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果物と砂糖の料理

外では収穫作業はほぼ終わっていた。


「ソウ様、調理の設営完了しております」


「ご苦労様。全員一度休憩を取ったら集まるよう伝えてくれ」


「了解」


設営の最終チェックをしていると徐々に人が集まって来るので今日の料理をの説明を始める。


「今日は収穫した果物を使ったジャムとコンポート作りをする。工程数は少ないが時間のかかる煮込み作業があるのでそこだけ心しておいてほしい」


煮込み作業と聞いてせっかちな子は顔をひきつらせ、逆に得意な子は少し表情が明るくなる。後で作業分担させた方がよさそうだ。


事前に家で録画しておいた調理風景を大パネルで見せながら補足していく。


コンポートは果物を甘く煮たもので、型崩れさせないようにするのがポイントだ。比較的歯ごたえのある果物や若干若い果物を使う。


ジャムは元の果物の形状が無くなるまで煮てドロドロにする。水分を多く含んだ果物や熟れて柔らかくなった果物を使う。


そして双方共通しているのが大量の砂糖の使用。


その様子を見てひとり手を挙げて質問する子がいた。


「あの、こんなに砂糖を入れるのですか?」


「うん。ジャムはこれが半分で、後でもう一回追加するぞ」


「えぇ・・・」


気持ちはわかる。普段こんな量の砂糖を使うことはまずないからな。


最後に分量を数値で表示させると、そこでも質問が出た。


「これ、水の量間違ってませんか?」


「ん?そう思う?」


「あまりに少ないように思います」


「ふむ・・・よし、それじゃさっきの砂糖に疑問を持った子と一緒に自分達が思う分量でやってみようか」


「えぇ!?」


「言われた通りやるのは大事だが、疑問を持ったままなのもよくない。幸い試せる材料は豊富にあるからこれを機に色々試してみてもいいんじゃないかと思うんだが、ルミナとリミはどう思う?」


「いいわよー」


「私も良いと思います。他にも疑問を持つ者がいるので試作班として分けますね。これから通知した者は試作班入りです」


リミはパネルを開いて操作すると試作班入りした子の前に通知が届く。食材研究士になったばかりの子が多いな。


「料理は常に試行錯誤だから今回選ばれたのはいい機会だと思って欲しい。意外と知らなかった事に気付いて新しい料理が生まれたりするかもしれないぞ」


「私達が見つけたってことになるんですか?」


「うん。発案者ってところに記録が残るんじゃなかな?」


「お、おぉ・・・なんだか楽しみになってきました!」


「いいぞ、その意気だ」


試作班でまとまった子達のやる気が上がったようでなによりだ。


そして俺の近くに控えているユキに近付いて頼みごとをする。


「ユキ、すまんが手の空いた時に様子を見てくれないかな。俺も気に掛けるけど他のところもみないといけないから手伝ってくれると助かる」


「わかりました。助言はどうしますか?」


「うーん・・・なるべくせずに聞かれたら答えるぐらいで。あとは行き詰ってる時にリカバリーできたらする感じで」


「了解です」


試作班の子達にはあのように言ったが、ひとつ発見があればいい方だと思っている。


決して侮ってるわけではなく、俺の日頃の料理研究の経験則からだ。色々見つかればそれはそれで嬉しいので楽しみではある。


さて、少し場がざわついたが、落ち着いて来たので諸注意をして説明を終えるとしよう。


後は作るだけだ、頑張ろう!




今回はそんなに難しくないのである程度教えたら俺も作る側にまわってゆっくり鍋でもかき回してよう、そんな風に最初は思っていた。


「うがああああ!!」


本日何人目かの発狂者が現れた。


最初こそ慌てたが、さすがは元警備隊、すぐさま周囲の人が火を止め、当て身をして建物の中へ運んで行く。


「気が触れる程かね?」


「この甘い匂いと長時間の調理はなかなか経験することのないものですから」


「ユキは大丈夫なのか?」


「警備隊では事務仕事してましたし、日々の研究で慣れています。強い匂いにも耐性がありますので平気です」


鍋の引継ぎをするユキの手際は良く、言葉も心強い。心配は必要なさそうだ。


その場をユキに任せ、俺は他にも具合が悪くなりそうな人がいないか見て回ることにした。


「あの・・・ソウ様・・・」


試作班のところへ赴くと申し訳なさそうに鍋を見せて来た。


鍋には潰した後の果物がお湯に浸っている状態で、鍋の縁が少し焦げていた。


「水を多くして色々やってみたのですが全然上手くいかず・・・」


「うん。意外と果物から水が出るんだ」


「良い勉強になりました。それで、このまま続けると焦げてしまいそうなので一旦火を止めたところです」


「そうか、無理に続けようとせず、食材をダメにしなかったところは偉いぞ」


「しかしここからどうすればいいかが思いつかず・・・」


「ふむ、ちょっと味見させてもらえるか?」


小さいスプーンで鍋の中身の味見をする。


うーん・・・砂糖水に浸かった柔らかい果物。水っぽくちょっと甘い中途半端な何かという感じだ。


さて、どうするかな。


果物と砂糖を足してこのままジャムにしてもいいが・・・んー・・・ん?


