4 記憶繋ぎ
「授かり、の……?」
「授かりの儀。これくらいなら、上の方々も、大目に見てくださるはずよ」
目の前の空間に、青白く光る、四角いものが浮かんだ。神殿のような景色と、「触れなさい」という文字が、水面に映るように、静かに揺れている。
「そこに、触れてごらんなさい」
言われるまま、そっと触れる。景色が七色に弾け、不思議な音色が鳴り、また別の文字が、ゆっくりと舞い始めた。
「まあ……これは、上出来ね」
意味はよく分からなかったけれど、良いことらしい、とは伝わってきた。私は、舞う文字を、そっと読み上げた。
「メモリア……リンク?」
その瞬間、視界が真っ白に染まった。神々しい光が世界を満たし、体の芯まで満ちていく。やがて光が引くと、そこには女神様だけが立っていた。
「よかったわね。運のいい人ね、あなたは」
「これは……いったい?」
「もう、分かっているのではなくて。あなたが手にした、その力の正体が」
はっとする。気づけばその力は、すでに私の中にあった。名前も、効き目も、使い方も。すべてが理解できていた。
「さて。良いことをしたわ。では、そろそろ戻るとしましょう」
「え……もう、お帰りになるんですか」
「あのね、私は忙しいの。あちこちの世界から、毎日、いろいろな願いが届くものだから」
静かに歩き去っていくその背に、私は震える膝で立ち上がり、声を張った。
「ありがとうございました、女神様! 私、精一杯、頑張りますから!」
彼女は、ふと足を止め、こちらを振り返った。
「あなたは……とても、良い子ね」
それはこれまでで、いちばん穏やかな微笑みだった。
「授かりの儀というのはね、その人が、今いちばん必要としている力を授けるものなの。だから、使い方さえ間違えなければ、願いはきっと叶うわ……その人と、良い縁がありますように」
「違います」と、言い返す間もなく、彼女の姿はすでに消えていた。あとには、白く清められた像だけが、静かに残されていた。
「夢……じゃないよね」
頬を、そっとつねってみる。けれど、この身に刻まれた力の重みは、確かに本物だった。
**
メモリア・リンク。
それが、私に授けられた力の名前だった。
その効果は、誰か記憶を吸い上げ、代わりに神の加護を与えるというもの。加護を受けた者は、容易には死なず、人ならざる力を得る。
発動の条件は、相手と手を繋ぎ、記憶を思い浮かべてもらうこと。記憶は私の中へと流れ込み、その人の中からは消えていく。
記憶の量が多く、思い入れが深いほど加護は強くなる。
ただし。流れ込んでくる記憶は、痛みも、トラウマも、五感のすべてごと、私自身が追体験することになる。
砦に戻ると、警鐘が鳴っていた。広場に組まれた隊列は、明らかに数が薄い。嫌な予感が、胸を突き抜けた。気づけば私は、その列の中へ飛び込み、彼の姿を探していた。
「ヴェイル!」
「リア? 何してる、早く離れろ」
「今日の襲撃……嫌な予感がするんです」
「そんなの、皆、承知の上だ」
角笛が鳴り、兵たちが行進を始める。後ろから「邪魔だ」と怒鳴られても、離れるわけにはいかなかった。
「ヴェイル、説明している時間はありません。これから、私の言うことに、黙って従ってください」
「従うって……」
迷う時間は、もう、一秒もなかった。私は彼の手を取り、固く握りしめた。
「ヴェイルの記憶を、私にください」




