することになるんです。ここの全員と、そんなことをしたら……」

「そうか……いや、確かにそうだな」


 彼は申し訳なさそうに、身を縮めた。けれど私には、それ以上に、心に引っかかることがあった。


「それに……いいんですか。私が、いろんな人の記憶をいただいても」


 彼はぽかんとしている。それが、正しい反応だと思う。命懸けの戦場で、そんなことを気にする私の方が、きっとおかしいから。


「あなたの記憶だから、私は、いいと思ったんです」

「……それは、どういう」


 これ以上、彼を困らせてはいけない。分かっているのに止まらなかった。きっとお酒のせいだ。


「知らない人の記憶なんて、流し込まれたくないんです」

「あ、ああ。分かった、悪かったな」


 焦って謝る彼に、理不尽な怒りが少しだけ湧いた。別に、謝ってほしいわけではないのに。


「とりあえず……このことは、二人だけの秘密にしよう」

「二人だけの?」

「ああ」


 その響きが、胸の中の憤りをすっと沈めていく。浮いたり、沈んだり。やっぱり私は、少し、おかしくなってしまったのかもしれない。


「これだけの力があれば、俺一人で何とかなる」


 彼は笑い、私からボトルを奪って一気に飲み干した。


「冷えてきたな。戻るか」


 螺旋階段を下りながら、私はずっと聞かぬふりをしてきた、心の声に耳を傾けてしまう。


 もしも……ヴェイルから奥さんの記憶をすべて奪ってしまったら。その時、彼の心は……いったい誰に向くのだろう。


 許されることではない。

 許されてはいけない。


 だけど、この戦場で、彼のそばにいられるのは……彼の気持ちに、いちばん近くにいられるのは、私だ。


 だって私たちは、秘密を分け合っているのだから。

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