「これが使えそうだ」


「え?それは先程取り出した種ですけど、どうするのですか?」


「これは茹でると少し水にとろみが出るんだ。誰か浄化した布を一枚出してくれるか?」


「は、はい、どうぞ!」


「ありがとう。この布に種を入れて、閉じて縛ったら鍋に入れて弱火にかける」


試作班の皆が見守る中、焦げないよう気を付けながら鍋をかき混ぜていくと徐々に砂糖水にとろみが出てくる。


果物もヘラでもっと細かく潰し、つぶ入り果汁に仕上げていく。


「よし、こんなもんかな。今度はこれを凍らせよう。頼める?」


「あ、はい、任せて下さい」


横に居た子に頼むと念で鍋の中がみるみる凍っていく。念ってホント便利。


芯までしっかり凍ったのを確認してから鍋の中身を取り出し、包丁を両手で持って研ぐように氷の塊を削って器に入れていく。


「あとはコンポートを上に乗せれば完成だ」


「おぉー!これはなんて名前の料理なんですか?」


「かき氷・・・はただの氷で作ったものだから、クラニータ?グラニテ?なんかそんなような名前の甘味かき氷だな。試食してみてくれ」


「いいのですか!?」


それぞれにスプーンを渡すと器を回しながらひとくちずつ口に含んでいく。


「んー!つめたいー!」


「フワフワしてて、ほんのり甘くて美味しい」


「・・・っぁっ、頭がっ!」


欲を出して何口か食べた子が頭痛に襲われてるのは放っておくとして、概ね好評なようだ。


「作り方は覚えたか?」


「はい、みんなで覚えたので大丈夫かと」


「それじゃ、あとは任せる」


「え?えぇ!?私達で作るんですか!?」


「うん。折角なら他の果物でも作ってみて経験にして欲しいのと結構暑さで参ってる子がいるから差し入れして欲しいんだ。頼めるか?」


「そ、そういうことなら・・・やってみます!」


「助かる」


念のため一回目は見守っていて欲しいと言われたので一緒に作るところを見ていたが、特に口を出すところは無く手際も良かった。


出来上がったオレンジのグラニータを試食したがとても美味かった。


これなら安心して任せられそうだ。





調理を頑張る子達を見て回り、教えたり助けたりしているうちに収穫祭は終了した。


建物の端に常設化された調理スペースで持て余した料理熱を消化しているとサチが氷の入った果実水を持って来てくれた。


「お疲れ様です。これ、よかったら」


「助かる。随分と話が盛り上がってたようだな」


「キューン」


サチの肩に乗った地の精を指で撫でて果実水を一気に飲み干す。


「最近やっと地の精としっかりコミュニケーションが取れるようになったので相談に乗って頂いていました」


「キュ、キュ、キューン」


有意義な時間だったと地の精が頷く。


サチは収穫作業が終わって一足先に休憩になった地の精達とテーブルで話し合いをしていた。


コンポートが刺さってた楊枝を教鞭のように振りながら説明する地の精と真剣な眼差しでパネルにメモするサチの姿を遠巻きで確認してたが、俺は俺で忙しかったので参加することは出来なかった。後で何の話をしていたか聞こう。


「ところでその黒い液体はなんですか?」


「ん?黒蜜っていう黒糖を煮詰めたものだ。黒糖はルミナが見つけて来た。なんでも実が落ちるまで残していると採れるらしい」


「ほう、また面白い発見をしましたね。そちらの透明なものはなんですか?」


「澱粉と砂糖を混ぜたものを鍋で温めて今は冷やしているところ。あ、折角だから氷を足して貰えると嬉しい」


やっぱり黒蜜と合わせるならこういう餅系がいいと思って作っているのだが、配分を間違えたのか固まりが悪くゼリーぐらい柔らかくなってしまっている。次はもう少し粉を増やして作ろう。


「なんだか下界のスライムみたいですね」


サチが氷を念で追加しながら餅を軽くつついて感触を楽しんでいる。


「見た目はな。粉を混ぜた時に色を付けたらますますそれっぽくなるかもな」


別の世界じゃ食用スライムなんてのもいるらしいが、うちの下界は食べる動物が稀にいるぐらいで食文化に転用しようとする人はいない。菌や毒を持ってる個体もいるしな。


サチと雑談をしながら調理を進めていると地の精が黒蜜に強い興味を示しているのに気付いた。


「・・・気になるのか?」


「キュ?キューン」


「美味しそう?味見してみる?」


餅の塊から小さく摘まみ出して丸めて黒蜜を付けたものを地の精に与えてみる。


「・・・」


「どうだ?」


「キュ・・・キューーーーーーーーン!!」


どうやらとても美味しいらしい。そういえばサチと話してる時ジャムも美味しそうに食べてたな。


この前の燻製もそうだったが、濃縮したものや栽培に時間を掛けたものは精霊好みになるようだ。


「キュンキュン、キュキュキュ!」


「え?黒糖?それならルミナが持ってると思うけど」


「キューン!キュンキュン!!キューーーン!」


話を聞くとサチの肩から飛び降りて他の地の精を集めてどこかへ走って行ってしまった。


「え?ちょっと、急になに?なんなのー!?」


遠くでルミナの悲鳴が聞こえる。たぶん地の精達に集られてるのだろう。


「ソウ、ルミナテースが囮になっているうちに完成させましょう」


「囮ってお前・・・助けようとは思わないのか?」


「目の前の新しい料理とルミナテースを選ぶのなら断然こちらを選びます!」


「そ、そうか」


ルミナのおかげで地の精はこちらに戻って来ず、無事わらび餅もどきと黒蜜が完成した。味見をしたサチからまた作って欲しいと高評価を得られた。


料理が出来た後、様子を見に行くと農園の子達に囲まれた中の地面に仰向けで倒れたルミナがいた。


「・・・最高だった・・・また黒糖採りにいかなきゃ・・・」


うん、これは助ける必要ないな。サチはルミナのことを良く理解していたようだ。


結局リミが叱りに来るまでルミナは地面で余韻に浸っていた。やれやれ。

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