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完熟の砂糖

下界の西の領には娯楽施設が多くあるが、その中に巨大迷路がある。


全て生垣で構成された迷路で、道幅は狭くなく花や木の実がところどころ生えている上、ちゃんとした休憩所まで用意されているので子供からお年寄りまで楽しめる人気施設のひとつだ。


迷路をクリアすると貰えるのが西の領の施設を無料で利用できるフリーパス。無期限で使える豪華な賞品だ。


その分難易度はかなり高く、クリアできた者は極僅かで、入口の掲示板に名前が掲載される程だ。


ここの管理はドリアードと呼ばれる木人種が行っている。


木人種は基本的に温厚な人種で善人を好む傾向がある。通路に花や木の実を配置するのもそのような人達を喜ばせるためだ。


植物を知りたい人がいれば生垣からにょきっと現れて詳しいガイドをしたり、怪我や具合が悪くなった人には薬草を施したり、満足して出口を求める人には脱出口まで案内したりと手厚く歓迎してくれる。


一方で悪人にはとても厳しい一面がある。


生垣を突っ切ろうとする者は蔦や棘で身動きを取れなくさせてそのまま数日間生垣のオブジェにしてしまうし、空からルートを探ろうとする者には麻痺や幻惑の破裂の実を飛ばして撃ち落として生垣にする等、ズルをしようとする者には容赦がない。


他にも違反ではないものの人種特性で匂いや聴覚でクリアしようとする者には自身の能力である品種改良で対応してしまうため、順当にマッピングしながら進むのが推奨されている。


一応休憩所で宿泊することが出来るが、毎日木人種達が気まぐれで生垣の配置を変えてしまうので厳しいルールと変動する構造が相まって高難易度となっている。


少し気になってクリアできた者を調べてみたところ、大半の人が子供の頃にクリアしている事がわかった。


たぶん子供の純粋な善の心を木人達が気に入ってゴールまでそれとなく誘導したのではないだろうか。


それを除くとあとは数名しかいない。まぁそんなもんか。


木人種より強い人が挑めばクリアは出来るだろうけど、稼げる人がわざわざフリーパスを得るために挑むだろうか。・・・ないな。大人げないと評判を落としかねない。


そう考えると賞品設定も丁度いい感じなのだろう。


それに挑戦するだけで木人達から記念のお土産がもらえるので、多くの人はそれで満足できる。


この辺りが老若男女に人気が出る秘訣なのかもしれないな。勉強になる。


・・・ところでサチ、上空映像を抜き取って迷路にチャレンジしてるだろう。


もうクリアした?早くない?今は木人達の構造変化の傾向を分析中?そ、そうか。


うーん、こっちでも迷路施設を作ろうか考えたけど止めておいた方がよさそうだなぁ。




今日は農園に応援を頼まれてやって来ている。


「収穫担当は必ず地の精の指示に従ってください。地の精の指示が最上位です」


到着した時、丁度リミが皆の前で最終確認を行っているところだった。


「運搬担当は無理せず移動法に沿って行動して下さい。あと、空間収納の出し入れ時に収穫物を落とす傾向があるので細心の注意を払ってください」


はりきってるなぁ。仕切る役も板に付いて来てる。


「検収担当は慌てず正確重視でお願いします。集中力を要するので適宜小休止を入れて下さい。以上です。では、作業開始!」


「了解!」


リミの開始の号令と共に一斉に職員達が解散する。さすが元警備隊、統率が取れている。


一部おどおどしながら動く子もいるが、最近入った食材研究士の子だろうか。他の子が気にかけてくれてるようなので大丈夫だろう。


残った俺達に気付いたリミがこっちにやって来て頭を下げる。


「ソウ様、サチナリア様、お迎えに上がれずすみません」


「気にするな、指揮官リミ殿」


「や、やめてください。ルミナテース様に比べたらまだまだです」


「そういえばそのルミナを見かけないんだがどうしたんだ?」


「ルミナテース様は現在砂糖の追加収穫をしに他の島に数人で行ってます」


「そうか」


「それでは私も収穫作業に行ってきます。建物の中にワカバとモミジがいるので何かありましたら二人にお申し付けください」


「わかった。頑張ってくれ」


「はい!」


そう言ってリミは果樹園の方へ飛んで行った。


今日は農園での大収穫祭が行われている。


前回は主に畑の収穫が主だったが、今回は果樹園が主になっている。


「あの、ソウ」


「ん?」


「ルミナテースが砂糖の追加収穫に向かったと言っていましたが、ここでも結構な量を栽培しているのでは?」


「そうだね。でも果樹園の規模を考えると足りないと思う」


「在庫もあるはずでは?」


「それも含めて足りない」


「えぇ・・・」


今回俺が呼ばれたのは収穫物の加工法を知っているからだ。家でも作ったことがあるし。


サチが砂糖の必要規模を聞いて若干引いているが、ここの砂糖は強烈な甘さというよりは程よく甘いと感じるぐらいなのでそのぐらい必要だと思っている。


とりあえず俺の出番が来るのはもう少し後なのでワカバとモミジに構ってもらうとしよう。



ワカバとモミジに麺料理について話しているとドタドタと足音が近づいて来た。


「ただいまー!」


部屋に勢いよく入って来たのはルミナの遠征部隊だった。


「おかえり、お邪魔してるよ」


「これはソウ様、ご足労ありがとうございます。あれ?サチナリアちゃんは一緒じゃないのかしら?」


「サチは暇を持て余したから検収の手伝いしてくると言って出て行ったぞ」


「相変わらずねぇ」


空間収納から大きな袋を机に次々と置いていく。中身は見えないが多分全部砂糖だ。


「そうだ、ソウ様、ちょっと見てもらいたいものがあるんですけど」


そう言ってルミナは手の上に乗せたものを見せて来た。


「黒いな。形は砂糖の粒と同じだが、これは?」


「枯れて地面に落ちた砂糖の実を開けたらこれが入ってて、安全そうだったから試しに味見したら美味しかったのよー」


「ほう、どれどれ?」


ルミナの手から一粒取って舌の上に乗せる。


普段使っている砂糖の粒より甘みが強く、若干の癖を感じる。


「黒糖っぽいな」


「へーこれが黒糖なのねー。これがあればレシピに載ってた黒蜜っていうのが作れるのかしら?」


「多分作れる。後で時間が空いた時に試してみよう」


「楽しみにしてるわー。ワカバちゃん、モミジちゃん、今回の遠征で収穫したの砂糖の余った分は全て情報館の取り扱いにしていいわよー」


ルミナがそう言うと砂糖の袋を受け取っていたワカバの目が輝いた。


「本当ですか!?助かります!」


「余ったらねー」


ルミナが人差し指を立てて念を押すとモミジがこっちに駆け寄って来て俺の服の裾を掴む。


「ソウ様、私と姉さんの手柄のためにも砂糖を無駄にしてはいけないと思う」


「思いっきり心の声が漏れてるな。まぁ今回はそんな難しい作業じゃないから。むしろ単調すぎて暇になるかもしれないが、サボらずやれるか?」


「む・・・なるべくがんばる。姉さんが」


「お前も頑張るんだよ!」


モミジの冗談にツッコミを入れてから、俺達は外に移動した。

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